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2章 後編
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それにしても、懺悔室を租税窓口にも使っているのか。
俺の知っている教会とは何か色々と違うな。
向こう側にいる牧師らしき人が金を受け取ると、勘定をし始めた。
「では、数えてみます」
「キッチリ三万エノムあるはずだ」
銀貨をジャラジャラと積み重ねながら枚数の確認をしている。どうやら10枚ずつ並べているみたいだ。
「金貨2枚に、銀貨100枚。たしかに三万エノム受け取りました。今から納税証明の領収板を発行します。しばし、お待ちください」
少しの間、黙って見ていると領収証が出来たようだ。
さっき金を送った引き出しを通して、今度は逆にカマボコ板みたいなのが渡された。領収証という表題の下に日付や金額が書かれている。これで支払いが済んだ。
「やっと払えてスッキリしたぜ。牧師さん、今まで遅れてすまなかったな」
どうわけか知らんが、この村では牧師が出納担当をやっているらしい。
「いえいえ、徴税も教会の役目ですから。これでグランさんは3年前から滞納していた分については支払い完了です。それで、利息の件ですけど……」
「え? 利息?」
三万エノムで終わりかと思ったが、利息と聞いて驚いてしまった。
「そうだった。利息もついているんだったよな」
「はい。元金三万に対して年間六千エノムで、3年分ですから一万八千エノムになります。こちらは来月末で結構ですので、また支払いにいらしてください」
「うわー、マジかよ。年利20%って高すぎじゃないの?」
俺が金利について文句を言うと、牧師が利率に関する説明を始めた。
「いいえ、破格の低利息です。町の高利貸とかだと年利80%くらいでも当たり前ですから。教会金利なので、とても慈悲深いです。グランさんも納得の上、契約書にサインしています」
20%なら利息制限法の上限金利と同じくらいか。
消費者金融か何かに手を出したと思えば、あまり変わらないかもしれない。これくらいならカバライオンにもならないだろう。
「まあ、暴利じゃないだけマシか。でも教会が金融業もしているなんて、ちょっと違和感があるなぁ……」
「聖書の一節にも、右の乳を揉まれたら左の乳を揉み返しなさいという記述があります。お金を貸したら利息をいただくのは当然のことです。揉まれたら揉み返す、パイ返しです」
「はぁ? そんなことが経典に書いてあるの?」
オッパイと金利の関連性が分からない。冷静に考えると意味不明な理論だ。
「そうです。では、くれぐれも来月までに残額の支払いをお願いします。滞納しましたら、産乳メイドさんを強制執行させてもらいますので」
「ああ、分かってる。とりあえず今日の用事は終わりだ。カイホ、帰るぞ」
俺は、ここ10日間ずっと大変な思いをして働き通してきた。どうにか10日で八千エノムは稼いだが、次は一万八千エノムだと?
