牛人転生:オッパイもむだけのレベル上げです。

薄 氷渡

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2章 後編

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 この廃棄ミルクは、ドロっとしたスライムの体液が混ざっている。
 ネバネバのベトベトだ。こんなもので羽が濡れてしまったら、さすがの蜂といえどもロクに飛ぶことも出来ないだろう。
 ミルビーの死骸はジュワーっと蒸発して消えた。
 昨日と同様なら、おそらく蜂蜜をドロップするはずだ。

「あれ? 蜂蜜が……、無い」

「何も残ってないわね」

 うーん? ブリッセンから蜜を採集する前の蜂を倒してしまったのだろうか。
 もしかすると、蜂を倒せば常にアイテムが出るわけでもないのかもしれない。

「ハズレだったのか。まあいい、上手く倒せたな。今日こんな感じで狩るから」

「でも思ったより、あっけなかったわね。スライムより歯ごたえがないわ」

「ところが、スライムより危険なんだ。蛇と戦うくらいの心構えで油断するなよ」

 その後も同じようにブルッサが木刀の素振りをしていると、ミルビーがポツポツご登場してくる。それをミルクの水鉄砲で叩き落とすだけの作業だ。
 もはや、ガンシューティングのようになっていた。

「ターゲット:ミルビー。50cc:ミルドリップ!」

 ギュイィィン。ビュッー、ピチャッ。
 実験のため、5匹目くらいの蜂に噴出量を半分にして当ててみた。

「ブブーン。ギィッー」

 ミルクが足りないのか。命中したけれど、50ccでは落ちないようだ。

「くそっ、もう1発だ。ターゲット:ミルビー。100cc:ミルドリップ!」

 ギュイィィン。ビュ、ビュッー、ビチャッン。
 蜂が飛ぶ勢いより、ミルクの水圧の方が勝っている。やはり、100ccなら問題なく効いているようだ。
 即座に、木刀を構えたブルッサが蜂の撃墜地点へと突進して行く。

「えぃっ」

 グチャ。
 地面にさえ落ちれば、彼女が容易に始末してくれる。
 どうやらミルクの量をケチると、少しパワー不足になるようだ。
 どうせ捨てる廃乳をタダで手に入れてきたんだ。惜しまずに、1匹100ccずつでアタックしていくことにした。

 慣れてきたら、少しずつ森に近づいていく。ミルビーが2匹や3匹くらい来ても、連続で射撃すれば何とか処理はできた。
 蜂は空中を飛び回っていて、発射したミルクを避けられそうになることもある。
 それでもミルドリップは、魔力により多少のコントロールが利く。ターゲット指定をしているので、微妙にホーミングしているかもしれない。
 今のところ命中率は80%を超えていると思う。
 1時間ほど滞在して20匹くらいのミルビーを始末することができた。
 弾倉量も、3リットル樽を満タンで1日分に丁度いいくらいだ。
 どちらかと言うと、俺のMP量が狩りの限界ラインになる。

「はぁ、はぁ……。すまんブルッサ、ちょっと魔力がキツイかも。今日はこれくらいで帰ろうか」

 実際には、まだ半分以上の余力は残っている。ただ、喉も乾いてきて辛いのだ。
 樽には1リットル弱ほどミルクが残っているが、これは飲むことができない。
 自分で作ったビンを水筒代わりにして、水を入れて持って来れば良かったな。
 明日からは、そうしよう。

「もおっ。カイボスさんたら、いつも早いのね」

 調子に乗ってビュルビュルと放出し続けたので、すぐ打ち止めになってしまうのも仕方ない。細胞膜に包まれたミルビーシロップも、それなりに拾った。
 最初の1匹目は何も出なかったので焦ったが、約20匹ほど倒して12個の蜂蜜球を手に入れた。それと蜂の針も2本を回収している。

 絶命したモンスターは体の大半が蒸発してしまう。それでも一定割合で何かが消えず残留する部位もある。個体差なのか、確率的な問題なのかは不明だ。
 蜂蜜はカゴに入れ、針は搾乳樽のフタの上に乗せて持って帰ることにした。
 針が売れるのかどうかは分からないけど、蜜はなかなかの戦果だ。

