ダンジョンのコンサルタント

流水斎

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フィールドワーク編

現地入り

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 エレオノーラにアポを入れ、そよりも前に現地に向かう。
近くの町で行商人や旅芸人などに話を聞いてから実際入りすることにした。ダンジョンマスターの視点では判らない情報もあるし、同時に誰もが知っている情報は先に知っていても損はないからだ。

もちろん主観や魔法による情報収集をしている可能性もあるのでエレオノーラからも説明は聞くが、一度聞いただけの場合と二度以上聞くのでは把握力が異なるのもあるだろう。情報と言うのは多角的に、そして様々な角度から確認すべきだと故郷を出る時に習ったもんだ。

「エルフ? 居ないわよそんなの。有力者は居ないから切り拓いたんだし」
「大きな森には大抵居るもんだし、近隣の古老に聞いたら昔は居たそうなんだがな……」
 エレオノーラのダンジョンは聞いた通りに丘の途中に入り口があった。
現地に到着した所で早速すり合わせを始めるが、聞いての通りあまり大した話は得られなかったのだ。俺の方も周囲で集めた話はあるのだが、彼女が集めたのより多少古い情報だけであった。それでもないよりはマシであるが、有用な案が一つ潰れたのは残念と言うほかはない。

彼女がダンジョンを造る際に幾つかの場所を候補にしていた。
その中でもここを選んだのは、少し切り拓けば悪くないポイントが設営できること。その際に邪魔が入らず、出来れば亜人種なり獣なりが目撃されている場所であったという。もしエルフないし他の有力者が居れば別のポイントを選んだかもしれないし、もう少しポイントをずらしたかもしれないとの事だ。

「そもそも無意識操作で此処を通る様にしてるのよ。警備も兼ねてね」
「ああ、そんな結界を張ってたら文句を言って来るか。それがない以上は隠れてるわけでもなしと」
 結界が掛けてあるので意図しない者は必ずここを通るのだという。
立て看板と休憩所があるので村人はこのダンジョンを休憩所に出来る。亜人種はともかく獣がいるなら猪や鹿を狙う事も出来るし、まさしくwin-winの関係を築いているという訳だ。

結構な状況を確認した所で、提案自体はしておくとしよう。
人材を確保するには動きが早い方が良いし、もし先約が居るならば報酬をはずむか、向こうの要件が済むまで待つ必要が出て来るからだ。

「居ない物は仕方がないとして、俺の方で幾らか考えておいたが?」
「あなたが用意した積極案を選ぶわ。もちろん途中で穏当な案に舵を切れるならって条件だけどね。『ここまで来たんだから絶対にダンジョンを破壊させろ!』なんてお馬鹿さんだけは呼ばない。故意じゃなければ多少実験をしても構わないと言うところ」
 俺が話しを促すとエレオノーラは肩をすくめて頷いた。
言わなくても良い事をあえて確認するのは、彼女なりに無傷で済ませたい理想がある事や、他人を引き入れること自体は気分が良くないからだろう。もし功績で『自分一人の活躍が必要』と言う状況なら返って問題になるからだ。

もちろんかなり追い詰められていて、早い段階で奪還せねばならないという可能性もゼロではないが。

「では説明に入るが、戦力維持と命令の徹底を前提に一部隊とする」
「俺達を含めた数名の術者に傭兵や傭兵契約したモンスターを置く」
「最低単位で済ませる場合、斥候と召喚師またはその代役が必須だ」
「近くにエルフが居れば色々と都合が良かったんだが、居ないので俺達の伝手、あるいは時間を掛けて有能な傭兵を雇用する。この部隊をここのダンジョンで得られる素材を使って強化し、訓練を繰り返してからお前ん所の天然のダンジョンに挑む。一度で無理なら何度でも、いや安全策を考えるならばダンジョンの回復力より上になるまで何度でもだ」
 本来ならばここのダンジョンを売り払って、その金で部隊を組む。
だが現状を維持したままではそんな事は出来ないし、中途半端な戦闘力では意味がない。このダンジョンを守るための遊撃隊としては十分であっても、天然のダンジョンを踏破するには明らかに足りないからだ。だから部隊を一つに絞り、戦力を全て一つに投入する。この方法ならば少なくとも上位の魔法使いが二人いるし、そもそもダンジョンの破壊を留められるからな。