来月ということは25日後か。
ちょっと目眩がしてきた。重い足取りで教会の玄関まで向かった。
「パイラ様のご加護がありますように……」
建物を出るときに、入口で巫女からも祈りを捧げられた。
巨乳の少女に興味はあるが、今は支払いの件だけで頭がいっぱいでオッパイどころではない。帰り路、またグランと少し話しながら自宅へと向かった。
「なんだよ、利息までついてるなんて。三万エノムで終わらなかったじゃないか」
「まあ、借金をすれば利息がつくのは当然だ。教会だからベラボウな暴利じゃないし、良心的だぞ。牧師が税金を立て替えてなければ、もっと早くに酷い目にあっていただろうからな」
滞納して即座に強制執行なら、3年前にサヒラとお別れしていたということになるのか。
貸してくれただけでも親切だと言われれば、そうとも解釈できるかもしれない。
「それで、来月に一万八千エノムなんて大丈夫なの?」
「次も、1日あたり二百エノムずつ貯めていけば20日で四千エノムになるだろう。カイホ、悪いけど来月にも一万四千エノムくらい頼むぞ」
「また俺か。しょうがないなぁ……」
毎日、九百エノムを稼げば20日で一万八千エノムにはなる。
1ヶ月は25日あるので、何日か休んでも大丈夫なはずだ。今日は疲れ果てたので休暇にさせてもらおう。
今後、ガラス工房に行くのも週5日でもいいだろう。
家に帰ると自分の部屋に入り布団に倒れ込んだ。
……
ムニャムニャ。太陽の光が眩しいな。
少し昼寝をしていたが、目が覚めたら昼過ぎくらいだろうか。
寝起きで喉が乾いたので水でも飲むか。布団から起き上がり寝室を出た。
ダイニングに来ると、グランとハルナがお茶を飲んでいるようだった。
「カー君おはよう」
「ん、おはよう? 今、何時?」
「午後1時過ぎくらいだろ。さっきミルクの納品に行って帰ってきたところだ」
「そうか、もうそんな時間か」
「はい、これ。ミルクゼリーのお金よ、八百エノム」
ハルナはテーブルの上に銀貨数枚を並べた。
「カイホが寝てて起きないから、ミルクを売りに行くついでにゼリーのビンも一緒にボーデンのところに持って行ったんだ。毎日、納品しているんだろ」
そういえば、昨日もビン2本分の杏仁豆腐を作っていた。
今朝はガラス工房に出勤せず教会に出掛けたから、杏仁豆腐を納品しに街道まで行っていなかった。
「ああ、ありがとう。今日はバイトを休んだけど、明日からも稼ぎに行くから」
俺は銀貨8枚を手に取り小銭入れに収めた。
貯金は、ほとんどゼロになってしまった。また、地道に稼ぎ直すことにしよう。
「次は、来月までに一万八千エノムだからな。また、みんなで頑張ろうや」
「無理しないで、とは言えないけど。カー君には家族全員が心底感謝してるよ」
「ハハハ。まあサヒラが売られたりしたら絶対イヤだし。さて、お茶でも飲むか」
いつも1リットル陶器の水差しを急須代わりにし、お茶を入れて使っている。
水差し1本にブリ茶を煎じると、コップ5~6杯分くらいは飲める。グランとハルナが何杯か飲んでも、まだ半分くらい残っている。
台所から空のコップを1つ持ってきて、ブリ茶を注いで飲むことにした。
「さっき沸かして注いだばかりだから、まだ少し熱いぞ」
トクトクトク。ふぅーふぅー、ゴクゴク。
「うん、アツアツだ。あれ? 苦くない」
よくよく味を確認してみると、ブリ茶の味が全くしない。まるで、単なるお湯のようだった。
「ごめんね、実は茶葉が無くなっちゃの」
「なんだ、お茶じゃなくて、お湯なんか飲んでたのか」
「最近、みんなでガブガブ飲んでっからな。水差し1本にブリッセン1茎でも、毎日3回だと打ち止めだ」
