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味の双生児
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試作したソーセージは微妙だったが、目安には丁度良かった。
美味しい物を目指したというよりは、アタリを付けて『どんな方向の改良にすべきか』を図るための物だったというのもあるだろう。
自然な獣肉は当り外れが大きいというのもあった。
「猪の肉は微妙だな。良い部位は美味いが流石に指定して調達はできん。かといってクズ肉はちょっとな……」
健は硬い猪の肉をミキサーにかけて処理していた。
香辛料を多めに入れて獣臭さを調和したのだが、柔らか過ぎて違和感がある。もしかしたら他にも美味くする方法はあるのだろうが、健が師匠やら知り合いに聞いている範囲はこのレベルでしかない。後は塩加減やスパイスの使い方を工夫する方に舵を切る方が時間的に妥当だと判断したのだ。
ソレがあながち間違って居ないし、だからこそ限界があるというのが小沢・健という男の限界でもあった。
「近所の農協なりそういう所と契約して、地域おこしのイベントか何かの時に調理・納入を担当するくらいかねえ?」
「お前、よくそんなの思いつくな。俺は弁当には向かないと思ったくらいなのに」
豊はコンサルタントなのでアイデア勝負だ。
幾つかの腹案を用意した上でジビエ料理とか、猪駆除をした生命を無駄にはしていないというアピールに使えると提案する。自分の所の売りにするのではなく、他の団体に下請けを申し出るというのがキモだ。ウリになるかは分からないが、健が挑戦したりするのには悪くないと判断したのだろう。
実際、この地域で顔が売れるならばやって損のある申し出ではない。
「まあいい。本命はこっちだから一杯楽しむとしよう。コイツは面白い使い方が出来るらしくて前から試してみたかったんだ」
続いて普通のソーセージを何本か試した後、本命のチョリソに移る。
チョリソは香辛料が強めで肉のイメージが強いソーセージだ。健が本命に選んだのも味が強い分だけ酒に合い、出汁のようにスープなどに使うと聞いて試してみたくなったのである。
何本か用意し、一本は定番のスライスにしてして並べておく。
「丸まる食べると流石に喰い応えがあんなー。つかスライスしたやつで十分に肴になるぜ」
「それだけに思ったほど味が強くないな。強烈だと思った方が意外といけてる」
アメリカの人の客を意識し、太目で肉厚なサイズを作ってみた。
挽肉に混ぜる脂も強かったせいか、限界を攻めたつもりの香辛料でも悪くないレベルに収まっている気がする。いきなり店に出すほどの完成度ではないが、自家製ソーセージとしては十分だろう。もちろん酒があることを前提にしての評価なので、レストラン用としてはかなり味が強過ぎるのは確かであろう。
軽く食べてみた感想は、あらゆる意味で手ごたえが大き過ぎるというものだ。
「間で食った普通のソーセージも悪くは無かったが、こいつを喰っちまうとマジで『普通』だな。商品にするにゃちと不安しかねえ」
「あの辺は美琴の弁当用にサイズとレシピを改良してくよ」
二人の視線は強烈な方のチョリソに集中している。
普通に作ったソーセージや妥協レベルで作ったチョリソは悪い味では無かった。しかし強烈なスパイシーさと比べては分が悪いだろう。では酒と合わせずに使えば……なんて考え始めると、いくら考えても時間が足りない。おそらくどう調整すれば納得できるかだけで随分悩んでしまうだろう。無くても良いし、喰い応えだけなら他の食材でも良いからだ。
そういう意味で店の看板にするとしたら強烈な味付けのチョリソ一択である。
「とりあえずこいつの残りで色んな調理法で試して、そこから再調整だな」
健は軽く茹でてから引き揚げて焼いた物、更に茹でた物を並べた。
それがオーソドックスな食べ方だが、パンに挟んだりスープに入れたり、あるいは餃子の皮で包んでも良いだろう。パンと合わせるにしてもチーズを載せてピザのように食べても良い。その上で自分の店で出す時に、どんな調理が良いのかを考えて味の調整をしようとしていた。
アタリを出したので、後はひたすら試し、最後に微調整してようやく御客に出せるレベルとなる。
