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下層突入編
攻勢計画
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洞穴エルフが衰退している可能性を踏まえ幾つか思案した。
交渉があり得るかどうかだが……真面目な話、現時点では論外だろう。元はエレオノーラの一族が管理しているダンジョンを占拠しているわけだし、彼女はともかくその一族が半分で背ませる訳がない。また向こうも明け渡しを拒否するはずだ。洞穴エルフの手下も殺しているし、初手和平は不可能だ。
仮に明け渡しに同意するにしろ、あるいは留まって雇用されるにしろ、ある程度は倒さないと無理だ。降伏をどちらかが検討する段階になってようやくというところだろう。
「何を考えてるのよ?」
「お前さんが考えている事さ。まあ何処まで連中を減らすかだが……そもそも、他言語理解の呪文なんぞ覚えてるか?」
「必要ないから覚えてないわよ。必要ならあんたみたいに雇うし」
洞穴エルフが危機感を覚えたところで交渉。
そういう流れにするとしても、今はその前提段階に過ぎない。下層に降りた段階で戦闘し、その後にもう一度くらい戦って撤収。その次くらいでようやくといったところだろう。ただ、そこまで行くと容易く交渉が成立するとも思えないのだ。
まあ一族が減ってるところで殺されまくって、連中が平静を保てるとも思えない。問答無用で皆殺しにされたリシャール達よりもマシ程度の数まで減らす必要があるだろう。
「なら決まりだな。占拠された以上は駆逐しかない」
「ただ俺たちは殺戮者じゃないし、ダンジョンの再管理が目的だ」
「今回は向こうの戦闘能力を見極め、次は勝てるように準備する」
「その時に他言語理解の呪文を使える奴も雇って、降伏を呼びかけるってとこかな。無理なら無理で仕方がないが」
こっちも余裕はないので勝つことが最優先。
その上で今回は情報収集に徹して、次こそ勝つための準備をして攻めるつもりだったから、翻訳者を用意できる余裕がある。まあ、そこで話掛けるのはあくまで戦闘が早めに終わらせられるとか、ダンジョンを必要以上に傷つけないという選択肢が出せるからでしかないけどな。
そこまで徹底して用意してダメもとで降伏を持ちかける。
それが言い訳造りの為であったり、必要以上の犠牲を出さないという保身になるのは仕方がない所だ。
「でも、そこまで追い込まれて降伏するの?」
「判らんが全滅よりマシだと思うかもしれんし、そもそも他の誰かの方を恨んでる可能性はあるからな。連中自身が望んでダンジョンを占拠したのかも知らんし、望んで来たが同時にやって来た別種族と戦争になっただけかもしれんし」
これ以上は敵対者に掛ける慈悲は必要無い。
全滅するまで必死に戦う奴と延々と殴り合いたくないし、自滅を覚悟でダンジョンが崩壊しそうな呪文を使われたくないだけなので、エレオノーラが言うようにあまり降伏をすると思ってはいない。万が一、『俺たちは騙されてたんだ』とか『勝負で負けたから従う。助けてくれ!』という可能性に配慮してるだけだ。その方が楽だという理由で。
「この話は此処までとして、降りる道は効率的に使うぞ」
「下層に降りる道は一か所だけじゃないし、警戒されてるのは確かだ」
「ゴブリンたちを追い出す時に使ったBプランを思い出してくれ」
「まずはこいつらが戻って来ないと警戒し始めている場所へ顔を出し、そのまま戦ってみる。相手の戦力を図りながら引き、その次は他の道を使う。幸い、ゴブリンたちは棲んでないみたいだからな」
まずは不審だから警戒してるが、戦闘態勢ではない状態で戦う。
そこに目を引き付けてガッチリ固めさせておいてから、次は裏手から攻め入るって感じだな。今の戦力はあくまで偵察も兼ねて費用的に丁度良いという所なので、ガッチリ防衛している相手とは戦いたくはない。最初から裏手で攻めないのは、絶対に警戒されてるから奇襲的に使えない事だ。一か所で本格的に戦い始めてようやく、裏手が開くだろう。
そして方針が決まった所で作戦に移る。
「エレオノーラは範囲呪文を最優先に対抗呪文を使ってくれ。こいつらの質を考えると、最初から強力な使い手は居ないはずだ。おそらく班編成で一人か二人、雑魚でも呪文を使うのが怖いけどな。
