65 / 111
2章 後編
P65
しおりを挟む
この廃棄ミルクは、ドロっとしたスライムの体液が混ざっている。
ネバネバのベトベトだ。こんなもので羽が濡れてしまったら、さすがの蜂といえどもロクに飛ぶことも出来ないだろう。
ミルビーの死骸はジュワーっと蒸発して消えた。
昨日と同様なら、おそらく蜂蜜をドロップするはずだ。
「あれ? 蜂蜜が……、無い」
「何も残ってないわね」
うーん? ブリッセンから蜜を採集する前の蜂を倒してしまったのだろうか。
もしかすると、蜂を倒せば常にアイテムが出るわけでもないのかもしれない。
「ハズレだったのか。まあいい、上手く倒せたな。今日こんな感じで狩るから」
「でも思ったより、あっけなかったわね。スライムより歯ごたえがないわ」
「ところが、スライムより危険なんだ。蛇と戦うくらいの心構えで油断するなよ」
その後も同じようにブルッサが木刀の素振りをしていると、ミルビーがポツポツご登場してくる。それをミルクの水鉄砲で叩き落とすだけの作業だ。
もはや、ガンシューティングのようになっていた。
「ターゲット:ミルビー。50cc:ミルドリップ!」
ギュイィィン。ビュッー、ピチャッ。
実験のため、5匹目くらいの蜂に噴出量を半分にして当ててみた。
「ブブーン。ギィッー」
ミルクが足りないのか。命中したけれど、50ccでは落ちないようだ。
「くそっ、もう1発だ。ターゲット:ミルビー。100cc:ミルドリップ!」
ギュイィィン。ビュ、ビュッー、ビチャッン。
蜂が飛ぶ勢いより、ミルクの水圧の方が勝っている。やはり、100ccなら問題なく効いているようだ。
即座に、木刀を構えたブルッサが蜂の撃墜地点へと突進して行く。
「えぃっ」
グチャ。
地面にさえ落ちれば、彼女が容易に始末してくれる。
どうやらミルクの量をケチると、少しパワー不足になるようだ。
どうせ捨てる廃乳をタダで手に入れてきたんだ。惜しまずに、1匹100ccずつでアタックしていくことにした。
慣れてきたら、少しずつ森に近づいていく。ミルビーが2匹や3匹くらい来ても、連続で射撃すれば何とか処理はできた。
蜂は空中を飛び回っていて、発射したミルクを避けられそうになることもある。
それでもミルドリップは、魔力により多少のコントロールが利く。ターゲット指定をしているので、微妙にホーミングしているかもしれない。
今のところ命中率は80%を超えていると思う。
1時間ほど滞在して20匹くらいのミルビーを始末することができた。
弾倉量も、3リットル樽を満タンで1日分に丁度いいくらいだ。
どちらかと言うと、俺のMP量が狩りの限界ラインになる。
「はぁ、はぁ……。すまんブルッサ、ちょっと魔力がキツイかも。今日はこれくらいで帰ろうか」
実際には、まだ半分以上の余力は残っている。ただ、喉も乾いてきて辛いのだ。
樽には1リットル弱ほどミルクが残っているが、これは飲むことができない。
自分で作ったビンを水筒代わりにして、水を入れて持って来れば良かったな。
明日からは、そうしよう。
「もおっ。カイボスさんたら、いつも早いのね」
調子に乗ってビュルビュルと放出し続けたので、すぐ打ち止めになってしまうのも仕方ない。細胞膜に包まれたミルビーシロップも、それなりに拾った。
最初の1匹目は何も出なかったので焦ったが、約20匹ほど倒して12個の蜂蜜球を手に入れた。それと蜂の針も2本を回収している。
絶命したモンスターは体の大半が蒸発してしまう。それでも一定割合で何かが消えず残留する部位もある。個体差なのか、確率的な問題なのかは不明だ。
蜂蜜はカゴに入れ、針は搾乳樽のフタの上に乗せて持って帰ることにした。
針が売れるのかどうかは分からないけど、蜜はなかなかの戦果だ。
