18 / 51
黒字への道
新定番への道
●
酒粕を手に入れたことでメニューにバリエーションが増えた。
出汁や醤油をベースにしていた物に、風味は違いながらも相性の良いものを加えた感じだ。定番メニューを基本に揃えておくとしても、今まで習った料理の中で同じ材料を使ってできる物もある。
健は増やしたメニューを大学ノートに文字を書きつけ、バリエーションを書き出していった。
「山賊焼き、魚の煮つけ、だし巻き卵、出汁入りコロッケ、温野菜とチーズ、チョリソ。……うん、こんなもんか」
まずは定番だけを書くとこんな物だ。
一番多いのはだし巻き卵で、カニカマを入れたカニ卵もどき等も考慮すれば豊富なメニューを用意できる。流石に卵は汎用性が広い。
焼き直して味を深めることもあり、基本に戻る時はここを見つめることになるだろう。
「しかし、こうして眺めると最初に作った鶏が一番原価が高いというのも笑えて来るな」
当然だが、現状は高価な素材を使ってはいない。
卵は当然安いが、コロッケに使うポテトやチョリソに使う豚も形状やサイズは問わないので味さえ保証されて居れば安い部位の肉を使える。また魚市でアルバイトして現物支給という手が使えるので煮つけは案外安く収まるのも大きかった。特にこだわりはなく安価で美味しい魚を狙っているからという理由もあるだろう。逆の意味で鶏を使った山賊焼きは部位指定があるからコストが固定化されている。
鶏もも肉で小さい個体の肉であったり、輸入品で安いのを仕入れるとしても限界はある。怪しげな所だと物凄く安いらしいが、流石に何十年も倉庫で凍っていた鶏肉を買う気はない。美琴が売ろうと考えている弁当を考慮しても、それほど量産するわけでは無いからだ。
「鶏で何かできないかと考えたのは忠告に従ったからだが……。こいつが筆頭って事は本当に経済的だな。もう少し安価なのを考えてみるか」
健はノータイムで鶏肉の余った部位を叩き始めた。
軟骨も取り出して砕き、他の材料と共に混ぜると団子状や棒状にして固める。つくねは柔らかさの中に硬さを入れた品で、同じタネで形状も変えられるし、塩焼きと照り煮で二品できるのが便利だ。
そぼろや鶏ハンバーグにしても良いのでなかなか便利だろう。
「豚はチョリソにすればいいんだが……。こっちでも作ってみるか」
こちらも余った部位を叩くが少し粗い。
豚の軟骨を砕いて混ぜ合わせるのだが、これは鳥の軟骨よりも硬いのだ。そこで叩き方を少し荒くしたのである。最初からミンチに練った物ではなく叩いて作っているから可能な話だ。これは肉汁が多いので塩コショウで味付ける方は少し強めに、照り煮の方はみりんを増やすことにした。
比較すると判るが、味は強いものの肉団子を作るほどの意義が薄い。
「豚の方が味も強いがやはり微妙だな。使い道があるのに鶏と両方用意する意味がないし……注文が無ければ作らなくてもいいか」
最初にコンサルの豊かへ相談した時に並べたレシピを沢山省かれた。
中には自信作もあったのだがまとめてサイドメニュー送りにされたのだ。だが定番商品と見比べてみると健にも判る。例え美味しくとも無くても良い商品というのはあるものだ。つくねは鶏をメインにしておいて『もっと味の強いつくねが欲しい』と言われた時のレシピにすれば良いだろう。地鶏や軍鶏を手に入れる手間より、肉団子を出す方が早い程度の便利さはあるだろう。
そういったことが分かるだけの経験を経たが、まだ作らなければ分からないレベルであるとも言えた。
「このまま定番の品を高めつつ、色々なバリエーションを用意。季節感に関しては……魚の煮つけと刺身くらいか」
豊や美琴から教えてもらった改善点は少しずつ昇華している。
料理の腕を上げたり、今のように『同じ材料』に絞ったバリエーションやサイドメニューを充実。地味ながら宣伝をして店舗は清潔感を維持している。今のところの課題は季節感の演出が多少弱いくらいだろうか? 確かに季節にスポットを当てた料理も悪くはない。
問題はどこまで手を出すか、だろう。
「温野菜は茹でている分だけ、季節感の演出には遠いしな」
王道とは有効たからこそ繰り返され陳腐化すると言われる。
それを繰り返すだけで深みが生じる反面、マンネリが生じると途端に飽きられてしまうとか手抜きだと思われるのだ。隠し味を改良したりトッピングを追加する程度では心もとない。新定番がいきなり増えるはずもなく、どうしても季節感を演出する方が早くなってしまうのだ。
基礎の深みを増す必要を感じつつも、つい思考は季節物に走り易くなる。
「しかし魚の煮つけや刺身に匹敵する季節感ねえ。飯物は出すなと言われてるし少し難しいな……」
とりあえず季節物でありながら、定番にも使えるところを考えてみよう。
まずはタマネギ、そして旬が春で調整されている大根。その中から大きなものを用意して、可能な限り大きくぶつ切りした。とはいえ原価を下げるためにあまり立派ではない物を選んでいるので、どうしても小振りになる。大きな大根から見ればスライスレベルだろう。
ひとまず試作して、必要なら大きい物でも買うか?