この案には俺達の危険という欠点はあるが、解決に必要な戦闘力と、余計な破壊をさせないという保証。そして現時点でも可能であるという長所があった。防衛線ならダンジョンマスターが戦うなんて下策も良い所だが、こちらが攻めるならば話は違うのだ。

「ダンジョンの概要はお前さんの家が残した資料を使うとしても……」
「改めて斥候は内部構造の把握もだが俺達の安全もあるから最重要」
「召喚師の方が代用可能としているのは、使え減りのしない前衛役だからだ」
「別にゴーレム使いだろうが精霊使いだろうが構わない。最低条件はダンジョンの中に入れる事、危険な役目を任せて傷ついたとしても難なく復帰できる戦闘力の持ち主を扱えることになる。ひとまず斥候はともかく、俺の知り合いには向かないけどな」
 自分たちが命を賭ける事で、懸念材料の一つであるダンジョン破壊は抑えられる。
その上で安全策も考慮しているとあって、エレオノーラの方は今のところ黙って聞いている。召喚師の必要性を説いた上で、代用可能だと告げれば小さく頷いていた。おそらく何某かの当てがあるのだろう。俺が召喚師の当て無いと言っても顔色を変えなかったのはその為だろう。

ただ、俺が斥候役の資料を出したところで渋り始める。

「この資料にはオークの傭兵ってあるけど信用できるの?」
「目的があるから金を払っている間は問題ないさ。南のサンドーンから来た奴でな。一族を中心に帝国を復権させたいから、信用度に関しては問題ない。その分ガメツイんだけどな」
 当然だがオークは知恵ある亜人の中でも乱暴者だ。
ゴブリンと同列に語る者も居るし、かつて南にある砂漠からやって来た悪の帝国で主力を構成していたという事もあってあまり信用する者は居ない。俺も長い付き合いで何度か顔を合わせて居なければ信用しないし、それでも率先して呼ぼうと思わない程度には報酬を要求するのだ。

ただ今は亡きオーク帝国を復興させたいという思いは本物だった。
金や資材を集め、様々な素材を回収し、それらで装備を作っては本国に居る弟へ送っているという。あいつが邪魔しに現われたと聞いて面倒だと思った事はあるが、味方として雇われている時に裏切られたと思うようなことは一度も無かった。雇用者である俺だけではなく、傭兵たちや現地の人間もそうなのだから大丈夫だろう。

「試しにちょっとした調査をさせてみないか? どういう奴かは判るぜ」
「ああ、なるほど。エルフを調べさせて性格を見る訳ね」
 俺がレポートを突きながら説明すると渋々ながら頷いた。
今のプランではエレオノーラも戦う事になっているし、自分の命も考えれば斥候が重要だという事は理解できるのだろう。その上で問題点は、そいつが財宝を持ち逃げしないかどうかとうところだろう。もし先ほど感じたように、召喚師の代役に当てがあるならば、これで最低限の準備が整うからである。

ちなみに初歩のポーションも作れるので一石二鳥だ。
森でエルフの痕跡を調べてもらいつつ、この森にある薬草関係をついでに調べて貰えば良い。エルフの事はこのダンジョンの運営に活かせるという理由があるし、薬草類はポーションを作って売りさばくことに通じるので話の筋に問題も無いのが良かった。エレオノーラが信用できないと言えば、同種の能力を持つ傭兵に金を出して雇うまでなのだから。

「ついでに確認しておきたいんだが、召喚師の代役に心当たりは?」
「人形遣いなら何とか。戦闘用に調整したホムンクルスになるでしょうけどね」
 やはり心当たりがあったようで、怪我をするホムンクルスなのが微妙だが、十分に戦力としては期待できそうだ。少なくとも予定を組めることができるようになったので、ありがたく思っておこう。
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