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1章 後編
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石鹸の代用になる植物があったとは知らなかった。できれば手に入れたい。
ただ、1個百エノムともなると決して安くはない。
「お金取るんですか? うーん、どうしようかなぁ」
「サイカチの木から取れる実は、パイチチとも呼ばれているんだ。ブラジャーみたいな形をしているだろ?」
樽の中に入っている植物を手で掴んで、上に出し見てみた。少し萎びているが、1つのサヤに2個の丸い部分があるようだ。
パイチチなんていう名前なら、これは絶対に買うしかないだろう。
「おお、たしかにそんな形をしてますね。今後もスニャックを狩って稼いでくるので、また後日に売ってください」
「はっはっは、いいとも。とりあえず、その樽の中でヌメヌメなパイチチを揉みほぐしてみたまえ」
「はい、なんか手がツルツルしてきます。それでブルッサの髪はどうすれば?」
「そのパイチチ水溶液にはミルクを少し混ぜてある。皮膚や髪に潤いが出るんだ。カイホ君が洗浄液を手に取って、ブルッサ君の髪全体を湿らすんだ。それからキュアをかけてくれ。空の樽があるから、そこ水滴を流し込めばいい」
もう1個、別の樽がブルッサの脇に置かれた。
外側に血痕が付着して微妙に汚れている樽だ。
「この樽って、前に蛇の毒を抜いたとき使ったやつですか?」
「そうだよ。患者の吐瀉物を処理したりするのに何度か使っているからね。もう、その樽じゃミルクの搾乳には使わないよ」
少し古いボロを汚物入れ専用の容器にしたのだろう。
借り物の樽に、何てことしてるのやら。まあ医療用に活用され、みんなの役に立てれば樽としても本望だろう。
俺は自分の両手を石鹸水もどきでジャブジャブした。
ブルッサには上体を起こしてもらい、彼女の髪にペタペタと塗りたくった。
それから魔法で髪を浄化していく。
「では、やってみます。パイキュアー!」
ギュイィィィン。右手がスチーム・ハンドと化した。
ブルッサの髪を掴み、手の中に握りこむ。根本から先端へと、優しく引っ張るように滑らせていく。雑巾をしぼるように、水分は樽の中へと落としていった。
「カイボスさんの手、熱いけど気持ちいい……」
なんだか、ストレート・パーマをかけたみたいになってきたぞ。
ボサボサだったブルッサの髪が、みるみるうちに整っていく。温かい蒸気が髪全体に行き渡った。
「痒い所はございませんか?」
「足の裏が痒いです」
「そこは俺の管轄じゃない。掻いてあげられるのはオッパイまでだ」
仕上げとして、俺の掌を彼女の額から両耳の間を抜け後頭部へと通らせる。うなじの辺りに向けてロードローラーのように撫でていった。
最後に、両サイドも耳下の脇から頬の辺りへと蒸気を当てた。
ブルッサの髪が頭皮にくっついて、ペッタンペッタンになった。
よくよく考えたら、この魔法で髪も洗えたんだ。今まで試したこともなかった。
そのうち、家族にも洗髪してあげようと思う。サイカチ(パイチチ)がシャンプー代わりになりそうなので、あとはトリートメントさえあれば完璧なのだけど。
「なかなか上手に洗えたじゃないか。それじゃ、仕上げはレモネに頼むよ。タオルで拭いてからハサミを入れるんだ」
「はい先生、お任せください。ブルッサさん、どのくらい切りましょうか?」
「そうですね。別にいらないので、適当にバッサリ短くしてください」
なんだか、大雑把な指示だなぁ。『適当で』って言う人に限って、本当にテキトーにやると怒るんだよな。
「ひとまず、肩にかかるくらいにしておきましょうか? あまり切りすぎても伸ばすまで大変ですし。もっと短くしたければ、また後からでもやってあげますよ」
「分かりました。では、後ろ髪は肩の上5mmほどで、肩に当たらず首が隠れるくらいの長さがいいです。前は眉下2mmほどで、眉に重なってもマツ毛に当たらないくらいにしてください。サイドは後ろと同じ長さで、カットしたラインが分かるくらい水平にお願いします。耳の周りは、軽く梳く感じで整えて欲しいです」
うわー、急にやたらと細かいオーダーになったなぁ。
レモネさんの提案に対して、ブルッサはミリ単位で要望を出していた。
俺は魔法で洗髪が出来るので、ハサミさえ買ってくればカリスマ美容師にでもなれるのではないかと一瞬だけ思ってしまった。
だが、客からクレームをつけられるのが怖くなり断念した。
「え……。いいでしょう、なんとかします」
レモネさんは、クシとハサミを取り出してきた。ある程度、髪を梳かしてから、ジョッキンジョッキンと切り始めた。
特に散髪ケープなどは装備させないようだ。この間、やはりブルッサはオッパイ丸出しのままである。俺はやることがないので、そこばかり眺めていた。
家ではEやFを相手に搾乳をしている。比較してしまうと、ブルッサのそれは気の毒になるサイズであった。しかし、大小に善悪はない。
AからHまで、どんなオッパイでも平等に愛している。
俺がそんなことを考えている間に、レモネさんは手際よくブルッサの髪にハサミを入れている。牧場で羊毛の刈り入れがされているようでもあった。
後ろ髪をバッサリと切り落としたあと、前髪を眉毛あたりのラインに切りそろえ、最後にサイドも整えていった。ブルッサの雰囲気がガラッと変わった。
毛量が半分くらいになって、すごくスッキリしている。
「大体終わりましたよ。こんな感じで、どうでしょう?」
レモネさんが手鏡をブルッサに見せている。この村に、鏡なんてあったのか。
「すごいな、ブルッサ。見違えるように綺麗になったぞ」
「ありがとうございます。サッパリしました」
「うんうん、いい感じじゃないの。僕が金も取らずに、ここまでサービスすることは滅多にないよ」
というか、デソン先生は何もしていない。
他人に仕事をさせておいて、金だけピンハネされたら俺でも怒るぞ。
カットが終わると、レモネさんがホウキとチリトリを使って落ちた毛を掃き集めて片付けた。
「さて、散髪もすんだことだし。今から、検診を始めよう」
すっかり忘れていた。この診察室に入った当初の目的は乳検診だったはずだ。
先生は、ベッドに寝かせたブルッサの小さいオッパイを揉み揉みしている。
フムフムとか、少し唸りながら触診していた。
「どうやら、結晶化はしていないようだ。今のところ心配はないね。じゃあ、次はカイホ君も触診するんだ」
治療院で、デソン先生がブルッサの乳検診をした。すると、続いて俺にも触るように促された。
「えっ? 俺も触診するんですか。ブルッサ、いいのか?」
「あ、はい。ちゃんとした診察であれば、治癒魔術師の研修にも必要なのでしょう。私は別に何も気にならないです」
まあ、治癒魔術じゃなくて、乳魔術だと何度も言っているんだけどなぁ。
ブルッサからもOKが出たので、試しに触ってみることにした。
医師の指示に従いながら、俺は助手をしているだけだ。仮に、ここが日本だとしても罪には問われないだろう。正当業務行為として違法性が阻却され犯罪にはならないはずだ。大丈夫、何も問題はない。
わずかな不安を頭に抱えながら、ブルッサの貧乳を揉み揉みした。
しかし、どこにも硬い石が入っている気配はない。柔らかい部分の面積が小さく、その下は硬い肋骨があるが蛇毒結晶とは関係ないだろう。
「先生、俺が触ってみても、どこにもしこりは無いと思うんですけど?」
「ちゃんと、全体を漏れ無くチェックしてみたかい?」
「それじゃ念のため、もっとじっくり確認してみます」
ひたすら、揉み揉み撫で撫でしてみた。小粒の天守閣にはあまり触れないよう注意しながら、外堀と内堀を探索した。
「あっ、そこは……。うぅんっ、ダメぇっ」
「うーん? この辺りは、あまり触診してなかったか。蛇毒結晶が出来てないか調べるためだ、ブルッサ、少し我慢してくれよ」
「はい……、大丈夫です。ん、うぅっ」
俺は、両手を使って左右を比較検証しながら触診することにした。両乳を同時に揉み比べることで、弾性に差がないか確認しているのだ。
「もし、どちらか片方だけ不自然に硬い箇所があれば、そこが結晶化していることになるんですよね?」
「その通りだよ。両方に同じ大きさの蛇毒結晶が2個も一緒に発生した症例は見たことはない。大抵はどちらか片方にだけ埋まっているはずだ」
最外周や下側は、既にほとんど確認が終わっている。俺は、もう少し上の方を指1本で押してみた。
