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敗北の味
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最終的に健はチョリソに敗北した。
今のところという限定はつくのだが、自力で二種類の味付けを用意することが難しかったのだ。そこで仕方なく昔ながらの方法で用意する事にした。
一言で言うと文明の利器に頼ったとも言う。
「トマトやタマネギを使った酸味の強いソースはこれで良いとして、甘いやつか……」
検索してデータを集めると手元にある材料で代用する事にした。
まずはトウモロコシを中心にした甘いソースである。これをそのまま使ったり、マヨネーズを追加したコーンマヨなど幾つかソースを作ってみた。
もちろん検索神は基本的に嘘をつかない。間違っているとしたら使い方が悪い時くらいだ。
「言われてみればコンビニで売ってるパンにこういうのがあったな。合わない訳はなかったんだ」
二系統のソースを用意して、ワサビ醤油を念の為に並べて置く。
これでチョリソ自体の味付けはそれなりに選べるだろう。一息ついたところで次はホットドックに対する逆襲だ。少し遠出して買えるレベルのパン屋で集めたパンを使って試食になるだろう。
自家製のパンを安価に用意するような設備も腕もなく、この辺りは妥協点と言えた。
「とはいえ前回の失敗は判ってる。出汁代わりに使えると聞いて脂身とか多く入れ過ぎたんだよな。逆に言えば、それで限界まで行ったはずのスパイシーさも少しまともになった」
強過ぎるスパイスを中和する程の脂が原因だったわけだ。
そこで健は二つの解決案と、以前と同じ物の三つを用意した。一つ目は脂身やパプリカを減らして香辛料もかなり減らした……それでも普通良い多目な物を用意。もう一つ香辛料だけを減らして、出汁替わりにする為のジューシーな物を作っておいた。前者の配合率を変えた物を二種用意しても良かったのだが、どうしても出汁替わりに可能という言葉が頭を離れない。それにジューシーさで攻めるのも悪くないと思えたので、前回のまま香辛料をマイルドにした物を比較対象にしたのだ。
これで次なるアタリを見つけてから、方向性の合って居る方を何種類か作れば良いだろう。
「この辺のパンに合わせるなら脂身も香辛料も減らした方だな。無難だがチョリソ自体の味が強いから丁度良い」
まずは少し強い程度の方がアタリに思える。とはいえ検証は必要だ。
強過ぎる風味と、強過ぎるスパイシーさを抑えたので美味しいホットドックが出来上がった。もし残念なことがあるとすれば、この味なら専門店の方がよほど美味しい。もしかしたら通販で購入した品を素人が調理した物にも負けるかもしれない。アタリに見えてそうではない落とし穴というやつだろう。家庭料理としてはアリだが、居酒屋で出すメニューとしては物足らなかった。
ただ落胆はしていない。妥当な物は妥当でしかないと理解しているからだ。ソレを舌で味わったに過ぎない。
「味わいで言えばこっちの方が美味いんだが……やっぱりこのパンでもダメか」
香辛料を減らしたチョリソを載せてみるがバランスが悪く感じる。
香辛料だけを減らして強烈なスパイシーさを削り、強烈な風味だけを残したチョリソはやはり味わいが深過ぎる。その辺りのパン屋で購入した、多少味の強いパンでは少し物足りないのだ。先ほどよりも『たまには食べてみたい』という気持ちは強くなるがまだまだ微妙である。
やはり漫画の様に上手くはいかないようだ。
「パンを特注できる店を探すか、それともチョリソのサイズを小さくするか。あるいはこの形式のホットドックは諦めてソースを足すか……」
店を探す場合は近場で注文できるか判らない。
相手の店にも都合があるし、それこそ健の居酒屋のように『割に合わない』からやってない可能性もあるだろう。そしてソースを使うパターンが最も簡単だが、なんだか負けた気がして選択したくないのだ。同じようにサイズを小さくするのも簡単な部類だが、食べ応えが大きく減ってしまう。長さを大きくしたとして満足感というか、この店じゃないと近隣では頼めなさそうだというイメージが湧かないのだ。