「野菜ステーキというには少し小さいな。いっそのこと姿煮にでもするか?」
思案を二つに分け、大小両方活かす路線で考えてみよう。
醤油やみりんを使って甘辛く焼いてみる。良く焼いたタマネギはそれだけで甘さを持つが、醤油やみりんを塗って焼くことでとても美味しくなる。スライスしてステーキ感を出すには小さいが、むしろもう少し小さい物を丸のまま焼いたらどうかと思う健であった。
ひとまず一つか二つを小鉢に置き、完成品として次を考察する。
「いっそのこと摺り下ろして真薯やテリーヌみたいに固める? いかんな迷走してる。前菜で手を掛けまくってどうする」
横目で先ほど作ったつくねを眺める。
アレと一緒に摺り下ろした物を何かの器に入れて固めてみるとか。しかしそれでは季節感が無いし、それならまだ茶碗蒸しなどに入れた方がまだ良いだろう。今の時代ならば家庭用のスチーマーでもあるのではないか……と思いかけたところで、それでは家庭でできる味に収まるだろうと思い直した。
迷走している自覚はあるので、この辺りで一度頭を冷やす方が良いだろう。
「すべての季節に対応する必要はないんだ。無難なのを出すくらいなら、美味しくてインパクトがある方がいい。その上で味付けを考える」
結局、野菜ステーキや姿煮の路線が無難ではないかと思い直した。
キノコのホイル焼きにアヒージョ、タマネギのステーキに姿煮込み。そういった物を用意して器にチーズと共に入れたグラタン風や、カレー風などの味付けの変化を愉しむくらいが良いのではないだろうか? もっと判り易くて美味しい料理を思い付いたら入れ替えれば良い。
作り上げたレシピをサイドメニューの欄に放り込みながら、精進が足りないなと溜息を吐くのであった。
酒粕を手に入れたことでメニューにバリエーションが増えた。
出汁や醤油をベースにしていた物に、風味は違いながらも相性の良いものを加えた感じだ。定番メニューを基本に揃えておくとしても、今まで習った料理の中で同じ材料を使ってできる物もある。
健は増やしたメニューを大学ノートに文字を書きつけ、バリエーションを書き出していった。
「山賊焼き、魚の煮つけ、だし巻き卵、出汁入りコロッケ、温野菜とチーズ、チョリソ。……うん、こんなもんか」
まずは定番だけを書くとこんな物だ。
一番多いのはだし巻き卵で、カニカマを入れたカニ卵もどき等も考慮すれば豊富なメニューを用意できる。流石に卵は汎用性が広い。
焼き直して味を深めることもあり、基本に戻る時はここを見つめることになるだろう。
「しかし、こうして眺めると最初に作った鶏が一番原価が高いというのも笑えて来るな」
当然だが、現状は高価な素材を使ってはいない。
卵は当然安いが、コロッケに使うポテトやチョリソに使う豚も形状やサイズは問わないので味さえ保証されて居れば安い部位の肉を使える。また魚市でアルバイトして現物支給という手が使えるので煮つけは案外安く収まるのも大きかった。特にこだわりはなく安価で美味しい魚を狙っているからという理由もあるだろう。逆の意味で鶏を使った山賊焼きは部位指定があるからコストが固定化されている。
鶏もも肉で小さい個体の肉であったり、輸入品で安いのを仕入れるとしても限界はある。怪しげな所だと物凄く安いらしいが、流石に何十年も倉庫で凍っていた鶏肉を買う気はない。美琴が売ろうと考えている弁当を考慮しても、それほど量産するわけでは無いからだ。
「鶏で何かできないかと考えたのは忠告に従ったからだが……。こいつが筆頭って事は本当に経済的だな。もう少し安価なのを考えてみるか」
健はノータイムで鶏肉の余った部位を叩き始めた。
軟骨も取り出して砕き、他の材料と共に混ぜると団子状や棒状にして固める。つくねは柔らかさの中に硬さを入れた品で、同じタネで形状も変えられるし、塩焼きと照り煮で二品できるのが便利だ。
そぼろや鶏ハンバーグにしても良いのでなかなか便利だろう。
「豚はチョリソにすればいいんだが……。こっちでも作ってみるか」
こちらも余った部位を叩くが少し粗い。
豚の軟骨を砕いて混ぜ合わせるのだが、これは鳥の軟骨よりも硬いのだ。そこで叩き方を少し荒くしたのである。最初からミンチに練った物ではなく叩いて作っているから可能な話だ。これは肉汁が多いので塩コショウで味付ける方は少し強めに、照り煮の方はみりんを増やすことにした。