どこかで、女王蜂は1日に千の卵を産むと聞いたことがある気がする。
1日20匹程度しか倒せない現状では、アイツらを絶滅させるのは難しい。
ただ、無限に近い数がいくらでも湧くなら、安定した収入源になりそうだ。
「2人で6個ずつに分けようか。これ1個が百エノムで売れるんだぜ。1人あたり六百エノムの収入になるとは、なかなか良い狩場だな」
「ちょっと歯ごたえの無い獲物だったけど、お金になるなら仕方ないわね」
「へへへ、金は大切だ。明日からも当分、ここの森前に通おうか」
蜂蜜はブルッサと半分ずつに分けた。針は用途不明なので、とりあえず2本とも俺がもらうことになった。
それにしても、ミルビー狩りは魔力効率がすこぶる良い。
スニャックと戦っていたときは、パイサーチ1回とパイサック2回が必要だった。蛇1匹あたりに計3発の魔法を使用していた。
蜂は向こうから勝手に寄ってくるのでサーチする必要もなく、ミルドリップ1発で落とせてMP的に省エネで済む。
「いいわね。これでダンジョンに行ける日が早まるわ」
ダンジョンか。俺の家は、まずは借金の利息を返済しないといけないけどな。
今日は朝8時頃に森付近に出掛けてから、10時くらいには帰ってきた。
ブルッサも、パンを作る作業のアシスタントがあるので自宅に戻るようだ。
一旦、2人は解散する。
それから俺は、杏仁豆腐を納品するために1人でパイラマ街道へと向かった。
「ボーデンさん、こんにちわー」
「どうも、まいどです」
「まずは、いつものようにミルクゼリーの納品です」
「今日から4個ですね。千六百エノムになります」
俺は持ってきた木箱から4本のビンを取り出し、行商人に手渡した。
さらに、箱の空きスペースに狩りの戦利品も入れてある。
「あと蜂を狩ってきて、蜂蜜と針を拾ったんですが、これも売りたいです」
「ほう、こんなにミルビーを倒すとは。危なくなかったですかね?」
「ちょっと怖いけど、それでも以前はスニャックと戦っていたくらいだから。蜂も、どうにかなりました」
「素晴らしいですな。立派な冒険者になれますぞ」
「そんで、蜂蜜が1個百エノムでしたよね。蜂の針って売れるんですか?」
蜂の針は初めて見たので、これも換金できるのかボーデンに聞いてみた。
「はい。針は2本あたり百エノムで買取させていただいております」
どうやらスライムのゼラチンと同じ値段のようだな。
針は大した儲けにならないが、蜂蜜のオマケだと思えば別に悪くはない。
「この針って、何に使うんです?」
「それは、もちろん縫い針ですよ。この国の裁縫工房では、通常は木製の針を使用しているのですが。木は耐久力が低いため細くするほど折れやすいのです」
「そういえば家でも爪楊枝サイズくらいの木針を使っていますが、すぐポキッっていっちゃいますね」
「そうです。木針では太さと耐久力が比例しますから。細い物はあまり長くは使用できません。その点、ミルビーの針は細い割には丈夫なので、高価な生地を縫うのに最適なんですよ」
「へぇ、そうだったんだ。とりあえず蜂蜜5個に針2本を買ってください」
今朝に拾った蜂蜜のうち俺の取り分は6個だけど、そのうち5個を納品した。
1個は自分の家で料理に使おうと思う。砂糖も500グラムで五百エノムもするので、代わりに蜂蜜を少しくらい使用しても特に大きな損にはならないだろう。
「はい、こちらは六百エノムですね。ミルクゼリーと合計で二千二百エノムです」
杏仁豆腐4本、蜂蜜5個、蜂の針2本。これらを、まとめて売却した。
しめて銀貨22枚を受け取る。ジャラジャラと、心地良いカネの音が響く。
給料日みたいな良い気分になった。これで、自分の分は納品が終った。
次に、グランに描いてもらった画用紙の絵も引き渡しておく。
「あと、頼まれていた絵も持ってきました。カラーで良く描けてると思います」