もちろん努力を重ねたとしても、実際には他の店でも可能だと思うが、やはり独自性というものは目指したかった。
「せっかく小さめのハムみたいな食べ応えなんだし、このまま活かしたいよな。どうにかして……ん? そうか、ハムだと考えれば良いのか」
健は何事かに気付き、壁を見て表を見て最後にメニューの方を眺めた。
そこには彼自身が調理した料理の写真があり、どんな物だったか思い出せる。当然ながらハムであったり、似たような味付けの食材や、似たような形状の食材もあるのだ。
それらを丹念に見返すことで、幾つかの組み合わせを脳裏に思い浮かべる。
「なんだ……。味付けは問題ないんだから、風味が丁度良くなる程度にスライスすれば良いだけだよな。悩んだ分だけ馬鹿みたいだ」
太さにこだわったのはソーセージと比較しての話だ。
極太のチョリソを全部使わずとも、スライスした肉で十分にパンは美味しくなる。あえていうならばホットドックの形状に引き吊られてしまったというところか。
最終的に豚の角切りを挟むように、スライスしたチョリソをパンで挟み込む。
「とはいえ絶対に、こういうパンが現地にあるだろうな。まあいいか」
ともあれこれでパンを妥協しても問題は無くなった。
次に遠出した時にパンを特注できるかとか値段を確認するとして、無理ならこのスライスしたバージョンで出せばよい。ホットドックに限りなく近い味わいを用意した上でなら、別にソースを使ったタイプを作っても問題ないのだ。
なお、この話にはオチもある。
「この味を基準にしてクラフトビールも探してみるかな。まあその前にこいつを使った小鉢を工夫したいところだが……まずは値段の方を何とかしないとな」
ここまで考えて笑える話だが、小鉢の400円に合わせるとスライスしたチョリソで妥当な金額である。食べ応え重視で丸一本のチョリソがあっても良いが、これに色々混ぜた料理もあって良いだろう。あまり創作料理に傾き過ぎない程度に、何か面白い料理はあったかなと新しく悩み始める健であった。
最終的に健はチョリソに敗北した。
今のところという限定はつくのだが、自力で二種類の味付けを用意することが難しかったのだ。そこで仕方なく昔ながらの方法で用意する事にした。
一言で言うと文明の利器に頼ったとも言う。
「トマトやタマネギを使った酸味の強いソースはこれで良いとして、甘いやつか……」
検索してデータを集めると手元にある材料で代用する事にした。
まずはトウモロコシを中心にした甘いソースである。これをそのまま使ったり、マヨネーズを追加したコーンマヨなど幾つかソースを作ってみた。
もちろん検索神は基本的に嘘をつかない。間違っているとしたら使い方が悪い時くらいだ。
「言われてみればコンビニで売ってるパンにこういうのがあったな。合わない訳はなかったんだ」
二系統のソースを用意して、ワサビ醤油を念の為に並べて置く。
これでチョリソ自体の味付けはそれなりに選べるだろう。一息ついたところで次はホットドックに対する逆襲だ。少し遠出して買えるレベルのパン屋で集めたパンを使って試食になるだろう。
自家製のパンを安価に用意するような設備も腕もなく、この辺りは妥協点と言えた。
「とはいえ前回の失敗は判ってる。出汁代わりに使えると聞いて脂身とか多く入れ過ぎたんだよな。逆に言えば、それで限界まで行ったはずのスパイシーさも少しまともになった」
強過ぎるスパイスを中和する程の脂が原因だったわけだ。
そこで健は二つの解決案と、以前と同じ物の三つを用意した。一つ目は脂身やパプリカを減らして香辛料もかなり減らした……それでも普通良い多目な物を用意。もう一つ香辛料だけを減らして、出汁替わりにする為のジューシーな物を作っておいた。前者の配合率を変えた物を二種用意しても良かったのだが、どうしても出汁替わりに可能という言葉が頭を離れない。それにジューシーさで攻めるのも悪くないと思えたので、前回のまま香辛料をマイルドにした物を比較対象にしたのだ。