比較すると判るが、味は強いものの肉団子を作るほどの意義が薄い。
「豚の方が味も強いがやはり微妙だな。使い道があるのに鶏と両方用意する意味がないし……注文が無ければ作らなくてもいいか」
最初にコンサルの豊かへ相談した時に並べたレシピを沢山省かれた。
中には自信作もあったのだがまとめてサイドメニュー送りにされたのだ。だが定番商品と見比べてみると健にも判る。例え美味しくとも無くても良い商品というのはあるものだ。つくねは鶏をメインにしておいて『もっと味の強いつくねが欲しい』と言われた時のレシピにすれば良いだろう。地鶏や軍鶏を手に入れる手間より、肉団子を出す方が早い程度の便利さはあるだろう。
そういったことが分かるだけの経験を経たが、まだ作らなければ分からないレベルであるとも言えた。
「このまま定番の品を高めつつ、色々なバリエーションを用意。季節感に関しては……魚の煮つけと刺身くらいか」
豊や美琴から教えてもらった改善点は少しずつ昇華している。
料理の腕を上げたり、今のように『同じ材料』に絞ったバリエーションやサイドメニューを充実。地味ながら宣伝をして店舗は清潔感を維持している。今のところの課題は季節感の演出が多少弱いくらいだろうか? 確かに季節にスポットを当てた料理も悪くはない。
問題はどこまで手を出すか、だろう。
「温野菜は茹でている分だけ、季節感の演出には遠いしな」
王道とは有効たからこそ繰り返され陳腐化すると言われる。
それを繰り返すだけで深みが生じる反面、マンネリが生じると途端に飽きられてしまうとか手抜きだと思われるのだ。隠し味を改良したりトッピングを追加する程度では心もとない。新定番がいきなり増えるはずもなく、どうしても季節感を演出する方が早くなってしまうのだ。
基礎の深みを増す必要を感じつつも、つい思考は季節物に走り易くなる。
「しかし魚の煮つけや刺身に匹敵する季節感ねえ。飯物は出すなと言われてるし少し難しいな……」
とりあえず季節物でありながら、定番にも使えるところを考えてみよう。
まずはタマネギ、そして旬が春で調整されている大根。その中から大きなものを用意して、可能な限り大きくぶつ切りした。とはいえ原価を下げるためにあまり立派ではない物を選んでいるので、どうしても小振りになる。大きな大根から見ればスライスレベルだろう。
ひとまず試作して、必要なら大きい物でも買うか?
「野菜ステーキというには少し小さいな。いっそのこと姿煮にでもするか?」
思案を二つに分け、大小両方活かす路線で考えてみよう。
醤油やみりんを使って甘辛く焼いてみる。良く焼いたタマネギはそれだけで甘さを持つが、醤油やみりんを塗って焼くことでとても美味しくなる。スライスしてステーキ感を出すには小さいが、むしろもう少し小さい物を丸のまま焼いたらどうかと思う健であった。
ひとまず一つか二つを小鉢に置き、完成品として次を考察する。
「いっそのこと摺り下ろして真薯やテリーヌみたいに固める? いかんな迷走してる。前菜で手を掛けまくってどうする」
横目で先ほど作ったつくねを眺める。
アレと一緒に摺り下ろした物を何かの器に入れて固めてみるとか。しかしそれでは季節感が無いし、それならまだ茶碗蒸しなどに入れた方がまだ良いだろう。今の時代ならば家庭用のスチーマーでもあるのではないか……と思いかけたところで、それでは家庭でできる味に収まるだろうと思い直した。
迷走している自覚はあるので、この辺りで一度頭を冷やす方が良いだろう。
「すべての季節に対応する必要はないんだ。無難なのを出すくらいなら、美味しくてインパクトがある方がいい。その上で味付けを考える」
結局、野菜ステーキや姿煮の路線が無難ではないかと思い直した。
キノコのホイル焼きにアヒージョ、タマネギのステーキに姿煮込み。そういった物を用意して器にチーズと共に入れたグラタン風や、カレー風などの味付けの変化を愉しむくらいが良いのではないだろうか? もっと判り易くて美味しい料理を思い付いたら入れ替えれば良い。
作り上げたレシピをサイドメニューの欄に放り込みながら、精進が足りないなと溜息を吐くのであった。
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし