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黒字への道
代入とテスト
●
方針が決まれば早速行動だ。
健はノートを見ながら少しだけ思案した。コストや食材的にやり易いのは何か? いま優先すべき事は何か? 後を考えて影響がより大きいのは何か? そして定番のメニューへ自然な形で組み込み易いものを考えて行った。
その辺りを考えると真っ先に思いつくのは、先ほどから話ながら考えた物になる。
「まずはポテトの山盛りでいいか?」
「時間もないしその辺が無難だろ。だが重要なのは、問題が無いか色々と『代入』してみることだぜ。そういう意味で悩むくらいならまず動くとして受け入れられ易いポテトだ」
どうせならば十分な期間があり、節目がある方が丁度良い。
現在は四月の中頃であり、四月末~五月頭をターゲットにする場合は考えている余裕は無かった。そこで通年で栽培されるが旬は今からのポテトはうってつけだ。居酒屋にあっても不思議ではなく、仮に持ち帰りとして選ばれても問題の無い品である。
ジャガイモというのは安価な割りに調理で影響し易いからだ。
「真っ先に気を付けるところとして、『共食い対策』だな。最初に山盛ポテトを頼んで後は知らねえとか言われても困るだろ?」
「それならファミレスにでも行ってその都度に頼む方が経済的だと思うが……。まあ言いたいことは判る」
この手の問題で失敗し易いのが共食い問題である。
商社で例えると新しく出した新製品が、ほかならぬ自分の会社の主力商品のシェアを食ってしまうという事だ。ここは料理屋なので一番の問題は酒が出なくなることだろう。
せっかくなので複雑に考えず、ここで代入を試してみる。
「まずは小鉢のセットと大皿での大盛りだな」
普段の日々で考えてみた場合、ポテトを400円の小鉢に盛って出す。
仮に細切りと厚切りのみを選べるようにして、暇ならサイズや皮つき・皮なしを指定できる程度とする。日常だから複雑で高価な調味料など使わないし、安価な材料以外は殆ど手間賃の問題になる。これだけなら黒字ではあるのだ。ファーストフードよりも多いがファミレスよりも少ない分量なのだから。
セットなら他に2つ頼むとして、1つは店長のお勧め、1つは肉か魚だろう。
「ポテト単体なら黒字も良い所なんだがなあ。……酒が出なくなるのが問題か」
「料理がコイツだけになるが、酒は何杯か頼むってんなら問題ねえんだがよ」
そう言って豊は意地悪そうな笑みを浮かべた。
ロクでもない事に違いないが、やって欲しくないことをピンポイントで思いついたのだろう。
金銭の問題か、それともマナーの問題だろうか?
「パスタのボロネーゼを頼むわ。それと喰い終わった後で良いから、細切りの山盛りポテトな」
「……お前。それは例えが酷いぞ」
ボロネーゼはミンチの入ったソースをたっぷり使ったパスタである。
何が言いたいかというと、余ったこの肉のソースを使ってポテトフライをチビリチビリと食べるのだ。塩を舐めながら日本酒を飲むよりは豪勢な……というべきか。少なくともポテトが無くなるまでは、次の注文をしなくても良いのは確かだ。
健は溜息を吐くとキッチンに向かい、残った食材にミンチを足してソースを作り始めた。
「イタリア風の坦坦麺お待ち!」
「こりゃボロネーゼじゃなくてプッタネスカじゃねえか。まあソースがタップリあれば例えとしちゃあ問題ねえけどな」
プッタネスカは魚も肉もソースに入れたパスタである。
日本では娼婦風パスタとも呼ばれるが、娼婦がもてなすために作ったとも体力をつける為に食べたとも言われるパスタだ。健はそれに引っかけて、イタリア風の坦坦麺だと言ったのである。
そして健はここで別の実験をすることにした。
「しかもお前……それ、シリシリ用のだろ」
「手に入れたからには使ってみたくてな。どうせ貧乏飯にして時間稼ぎの真似事するなら、これでいいだろ」
健はスライサーの一種を使って、ジャガイモを細くスライドしていく。
そして通常よりも若干、薄味に仕上げておくことにした。細い分だけ調味料を強く感じることもあり得るし、どのみち多めに作ったプッタネスカのソースを付けて時間を潰すのである。実験としてはそれで丁度良いだろう。だが、こんな食べ方をしてたらそりゃ食事を追加しなくても良いかと思えてしまう。お茶を入れればそれだけで完結してしまい、もはやビールを飲む必要すら無いと思えて来た。
しかし悪徳こそは最高の調味料である。色んな意味でマナー違反だが実に満足感を感じた。
「とりあえずなー。この状態を攻略しねえとマズイぞ。フェアだけなら大皿とかセット前提にして酒が無いと喰えないようにするとか、当日は参加料に酒かドリンクだけは一杯必ず頼ませても良いけどよ」
「悪い例を前提にするのはどうかと思うが……いつもより手を掛ける分だけ、酒が無いと食えないようにするのはアリかもな」
妙な満足感に包まれた中で、健は新しくポテトの調理に入った。
酒を前提にする場合は味を濃くしないとバランスが取れない。ならば最初から味が強くスパイシーに仕上げるのである。居酒屋の山盛りポテトなのだから違和感が無いのが良い。ひとまずはこれで完成という所だろう。ファミレスで徹夜する大学生みたいなことを居酒屋で警戒することはないのだ。全てはお客さんに楽しく呑んでもらえばそれで収まるのである。
その後にポテトチップスを思わせる薄切りやブロック状、じゃがバターなどを用意しながらビールを取り出したのであった。