「何か食いたいモンあるか?」
「ホットドックとスープってとこだろ?」
「あいよ」
鶏の肉と骨を鍋に入れ、トマトやタマネギを煮込み始めた。
豚に豚を重ねても判り難いだけなのでオーソドックスなチキンスープを用意し、チョリソの味を追加する形式だ。その間にパンをオーブンに掛け、丸一本を載せてマスタードだけで味を付ける予定だ。ここまで来たらトマト・ケチャップなど余計だろう、酸味が欲しければスープに入れている方を愉しめばよいのである。
味が整ったところで健はスープを二分する。
「まずはホットドックをどうぞ。その間にこちらを仕上げておきますので」
「おー? マカロニでも入れたらグラタンみてえだなあ」
いわゆるスープストックを作ってここから分化させる予定だ。
片方はそのまま鍋で煮ていき、もう片方は片手鍋に入れて具材を追加する。ただしコンニャクやタコノコなどソレそのものは味が薄く、だが歯応えのある物を足していったのだ。さらにその半分を小鉢に分けると一応の仕上げ、残りにチーズを入れて煮詰め過ぎないように調整していく。
最終的にスープは都合、三皿用意することになった。一つはそのままのトマトスープ、一つはタケノコやコンニャクを追加した物、最後にさらにチーズを加えた物である。
「ホットドックの方はアレだな。この味付けだとパンが負けてんな」
「チョリソの方も調整するが……むしろ味の強いパンを用意した方が面白いだろうな。スープに関しては予想の範疇だが」
チョリソは元からスパイシーだが、今回はさらに強く仕上げてある。
ゆえにホットドックはパンが強烈さに負けていた。ここまで来るとチョリソをマイルドにするよりは、より味を引き立てながらパンの方を良くした方が良いだろう。逆にスープの方は想定通りの味に仕上がっていた。一つ目はオーソドックスに、二つ目は歯応えが追加され、最後の一つはかなりマイルドな味わいに成った。どれが好みかは人それぞれだが、味の傾向自体は変わらない。もしいつものように二種類の差を付けるのであれば、もっと大胆な味付けが必要だろうと思われたのである。
今までこれほど癖の強い食材を使ってこなかったことから、健は苦戦しつつも面白さを感じ取り始めていた。
試作したソーセージは微妙だったが、目安には丁度良かった。
美味しい物を目指したというよりは、アタリを付けて『どんな方向の改良にすべきか』を図るための物だったというのもあるだろう。
自然な獣肉は当り外れが大きいというのもあった。
「猪の肉は微妙だな。良い部位は美味いが流石に指定して調達はできん。かといってクズ肉はちょっとな……」
健は硬い猪の肉をミキサーにかけて処理していた。
香辛料を多めに入れて獣臭さを調和したのだが、柔らか過ぎて違和感がある。もしかしたら他にも美味くする方法はあるのだろうが、健が師匠やら知り合いに聞いている範囲はこのレベルでしかない。後は塩加減やスパイスの使い方を工夫する方に舵を切る方が時間的に妥当だと判断したのだ。
ソレがあながち間違って居ないし、だからこそ限界があるというのが小沢・健という男の限界でもあった。
「近所の農協なりそういう所と契約して、地域おこしのイベントか何かの時に調理・納入を担当するくらいかねえ?」
「お前、よくそんなの思いつくな。俺は弁当には向かないと思ったくらいなのに」
豊はコンサルタントなのでアイデア勝負だ。
幾つかの腹案を用意した上でジビエ料理とか、猪駆除をした生命を無駄にはしていないというアピールに使えると提案する。自分の所の売りにするのではなく、他の団体に下請けを申し出るというのがキモだ。ウリになるかは分からないが、健が挑戦したりするのには悪くないと判断したのだろう。
実際、この地域で顔が売れるならばやって損のある申し出ではない。
「まあいい。本命はこっちだから一杯楽しむとしよう。コイツは面白い使い方が出来るらしくて前から試してみたかったんだ」
続いて普通のソーセージを何本か試した後、本命のチョリソに移る。
チョリソは香辛料が強めで肉のイメージが強いソーセージだ。健が本命に選んだのも味が強い分だけ酒に合い、出汁のようにスープなどに使うと聞いて試してみたくなったのである。
何本か用意し、一本は定番のスライスにしてして並べておく。