 どこかで、女王蜂は1日に千の卵を産むと聞いたことがある気がする。
 1日20匹程度しか倒せない現状では、アイツらを絶滅させるのは難しい。
 ただ、無限に近い数がいくらでも湧くなら、安定した収入源になりそうだ。

「2人で6個ずつに分けようか。これ1個が百エノムで売れるんだぜ。1人あたり六百エノムの収入になるとは、なかなか良い狩場だな」

「ちょっと歯ごたえの無い獲物だったけど、お金になるなら仕方ないわね」

「へへへ、金は大切だ。明日からも当分、ここの森前に通おうか」

 蜂蜜はブルッサと半分ずつに分けた。針は用途不明なので、とりあえず2本とも俺がもらうことになった。
 それにしても、ミルビー狩りは魔力効率がすこぶる良い。
 スニャックと戦っていたときは、パイサーチ1回とパイサック2回が必要だった。蛇1匹あたりに計3発の魔法を使用していた。
 蜂は向こうから勝手に寄ってくるのでサーチする必要もなく、ミルドリップ1発で落とせてMP的に省エネで済む。

「いいわね。これでダンジョンに行ける日が早まるわ」

 ダンジョンか。俺の家は、まずは借金の利息を返済しないといけないけどな。
 今日は朝8時頃に森付近に出掛けてから、10時くらいには帰ってきた。
 ブルッサも、パンを作る作業のアシスタントがあるので自宅に戻るようだ。
 一旦、2人は解散する。

 それから俺は、杏仁豆腐を納品するために1人でパイラマ街道へと向かった。

「ボーデンさん、こんにちわー」

「どうも、まいどです」

「まずは、いつものようにミルクゼリーの納品です」

「今日から4個ですね。千六百エノムになります」

 俺は持ってきた木箱から4本のビンを取り出し、行商人に手渡した。
 さらに、箱の空きスペースに狩りの戦利品も入れてある。

「あと蜂を狩ってきて、蜂蜜と針を拾ったんですが、これも売りたいです」

「ほう、こんなにミルビーを倒すとは。危なくなかったですかね?」

「ちょっと怖いけど、それでも以前はスニャックと戦っていたくらいだから。蜂も、どうにかなりました」

「素晴らしいですな。立派な冒険者になれますぞ」

「そんで、蜂蜜が1個百エノムでしたよね。蜂の針って売れるんですか?」

 蜂の針は初めて見たので、これも換金できるのかボーデンに聞いてみた。

「はい。針は2本あたり百エノムで買取させていただいております」

 どうやらスライムのゼラチンと同じ値段のようだな。
 針は大した儲けにならないが、蜂蜜のオマケだと思えば別に悪くはない。

「この針って、何に使うんです?」

「それは、もちろん縫い針ですよ。この国の裁縫工房では、通常は木製の針を使用しているのですが。木は耐久力が低いため細くするほど折れやすいのです」

「そういえば家でも爪楊枝サイズくらいの木針を使っていますが、すぐポキッっていっちゃいますね」

「そうです。木針では太さと耐久力が比例しますから。細い物はあまり長くは使用できません。その点、ミルビーの針は細い割には丈夫なので、高価な生地を縫うのに最適なんですよ」

「へぇ、そうだったんだ。とりあえず蜂蜜5個に針2本を買ってください」

 今朝に拾った蜂蜜のうち俺の取り分は6個だけど、そのうち5個を納品した。
 1個は自分の家で料理に使おうと思う。砂糖も500グラムで五百エノムもするので、代わりに蜂蜜を少しくらい使用しても特に大きな損にはならないだろう。

「はい、こちらは六百エノムですね。ミルクゼリーと合計で二千二百エノムです」

 杏仁豆腐4本、蜂蜜5個、蜂の針2本。これらを、まとめて売却した。
 しめて銀貨22枚を受け取る。ジャラジャラと、心地良いカネの音が響く。
 給料日みたいな良い気分になった。これで、自分の分は納品が終った。
 次に、グランに描いてもらった画用紙の絵も引き渡しておく。

