ダンジョンのコンサルタント

流水斎

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そして終りがやって来た

一つの終わりと、未来へ続く道

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 洞穴ケイブエルフたちとの戦いは終わった。
ホムンクルスたちが当たるを幸いに掛け出だし、攻撃呪文など無視して敵を切りつけ触る者を弾き飛ばしていく。その動きを留めようにもエルフの華奢な身では不可能で、技や戦術で抑えようにも数が動員出来ない。指揮系統も無く混乱して居ては無理であろう。

後から見れば最初からこうすれば良かったかと思うくらいだが、最初はこういう戦術が相性良いとは知らないし、敵も混乱して居ないから不可能だろう。要するに今の苦戦も勝利も成る様にしてなったという訳だ。

「デボラ、降伏勧告を! 無駄に死ぬことはねえ!」
「もうやって居るとも。だが……無理だろうな気絶させてしまう方がいい。それなら後で時間を掛けられる……」
 他者言語理解の呪文が使えるデボラが首を振った。
既に呼びかけ自体はしたのだろう。だが呪術の長を睨むばかりで、顔色は良くない。主戦派に率いられた閉鎖社会というものは、まあこんなものか。一族の名誉の為に降伏をしないように言い含めているのかもしれない。

結局、デボラの言うとおりになった。
戦える物は女子供でもナイフや杖を持った。ある者は呪文を唱え、ある者は刃を振う。最初は面倒だから殺そうとした騎士たちも、血に酔って居ない者の視線にいたたまれなく気絶をさせていくほどに凄惨な状況である。

「これからどうなされるのですかな?」
「こいつらは個別に分けて、時々会うわせたりはするが、合流はさせずに一人ずつ呪いを掛ける。一時的な出費には成るが、どうせこいつらが管理してた魔力だ。人数が減った分少なくなるだろうが、奴隷よりはマシな暮らしをさせるんじゃないかね」
 どちらかといえば穏健派の老騎士が尋ねて来た。
所詮は身内が気まずく成らない程度の配慮であり、エルフ族自体の魔力が豊富な事を利用できるからやるだけのことだ。配慮はするだけマシ、奴隷よりは待遇がマシと言う程度に過ぎない。この辺りはエレオノーラも対しては変わらないだろう。

まあ爺さんは協力すれば一家の扱いが保たれるから参加しただけの事だ、それ以上追求する気はなさそうだった。

「盗賊相手に甘過ぎはしませんかな?」
「どうせなら征服者と呼んどけ。奪われた祖先の名前を落とすぜ。まあ生かした方が効率よいから生かすだけの事さ。契約モンスターと何処までちがうのかと言えば、誇りを保てるかの問題だな」
 文句ばっかり言ってた騎士は最後まで文句ばかりだ。
だが誇りでは食っていけない事は、この男が誰より判って居るらしい。女であるエレオノーラの風下に立つのも、雇われ者である俺の風下に立つのも許せない。だが、経済状況の悪い自分の家を支え、建て直し中の本家を支えるためには、文句を言いつつも従っているので何となく気分が判るのだろう。

そして捕虜に猿轡とロープをかけて締め上げ、一同を集めて閉会式だ。

「お疲れ様。御当主も奪還を喜ばしく思っているだろう」
「君たちの実力と、そして注ぎ込んだ戦力をもってすれば当然」
「だがそこには帳面じゃない、机では分からない苦労がある」
「それは俺達が良く知っているし、その経験は駆けつけなかった連中には無いもんだ。間違いなくご当主はここに居る者を厚遇するはずだ。まずは祝杯といこう」
 今回はホムンクルスの数を増やし、騎士を投入していた。
ポーションも使えるだけ使い、ダンジョンが保有して居た魔力を注ぎ込んだこともある。勝って当たり前であり、負けそうになることはないが被害が大きくなるならば撤退する程度の事であった。なので祝杯を挙げる準備も当然用意してあるってことだな。

酒やら果実の汁などを用意して、それぞれに渡し一時金を渡すことで、戦利品に手を付けさせないようにした。あれはあれで研究材料であり、売りものだからな。

「今後はこのダンジョンの手入れが終わる頃……、みなの所にホムンクルスを再手配する当たりまでが一区切りだ。俺はそこまではいるので、ダンジョンの経営なら相談に乗る。人形遣いから個別に買いたい者のは今の内に申し出る事。他の連中よりも値段と順番を考慮する。異論はあるか?」
「いえ、ありませぬな」
「あるが我慢しよう」
「その立場ではありませんので」
 俺の言葉に参加した騎士や兵長らが答えた。
一族内の待遇で配慮し、ホムンクルスの購入や順番に配慮し、必要ならばダンジョン経営の相談に乗る。こんな条件を断るわけがない。もしかしたら一族内で上位に居る者が功績を取り上げるかもしれないが、何だったら今の内に相談もできるだろう。

祝杯を掲げ、乾杯の音頭を取ればいったん終了だ。
領地に戻る者も居れば、この場に残って後かたずけを終えた者もいる。その辺りの差があるのも当然だろう。

「デボラはもう少し通訳を頼む。説得するにしても、労役にしても言葉が通じねえとな。その代りに呪文型を発注する時に、ある程度要望を聞いておくよ。色々と言いたいこともあるだろ?」
「そうだな。便利でもあったが不便な事も多かった。よろしくな」
 最後に加わったデボラは役目の性質上まだ居る。
洞穴ケイブエルフ達に事情徴収を行い、何かあれば情報を聞く。そう言えば輪の様に座って魔力を共用する陣の話もあったか。その辺りの情報を聞き出しつつ、呪いを掛けて裏切れないようにしつつ、用事を言いつける作業がある。それらをこなしてこのダンジョンを整理し、新しいモンスターも入れて契約しながら時間を掛けることになるだろう。ずっといるわけではないが、何度も顔を合わせる筈だ。

暫く居ることになったデボラだが、逢わなくなる奴も居る。

「ブーとフーには世話になったな。報酬は契約通りに払うし、今後も用があればまた頼むぜ。俺らが扱える物資なら多少は融通する」
「契約だ、気にするな」
「金の切れ目が縁の切れ目ね。また会うヨロシ」
 オーク兄弟は確実に此処までだ。
二人は高額の報酬を要求する傭兵であり、ここで判れて別の契約先に行くことになっている。まあ、格闘家であるフーの奴は故郷に帰り、トレジャーハンターのブーは斥候役として呼ばれて居れば別の任務に就くくらいだろう。もしかしたら、故郷までの道中で、新しい任務を受ける契約をしているかもしれなかった。

そしてずっと顔を会わせるであろう者も居る。

「この後はどうします?」
「そうだな。エレオノーラ次第だが、呪文型のホムンクルスの改良を出しつつお前さんの所の手入れかな。フィリッパの要望もあれば、徐々にあっちのダンジョンにも手を入れる」
 洞穴ケイブエルフを倒し、この天然のダンジョンを攻略。
そうすればフィリッパに元のダンジョンを譲り渡す契約だが、あいつの好みでダンジョンを修正することになるだろう。基本的には魔力の販売によって収入を稼いで、ホムンクルスを製造するための素材を購入できるようにする。そして近隣にある森へ棲むリシャールの環境を良くしておくべきだろう。森の魔力は一部が流れこんでるのだが……。

それ以上に、周辺へ妙な連中が近づく可能性もあるので、警備体制を見直す必要があるからだ。ある種、リシャールとフィリッパはお互いに配慮しながら守り合い支え合う必要があるだろう。

「師匠はどうするんですか?」
「ここも元の場所も終わり、親族衆に頼まれなければそこで契約終了だな。後はエレオノーラが俺をどう評価するか次第さ」
 俺自身はダンジョンのコンサルタントだ。
それぞれが管理する場所を良くして、魔力であったり、魔物由来の素材を採れるようにする。そのための相談機関が終われば、お役御免で新しい場所へ向かう事になるだろう。管理人として使えると思えば直接契約なり相談役として炎を繋ぐってところだろうな。

もっとも、俺としても腕前に自信はある。展望がない訳でもないけどな。

「それなら論じるまでも無いわね。私は自分の目を信じてるもの。今回も成功すると思って居たし、腕が立つ相手を手放す訳はないでしょ? 私の苦労を肩代わりしてもらうわ」
「何だいたのかよ。へいへい、何とかしますよ、よろしくな」
 そんな事を言っていると、さも当然のような顔でエレオノーラが現れた。そして遠回しな契約継続に、俺は笑って受け入れるのだった。

こうして一つの案件が終わり、新しい未来への展望を尋ねるのであった。
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