こんなマズイお茶でも、他に飲料がないからジャブジャブ消費していたようだ。
でも、いくら飲もうがどうせタダだから一向に構わない。
「カー君、悪いけどブリッセンを採集してきてもらっていいかな?」
「とりあえず、ぶっといのを百本くらいでいいから頼むぞ」
「今日はガラス工房も休んだし、まあいいか。今からでも行ってくるよ」
また翌日からバイト通いが始まる。面倒な雑用は先に片付けることにした。
「ねぇ、お姉ちゃんも一緒に行って手伝おうか?」
「うーん、別に俺だけで大丈夫だ。ただ、大量に採るなら2人の方が早いかな」
「ブリッセンって、どれくらい生えているの?」
「前に行った時、一面ビッシリ花畑が広がっててさ。とても綺麗な風景だったよ」
ブリッセンの群生は、とても眺めがよかった。一度、家族にも見せてあげたいと思っていた。
「へぇ、そうなんだ。ちょっと見てみたいかな」
「じゃあハルナも来ればいいよ」
俺は姉と2人でブリッセンの刈り込みに行くことにした。
薬草として用いられる植物で、煎じて飲むと健康にも良い効果がある。
クセになる不味さで、もはやブリ茶の無い生活なんて考えられない。
村人にはブリッセンを勝手に採集することが許されており、誰かに金を払う必要もない。在庫を切らしたら、すぐにでも補給した方がいいだろう。
手早く装備を調えて、出掛ける準備が完了した。
背負っているカゴの中には、古いナタを入れてある。右手にはバットを持った。
「カイホ、早く取って帰ってこいよ。飲みたくて、飲みたくて、手が震えるんだ」
ブリッセンは、そんな怪しい葉っぱではない。真っ当な漢方薬と同じなので、変な症状が出るわけがない。
「はぁ? ブリ茶に禁断症状なんて無いはずだぞ」
「おっと、トイレを我慢してたんだ。じゃあ、気をつけて行ってこいよ」
何だ、そんなことか。とっととトイレに行けよ。
「お父さん、行ってくるね」
「行ってきます」
家を出て、北東へと進む。前に何回か採集に通ったが、最近は行っていない。
今日はモンスター討伐ではなく、のんびりと花摘みだ。たまには、こんなピクニック気分になるのもいいかもしれないな。
15分ほど歩いていると、次々とブリッセンの小群生を発見した。
途中で少しずつ引っこ抜きながら、北の森へと近づいていく。
すると奥地で、300坪くらいの広さの白い花が大量に咲き並んでいる場所に到着した。まるで、白と緑のカーペットのようだ。
この植物は多年草らしいが、個体ごとに開花時期に大幅なズレがあるそうだ。既に花が枯れた茎も生えているし、まだ開花前のブリッセンもある。
この村は日本とは気候も異なるし、植物のサイクルも全く別物なのだろう。
時間差で順番に咲いており、ほぼ一年中いつでも花を見ることが可能なようだ。
「ホント、すごく綺麗な眺めだね」
「ここで昼寝しても最高そうだな。そんで、ツボミは取ったらダメらしいから、種が落ちているのを引っこ抜いていこう。根っこまで全部、お茶になるんだってさ」
乾燥させてから、お茶にするので枯れた茎でも問題ない。まだ未成熟な物だけ摘み取らないよう注意するだけだ。
「うん、わかった」
えっさ、んっさ、よいさっ。
2人がかりで収穫作業をしている。
年に数回だからいいけれど、こんなことを毎日のようにしていたらギックリ腰になってしまうかもしれないな。
根ごとズボズボと引き抜き、軽く泥を落としてから地面に置いたカゴの中に投げ入れる。たくさん生えているので、すぐ一杯に取り終わりそうだ。
「ふぅ、まあこんなくらいでいいかな」
「いっぱい取れたね」
ふと手を休めていくと、『ブブーン』という耳慣れない音が聞こえてきた。
何だ? 周囲を見渡すと、1匹の大きな蜂が飛んでいるのが見えた。
ヤバイ、たしかミルビーだっけか。
俺は反射的に手を向けて、魔法で鑑定してみた。
「パイサーチ!」
『ミルビー:蜂魔獣 ONF』
針を含めず本体だけでも、体長が5cm以上はある。
普通の蜂にしてはデカすぎると思ったら、モンスター化していたのか。
白と黒の縞模様の胴体(腹部)が特徴的で、ケツの先からは3~4cmはありそうな針が出ているのが見える。
「なに、あれ? 怖い……」
「ハルナ、気をつけて。あれがミルビーだ。ヤバそうだから、もう帰ろう」
俺はカゴを背負い直すと、ハルナの手を引いて南へと早足で歩き出した。
すると、ヤツはブーンと羽音を響かせながら俺達の前に飛んで回りこんで来た。
「キャッーー」
あろうことか、ミルビーが飛びかかってハルナの胸あたりに張り付いた。
俺の知っている教会とは何か色々と違うな。
向こう側にいる牧師らしき人が金を受け取ると、勘定をし始めた。
「では、数えてみます」
「キッチリ三万エノムあるはずだ」
銀貨をジャラジャラと積み重ねながら枚数の確認をしている。どうやら10枚ずつ並べているみたいだ。
「金貨2枚に、銀貨100枚。たしかに三万エノム受け取りました。今から納税証明の領収板を発行します。しばし、お待ちください」
少しの間、黙って見ていると領収証が出来たようだ。
さっき金を送った引き出しを通して、今度は逆にカマボコ板みたいなのが渡された。領収証という表題の下に日付や金額が書かれている。これで支払いが済んだ。
「やっと払えてスッキリしたぜ。牧師さん、今まで遅れてすまなかったな」
どうわけか知らんが、この村では牧師が出納担当をやっているらしい。
「いえいえ、徴税も教会の役目ですから。これでグランさんは3年前から滞納していた分については支払い完了です。それで、利息の件ですけど……」
「え? 利息?」
三万エノムで終わりかと思ったが、利息と聞いて驚いてしまった。
「そうだった。利息もついているんだったよな」
「はい。元金三万に対して年間六千エノムで、3年分ですから一万八千エノムになります。こちらは来月末で結構ですので、また支払いにいらしてください」
「うわー、マジかよ。年利20%って高すぎじゃないの?」
俺が金利について文句を言うと、牧師が利率に関する説明を始めた。
「いいえ、破格の低利息です。町の高利貸とかだと年利80%くらいでも当たり前ですから。教会金利なので、とても慈悲深いです。グランさんも納得の上、契約書にサインしています」
20%なら利息制限法の上限金利と同じくらいか。
消費者金融か何かに手を出したと思えば、あまり変わらないかもしれない。これくらいならカバライオンにもならないだろう。
「まあ、暴利じゃないだけマシか。でも教会が金融業もしているなんて、ちょっと違和感があるなぁ……」
「聖書の一節にも、右の乳を揉まれたら左の乳を揉み返しなさいという記述があります。お金を貸したら利息をいただくのは当然のことです。揉まれたら揉み返す、パイ返しです」
「はぁ? そんなことが経典に書いてあるの?」
オッパイと金利の関連性が分からない。冷静に考えると意味不明な理論だ。
「そうです。では、くれぐれも来月までに残額の支払いをお願いします。滞納しましたら、産乳メイドさんを強制執行させてもらいますので」
「ああ、分かってる。とりあえず今日の用事は終わりだ。カイホ、帰るぞ」
俺は、ここ10日間ずっと大変な思いをして働き通してきた。どうにか10日で八千エノムは稼いだが、次は一万八千エノムだと?