「丸まる食べると流石に喰い応えがあんなー。つかスライスしたやつで十分に肴になるぜ」
「それだけに思ったほど味が強くないな。強烈だと思った方が意外といけてる」
アメリカの人の客を意識し、太目で肉厚なサイズを作ってみた。
挽肉に混ぜる脂も強かったせいか、限界を攻めたつもりの香辛料でも悪くないレベルに収まっている気がする。いきなり店に出すほどの完成度ではないが、自家製ソーセージとしては十分だろう。もちろん酒があることを前提にしての評価なので、レストラン用としてはかなり味が強過ぎるのは確かであろう。
軽く食べてみた感想は、あらゆる意味で手ごたえが大き過ぎるというものだ。
「間で食った普通のソーセージも悪くは無かったが、こいつを喰っちまうとマジで『普通』だな。商品にするにゃちと不安しかねえ」
「あの辺は美琴の弁当用にサイズとレシピを改良してくよ」
二人の視線は強烈な方のチョリソに集中している。
普通に作ったソーセージや妥協レベルで作ったチョリソは悪い味では無かった。しかし強烈なスパイシーさと比べては分が悪いだろう。では酒と合わせずに使えば……なんて考え始めると、いくら考えても時間が足りない。おそらくどう調整すれば納得できるかだけで随分悩んでしまうだろう。無くても良いし、喰い応えだけなら他の食材でも良いからだ。
そういう意味で店の看板にするとしたら強烈な味付けのチョリソ一択である。
「とりあえずこいつの残りで色んな調理法で試して、そこから再調整だな」
健は軽く茹でてから引き揚げて焼いた物、更に茹でた物を並べた。
それがオーソドックスな食べ方だが、パンに挟んだりスープに入れたり、あるいは餃子の皮で包んでも良いだろう。パンと合わせるにしてもチーズを載せてピザのように食べても良い。その上で自分の店で出す時に、どんな調理が良いのかを考えて味の調整をしようとしていた。
アタリを出したので、後はひたすら試し、最後に微調整してようやく御客に出せるレベルとなる。
「何か食いたいモンあるか?」
「ホットドックとスープってとこだろ?」
「あいよ」
鶏の肉と骨を鍋に入れ、トマトやタマネギを煮込み始めた。
豚に豚を重ねても判り難いだけなのでオーソドックスなチキンスープを用意し、チョリソの味を追加する形式だ。その間にパンをオーブンに掛け、丸一本を載せてマスタードだけで味を付ける予定だ。ここまで来たらトマト・ケチャップなど余計だろう、酸味が欲しければスープに入れている方を愉しめばよいのである。
味が整ったところで健はスープを二分する。
「まずはホットドックをどうぞ。その間にこちらを仕上げておきますので」
「おー? マカロニでも入れたらグラタンみてえだなあ」
いわゆるスープストックを作ってここから分化させる予定だ。
片方はそのまま鍋で煮ていき、もう片方は片手鍋に入れて具材を追加する。ただしコンニャクやタコノコなどソレそのものは味が薄く、だが歯応えのある物を足していったのだ。さらにその半分を小鉢に分けると一応の仕上げ、残りにチーズを入れて煮詰め過ぎないように調整していく。
最終的にスープは都合、三皿用意することになった。一つはそのままのトマトスープ、一つはタケノコやコンニャクを追加した物、最後にさらにチーズを加えた物である。
「ホットドックの方はアレだな。この味付けだとパンが負けてんな」
「チョリソの方も調整するが……むしろ味の強いパンを用意した方が面白いだろうな。スープに関しては予想の範疇だが」
チョリソは元からスパイシーだが、今回はさらに強く仕上げてある。
ゆえにホットドックはパンが強烈さに負けていた。ここまで来るとチョリソをマイルドにするよりは、より味を引き立てながらパンの方を良くした方が良いだろう。逆にスープの方は想定通りの味に仕上がっていた。一つ目はオーソドックスに、二つ目は歯応えが追加され、最後の一つはかなりマイルドな味わいに成った。どれが好みかは人それぞれだが、味の傾向自体は変わらない。もしいつものように二種類の差を付けるのであれば、もっと大胆な味付けが必要だろうと思われたのである。
今までこれほど癖の強い食材を使ってこなかったことから、健は苦戦しつつも面白さを感じ取り始めていた。
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