それから親指と人差し指で挟んで引っ張る。最後に、指の腹をグリグリと回し圧迫しながら触れてみた。
「いやっ、そんな強くされると……。ちょっと痛い。あっ、くぅっ」
「先生、左右での違いはないようです。ただ、この辺りが少し硬いようです」
少し上に行き過ぎたようだ。やけにゴツゴツと突起している部分がある。
「そこは鎖骨だから別にいいんだよ。当然だ。では、そろそろ終わりにしよう」
「もう終わり? これって、定期的に調べた方がいいんじゃないですかね?」
「次回は半年後だ。現時点で異常はない。さ、ブルッサ君、もう服は着ていいよ」
「はい。ありがとうございました」
「ところで、フックもスニャックに咬まれてたんですが男は検診しなくていいんですか? 俺はやりたくないですけど」
「オスに蛇毒結晶が発生した症例は今までないから、乳検診は別にいらないと思うよ。ブレストキッスも使えないオスは、オッパイで毒を分離排出する能力がないからね。体内に一定量の毒が回ってしまったら、もう死んでるはずだ。今も生きてるということは、君の解毒がちゃんと効いている証さ。心配することはない」
「そうですか。それなら良かったです」
男の胸なんぞを検診せず済んだことに、俺は安堵した。
それから俺達は診察室を出て、待合室に戻った。
フックはブルッサを見た途端、彼女の両肩を掴んで声を掛けた。
「ブルッサ、大丈夫なのか!? 肝臓を切り取られたのか?」
「肝臓じゃないけど切ってもらったわ。どう、兄さん? 私、変わったでしょ」
「どこも変わった様子はないな。どこを切り取られたんだ? 痛みはないのか?」
「見た目で分かるでしょ。バッサリ切ってもらったのよ」
「何を切られたんだー?? 耳も尻尾もしっかり付いているし、指も生えている。まさか……、胸が小さくなったのか?」
「兄さんのバカっ!」
フックは、ブルッサが内臓を取られたと思い込んでいたのだろう。気が動転していて、髪を切ったことに気が付かなかったらしい。
あんなに長かった髪が短くなっているのだから、普通なら分からないはずがないんだけどなぁ。耳に目が行ったまでは惜しかったけど、残念ながら正解に辿りつけなかったようだ。
それから結局、デソン先生はブルッサに対して治療費を請求しなかったようだ。
フックとブルッサはレモネさんにも頭を下げ礼を言い、2人で先に帰宅した。
「治療の千エノムもらわなかったみたいですけど、良かったんですか? 先生は金の亡者なのに珍しいですね」
「また失礼なことばかり言って。いくら僕でも、そこまで金にガメつくはないよ」
「先生くらいの高給取りだと千エノムなんて、はした金ってことなんですね? 月に何人くらい中絶しているんですか?」
「中絶は毎月20~30人くらいかな。予約制にして1日に10人ずつくらいまとめてやるから、月に数日しか仕事はしないけどね。ホル族だけでなく、毎週土曜は町に出張してニンゲンのメスまで中絶魔法を掛けに行ってるから客には困らない。たしかに収入は安定しているけど、千エノムを放棄なんてしないよ」
たしか、ホル族の3村では成人女性が合計で500人以上はいたはずだ。平均すると1人あたりが2年に一度くらいは中絶魔法を受けているのだと思う。
ニンゲン女性も含めて月に25人の中絶処置をすれば、それだけで最低でも月収五万エノムは下らないはずだ。
「先生は金に困ってないから、貧しい人から治療費を取らないことにしているんじゃないんですか?」
「ふっふっふ。あの2人からは、もう千エノム以上は儲けさせてもらったからさ。それで十分だ」
「え? 一体何をしたんです? 俺は毎日のように一緒に林に行ってましたけど。変なことをする暇はなかったはずですよ。いつの間にブルッサに手を出したんですか。もしくは、夜に町に連れていって酒場でバイトでもさせていたとか?」
「そんな、いかがわしいことはしてない。まず1つは、さっきの髪の毛だよ」
「もしかして、髪が売れたりするんですかね」
「ああ、そうだよ。ホル族の毛は、ホルス・ヘアーと呼ばれていてね。布団や枕の中身にする素材に使われているんだ。ウールやカシミヤと同じくらい価値がある」
この世界で牛人種の毛は、羊毛と同じような扱いだったのか。
