ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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最終計画

ネゴシエイター

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 次回の予定まで残り時間を刻むように行動を始める。
事務所に戻るまでに傭兵の口入屋に寄り、必要な人材に告知を出してもらう。傭兵たちはスケジュールが開けば次の依頼を探してしまうため、仮に条件にあう人材が居たとしても、早めに求人しないと次の予定を入れてしまうのだ。そこで条件を幾つか用意し、それらに合致する者に声を掛けてもらう。

優先順位の上はもちろん他言語理解の呪文が使える事、下は対抗呪文などが使える事である。複数合致すれば申し分は無いのだが。

「諦めろ。少なくともお前の思う様には成らん」
「声を掛けてくれればそれで十分ありがたいんだ。うちも寄合状態でね。一方的な殺戮をすると後で困る。後は成果が出るだけ報酬を積むさ」
 色々と声を掛けていくのだが、基本的に微妙な奴らばかりだ。
他言語理解の呪文が使えるだけの奴が多く、全てを兼ね備えているような奴は相場の十倍を吹っ掛けて来る。まあ手紙を投げ込むだけならまだしも、交渉役として接近しろと言うのだから、危険を伴う料金を要求するのは確かであろう。多少は上積みしても良いと思うのは、対抗呪文の使い手ならば戦闘でも無駄に成らないからでしかない。

正直な話、同じ話を何度もし過ぎて最低条件のクリアでも良いかと思えるくらいである。

「要するに、どうしても降伏させて使いたいわけではないと?」
「ああ。奴らに奴隷として価値を見出してるとかじゃないんだ。有用で従ってくれるなら奴隷どころか人材として登用しても良いんだがな」
「それこそ、まさかだろうに」
「だよなあ」
 最後まで考慮して居たのは変わり者だった。
どれくらい変わって居るかと言うと、奴らと同じ洞穴ケイブエルフなのにさっさと殺した方が早いというくらいには冷徹な女だった。性別が女なのが不思議なくらい……というと、地方によっては問題視されるので止めておこう。地下に暮らす洞穴ケイブエルフにしては浅黒い肌で、筋肉質な女だった。女傭兵としてはいかにもな外見だったが。

「全ての齟齬はそこだろうな」
「普通、そういう条件はどうしても奴隷にしたい時に口にする」
「いっそ、長なり巫女へ『一族を助けたければ奴隷に成れ』とでも言った方が効くぞ。基本的にエルフ族は外からの干渉を嫌うし、かつて占拠したと言っても話が異なる。経緯はどうあれ、そちらが攻めてきたことになるのだしな」
 この女が渋面を浮かべつつ話すのは同族だからだろう。
良くある話だが、こいつも色々あって故郷を失って居るそうだ。それが内紛で出ざるを得なかったのか、あるいは単純に攻められたり病気なのかは分からない。ただ判るのは、故郷には居られなかったからこそ、洞穴ケイブエルフの虐殺を見過ごせないというのだろう。

だが、この女にはこの女としての矜持がある。
傭兵として生きてきた以上は、自分に課したルールを破る気はないのだろうし、そもそもこの女を雇うための相場を崩すと後々でまた面倒なことになるのだろう。

「もしダメもとで頼んだ場合は?」
「通訳はしてやる。手紙かつ不首尾ならっ報酬も抑えてもやる。だがその場合でも五倍、向こうで交渉しろというなら失敗だったとしても十倍はもらうぞ。戦で敵将を引き抜いて来いと言う様なものだ」
「連中を奴隷として代引きというのは?」
「馬鹿か。そんなのは見透かされる」
 この女は話こそ聞いてくれるが条件は変えない。
同族の事だから話を聞いてくれるだけで、自分を曲げる程の事ではないし、プロとしての見解は崩さない方が作戦や交渉の組み立てとして重要だと理解しているのだろう。だから金額を減らすことは難しい。では他の人材を数人雇えば住むかと言うと厳しい所だ。今までの条件で話も聞かずにベタ居りするような奴らは、何処か信用が置けまい。

それに信用が置けそうな交渉の達人も、一切負けてこなかった。あの連中と同じ相場と言うならば、まだ良心的だと思うべきだろう。

「オーケー、それで良い。あんた以上は居なさそうだ」
「ここからは話を詰めるし、報酬に関しては幾つか代替も用意する」
「金だけというならそれで行くし、代替の中で避ければもう少し出せる」
「こっちの条件は三つだ。連中と交渉する姿を見せ、出来れば暴発させずにダンジョンに不備を起こさない。そこで連中が死を選ぼうが降伏を選ぼうが構わないが、こっちが出せる条件のどれかを吞んでもらって復讐を防ぎたい。詳細に関してはあんたが修正していいけどな」
 これ以上は余分な逡巡だと判断して、全面的に任せることにした。
身内が不審に思わない程度の態度で交渉してもらが、必須条件はダンジョンを守る事だ。ここまで攻略を進めておいて、落盤でダンジョンが崩壊しましたと言うのはいただけない。是が非でも無事に抑えたいし、その後の問題を抑えられるならば相場の十倍くらいなら安いくらいである。

そして用意する代替物は、ホムンクルスであったり、それらを材料に交換して貰えるマジックアイテムなどになる。

「……姿隠しを見破れるホムンクルスか。これは悪くないな。代替物に関してはこちらも理解できる内容がある、とだけ今は返しておこう。今は報酬としてもらっておき、後で購入したい物も出るかもしれんしな」
「成立だな? なら作戦の細部と可能な手段を相談するとしようや」
 傭兵と言うか交渉役というか分からないがメンバーを追加。
彼女が可能な技や術に合わせて、こちらも戦術を組み替えることができる。基本的にブーと同じような装備で戦うのと、呪文を幾つか使う所が大きな差だろうか? ナイフ使いであり呪文使いと言う訳だ。魔法は専門家と言うよりは、必要な物だけを使いこなすタイプらしい。

そして説明を受けた中で最も有用だと思ったのは、沈黙の霧という一定距離で呪文が使えなくなる魔法である。この呪文は敵味方もへったくれも無く、時間経過なども厳しい事もあり、抵抗の余地自体がないのである。おそらくは同族との戦いでも考慮したのだろう。

「そのダンジョンで従事、近隣の洞穴、それに国外追放? どれも論外だ。最悪として想定している、生き残りに呪いをかける方向の方が良い。慈悲というならば、それこそ監視付きで牢屋に入れ、準備ができ次第に呪っておけ」
「そうするよ。冷静に同族を頃って言うあんたの方が正しい」
「当たり前だろう? 私ならば何を置いても復讐に戻るさ」
 辛口だがこの女は信用できそうな気がする。
最初に無茶を言いはするが、それは楽観論を信じていないからだ。そういう意味ではマイナス方向から始める方が良いし、俺達も信じて裏切られるよりは良いしな。

「ではよろしく頼む。俺はフレデリックだ」
「こちらこそ。私はデボラだ」
 握手して契約を交わし、前金をデボラと口入屋に払う事にした。
これで最低限の準備は終了。後はホムンクルスの完成と、量産型を使う訓練を行えば下層へと赴けるだろう。
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