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閑話休題
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アメリカから来たお客は基本的に土曜日くらいだそうだ。
おかげで『次』まで間があるので、案件に関して相談し熟考する余裕があった。
今回は友人でありコンサルの月見里・豊に頼むことにする。
「外国産の酒は手に入るレベルでいいとして、持ち帰り販売は無しの方向でいいか?」
もちろん相談する間に絵最低限の確認は済ませてある。
健は問屋にある在庫を注文しつつ、何が手に入るかその値段を確認しておいた。酒の種類だけならある程度の幅があるのだが、配送料は高いが取りに行くと安くなる店を選んでいるので、重量などの問題もあって流石に全てが揃う訳ではない。
ひとまず無理しない程度に商売を拡げるつもりだった。
「そうしとけ。手広くやってるわけじゃないしな。やったとしても『食中毒の心配が少ない季節に、食中毒の可能性が少ない物に限ります』って言い訳が先に必要だろ。もちろん採算取れねえサービス品は論外だぞ」
「となると瓶・缶に放り込めて、常連に頼まれて断り切れない物とかかな」
コンサルタントである豊に相談すると、幾つかの品に反対された。
周囲にロクな店が無いため、潜在的な需要が低いわけではない。だが居酒屋として客が増えつつある中で、テイクアウト販売に踏み切って利益が上がるかどうかが不明なこと。下手をすると来る予定の客が酒を呑まずに持ち帰って宅呑みにしてしまう可能性があるのだ。酒を飲んでくれるなら元が取れるサービス品は持ち帰らせるわけにはいかない。
ゆえに居酒屋としてそれなりに軌道に乗るまでは、手を出すべきではないし、健ではなく妹の美琴などがやるとしても移動販売に併用する程度だと忠告されたのだ。
「それによ、在庫は受注生産で良いとしてもだ。ザっと瓶やら蓋で100円として、数百個用意したのが元採れんのは何時だよ」
「そいつを言われると頭が痛いな。いくつかは卓上調味料にしても良いんだが」
そこまで高くなくとも、ラベルやら消毒やら面倒くさいことになる。
加えて言えばもう一つ別の企画を実行中であり、安く抑えるにしても『手間』の方は増やしたくなかった。素人が短いサイクルで頻繁に更新するには、できるだけ作業は簡便な方が良いと言われたのだ。少なくとも接客の為に人手を増やすことが先決……と言えるまで儲けてからの話だ。
徐々に客が増えているのだから、それを加速させる方が先決だろう。
「ほいよっと。簡単な内容だがホームページできたぞ。お前さんがやる更新内容はメニューだけ。あとはその都度に美琴ちゃんにでもやってもらえ」
「すまんな。ここへのアクセスとかは……おお。助かる!」
豊に頼んで店のホームページを作ってもらっていたのだ。
日記などは極力省き、店の外観や内装そしてメニューの一覧を判り易くしてもらっている。一番重要なのはメニューを登録すると、最も新しい物は判り易いページに更新されるという項目が、素人の健でも気楽にできる事だ。料理の詳細解説などの手間は暇な時にするとしても、これから暇でなくなるように努力すべきだし……。
現在進行形で地図と外観は最重要、美琴が言う女性目線を気にするならば、内装が薄汚れておらず見通しが良いのが判ることも重要だろうとホームページの公開に踏み切ったわけである。
「これでようやく一人前の店になれたってことか」
「そういうのは黒字に成ってから言いやがれ。まあお前さんだけでなく、美琴ちゃんも雇うなら当面先だがよ」
メニューにHPに内装にと、いろいろ手を尽くして来た。
食材の廃棄を含めた、料理に関する原価率も以前よりも遥かにマシに成って来ている。酒の方は利益率の高い酒があまり出ているわけではないが、その辺は今後の課題と言えるだろう。
健が一歩一歩成長している事を感じること自体は間違って居ないと言えるが、まだまだ気が早い。
「……うーん。そいつを言われると厳しいな。そろそろソーセージの開発もしたいから、食べ歩きを復活したいところだし」