「あと、頼まれていた絵も持ってきました。カラーで良く描けてると思います」

「おおおっ、なんと素晴らしい出来栄えだ。まるで生き写しのようです」

 カラー絵を見たボーデンは、大絶賛した。
 あんな父親だけど、やはり絵の技能だけは本物のようだ。

「これも、販売促進用で店頭ポスターにするんですか?」

「いえ、絵画として欲しいと言われる方がおりまして。ミルクゼリーを販売する店先に何日か展示したあと、売却する予定です。私の買取査定として1枚四百エノムをつけさせていただきますが、いかがでしょう?」

「まあ、いいんじゃないですかね。うちの父が昼過ぎに来ると思うので、本人に聞いてみてください」

「そうですね。ただ、画用紙と色鉛筆を先に渡してあるじゃないですか。あれもタダではないので。まずは、こちらの3枚と相殺という形になると思います」

「あの紙と鉛筆って、やっぱ高いんですか?」

「画用紙10枚が五百エノムで、色鉛筆は1本が二百エノムになります。本来なら1セット千五百エノムで販売している商品ですが、この絵を3枚と交換なら差し上げるつもりです。ですから、また別の絵を持って来ていただければ、次からは代金をお支払いすることができるでしょう」

 ということは、さっき納付した3枚の絵は、実質的に1枚あたり五百エノムで買ってもらったのと同じ計算になる。

「なるほど。まあ、それもそうですよね。だけど、グランはカラーだと1日2枚くらいしか描けないみたいです」

「1日2枚というのは、とてつもなく早いですよ。並の画家なら1枚に10日とか1ヶ月くらいかかっても、おかしくはありませんから」

 やはり魔法の力は凄まじいようだ。人間離れした描き方をしているだけある。
 今後も何枚かは、絵を売れば金にはなりそうだ。
 だけど、無理に多くをグランに描かせようとすると『働きたくないでゴザル』とか言い出すかもしれない。当面、絵はボチボチでいいだろう。

「そうなんだ、分かりました。とりあえず絵は俺の担当ではないので。ミルクゼリーは今後とも、よろしくお願いします」

「ええ、もちろんです。この絵を貼り出せば、さらに好調になりそうですよ」

「どうも、ありがとうございました。それでは俺はガラス工房に行ってくるので、このへんで失礼します」

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」 

 行商人との取引が済んだので、そのままガラス工房に出勤した。
 ガラス吹きのバイトも、まだ辞めるつもりはない。
 20本のビン制作が終わると、再びブルッサと合流しスライム狩りも行った。

 スライムに対しては、自分のやることがなくなった。
 ブルッサが無双し始めて、ブチブチと皮を突き破り叩き潰している。
 俺はゼラチンを拾うだけの係になり下がり、何だか申し訳ないくらいだ。

「いいのかな。ゼラチン半分ずつで?」

「午前のミルビー狩りと、午後のスライム狩りでセットみたいなものよ。2人でパーティを組んでいるのだから、半分ずつでいいわよね」

 ブルッサも蜂蜜で収入が増え、満足しているのだろう。
 もはやフックがパン売りをする利益よりも、蜂蜜の方が儲けが大きい。

「ああ、そんじゃ明日からもヨロシクな」

「ええ、こちらこそ。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」

 狩りが終わり家に戻ると、すぐに交換用のパンを調理する。
 そして、ロチパ三姉妹の家へと出張搾乳に出掛ける。
 杏仁豆腐は原価を差し引くと4本で千エノムの利益になる。あとは北東の森付近で蜂蜜を5個を拾ってくれば、合計で日収千五百エノムは稼げる計算になる。
 だいたい2週間で12日ほど働けば、一万八千エノムは貯められるだろう。
 よーし、この調子で一気に借金完済を目指すぞ。


【第2章 完】


(3章に続く) 
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