来月ということは25日後か。
ちょっと目眩がしてきた。重い足取りで教会の玄関まで向かった。
「パイラ様のご加護がありますように……」
建物を出るときに、入口で巫女からも祈りを捧げられた。
巨乳の少女に興味はあるが、今は支払いの件だけで頭がいっぱいでオッパイどころではない。帰り路、またグランと少し話しながら自宅へと向かった。
「なんだよ、利息までついてるなんて。三万エノムで終わらなかったじゃないか」
「まあ、借金をすれば利息がつくのは当然だ。教会だからベラボウな暴利じゃないし、良心的だぞ。牧師が税金を立て替えてなければ、もっと早くに酷い目にあっていただろうからな」
滞納して即座に強制執行なら、3年前にサヒラとお別れしていたということになるのか。
貸してくれただけでも親切だと言われれば、そうとも解釈できるかもしれない。
「それで、来月に一万八千エノムなんて大丈夫なの?」
「次も、1日あたり二百エノムずつ貯めていけば20日で四千エノムになるだろう。カイホ、悪いけど来月にも一万四千エノムくらい頼むぞ」
「また俺か。しょうがないなぁ……」
毎日、九百エノムを稼げば20日で一万八千エノムにはなる。
1ヶ月は25日あるので、何日か休んでも大丈夫なはずだ。今日は疲れ果てたので休暇にさせてもらおう。
今後、ガラス工房に行くのも週5日でもいいだろう。
家に帰ると自分の部屋に入り布団に倒れ込んだ。
……
ムニャムニャ。太陽の光が眩しいな。
少し昼寝をしていたが、目が覚めたら昼過ぎくらいだろうか。
寝起きで喉が乾いたので水でも飲むか。布団から起き上がり寝室を出た。
ダイニングに来ると、グランとハルナがお茶を飲んでいるようだった。
「カー君おはよう」
「ん、おはよう? 今、何時?」
「午後1時過ぎくらいだろ。さっきミルクの納品に行って帰ってきたところだ」
「そうか、もうそんな時間か」
「はい、これ。ミルクゼリーのお金よ、八百エノム」
ハルナはテーブルの上に銀貨数枚を並べた。
「カイホが寝てて起きないから、ミルクを売りに行くついでにゼリーのビンも一緒にボーデンのところに持って行ったんだ。毎日、納品しているんだろ」
そういえば、昨日もビン2本分の杏仁豆腐を作っていた。
今朝はガラス工房に出勤せず教会に出掛けたから、杏仁豆腐を納品しに街道まで行っていなかった。
「ああ、ありがとう。今日はバイトを休んだけど、明日からも稼ぎに行くから」
俺は銀貨8枚を手に取り小銭入れに収めた。
貯金は、ほとんどゼロになってしまった。また、地道に稼ぎ直すことにしよう。
「次は、来月までに一万八千エノムだからな。また、みんなで頑張ろうや」
「無理しないで、とは言えないけど。カー君には家族全員が心底感謝してるよ」
「ハハハ。まあサヒラが売られたりしたら絶対イヤだし。さて、お茶でも飲むか」
いつも1リットル陶器の水差しを急須代わりにし、お茶を入れて使っている。
水差し1本にブリ茶を煎じると、コップ5~6杯分くらいは飲める。グランとハルナが何杯か飲んでも、まだ半分くらい残っている。
台所から空のコップを1つ持ってきて、ブリ茶を注いで飲むことにした。
「さっき沸かして注いだばかりだから、まだ少し熱いぞ」
トクトクトク。ふぅーふぅー、ゴクゴク。
「うん、アツアツだ。あれ? 苦くない」
よくよく味を確認してみると、ブリ茶の味が全くしない。まるで、単なるお湯のようだった。
「ごめんね、実は茶葉が無くなっちゃの」
「なんだ、お茶じゃなくて、お湯なんか飲んでたのか」
「最近、みんなでガブガブ飲んでっからな。水差し1本にブリッセン1茎でも、毎日3回だと打ち止めだ」
こんなマズイお茶でも、他に飲料がないからジャブジャブ消費していたようだ。
でも、いくら飲もうがどうせタダだから一向に構わない。
「カー君、悪いけどブリッセンを採集してきてもらっていいかな?」
「とりあえず、ぶっといのを百本くらいでいいから頼むぞ」
「今日はガラス工房も休んだし、まあいいか。今からでも行ってくるよ」
また翌日からバイト通いが始まる。面倒な雑用は先に片付けることにした。