ただ必要だからと節約し続けても、『先』が拓けるわけでもない。
昔から『貧すれば鈍する』と言うが、後ろ向きに回ったままではじり貧なのである。その上で少しずつ調度品などに投資をしたり、料理の研究をしたいところだった。例えばソーセージは簡単な様で、奥行きの広い料理だ。いろいろなソーセージがあるのは当然ながら、どう味付けするのかどう調理するのかなど千差万別で広すぎる。
そういった工夫し易い料理を中心に、覚えていくのは悪くないと健は主張する。
「仕方ねえなあ。それならクラフトビールの味見もついでにやろうぜ。昔と違って色々あるからな」
「そういえば手に入るなら色々頼むって言われてたな。ここは逆に考えて、まずは気に入ったクラフトビールにあったソーセージを考えてみるか」
その意見に一定の理を認めた豊も肩をすくめて了承した。
ちなみに、クラフトビールというのは単純に言うと、地元で造られた地ビールだ。酒税法などの色々なルールが少しずつ変わって来て、大手メーカー以外も製造できるようになってきた。とはいえ利益が出る場所だけではないので、『職人がこだわって作ったビール』という触れ込みでごく少数が売れているに過ぎない。様々な努力で徐々に売れ行きが広がり、あるいは淘汰されて消えてはまた起業しているともいえる。
そういった店を発掘するのは面白いし、もし地元にビールがあればそれ自体が話題になると言える。
「なら幾つかコレはっ! ってのを作ってみろよ。そういうのが無いと基準に出来ねえだろ?」
「そういうと思って用意しておいた。香辛料でギリギリを攻めたチョリソと妥協点、あとは猟師さんに分けてもらった猪のクズ肉と良い所の二本立て。最後に豚で作ったオーソドックスなやつな」
スペインやアルゼンチン辺りで食べられる極太のソーセージが二本。
色合いの濃い獣肉のソーセージが二本、これは豚で作った物と比べて黒いというかこげ茶色というべきか。最後に市販品が何本か並べられて、茹たり煮込んだりしながら試食することに成ったのである。
こうして少しずつ客足に安堵しつつ、徐々に店を良くする試みに移行を始めた。
アメリカから来たお客は基本的に土曜日くらいだそうだ。
おかげで『次』まで間があるので、案件に関して相談し熟考する余裕があった。
今回は友人でありコンサルの月見里・豊に頼むことにする。
「外国産の酒は手に入るレベルでいいとして、持ち帰り販売は無しの方向でいいか?」
もちろん相談する間に絵最低限の確認は済ませてある。
健は問屋にある在庫を注文しつつ、何が手に入るかその値段を確認しておいた。酒の種類だけならある程度の幅があるのだが、配送料は高いが取りに行くと安くなる店を選んでいるので、重量などの問題もあって流石に全てが揃う訳ではない。
ひとまず無理しない程度に商売を拡げるつもりだった。
「そうしとけ。手広くやってるわけじゃないしな。やったとしても『食中毒の心配が少ない季節に、食中毒の可能性が少ない物に限ります』って言い訳が先に必要だろ。もちろん採算取れねえサービス品は論外だぞ」
「となると瓶・缶に放り込めて、常連に頼まれて断り切れない物とかかな」
コンサルタントである豊に相談すると、幾つかの品に反対された。
周囲にロクな店が無いため、潜在的な需要が低いわけではない。だが居酒屋として客が増えつつある中で、テイクアウト販売に踏み切って利益が上がるかどうかが不明なこと。下手をすると来る予定の客が酒を呑まずに持ち帰って宅呑みにしてしまう可能性があるのだ。酒を飲んでくれるなら元が取れるサービス品は持ち帰らせるわけにはいかない。
ゆえに居酒屋としてそれなりに軌道に乗るまでは、手を出すべきではないし、健ではなく妹の美琴などがやるとしても移動販売に併用する程度だと忠告されたのだ。
「それによ、在庫は受注生産で良いとしてもだ。ザっと瓶やら蓋で100円として、数百個用意したのが元採れんのは何時だよ」
「そいつを言われると頭が痛いな。いくつかは卓上調味料にしても良いんだが」
そこまで高くなくとも、ラベルやら消毒やら面倒くさいことになる。
