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22.小さなポーチ
メイは、おもむろに、ショルダーバッグから、小さなポーチを取り出し、それをオレに渡した。
「メイこれって!」
大学に合格した時に、お互いに贈りあったお揃いのネックガードの鍵だ。
「必要になるでしょ。返しておくわ」
「ありがとう………。ありがとうメイ、本当にありがとう」
「私の分はちゃんと持っててね、必要になるその時まで」
「うん、うん、ちゃんと守っておくから」
もう胸がいっぱいで、上手く言葉が出てこない。
メイ、京利のこと認めてくれたんだ。オレの幸せを、京利にも託してくれたんだ。オレの選択を信じて応援してくれようとしてるんだ。
メイ、ありがとう。
「ネックガードの鍵は、高梨くんがもっていたのか。君たちの絆は本当に硬い。正直悔しくてたまらないな。だか、そんな悋気もくだらないものに思える」
オレは、鍵が入った小さなポーチを両手で胸に抱きしめた。
オレ達が着けている皮のネックガードは、金具が前にひとつだけついていて、そこに鍵穴があって、鍵さえあれば簡単に開く構造だ。一般的に売られているもので、若者が買えるように、そこまで高価でもないし、洒落たデザインも多い。
高価なものになると皮に、軽い金属が一緒に編み込まれていて、刃物があってもそうそう切れない。でもオレ達のネックガードは、皮だけで作られているから、本気で切ろうと思えば、いくらでも方法があるだろう。例えば裁ちばさみやなにかで。
そう、これはオレ達オメガの誇りだ。メイと一緒に考えて決めたこと。
『選択権はアルファ性にあるのではなくオメガ性にある』
切れる切れないではなく、オレ達の誇りを込めたんだ。初めて着けた日に確かめあった。
「そうだ。最後に家の話になるが、ルームシェアは解消だ。凛は、ここに住むから。凛の分の家賃は払うから、今のマンションは広々と高梨くんが使ったらいい。むしろこのマンションの一室に住んでくれたら、一番いいんだけどな」
一瞬にして、メイの空気が変わる。
「はあ?何言ってるのよ!?全部あんたが決めてんじゃないわよ。このマンションに住む?!そんなこと出来るわけないじゃない!バカなの?これだからアルファ性は嫌いなのよ。いつだって自分の選択が正しいと思ってんだから。もうっ!さっきの感動を返してよ。凛!私は帰るわ。また連絡して」
「凛、玄関までお送りしてあげて」
ふふ。京利、二人の時間をくれたんだね。ドスドスとメイは歩きだす。オレは大人しくついていく。
リビングを出て、少し歩いたところで、メイは振り返った。手が伸びてきた。二人しっかりと抱き合う。身長が同じぐらいだから、昔からよく双子?なんて言われていた。
メイは泣いていた。オレはメイが泣くのを初めて見た。
「メイ、今までありがとう。いつも守ってくれてありがとう。オレどんくさいから、いつもやきもきさせてたよな。メイが居なかったら、オレは今ここに立っていない。本当に感謝してるんだ。これからもよろしく頼むね」
オレはポツポツとしゃべりながら、ずっとメイの背中を擦っていた。
随分長い間、メイは静かに泣いていた。オレの服がびちょびちょになるくらいには泣いていた。
「凛、私達幸せね。いつも、いつまでも、幸せを感じて生きていくんだから!」
「それな」
二人して、フフンと不敵に笑った。
「またね、凛」
「うん、またな」
メイは泣いた顔をハンカチでうりうりと拭って、颯爽と玄関扉から出ていった。
「凛、赤坂が外で待機している。おくるように言ってあるから大丈夫だ」
なんとなく玄関扉を見ていたオレを背中からやわらかく抱きしめて、京利が言った。
「オレ、初めて見たよ。メイの泣いてるところ」
「そうか……高梨くんは、カッコいい人だな」
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