羽毛布団ならぬ牛毛布団は、かなり高級になりそうだな。
「マジっすか? それをタダで取り上げるなんて、ズルイじゃないですか」
「何を言っている? ちゃんと本人の承諾は取ったよ。タダでお願いしますと言ったのは、他の誰でもない彼女自身の方だ。それに一人分の髪なんて大した量じゃないし。完成品の枕が末端価格で五千エノムくらいになるけれど、十数人は刈り込まないと全く足りないからね。素材価格だと、せいぜい一人前で銀貨2~3枚さ」
「うーん、そんなもんですか。だとすると、髪の毛だけじゃ治療費の足しにしかならないですよね」
「あとは蛇の皮だよ。行商人は1枚あたり百エノムで買い取っているけど、皮革職人のところに、いくらで卸しているのか知っているかい?」
「いや、知らないですけど。二百エノムじゃないんですか? たしか、先生が善意で高く売って来てくれたんですよね」
「いいや、そうじゃない。皮革職人は行商人から三百エノムで仕入れているんだ」
てっきり、デソン先生は手数料ゼロで納品代行してくれてると思い込んでいた。
二百エノムで売却し、それを丸々と俺達に渡していたわけではなかったようだ。
「えぇっー? すると、先生が百エノムずつピンハネしてた、ってことになるじゃないですか」
「そんなことしないよ。1枚あたり二百五十エノムで買い取ってもらっただけさ」
皮革工房としても、行商人から仕入れるより少し安くなる。
先生は1枚あたり五十エノムの手数料が手に入る。
俺達は、行商人に買取してもらうより高く売れるので何も文句はない。
行商人を除けば、三方一両得ということになったようだ。
「なるほど、24枚で先生の手間賃は千二百エノムだ。治療費が千エノムだったし、大体は辻褄が合っていますね。というか、2人のだけでなく俺の取り分も混ざってるじゃないですか」
「あはは。カイホ君の分は、まあ授業料ということにしておきなよ」
「ちょっと釈然としませんが今までお世話になってますからね。別にいいですよ」
結果だけ見れば、デソン先生から多くのことを教わった。
色々便宜を図ってもらいもした。少しおかしい点もあったが、トータルで考えると多大な感謝をするべきなのだろう。
ただ、1個百エノムともなると決して安くはない。
「お金取るんですか? うーん、どうしようかなぁ」
「サイカチの木から取れる実は、パイチチとも呼ばれているんだ。ブラジャーみたいな形をしているだろ?」
樽の中に入っている植物を手で掴んで、上に出し見てみた。少し萎びているが、1つのサヤに2個の丸い部分があるようだ。
パイチチなんていう名前なら、これは絶対に買うしかないだろう。
「おお、たしかにそんな形をしてますね。今後もスニャックを狩って稼いでくるので、また後日に売ってください」
「はっはっは、いいとも。とりあえず、その樽の中でヌメヌメなパイチチを揉みほぐしてみたまえ」
「はい、なんか手がツルツルしてきます。それでブルッサの髪はどうすれば?」
「そのパイチチ水溶液にはミルクを少し混ぜてある。皮膚や髪に潤いが出るんだ。カイホ君が洗浄液を手に取って、ブルッサ君の髪全体を湿らすんだ。それからキュアをかけてくれ。空の樽があるから、そこ水滴を流し込めばいい」
もう1個、別の樽がブルッサの脇に置かれた。
外側に血痕が付着して微妙に汚れている樽だ。
「この樽って、前に蛇の毒を抜いたとき使ったやつですか?」
「そうだよ。患者の吐瀉物を処理したりするのに何度か使っているからね。もう、その樽じゃミルクの搾乳には使わないよ」
少し古いボロを汚物入れ専用の容器にしたのだろう。
借り物の樽に、何てことしてるのやら。まあ医療用に活用され、みんなの役に立てれば樽としても本望だろう。
俺は自分の両手を石鹸水もどきでジャブジャブした。
ブルッサには上体を起こしてもらい、彼女の髪にペタペタと塗りたくった。
それから魔法で髪を浄化していく。
「では、やってみます。パイキュアー!」
ギュイィィィン。右手がスチーム・ハンドと化した。
ブルッサの髪を掴み、手の中に握りこむ。根本から先端へと、優しく引っ張るように滑らせていく。雑巾をしぼるように、水分は樽の中へと落としていった。
「カイボスさんの手、熱いけど気持ちいい……」
なんだか、ストレート・パーマをかけたみたいになってきたぞ。