「ねぇ、お姉ちゃんも一緒に行って手伝おうか?」
「うーん、別に俺だけで大丈夫だ。ただ、大量に採るなら2人の方が早いかな」
「ブリッセンって、どれくらい生えているの?」
「前に行った時、一面ビッシリ花畑が広がっててさ。とても綺麗な風景だったよ」
ブリッセンの群生は、とても眺めがよかった。一度、家族にも見せてあげたいと思っていた。
「へぇ、そうなんだ。ちょっと見てみたいかな」
「じゃあハルナも来ればいいよ」
俺は姉と2人でブリッセンの刈り込みに行くことにした。
薬草として用いられる植物で、煎じて飲むと健康にも良い効果がある。
クセになる不味さで、もはやブリ茶の無い生活なんて考えられない。
村人にはブリッセンを勝手に採集することが許されており、誰かに金を払う必要もない。在庫を切らしたら、すぐにでも補給した方がいいだろう。
手早く装備を調えて、出掛ける準備が完了した。
背負っているカゴの中には、古いナタを入れてある。右手にはバットを持った。
「カイホ、早く取って帰ってこいよ。飲みたくて、飲みたくて、手が震えるんだ」
ブリッセンは、そんな怪しい葉っぱではない。真っ当な漢方薬と同じなので、変な症状が出るわけがない。
「はぁ? ブリ茶に禁断症状なんて無いはずだぞ」
「おっと、トイレを我慢してたんだ。じゃあ、気をつけて行ってこいよ」
何だ、そんなことか。とっととトイレに行けよ。
「お父さん、行ってくるね」
「行ってきます」
家を出て、北東へと進む。前に何回か採集に通ったが、最近は行っていない。
今日はモンスター討伐ではなく、のんびりと花摘みだ。たまには、こんなピクニック気分になるのもいいかもしれないな。
15分ほど歩いていると、次々とブリッセンの小群生を発見した。
途中で少しずつ引っこ抜きながら、北の森へと近づいていく。
すると奥地で、300坪くらいの広さの白い花が大量に咲き並んでいる場所に到着した。まるで、白と緑のカーペットのようだ。
この植物は多年草らしいが、個体ごとに開花時期に大幅なズレがあるそうだ。既に花が枯れた茎も生えているし、まだ開花前のブリッセンもある。
この村は日本とは気候も異なるし、植物のサイクルも全く別物なのだろう。
時間差で順番に咲いており、ほぼ一年中いつでも花を見ることが可能なようだ。
「ホント、すごく綺麗な眺めだね」
「ここで昼寝しても最高そうだな。そんで、ツボミは取ったらダメらしいから、種が落ちているのを引っこ抜いていこう。根っこまで全部、お茶になるんだってさ」
乾燥させてから、お茶にするので枯れた茎でも問題ない。まだ未成熟な物だけ摘み取らないよう注意するだけだ。
「うん、わかった」
えっさ、んっさ、よいさっ。
2人がかりで収穫作業をしている。
年に数回だからいいけれど、こんなことを毎日のようにしていたらギックリ腰になってしまうかもしれないな。
根ごとズボズボと引き抜き、軽く泥を落としてから地面に置いたカゴの中に投げ入れる。たくさん生えているので、すぐ一杯に取り終わりそうだ。
「ふぅ、まあこんなくらいでいいかな」
「いっぱい取れたね」
ふと手を休めていくと、『ブブーン』という耳慣れない音が聞こえてきた。
何だ? 周囲を見渡すと、1匹の大きな蜂が飛んでいるのが見えた。
ヤバイ、たしかミルビーだっけか。
俺は反射的に手を向けて、魔法で鑑定してみた。
「パイサーチ!」
『ミルビー:蜂魔獣 ONF』
針を含めず本体だけでも、体長が5cm以上はある。
普通の蜂にしてはデカすぎると思ったら、モンスター化していたのか。
白と黒の縞模様の胴体(腹部)が特徴的で、ケツの先からは3~4cmはありそうな針が出ているのが見える。
「なに、あれ? 怖い……」
「ハルナ、気をつけて。あれがミルビーだ。ヤバそうだから、もう帰ろう」
俺はカゴを背負い直すと、ハルナの手を引いて南へと早足で歩き出した。
すると、ヤツはブーンと羽音を響かせながら俺達の前に飛んで回りこんで来た。
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