「おおおっ、なんと素晴らしい出来栄えだ。まるで生き写しのようです」
カラー絵を見たボーデンは、大絶賛した。
あんな父親だけど、やはり絵の技能だけは本物のようだ。
「これも、販売促進用で店頭ポスターにするんですか?」
「いえ、絵画として欲しいと言われる方がおりまして。ミルクゼリーを販売する店先に何日か展示したあと、売却する予定です。私の買取査定として1枚四百エノムをつけさせていただきますが、いかがでしょう?」
「まあ、いいんじゃないですかね。うちの父が昼過ぎに来ると思うので、本人に聞いてみてください」
「そうですね。ただ、画用紙と色鉛筆を先に渡してあるじゃないですか。あれもタダではないので。まずは、こちらの3枚と相殺という形になると思います」
「あの紙と鉛筆って、やっぱ高いんですか?」
「画用紙10枚が五百エノムで、色鉛筆は1本が二百エノムになります。本来なら1セット千五百エノムで販売している商品ですが、この絵を3枚と交換なら差し上げるつもりです。ですから、また別の絵を持って来ていただければ、次からは代金をお支払いすることができるでしょう」
ということは、さっき納付した3枚の絵は、実質的に1枚あたり五百エノムで買ってもらったのと同じ計算になる。
「なるほど。まあ、それもそうですよね。だけど、グランはカラーだと1日2枚くらいしか描けないみたいです」
「1日2枚というのは、とてつもなく早いですよ。並の画家なら1枚に10日とか1ヶ月くらいかかっても、おかしくはありませんから」
やはり魔法の力は凄まじいようだ。人間離れした描き方をしているだけある。
今後も何枚かは、絵を売れば金にはなりそうだ。
だけど、無理に多くをグランに描かせようとすると『働きたくないでゴザル』とか言い出すかもしれない。当面、絵はボチボチでいいだろう。
「そうなんだ、分かりました。とりあえず絵は俺の担当ではないので。ミルクゼリーは今後とも、よろしくお願いします」
「ええ、もちろんです。この絵を貼り出せば、さらに好調になりそうですよ」
「どうも、ありがとうございました。それでは俺はガラス工房に行ってくるので、このへんで失礼します」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
行商人との取引が済んだので、そのままガラス工房に出勤した。
ガラス吹きのバイトも、まだ辞めるつもりはない。
20本のビン制作が終わると、再びブルッサと合流しスライム狩りも行った。
スライムに対しては、自分のやることがなくなった。
ブルッサが無双し始めて、ブチブチと皮を突き破り叩き潰している。
俺はゼラチンを拾うだけの係になり下がり、何だか申し訳ないくらいだ。
「いいのかな。ゼラチン半分ずつで?」
「午前のミルビー狩りと、午後のスライム狩りでセットみたいなものよ。2人でパーティを組んでいるのだから、半分ずつでいいわよね」
ブルッサも蜂蜜で収入が増え、満足しているのだろう。
もはやフックがパン売りをする利益よりも、蜂蜜の方が儲けが大きい。
「ああ、そんじゃ明日からもヨロシクな」
「ええ、こちらこそ。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」
狩りが終わり家に戻ると、すぐに交換用のパンを調理する。
そして、ロチパ三姉妹の家へと出張搾乳に出掛ける。
杏仁豆腐は原価を差し引くと4本で千エノムの利益になる。あとは北東の森付近で蜂蜜を5個を拾ってくれば、合計で日収千五百エノムは稼げる計算になる。
だいたい2週間で12日ほど働けば、一万八千エノムは貯められるだろう。
よーし、この調子で一気に借金完済を目指すぞ。
【第2章 完】
(3章に続く)