加えて言えばもう一つ別の企画を実行中であり、安く抑えるにしても『手間』の方は増やしたくなかった。素人が短いサイクルで頻繁に更新するには、できるだけ作業は簡便な方が良いと言われたのだ。少なくとも接客の為に人手を増やすことが先決……と言えるまで儲けてからの話だ。
徐々に客が増えているのだから、それを加速させる方が先決だろう。
「ほいよっと。簡単な内容だがホームページできたぞ。お前さんがやる更新内容はメニューだけ。あとはその都度に美琴ちゃんにでもやってもらえ」
「すまんな。ここへのアクセスとかは……おお。助かる!」
豊に頼んで店のホームページを作ってもらっていたのだ。
日記などは極力省き、店の外観や内装そしてメニューの一覧を判り易くしてもらっている。一番重要なのはメニューを登録すると、最も新しい物は判り易いページに更新されるという項目が、素人の健でも気楽にできる事だ。料理の詳細解説などの手間は暇な時にするとしても、これから暇でなくなるように努力すべきだし……。
現在進行形で地図と外観は最重要、美琴が言う女性目線を気にするならば、内装が薄汚れておらず見通しが良いのが判ることも重要だろうとホームページの公開に踏み切ったわけである。
「これでようやく一人前の店になれたってことか」
「そういうのは黒字に成ってから言いやがれ。まあお前さんだけでなく、美琴ちゃんも雇うなら当面先だがよ」
メニューにHPに内装にと、いろいろ手を尽くして来た。
食材の廃棄を含めた、料理に関する原価率も以前よりも遥かにマシに成って来ている。酒の方は利益率の高い酒があまり出ているわけではないが、その辺は今後の課題と言えるだろう。
健が一歩一歩成長している事を感じること自体は間違って居ないと言えるが、まだまだ気が早い。
「……うーん。そいつを言われると厳しいな。そろそろソーセージの開発もしたいから、食べ歩きを復活したいところだし」
ただ必要だからと節約し続けても、『先』が拓けるわけでもない。
昔から『貧すれば鈍する』と言うが、後ろ向きに回ったままではじり貧なのである。その上で少しずつ調度品などに投資をしたり、料理の研究をしたいところだった。例えばソーセージは簡単な様で、奥行きの広い料理だ。いろいろなソーセージがあるのは当然ながら、どう味付けするのかどう調理するのかなど千差万別で広すぎる。
そういった工夫し易い料理を中心に、覚えていくのは悪くないと健は主張する。
「仕方ねえなあ。それならクラフトビールの味見もついでにやろうぜ。昔と違って色々あるからな」
「そういえば手に入るなら色々頼むって言われてたな。ここは逆に考えて、まずは気に入ったクラフトビールにあったソーセージを考えてみるか」
その意見に一定の理を認めた豊も肩をすくめて了承した。
ちなみに、クラフトビールというのは単純に言うと、地元で造られた地ビールだ。酒税法などの色々なルールが少しずつ変わって来て、大手メーカー以外も製造できるようになってきた。とはいえ利益が出る場所だけではないので、『職人がこだわって作ったビール』という触れ込みでごく少数が売れているに過ぎない。様々な努力で徐々に売れ行きが広がり、あるいは淘汰されて消えてはまた起業しているともいえる。
そういった店を発掘するのは面白いし、もし地元にビールがあればそれ自体が話題になると言える。
「なら幾つかコレはっ! ってのを作ってみろよ。そういうのが無いと基準に出来ねえだろ?」
「そういうと思って用意しておいた。香辛料でギリギリを攻めたチョリソと妥協点、あとは猟師さんに分けてもらった猪のクズ肉と良い所の二本立て。最後に豚で作ったオーソドックスなやつな」
スペインやアルゼンチン辺りで食べられる極太のソーセージが二本。
色合いの濃い獣肉のソーセージが二本、これは豚で作った物と比べて黒いというかこげ茶色というべきか。最後に市販品が何本か並べられて、茹たり煮込んだりしながら試食することに成ったのである。
こうして少しずつ客足に安堵しつつ、徐々に店を良くする試みに移行を始めた。
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