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カイゼン
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縁が二色で彩られた真新しい紙にメニューを書き記す。
柿渋をイメージした赤茶色の枠と、ジーンズのようなインディゴ・ブルーの枠。そこに記載するのは新しいオススメであるローストビーフだ。グレイビーソースと和風のソースの二つの味が楽しめると締めくくった。
これは店内メニュー用で、外の看板に張る物には多少変えて完成だ。
「これでよしっと。本当はお通しで新メニューを試すことも書きたいんだが……」
「んな事したら内容が取っ散らかるだろ。好評だと判ってからメニューを書き直せ。こういうのは具体的で、マメさが伝わる方がいいんだよ」
健が書いたメニューに日付を追加してクリア・ファイルに入れる。
バインダーの新しい場所に放り込み、古いお勧めは別のバインダーに移動させた。外の看板用には隅っこに好きな小鉢二つとお勧め一つで1000円といういつもの文言を加えて初来店者でも分かるようにしておく。
健は古びて行くメニューにも歴史という味を感じるのだが、友人でありコンサルをやってる月見里・豊からみれば話は別らしい。
「もう少し客が増えたら表は看板に張るんじゃなくて、小さい方の机を置いてメニュー自体を置いとくぞ」
「今からやっても同じことじゃないのか? どうせなら早い方が……」
豊は健の言葉に首を振って、人のいない寂れた通りを顎でしゃくった。
自国は夕方であり、そこには人がまばらで偶に帰宅時間らしき学生がバスから降りてくるくらいだ。運良ければ近所の者かその客人が、看板を見てくれるかもしれないというところか?
よくある田舎の風情と言えなくもなかった。
「誰も通らない時に近くの中坊が『うちの中学舐めんな!』とか言って振り回しても責任取れるか? まあそんな馬鹿は今時いないと思うがね。机も客を呼び込むギミックさ。見る奴もいないのに置いて置くほどの意味はねえな」
豊が言うには机が目を引き、上にあるメニューへ視線が移るとか。
しかし人が通りもしない、それが当たり前の状態ではゴミにしか見えない。場合によっては視線を反らしすらする。だが時折客が訪れて、目を通していく光景が当たり前になってからなら意味があるという。今は人が通る事が少なく、その中からみてくっる者は稀であろう。
言われてみれば健にもそう思えなかったので肩をすくめて頷くしかない。
「そんなもんかねえ。……取りあえず食ってくだろ?」
「そりゃな。せっかくだしローストビーフを和風ソースで。もう一つはコロッケを頼むわ」
「あいよ」
指定された小鉢を用意し、お勧めに茹で野菜とチーズを用意する。
大き目の平皿にレタス・ポテト・オリーブ・茹で卵・黒ニンニクで輪を描くようにチョコチョコと盛っていく。その真ん中から少し逸れるようにローストビーフを載せておいた。そして二つある小鉢の片方に溶かしたチーズを入れて、もう片方には和風ソースを入れる。最初はワインのグラスを取り出しかけたが、次に取り掛かるのはコロッケだ。ビールの方が良いかと思い出してジョキを取り出した。
これでここ最近用意している創意工夫はひとまず打ち止めである。
「茹で野菜とチーズ、ローストービーフになります。コロッケは後ほど出しますね」
「おう! 美味い所を頼んだぜ!」
本来、芋を潰して作るコロッケに美味い場所などあるはずもない。
健の作るコロッケには存在した。正確には中に入れる出汁の影響だと言えるだろう。健がいつも作るのはポテトコロッケなのだが、出汁を入れることで甘さを加えている。魚市場で食べたコロッケを真似た物で、芋も衣に使うパン粉も荒く挽いて歯応えを演出していた。
豊が前菜として野菜やローストビーフを愉しんでいる間にコロッケを揚げていく。
(……チーズに和風ソースを混ぜんな! って言いたいところだが、こればっかりは客の勝手だからなあ。しかし同じ野菜でも好みがあるんだろうな。カッパさんにはレタスじゃなくて春キャベツを入れてみるか。後はアスパラガスとか)
豊はチーズにソースを混ぜて独自の味付けに替え始めた。
オマケに黒ニンニクを潰してチーズへ混るほどで、確かにそういう食べ方もあるのだが、先に言ってくれればこちらでやるのに……と思わなくもなかった。しかし茹で野菜自体は気に入ってくれたようで、自分好みの味付けてパクパクとやっている。その後はローストビーフを食べたり、野菜と重ねたりしながらビールを楽しんでいた。
この段階では十分に成功と言えそうだ。
(そうだ。……こないだ見たアレをパク……オマージュするか)
創意工夫は全て試作を全て完成させたが、全て試したわけではない。
油が安定して温まり始めたので、コロッケを二つばかり出すとして片方は実験に使う事をkメタ。せっかく融通の聞く友人がいるのだ、試しておいて損はないだろう。そして奥の方から買っておいた秘密兵器……ちょっとした『玩具』を持って来る。
改めて温度を見ながら仕上げて、玩具を突き刺せば完成である。
「お待ちどうさまです、コロッケを用意しました。もう片方は試作品の無償提供ですので、ご賞味いただければ幸いです」
「……お? スポイド!?」
どちらも出汁を利かせたポテトコロッケには違いない。
だが片方にはスポイトを突き刺し、中に秘密兵器を入れておいたのだ。もちろん玩具と呼んでいても悪戯を兼ねた試作のことであり、ちゃんとしたところで購入して来た道具である。味の組み合わせ自体は何度も試したことなので、スポイトに入れて提供するというのが悪戯になるか。
知識だけなら上手くいくと判っているが、実際に試すのは初めての試みであった。
「中に入ってるのは出汁だよ。黄色い方は辛子を混ぜてある。好みで調整しとくれ」
「あー。前に漫画でみたアレか!」
出汁が好きな客の為に、ちょっとした思い付きを試してみたのだ。
豊が言う通りとある漫画で見た手法で、スポイトの中には出汁が入っている。これを突き刺して行う事で、コロッケの皮を湿らせさせず、また量産したコロッケの味を変えずに自分好みの調整ができるようになっているのだ。
もちろん言ってくれれば出汁自体を提供するが、今回は玩具扱いである。
「おもしれえなあ。……なあ、これってチーズは?」
「無理。もう試したけど流石にコントロールできねえよ。上手く調整できるなら使い捨てにしても良いんだけどな」
スポイトの中に入れるモノは、ビネガーやらソースやらいろいろ試してみた。
しかしながら溶かしたチーズを入れて、上手くコントロールすることは難しい。それこそ熱したチーズと、熱に弱いプラスチックの仲は犬猿の仲だ。温度が低ければ注入できず、かといって高ければプラスチックも溶けかねない。なかなか上手く行かないものである。
それはそれとして、スポイトの反応はというと……。
「おもしれえが気になる奴はいるだろうな。コンテストやら競合店との客の引き合いをするわけじゃないんだ。追加を頼まれたら提供して、そん時に『突き刺しても良い』って提案するくらいだろうよ。ローストビーフや温野菜の方は文句の付け所は特にないね」
「まあそうなるか。良いアイデアが全て受けるわけでもないしな」
そんな感じの妥当な感想に収まった。
アイデアとしては面白くとも、忌避感を抱く者が居る可能性が高い上に、世間を騒がせている様な評判は無い。あくまでテクニックとして『面白い使い方がありますよ』と提案するに留めるべきだという。
そんな感じで新たなメニューを付け加え、店は少しずつ軌道に乗り始めていく。
縁が二色で彩られた真新しい紙にメニューを書き記す。
柿渋をイメージした赤茶色の枠と、ジーンズのようなインディゴ・ブルーの枠。そこに記載するのは新しいオススメであるローストビーフだ。グレイビーソースと和風のソースの二つの味が楽しめると締めくくった。
これは店内メニュー用で、外の看板に張る物には多少変えて完成だ。
「これでよしっと。本当はお通しで新メニューを試すことも書きたいんだが……」
「んな事したら内容が取っ散らかるだろ。好評だと判ってからメニューを書き直せ。こういうのは具体的で、マメさが伝わる方がいいんだよ」
健が書いたメニューに日付を追加してクリア・ファイルに入れる。
バインダーの新しい場所に放り込み、古いお勧めは別のバインダーに移動させた。外の看板用には隅っこに好きな小鉢二つとお勧め一つで1000円といういつもの文言を加えて初来店者でも分かるようにしておく。
健は古びて行くメニューにも歴史という味を感じるのだが、友人でありコンサルをやってる月見里・豊からみれば話は別らしい。
「もう少し客が増えたら表は看板に張るんじゃなくて、小さい方の机を置いてメニュー自体を置いとくぞ」
「今からやっても同じことじゃないのか? どうせなら早い方が……」
豊は健の言葉に首を振って、人のいない寂れた通りを顎でしゃくった。
自国は夕方であり、そこには人がまばらで偶に帰宅時間らしき学生がバスから降りてくるくらいだ。運良ければ近所の者かその客人が、看板を見てくれるかもしれないというところか?
よくある田舎の風情と言えなくもなかった。
「誰も通らない時に近くの中坊が『うちの中学舐めんな!』とか言って振り回しても責任取れるか? まあそんな馬鹿は今時いないと思うがね。机も客を呼び込むギミックさ。見る奴もいないのに置いて置くほどの意味はねえな」
豊が言うには机が目を引き、上にあるメニューへ視線が移るとか。
しかし人が通りもしない、それが当たり前の状態ではゴミにしか見えない。場合によっては視線を反らしすらする。だが時折客が訪れて、目を通していく光景が当たり前になってからなら意味があるという。今は人が通る事が少なく、その中からみてくっる者は稀であろう。
言われてみれば健にもそう思えなかったので肩をすくめて頷くしかない。
「そんなもんかねえ。……取りあえず食ってくだろ?」
「そりゃな。せっかくだしローストビーフを和風ソースで。もう一つはコロッケを頼むわ」
「あいよ」
指定された小鉢を用意し、お勧めに茹で野菜とチーズを用意する。
大き目の平皿にレタス・ポテト・オリーブ・茹で卵・黒ニンニクで輪を描くようにチョコチョコと盛っていく。その真ん中から少し逸れるようにローストビーフを載せておいた。そして二つある小鉢の片方に溶かしたチーズを入れて、もう片方には和風ソースを入れる。最初はワインのグラスを取り出しかけたが、次に取り掛かるのはコロッケだ。ビールの方が良いかと思い出してジョキを取り出した。
これでここ最近用意している創意工夫はひとまず打ち止めである。
「茹で野菜とチーズ、ローストービーフになります。コロッケは後ほど出しますね」
「おう! 美味い所を頼んだぜ!」
本来、芋を潰して作るコロッケに美味い場所などあるはずもない。
健の作るコロッケには存在した。正確には中に入れる出汁の影響だと言えるだろう。健がいつも作るのはポテトコロッケなのだが、出汁を入れることで甘さを加えている。魚市場で食べたコロッケを真似た物で、芋も衣に使うパン粉も荒く挽いて歯応えを演出していた。
豊が前菜として野菜やローストビーフを愉しんでいる間にコロッケを揚げていく。
(……チーズに和風ソースを混ぜんな! って言いたいところだが、こればっかりは客の勝手だからなあ。しかし同じ野菜でも好みがあるんだろうな。カッパさんにはレタスじゃなくて春キャベツを入れてみるか。後はアスパラガスとか)
豊はチーズにソースを混ぜて独自の味付けに替え始めた。
オマケに黒ニンニクを潰してチーズへ混るほどで、確かにそういう食べ方もあるのだが、先に言ってくれればこちらでやるのに……と思わなくもなかった。しかし茹で野菜自体は気に入ってくれたようで、自分好みの味付けてパクパクとやっている。その後はローストビーフを食べたり、野菜と重ねたりしながらビールを楽しんでいた。
この段階では十分に成功と言えそうだ。
(そうだ。……こないだ見たアレをパク……オマージュするか)
創意工夫は全て試作を全て完成させたが、全て試したわけではない。
油が安定して温まり始めたので、コロッケを二つばかり出すとして片方は実験に使う事をkメタ。せっかく融通の聞く友人がいるのだ、試しておいて損はないだろう。そして奥の方から買っておいた秘密兵器……ちょっとした『玩具』を持って来る。
改めて温度を見ながら仕上げて、玩具を突き刺せば完成である。
「お待ちどうさまです、コロッケを用意しました。もう片方は試作品の無償提供ですので、ご賞味いただければ幸いです」
「……お? スポイド!?」
どちらも出汁を利かせたポテトコロッケには違いない。
だが片方にはスポイトを突き刺し、中に秘密兵器を入れておいたのだ。もちろん玩具と呼んでいても悪戯を兼ねた試作のことであり、ちゃんとしたところで購入して来た道具である。味の組み合わせ自体は何度も試したことなので、スポイトに入れて提供するというのが悪戯になるか。
知識だけなら上手くいくと判っているが、実際に試すのは初めての試みであった。
「中に入ってるのは出汁だよ。黄色い方は辛子を混ぜてある。好みで調整しとくれ」
「あー。前に漫画でみたアレか!」
出汁が好きな客の為に、ちょっとした思い付きを試してみたのだ。
豊が言う通りとある漫画で見た手法で、スポイトの中には出汁が入っている。これを突き刺して行う事で、コロッケの皮を湿らせさせず、また量産したコロッケの味を変えずに自分好みの調整ができるようになっているのだ。
もちろん言ってくれれば出汁自体を提供するが、今回は玩具扱いである。
「おもしれえなあ。……なあ、これってチーズは?」
「無理。もう試したけど流石にコントロールできねえよ。上手く調整できるなら使い捨てにしても良いんだけどな」
スポイトの中に入れるモノは、ビネガーやらソースやらいろいろ試してみた。
しかしながら溶かしたチーズを入れて、上手くコントロールすることは難しい。それこそ熱したチーズと、熱に弱いプラスチックの仲は犬猿の仲だ。温度が低ければ注入できず、かといって高ければプラスチックも溶けかねない。なかなか上手く行かないものである。
それはそれとして、スポイトの反応はというと……。
「おもしれえが気になる奴はいるだろうな。コンテストやら競合店との客の引き合いをするわけじゃないんだ。追加を頼まれたら提供して、そん時に『突き刺しても良い』って提案するくらいだろうよ。ローストビーフや温野菜の方は文句の付け所は特にないね」
「まあそうなるか。良いアイデアが全て受けるわけでもないしな」
そんな感じの妥当な感想に収まった。
アイデアとしては面白くとも、忌避感を抱く者が居る可能性が高い上に、世間を騒がせている様な評判は無い。あくまでテクニックとして『面白い使い方がありますよ』と提案するに留めるべきだという。
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