「判ったわ。私も丸焼にはなりたくないしね」
相手が呪文を使わないなら、火を使い易くする結界だがそうもいかない。
そもそも敵が使う呪文の種類が判らないし、最悪の場合、水晶の矢みたいな威力が強めの呪文のみを連発してくる可能性がある。より上位の水晶の槍とか、その辺を連発される方が警戒にしにくいから困りはする。ただ、その場合は被蓋が一人ずつなので、回復できなくもない。
なので回復用のポーションを一人に何本かずつ持たせておく。
「俺は解呪の準備をしておくから、動けなくなっても安心だからそこは大丈夫だ。ただ、精霊が出て来た場合の対処は時間が掛かるんで、その間は頼む。基本的には一人二人に絞って倒していく感じだ。逃げる時は指揮官を怯ませてからだな」
「「了解」」
基本的には呪文対策を主にやっていく。
エレオノーラが瞬間的に使う呪文で、俺は既に成立した呪文だな。リシャールの眠りを解いた時は長老格の呪文だったので苦労したが、その場で行った呪文くらいならば何とかなる。エレオノーラの対抗呪文で迎撃しても良いが、ここは連携して俺が担当した方がスムーズだろう。そもそも彼女は範囲攻撃系の呪文も使えるからな。
ただ、同じことは向こうも出来るので注意が必要だ。
仮に毒の霧を発生させても、向こうが解呪することは普通にあり得る。火球の呪文も対抗される可能性があるので、それほど期待しない方が良いだろう。
「前衛に関しては一番の違いは、ホムンクルスを前に一番出す」
「攻撃呪文を喰らう事は普通にあり得るからその対策だ」
「他にも一部の呪文にヤバイのがあるから、様子がおかしかったら離れる事」
「これも俺が解呪するが、一応気を付けてくれ。味方に殴られたんじゃ気分が悪いし、そもそも手が足りなくなるからな」
視界を潰す魔法なんかは放置して良いが、困るのが混乱とか忘却だ。
味方を攻撃しかねないから、中間に置いておくわけにはいかない。いつもはフー達の斜め後ろで回り込ませないようにする担当なのだが、今回ばかりは真っ先に固まって突っ込んでもらうことになる。これならば混乱してもホムクルスの損害だけで済むからな。
こうして俺たちは食料を輸送する場所であった位置から、偽りの攻勢をかけることにした。
洞穴エルフが衰退している可能性を踏まえ幾つか思案した。
交渉があり得るかどうかだが……真面目な話、現時点では論外だろう。元はエレオノーラの一族が管理しているダンジョンを占拠しているわけだし、彼女はともかくその一族が半分で背ませる訳がない。また向こうも明け渡しを拒否するはずだ。洞穴エルフの手下も殺しているし、初手和平は不可能だ。
仮に明け渡しに同意するにしろ、あるいは留まって雇用されるにしろ、ある程度は倒さないと無理だ。降伏をどちらかが検討する段階になってようやくというところだろう。
「何を考えてるのよ?」
「お前さんが考えている事さ。まあ何処まで連中を減らすかだが……そもそも、他言語理解の呪文なんぞ覚えてるか?」
「必要ないから覚えてないわよ。必要ならあんたみたいに雇うし」
洞穴エルフが危機感を覚えたところで交渉。
そういう流れにするとしても、今はその前提段階に過ぎない。下層に降りた段階で戦闘し、その後にもう一度くらい戦って撤収。その次くらいでようやくといったところだろう。ただ、そこまで行くと容易く交渉が成立するとも思えないのだ。
まあ一族が減ってるところで殺されまくって、連中が平静を保てるとも思えない。問答無用で皆殺しにされたリシャール達よりもマシ程度の数まで減らす必要があるだろう。
「なら決まりだな。占拠された以上は駆逐しかない」
「ただ俺たちは殺戮者じゃないし、ダンジョンの再管理が目的だ」
「今回は向こうの戦闘能力を見極め、次は勝てるように準備する」
「その時に他言語理解の呪文を使える奴も雇って、降伏を呼びかけるってとこかな。無理なら無理で仕方がないが」
こっちも余裕はないので勝つことが最優先。
その上で今回は情報収集に徹して、次こそ勝つための準備をして攻めるつもりだったから、翻訳者を用意できる余裕がある。まあ、そこで話掛けるのはあくまで戦闘が早めに終わらせられるとか、ダンジョンを必要以上に傷つけないという選択肢が出せるからでしかないけどな。
そこまで徹底して用意してダメもとで降伏を持ちかける。
それが言い訳造りの為であったり、必要以上の犠牲を出さないという保身になるのは仕方がない所だ。
「でも、そこまで追い込まれて降伏するの?」
「判らんが全滅よりマシだと思うかもしれんし、そもそも他の誰かの方を恨んでる可能性はあるからな。連中自身が望んでダンジョンを占拠したのかも知らんし、望んで来たが同時にやって来た別種族と戦争になっただけかもしれんし」
これ以上は敵対者に掛ける慈悲は必要無い。
全滅するまで必死に戦う奴と延々と殴り合いたくないし、自滅を覚悟でダンジョンが崩壊しそうな呪文を使われたくないだけなので、エレオノーラが言うようにあまり降伏をすると思ってはいない。万が一、『俺たちは騙されてたんだ』とか『勝負で負けたから従う。助けてくれ!』という可能性に配慮してるだけだ。その方が楽だという理由で。
「この話は此処までとして、降りる道は効率的に使うぞ」
「下層に降りる道は一か所だけじゃないし、警戒されてるのは確かだ」
「ゴブリンたちを追い出す時に使ったBプランを思い出してくれ」
「まずはこいつらが戻って来ないと警戒し始めている場所へ顔を出し、そのまま戦ってみる。相手の戦力を図りながら引き、その次は他の道を使う。幸い、ゴブリンたちは棲んでないみたいだからな」
まずは不審だから警戒してるが、戦闘態勢ではない状態で戦う。
そこに目を引き付けてガッチリ固めさせておいてから、次は裏手から攻め入るって感じだな。今の戦力はあくまで偵察も兼ねて費用的に丁度良いという所なので、ガッチリ防衛している相手とは戦いたくはない。最初から裏手で攻めないのは、絶対に警戒されてるから奇襲的に使えない事だ。一か所で本格的に戦い始めてようやく、裏手が開くだろう。
そして方針が決まった所で作戦に移る。
「エレオノーラは範囲呪文を最優先に対抗呪文を使ってくれ。こいつらの質を考えると、最初から強力な使い手は居ないはずだ。おそらく班編成で一人か二人、雑魚でも呪文を使うのが怖いけどな。
「判ったわ。私も丸焼にはなりたくないしね」
相手が呪文を使わないなら、火を使い易くする結界だがそうもいかない。
そもそも敵が使う呪文の種類が判らないし、最悪の場合、水晶の矢みたいな威力が強めの呪文のみを連発してくる可能性がある。より上位の水晶の槍とか、その辺を連発される方が警戒にしにくいから困りはする。ただ、その場合は被蓋が一人ずつなので、回復できなくもない。
なので回復用のポーションを一人に何本かずつ持たせておく。
「俺は解呪の準備をしておくから、動けなくなっても安心だからそこは大丈夫だ。ただ、精霊が出て来た場合の対処は時間が掛かるんで、その間は頼む。基本的には一人二人に絞って倒していく感じだ。逃げる時は指揮官を怯ませてからだな」
「「了解」」
基本的には呪文対策を主にやっていく。
エレオノーラが瞬間的に使う呪文で、俺は既に成立した呪文だな。リシャールの眠りを解いた時は長老格の呪文だったので苦労したが、その場で行った呪文くらいならば何とかなる。エレオノーラの対抗呪文で迎撃しても良いが、ここは連携して俺が担当した方がスムーズだろう。そもそも彼女は範囲攻撃系の呪文も使えるからな。
ただ、同じことは向こうも出来るので注意が必要だ。
仮に毒の霧を発生させても、向こうが解呪することは普通にあり得る。火球の呪文も対抗される可能性があるので、それほど期待しない方が良いだろう。
「前衛に関しては一番の違いは、ホムンクルスを前に一番出す」
「攻撃呪文を喰らう事は普通にあり得るからその対策だ」
「他にも一部の呪文にヤバイのがあるから、様子がおかしかったら離れる事」
「これも俺が解呪するが、一応気を付けてくれ。味方に殴られたんじゃ気分が悪いし、そもそも手が足りなくなるからな」
視界を潰す魔法なんかは放置して良いが、困るのが混乱とか忘却だ。
味方を攻撃しかねないから、中間に置いておくわけにはいかない。いつもはフー達の斜め後ろで回り込ませないようにする担当なのだが、今回ばかりは真っ先に固まって突っ込んでもらうことになる。これならば混乱してもホムクルスの損害だけで済むからな。
こうして俺たちは食料を輸送する場所であった位置から、偽りの攻勢をかけることにした。
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