方針が決まれば早速行動だ。
健はノートを見ながら少しだけ思案した。コストや食材的にやり易いのは何か? いま優先すべき事は何か? 後を考えて影響がより大きいのは何か? そして定番のメニューへ自然な形で組み込み易いものを考えて行った。
その辺りを考えると真っ先に思いつくのは、先ほどから話ながら考えた物になる。
「まずはポテトの山盛りでいいか?」
「時間もないしその辺が無難だろ。だが重要なのは、問題が無いか色々と『代入』してみることだぜ。そういう意味で悩むくらいならまず動くとして受け入れられ易いポテトだ」
どうせならば十分な期間があり、節目がある方が丁度良い。
現在は四月の中頃であり、四月末~五月頭をターゲットにする場合は考えている余裕は無かった。そこで通年で栽培されるが旬は今からのポテトはうってつけだ。居酒屋にあっても不思議ではなく、仮に持ち帰りとして選ばれても問題の無い品である。
ジャガイモというのは安価な割りに調理で影響し易いからだ。
「真っ先に気を付けるところとして、『共食い対策』だな。最初に山盛ポテトを頼んで後は知らねえとか言われても困るだろ?」
「それならファミレスにでも行ってその都度に頼む方が経済的だと思うが……。まあ言いたいことは判る」
この手の問題で失敗し易いのが共食い問題である。
商社で例えると新しく出した新製品が、ほかならぬ自分の会社の主力商品のシェアを食ってしまうという事だ。ここは料理屋なので一番の問題は酒が出なくなることだろう。
せっかくなので複雑に考えず、ここで代入を試してみる。
「まずは小鉢のセットと大皿での大盛りだな」
普段の日々で考えてみた場合、ポテトを400円の小鉢に盛って出す。
仮に細切りと厚切りのみを選べるようにして、暇ならサイズや皮つき・皮なしを指定できる程度とする。日常だから複雑で高価な調味料など使わないし、安価な材料以外は殆ど手間賃の問題になる。これだけなら黒字ではあるのだ。ファーストフードよりも多いがファミレスよりも少ない分量なのだから。
セットなら他に2つ頼むとして、1つは店長のお勧め、1つは肉か魚だろう。
「ポテト単体なら黒字も良い所なんだがなあ。……酒が出なくなるのが問題か」
「料理がコイツだけになるが、酒は何杯か頼むってんなら問題ねえんだがよ」
そう言って豊は意地悪そうな笑みを浮かべた。
ロクでもない事に違いないが、やって欲しくないことをピンポイントで思いついたのだろう。
金銭の問題か、それともマナーの問題だろうか?
「パスタのボロネーゼを頼むわ。それと喰い終わった後で良いから、細切りの山盛りポテトな」
「……お前。それは例えが酷いぞ」
ボロネーゼはミンチの入ったソースをたっぷり使ったパスタである。
何が言いたいかというと、余ったこの肉のソースを使ってポテトフライをチビリチビリと食べるのだ。塩を舐めながら日本酒を飲むよりは豪勢な……というべきか。少なくともポテトが無くなるまでは、次の注文をしなくても良いのは確かだ。
健は溜息を吐くとキッチンに向かい、残った食材にミンチを足してソースを作り始めた。
「イタリア風の坦坦麺お待ち!」
「こりゃボロネーゼじゃなくてプッタネスカじゃねえか。まあソースがタップリあれば例えとしちゃあ問題ねえけどな」
プッタネスカは魚も肉もソースに入れたパスタである。
日本では娼婦風パスタとも呼ばれるが、娼婦がもてなすために作ったとも体力をつける為に食べたとも言われるパスタだ。健はそれに引っかけて、イタリア風の坦坦麺だと言ったのである。
そして健はここで別の実験をすることにした。
「しかもお前……それ、シリシリ用のだろ」
「手に入れたからには使ってみたくてな。どうせ貧乏飯にして時間稼ぎの真似事するなら、これでいいだろ」
健はスライサーの一種を使って、ジャガイモを細くスライドしていく。
そして通常よりも若干、薄味に仕上げておくことにした。細い分だけ調味料を強く感じることもあり得るし、どのみち多めに作ったプッタネスカのソースを付けて時間を潰すのである。実験としてはそれで丁度良いだろう。だが、こんな食べ方をしてたらそりゃ食事を追加しなくても良いかと思えてしまう。お茶を入れればそれだけで完結してしまい、もはやビールを飲む必要すら無いと思えて来た。
しかし悪徳こそは最高の調味料である。色んな意味でマナー違反だが実に満足感を感じた。
「とりあえずなー。この状態を攻略しねえとマズイぞ。フェアだけなら大皿とかセット前提にして酒が無いと喰えないようにするとか、当日は参加料に酒かドリンクだけは一杯必ず頼ませても良いけどよ」
「悪い例を前提にするのはどうかと思うが……いつもより手を掛ける分だけ、酒が無いと食えないようにするのはアリかもな」
妙な満足感に包まれた中で、健は新しくポテトの調理に入った。
酒を前提にする場合は味を濃くしないとバランスが取れない。ならば最初から味が強くスパイシーに仕上げるのである。居酒屋の山盛りポテトなのだから違和感が無いのが良い。ひとまずはこれで完成という所だろう。ファミレスで徹夜する大学生みたいなことを居酒屋で警戒することはないのだ。全てはお客さんに楽しく呑んでもらえばそれで収まるのである。
その後にポテトチップスを思わせる薄切りやブロック状、じゃがバターなどを用意しながらビールを取り出したのであった。
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