ボサボサだったブルッサの髪が、みるみるうちに整っていく。温かい蒸気が髪全体に行き渡った。
「痒い所はございませんか?」
「足の裏が痒いです」
「そこは俺の管轄じゃない。掻いてあげられるのはオッパイまでだ」
仕上げとして、俺の掌を彼女の額から両耳の間を抜け後頭部へと通らせる。うなじの辺りに向けてロードローラーのように撫でていった。
最後に、両サイドも耳下の脇から頬の辺りへと蒸気を当てた。
ブルッサの髪が頭皮にくっついて、ペッタンペッタンになった。
よくよく考えたら、この魔法で髪も洗えたんだ。今まで試したこともなかった。
そのうち、家族にも洗髪してあげようと思う。サイカチ(パイチチ)がシャンプー代わりになりそうなので、あとはトリートメントさえあれば完璧なのだけど。
「なかなか上手に洗えたじゃないか。それじゃ、仕上げはレモネに頼むよ。タオルで拭いてからハサミを入れるんだ」
「はい先生、お任せください。ブルッサさん、どのくらい切りましょうか?」
「そうですね。別にいらないので、適当にバッサリ短くしてください」
なんだか、大雑把な指示だなぁ。『適当で』って言う人に限って、本当にテキトーにやると怒るんだよな。
「ひとまず、肩にかかるくらいにしておきましょうか? あまり切りすぎても伸ばすまで大変ですし。もっと短くしたければ、また後からでもやってあげますよ」
「分かりました。では、後ろ髪は肩の上5mmほどで、肩に当たらず首が隠れるくらいの長さがいいです。前は眉下2mmほどで、眉に重なってもマツ毛に当たらないくらいにしてください。サイドは後ろと同じ長さで、カットしたラインが分かるくらい水平にお願いします。耳の周りは、軽く梳く感じで整えて欲しいです」
うわー、急にやたらと細かいオーダーになったなぁ。
レモネさんの提案に対して、ブルッサはミリ単位で要望を出していた。
俺は魔法で洗髪が出来るので、ハサミさえ買ってくればカリスマ美容師にでもなれるのではないかと一瞬だけ思ってしまった。
だが、客からクレームをつけられるのが怖くなり断念した。
「え……。いいでしょう、なんとかします」
レモネさんは、クシとハサミを取り出してきた。ある程度、髪を梳かしてから、ジョッキンジョッキンと切り始めた。
特に散髪ケープなどは装備させないようだ。この間、やはりブルッサはオッパイ丸出しのままである。俺はやることがないので、そこばかり眺めていた。
家ではEやFを相手に搾乳をしている。比較してしまうと、ブルッサのそれは気の毒になるサイズであった。しかし、大小に善悪はない。
AからHまで、どんなオッパイでも平等に愛している。
俺がそんなことを考えている間に、レモネさんは手際よくブルッサの髪にハサミを入れている。牧場で羊毛の刈り入れがされているようでもあった。
後ろ髪をバッサリと切り落としたあと、前髪を眉毛あたりのラインに切りそろえ、最後にサイドも整えていった。ブルッサの雰囲気がガラッと変わった。
毛量が半分くらいになって、すごくスッキリしている。
「大体終わりましたよ。こんな感じで、どうでしょう?」
レモネさんが手鏡をブルッサに見せている。この村に、鏡なんてあったのか。
「すごいな、ブルッサ。見違えるように綺麗になったぞ」
「ありがとうございます。サッパリしました」
「うんうん、いい感じじゃないの。僕が金も取らずに、ここまでサービスすることは滅多にないよ」
というか、デソン先生は何もしていない。
他人に仕事をさせておいて、金だけピンハネされたら俺でも怒るぞ。
カットが終わると、レモネさんがホウキとチリトリを使って落ちた毛を掃き集めて片付けた。
「さて、散髪もすんだことだし。今から、検診を始めよう」
すっかり忘れていた。この診察室に入った当初の目的は乳検診だったはずだ。
先生は、ベッドに寝かせたブルッサの小さいオッパイを揉み揉みしている。
フムフムとか、少し唸りながら触診していた。
「どうやら、結晶化はしていないようだ。今のところ心配はないね。じゃあ、次はカイホ君も触診するんだ」
治療院で、デソン先生がブルッサの乳検診をした。すると、続いて俺にも触るように促された。
「えっ? 俺も触診するんですか。ブルッサ、いいのか?」
「あ、はい。ちゃんとした診察であれば、治癒魔術師の研修にも必要なのでしょう。私は別に何も気にならないです」
まあ、治癒魔術じゃなくて、乳魔術だと何度も言っているんだけどなぁ。
ブルッサからもOKが出たので、試しに触ってみることにした。
医師の指示に従いながら、俺は助手をしているだけだ。仮に、ここが日本だとしても罪には問われないだろう。正当業務行為として違法性が阻却され犯罪にはならないはずだ。大丈夫、何も問題はない。
わずかな不安を頭に抱えながら、ブルッサの貧乳を揉み揉みした。
しかし、どこにも硬い石が入っている気配はない。柔らかい部分の面積が小さく、その下は硬い肋骨があるが蛇毒結晶とは関係ないだろう。
「先生、俺が触ってみても、どこにもしこりは無いと思うんですけど?」
「ちゃんと、全体を漏れ無くチェックしてみたかい?」
「それじゃ念のため、もっとじっくり確認してみます」
ひたすら、揉み揉み撫で撫でしてみた。小粒の天守閣にはあまり触れないよう注意しながら、外堀と内堀を探索した。
「あっ、そこは……。うぅんっ、ダメぇっ」
「うーん? この辺りは、あまり触診してなかったか。蛇毒結晶が出来てないか調べるためだ、ブルッサ、少し我慢してくれよ」
「はい……、大丈夫です。ん、うぅっ」
俺は、両手を使って左右を比較検証しながら触診することにした。両乳を同時に揉み比べることで、弾性に差がないか確認しているのだ。
「もし、どちらか片方だけ不自然に硬い箇所があれば、そこが結晶化していることになるんですよね?」
「その通りだよ。両方に同じ大きさの蛇毒結晶が2個も一緒に発生した症例は見たことはない。大抵はどちらか片方にだけ埋まっているはずだ」
最外周や下側は、既にほとんど確認が終わっている。俺は、もう少し上の方を指1本で押してみた。
それから親指と人差し指で挟んで引っ張る。最後に、指の腹をグリグリと回し圧迫しながら触れてみた。
「いやっ、そんな強くされると……。ちょっと痛い。あっ、くぅっ」
「先生、左右での違いはないようです。ただ、この辺りが少し硬いようです」
少し上に行き過ぎたようだ。やけにゴツゴツと突起している部分がある。
「そこは鎖骨だから別にいいんだよ。当然だ。では、そろそろ終わりにしよう」
「もう終わり? これって、定期的に調べた方がいいんじゃないですかね?」
「次回は半年後だ。現時点で異常はない。さ、ブルッサ君、もう服は着ていいよ」
「はい。ありがとうございました」
「ところで、フックもスニャックに咬まれてたんですが男は検診しなくていいんですか? 俺はやりたくないですけど」
「オスに蛇毒結晶が発生した症例は今までないから、乳検診は別にいらないと思うよ。ブレストキッスも使えないオスは、オッパイで毒を分離排出する能力がないからね。体内に一定量の毒が回ってしまったら、もう死んでるはずだ。今も生きてるということは、君の解毒がちゃんと効いている証さ。心配することはない」
「そうですか。それなら良かったです」
男の胸なんぞを検診せず済んだことに、俺は安堵した。
それから俺達は診察室を出て、待合室に戻った。
フックはブルッサを見た途端、彼女の両肩を掴んで声を掛けた。
「ブルッサ、大丈夫なのか!? 肝臓を切り取られたのか?」
「肝臓じゃないけど切ってもらったわ。どう、兄さん? 私、変わったでしょ」
「どこも変わった様子はないな。どこを切り取られたんだ? 痛みはないのか?」
「見た目で分かるでしょ。バッサリ切ってもらったのよ」
「何を切られたんだー?? 耳も尻尾もしっかり付いているし、指も生えている。まさか……、胸が小さくなったのか?」
「兄さんのバカっ!」
フックは、ブルッサが内臓を取られたと思い込んでいたのだろう。気が動転していて、髪を切ったことに気が付かなかったらしい。
あんなに長かった髪が短くなっているのだから、普通なら分からないはずがないんだけどなぁ。耳に目が行ったまでは惜しかったけど、残念ながら正解に辿りつけなかったようだ。
それから結局、デソン先生はブルッサに対して治療費を請求しなかったようだ。
フックとブルッサはレモネさんにも頭を下げ礼を言い、2人で先に帰宅した。
「治療の千エノムもらわなかったみたいですけど、良かったんですか? 先生は金の亡者なのに珍しいですね」
「また失礼なことばかり言って。いくら僕でも、そこまで金にガメつくはないよ」
「先生くらいの高給取りだと千エノムなんて、はした金ってことなんですね? 月に何人くらい中絶しているんですか?」
「中絶は毎月20~30人くらいかな。予約制にして1日に10人ずつくらいまとめてやるから、月に数日しか仕事はしないけどね。ホル族だけでなく、毎週土曜は町に出張してニンゲンのメスまで中絶魔法を掛けに行ってるから客には困らない。たしかに収入は安定しているけど、千エノムを放棄なんてしないよ」
たしか、ホル族の3村では成人女性が合計で500人以上はいたはずだ。平均すると1人あたりが2年に一度くらいは中絶魔法を受けているのだと思う。
ニンゲン女性も含めて月に25人の中絶処置をすれば、それだけで最低でも月収五万エノムは下らないはずだ。
「先生は金に困ってないから、貧しい人から治療費を取らないことにしているんじゃないんですか?」
「ふっふっふ。あの2人からは、もう千エノム以上は儲けさせてもらったからさ。それで十分だ」
「え? 一体何をしたんです? 俺は毎日のように一緒に林に行ってましたけど。変なことをする暇はなかったはずですよ。いつの間にブルッサに手を出したんですか。もしくは、夜に町に連れていって酒場でバイトでもさせていたとか?」
「そんな、いかがわしいことはしてない。まず1つは、さっきの髪の毛だよ」
「もしかして、髪が売れたりするんですかね」
「ああ、そうだよ。ホル族の毛は、ホルス・ヘアーと呼ばれていてね。布団や枕の中身にする素材に使われているんだ。ウールやカシミヤと同じくらい価値がある」
この世界で牛人種の毛は、羊毛と同じような扱いだったのか。
羽毛布団ならぬ牛毛布団は、かなり高級になりそうだな。
「マジっすか? それをタダで取り上げるなんて、ズルイじゃないですか」
「何を言っている? ちゃんと本人の承諾は取ったよ。タダでお願いしますと言ったのは、他の誰でもない彼女自身の方だ。それに一人分の髪なんて大した量じゃないし。完成品の枕が末端価格で五千エノムくらいになるけれど、十数人は刈り込まないと全く足りないからね。素材価格だと、せいぜい一人前で銀貨2~3枚さ」
「うーん、そんなもんですか。だとすると、髪の毛だけじゃ治療費の足しにしかならないですよね」
「あとは蛇の皮だよ。行商人は1枚あたり百エノムで買い取っているけど、皮革職人のところに、いくらで卸しているのか知っているかい?」
「いや、知らないですけど。二百エノムじゃないんですか? たしか、先生が善意で高く売って来てくれたんですよね」
「いいや、そうじゃない。皮革職人は行商人から三百エノムで仕入れているんだ」
てっきり、デソン先生は手数料ゼロで納品代行してくれてると思い込んでいた。
二百エノムで売却し、それを丸々と俺達に渡していたわけではなかったようだ。
「えぇっー? すると、先生が百エノムずつピンハネしてた、ってことになるじゃないですか」
「そんなことしないよ。1枚あたり二百五十エノムで買い取ってもらっただけさ」
皮革工房としても、行商人から仕入れるより少し安くなる。
先生は1枚あたり五十エノムの手数料が手に入る。
俺達は、行商人に買取してもらうより高く売れるので何も文句はない。
行商人を除けば、三方一両得ということになったようだ。
「なるほど、24枚で先生の手間賃は千二百エノムだ。治療費が千エノムだったし、大体は辻褄が合っていますね。というか、2人のだけでなく俺の取り分も混ざってるじゃないですか」
「あはは。カイホ君の分は、まあ授業料ということにしておきなよ」
「ちょっと釈然としませんが今までお世話になってますからね。別にいいですよ」
結果だけ見れば、デソン先生から多くのことを教わった。
色々便宜を図ってもらいもした。少しおかしい点もあったが、トータルで考えると多大な感謝をするべきなのだろう。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
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