ネバネバのベトベトだ。こんなもので羽が濡れてしまったら、さすがの蜂といえどもロクに飛ぶことも出来ないだろう。
ミルビーの死骸はジュワーっと蒸発して消えた。
昨日と同様なら、おそらく蜂蜜をドロップするはずだ。
「あれ? 蜂蜜が……、無い」
「何も残ってないわね」
うーん? ブリッセンから蜜を採集する前の蜂を倒してしまったのだろうか。
もしかすると、蜂を倒せば常にアイテムが出るわけでもないのかもしれない。
「ハズレだったのか。まあいい、上手く倒せたな。今日こんな感じで狩るから」
「でも思ったより、あっけなかったわね。スライムより歯ごたえがないわ」
「ところが、スライムより危険なんだ。蛇と戦うくらいの心構えで油断するなよ」
その後も同じようにブルッサが木刀の素振りをしていると、ミルビーがポツポツご登場してくる。それをミルクの水鉄砲で叩き落とすだけの作業だ。
もはや、ガンシューティングのようになっていた。
「ターゲット:ミルビー。50cc:ミルドリップ!」
ギュイィィン。ビュッー、ピチャッ。
実験のため、5匹目くらいの蜂に噴出量を半分にして当ててみた。
「ブブーン。ギィッー」
ミルクが足りないのか。命中したけれど、50ccでは落ちないようだ。
「くそっ、もう1発だ。ターゲット:ミルビー。100cc:ミルドリップ!」
ギュイィィン。ビュ、ビュッー、ビチャッン。
蜂が飛ぶ勢いより、ミルクの水圧の方が勝っている。やはり、100ccなら問題なく効いているようだ。
即座に、木刀を構えたブルッサが蜂の撃墜地点へと突進して行く。
「えぃっ」
グチャ。
地面にさえ落ちれば、彼女が容易に始末してくれる。
どうやらミルクの量をケチると、少しパワー不足になるようだ。
どうせ捨てる廃乳をタダで手に入れてきたんだ。惜しまずに、1匹100ccずつでアタックしていくことにした。
慣れてきたら、少しずつ森に近づいていく。ミルビーが2匹や3匹くらい来ても、連続で射撃すれば何とか処理はできた。
蜂は空中を飛び回っていて、発射したミルクを避けられそうになることもある。
それでもミルドリップは、魔力により多少のコントロールが利く。ターゲット指定をしているので、微妙にホーミングしているかもしれない。
今のところ命中率は80%を超えていると思う。
1時間ほど滞在して20匹くらいのミルビーを始末することができた。
弾倉量も、3リットル樽を満タンで1日分に丁度いいくらいだ。
どちらかと言うと、俺のMP量が狩りの限界ラインになる。
「はぁ、はぁ……。すまんブルッサ、ちょっと魔力がキツイかも。今日はこれくらいで帰ろうか」
実際には、まだ半分以上の余力は残っている。ただ、喉も乾いてきて辛いのだ。
樽には1リットル弱ほどミルクが残っているが、これは飲むことができない。
自分で作ったビンを水筒代わりにして、水を入れて持って来れば良かったな。
明日からは、そうしよう。
「もおっ。カイボスさんたら、いつも早いのね」
調子に乗ってビュルビュルと放出し続けたので、すぐ打ち止めになってしまうのも仕方ない。細胞膜に包まれたミルビーシロップも、それなりに拾った。
最初の1匹目は何も出なかったので焦ったが、約20匹ほど倒して12個の蜂蜜球を手に入れた。それと蜂の針も2本を回収している。
絶命したモンスターは体の大半が蒸発してしまう。それでも一定割合で何かが消えず残留する部位もある。個体差なのか、確率的な問題なのかは不明だ。
蜂蜜はカゴに入れ、針は搾乳樽のフタの上に乗せて持って帰ることにした。
針が売れるのかどうかは分からないけど、蜜はなかなかの戦果だ。
どこかで、女王蜂は1日に千の卵を産むと聞いたことがある気がする。
1日20匹程度しか倒せない現状では、アイツらを絶滅させるのは難しい。