これで次なるアタリを見つけてから、方向性の合って居る方を何種類か作れば良いだろう。
「この辺のパンに合わせるなら脂身も香辛料も減らした方だな。無難だがチョリソ自体の味が強いから丁度良い」
まずは少し強い程度の方がアタリに思える。とはいえ検証は必要だ。
強過ぎる風味と、強過ぎるスパイシーさを抑えたので美味しいホットドックが出来上がった。もし残念なことがあるとすれば、この味なら専門店の方がよほど美味しい。もしかしたら通販で購入した品を素人が調理した物にも負けるかもしれない。アタリに見えてそうではない落とし穴というやつだろう。家庭料理としてはアリだが、居酒屋で出すメニューとしては物足らなかった。
ただ落胆はしていない。妥当な物は妥当でしかないと理解しているからだ。ソレを舌で味わったに過ぎない。
「味わいで言えばこっちの方が美味いんだが……やっぱりこのパンでもダメか」
香辛料を減らしたチョリソを載せてみるがバランスが悪く感じる。
香辛料だけを減らして強烈なスパイシーさを削り、強烈な風味だけを残したチョリソはやはり味わいが深過ぎる。その辺りのパン屋で購入した、多少味の強いパンでは少し物足りないのだ。先ほどよりも『たまには食べてみたい』という気持ちは強くなるがまだまだ微妙である。
やはり漫画の様に上手くはいかないようだ。
「パンを特注できる店を探すか、それともチョリソのサイズを小さくするか。あるいはこの形式のホットドックは諦めてソースを足すか……」
店を探す場合は近場で注文できるか判らない。
相手の店にも都合があるし、それこそ健の居酒屋のように『割に合わない』からやってない可能性もあるだろう。そしてソースを使うパターンが最も簡単だが、なんだか負けた気がして選択したくないのだ。同じようにサイズを小さくするのも簡単な部類だが、食べ応えが大きく減ってしまう。長さを大きくしたとして満足感というか、この店じゃないと近隣では頼めなさそうだというイメージが湧かないのだ。
もちろん努力を重ねたとしても、実際には他の店でも可能だと思うが、やはり独自性というものは目指したかった。
「せっかく小さめのハムみたいな食べ応えなんだし、このまま活かしたいよな。どうにかして……ん? そうか、ハムだと考えれば良いのか」
健は何事かに気付き、壁を見て表を見て最後にメニューの方を眺めた。
そこには彼自身が調理した料理の写真があり、どんな物だったか思い出せる。当然ながらハムであったり、似たような味付けの食材や、似たような形状の食材もあるのだ。
それらを丹念に見返すことで、幾つかの組み合わせを脳裏に思い浮かべる。
「なんだ……。味付けは問題ないんだから、風味が丁度良くなる程度にスライスすれば良いだけだよな。悩んだ分だけ馬鹿みたいだ」
太さにこだわったのはソーセージと比較しての話だ。
極太のチョリソを全部使わずとも、スライスした肉で十分にパンは美味しくなる。あえていうならばホットドックの形状に引き吊られてしまったというところか。
最終的に豚の角切りを挟むように、スライスしたチョリソをパンで挟み込む。
「とはいえ絶対に、こういうパンが現地にあるだろうな。まあいいか」
ともあれこれでパンを妥協しても問題は無くなった。
次に遠出した時にパンを特注できるかとか値段を確認するとして、無理ならこのスライスしたバージョンで出せばよい。ホットドックに限りなく近い味わいを用意した上でなら、別にソースを使ったタイプを作っても問題ないのだ。
なお、この話にはオチもある。
「この味を基準にしてクラフトビールも探してみるかな。まあその前にこいつを使った小鉢を工夫したいところだが……まずは値段の方を何とかしないとな」
ここまで考えて笑える話だが、小鉢の400円に合わせるとスライスしたチョリソで妥当な金額である。食べ応え重視で丸一本のチョリソがあっても良いが、これに色々混ぜた料理もあって良いだろう。あまり創作料理に傾き過ぎない程度に、何か面白い料理はあったかなと新しく悩み始める健であった。
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