ただ、無限に近い数がいくらでも湧くなら、安定した収入源になりそうだ。
「2人で6個ずつに分けようか。これ1個が百エノムで売れるんだぜ。1人あたり六百エノムの収入になるとは、なかなか良い狩場だな」
「ちょっと歯ごたえの無い獲物だったけど、お金になるなら仕方ないわね」
「へへへ、金は大切だ。明日からも当分、ここの森前に通おうか」
蜂蜜はブルッサと半分ずつに分けた。針は用途不明なので、とりあえず2本とも俺がもらうことになった。
それにしても、ミルビー狩りは魔力効率がすこぶる良い。
スニャックと戦っていたときは、パイサーチ1回とパイサック2回が必要だった。蛇1匹あたりに計3発の魔法を使用していた。
蜂は向こうから勝手に寄ってくるのでサーチする必要もなく、ミルドリップ1発で落とせてMP的に省エネで済む。
「いいわね。これでダンジョンに行ける日が早まるわ」
ダンジョンか。俺の家は、まずは借金の利息を返済しないといけないけどな。
今日は朝8時頃に森付近に出掛けてから、10時くらいには帰ってきた。
ブルッサも、パンを作る作業のアシスタントがあるので自宅に戻るようだ。
一旦、2人は解散する。
それから俺は、杏仁豆腐を納品するために1人でパイラマ街道へと向かった。
「ボーデンさん、こんにちわー」
「どうも、まいどです」
「まずは、いつものようにミルクゼリーの納品です」
「今日から4個ですね。千六百エノムになります」
俺は持ってきた木箱から4本のビンを取り出し、行商人に手渡した。
さらに、箱の空きスペースに狩りの戦利品も入れてある。
「あと蜂を狩ってきて、蜂蜜と針を拾ったんですが、これも売りたいです」
「ほう、こんなにミルビーを倒すとは。危なくなかったですかね?」
「ちょっと怖いけど、それでも以前はスニャックと戦っていたくらいだから。蜂も、どうにかなりました」
「素晴らしいですな。立派な冒険者になれますぞ」
「そんで、蜂蜜が1個百エノムでしたよね。蜂の針って売れるんですか?」
蜂の針は初めて見たので、これも換金できるのかボーデンに聞いてみた。
「はい。針は2本あたり百エノムで買取させていただいております」
どうやらスライムのゼラチンと同じ値段のようだな。
針は大した儲けにならないが、蜂蜜のオマケだと思えば別に悪くはない。
「この針って、何に使うんです?」
「それは、もちろん縫い針ですよ。この国の裁縫工房では、通常は木製の針を使用しているのですが。木は耐久力が低いため細くするほど折れやすいのです」
「そういえば家でも爪楊枝サイズくらいの木針を使っていますが、すぐポキッっていっちゃいますね」
「そうです。木針では太さと耐久力が比例しますから。細い物はあまり長くは使用できません。その点、ミルビーの針は細い割には丈夫なので、高価な生地を縫うのに最適なんですよ」
「へぇ、そうだったんだ。とりあえず蜂蜜5個に針2本を買ってください」
今朝に拾った蜂蜜のうち俺の取り分は6個だけど、そのうち5個を納品した。
1個は自分の家で料理に使おうと思う。砂糖も500グラムで五百エノムもするので、代わりに蜂蜜を少しくらい使用しても特に大きな損にはならないだろう。
「はい、こちらは六百エノムですね。ミルクゼリーと合計で二千二百エノムです」
杏仁豆腐4本、蜂蜜5個、蜂の針2本。これらを、まとめて売却した。
しめて銀貨22枚を受け取る。ジャラジャラと、心地良いカネの音が響く。
給料日みたいな良い気分になった。これで、自分の分は納品が終った。
次に、グランに描いてもらった画用紙の絵も引き渡しておく。
「あと、頼まれていた絵も持ってきました。カラーで良く描けてると思います」
「おおおっ、なんと素晴らしい出来栄えだ。まるで生き写しのようです」
カラー絵を見たボーデンは、大絶賛した。
あんな父親だけど、やはり絵の技能だけは本物のようだ。
「これも、販売促進用で店頭ポスターにするんですか?」
「いえ、絵画として欲しいと言われる方がおりまして。ミルクゼリーを販売する店先に何日か展示したあと、売却する予定です。私の買取査定として1枚四百エノムをつけさせていただきますが、いかがでしょう?」
「まあ、いいんじゃないですかね。うちの父が昼過ぎに来ると思うので、本人に聞いてみてください」
「そうですね。ただ、画用紙と色鉛筆を先に渡してあるじゃないですか。あれもタダではないので。まずは、こちらの3枚と相殺という形になると思います」
「あの紙と鉛筆って、やっぱ高いんですか?」
「画用紙10枚が五百エノムで、色鉛筆は1本が二百エノムになります。本来なら1セット千五百エノムで販売している商品ですが、この絵を3枚と交換なら差し上げるつもりです。ですから、また別の絵を持って来ていただければ、次からは代金をお支払いすることができるでしょう」
ということは、さっき納付した3枚の絵は、実質的に1枚あたり五百エノムで買ってもらったのと同じ計算になる。
「なるほど。まあ、それもそうですよね。だけど、グランはカラーだと1日2枚くらいしか描けないみたいです」
「1日2枚というのは、とてつもなく早いですよ。並の画家なら1枚に10日とか1ヶ月くらいかかっても、おかしくはありませんから」
やはり魔法の力は凄まじいようだ。人間離れした描き方をしているだけある。
今後も何枚かは、絵を売れば金にはなりそうだ。
だけど、無理に多くをグランに描かせようとすると『働きたくないでゴザル』とか言い出すかもしれない。当面、絵はボチボチでいいだろう。
「そうなんだ、分かりました。とりあえず絵は俺の担当ではないので。ミルクゼリーは今後とも、よろしくお願いします」
「ええ、もちろんです。この絵を貼り出せば、さらに好調になりそうですよ」
「どうも、ありがとうございました。それでは俺はガラス工房に行ってくるので、このへんで失礼します」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
行商人との取引が済んだので、そのままガラス工房に出勤した。
ガラス吹きのバイトも、まだ辞めるつもりはない。
20本のビン制作が終わると、再びブルッサと合流しスライム狩りも行った。
スライムに対しては、自分のやることがなくなった。
ブルッサが無双し始めて、ブチブチと皮を突き破り叩き潰している。
俺はゼラチンを拾うだけの係になり下がり、何だか申し訳ないくらいだ。
「いいのかな。ゼラチン半分ずつで?」
「午前のミルビー狩りと、午後のスライム狩りでセットみたいなものよ。2人でパーティを組んでいるのだから、半分ずつでいいわよね」
ブルッサも蜂蜜で収入が増え、満足しているのだろう。
もはやフックがパン売りをする利益よりも、蜂蜜の方が儲けが大きい。
「ああ、そんじゃ明日からもヨロシクな」
「ええ、こちらこそ。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」
狩りが終わり家に戻ると、すぐに交換用のパンを調理する。
そして、ロチパ三姉妹の家へと出張搾乳に出掛ける。
杏仁豆腐は原価を差し引くと4本で千エノムの利益になる。あとは北東の森付近で蜂蜜を5個を拾ってくれば、合計で日収千五百エノムは稼げる計算になる。
だいたい2週間で12日ほど働けば、一万八千エノムは貯められるだろう。
よーし、この調子で一気に借金完済を目指すぞ。
【第2章 完】
(3章に続く)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる