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黒字への道
そして動き出す
●
計画を仮決めし、推敲しながら細部調整を進めていく。
以前に訪れた酒屋や醸造所に、クラフトビールや洋酒を受取日指定で注文できるか、金額は幾らくらいなのかを尋ねる。
そんな中で意外な話を聞く事になった。
「叔父さんも?」
「ああ。君と同じように鮎を分けてくれってね。こういうところは似るんだねぇ」
妙な所で亡くなった叔父さんの知り合いに合った。
釣りキチの中にはアユ釣り舟を個人所有する者も多く、特に元は教職員や公務員だった面々はあまり異動が無い事もあって定年後に購入することがあるようだ。
この日は御隠居の伝手でそう言った人を紹介してもらった。
「もっと早くに教えてくださればよかったのに」
「ワシもタケ坊と忌んだ猛が叔父甥とはこの間知ったからのう。名前の読み方は同じでも漢字は違うし、苗字も微妙に違うのじゃから気が付けというのも酷じゃろう」
この間の猪もだが現金なら幾ら、食事代ならば幾らの話を詰めたのだ。
お互いに無理をしない範囲、あくまでついで。狩猟や仕出しなど何かを要求する時は割増条件で……としておいた。そして猪のソーセージなどジビエ系の保存食は供給が安定しないので積極的に商品とはせず、基本は町内会や農協の催しなどにそのまま流れる事にした。ジビエの処理や注文で保存食を作っても特に儲けなどないが、こうした集まりに顔を出して話を聞くのは面白かったし、その流れで知り合った人々へ結果的な宣伝ができる方が大きかったと言えるだろう。
これもまた『情けは人の為ならず』だろうか。
「へえ。やっっぱり叔父さんは一人でやってたのか」
「みたいだよ。夏祭りとか収穫祭みたいな時だけ知り合いに頼んでたらしい」
ちょうど豊も来る日で、この話が弾んだ。
当時を知る人に話を聞けたのは大きかった。昭和の時代は今より人通りが多かったらしいが、それでも平成に入ってからは見込みよりも人が減ったのが大きいらしい。昔に導入した高価な調理器具の返済や店舗を補修したりと費用がかさむこともあり、気軽に楽しくやる為に一人だけで店を回していたらしいのだ。
要するに当時も一人なら黒字で、バイトはともかく本格的に誰か入れる余裕はなかったということだろう。
「となると上手く行っても人を雇うのは難しいってことか?」
「どうだろうな? 倉庫兼仮眠室だけ存在してる二階部分を改装して、ちゃんとした住居にするか古民家カフェみたいにするか悩んでたらしいから、貯金はそれなりにあったと思うよ。この店自体が担保には難しい場所だしな」
実に生々しい話で、さっさとこの話題は終わらせることにする。
実際の話、健は遺産分けで店を指定しただけで、他の者は扱い易い金銭や物を指定していたはずだ。今思えばその中には改装費用や、場合によっては新しい機材の代金。もしかしたら良い銘柄の酒やアンティークの器か何かもあった『かも』しれない。もちろんそこまで大層な品は存在しないだろうし、金も改装費用の頭金くらいだろう。
健が受け取ったのは店だけだし、他人に渡った物を勘定しても意味がないので忘れる事にした。
「どのみち俺の腕とお前のアイデア次第だろうな。この辺の開発計画も聞けたけど玉虫色らしいし、地道に頑張るとするよ」
「それが一番だろ。頑張れば美琴ちゃんのバイト代くらいは出せるだろうぜ」
ここで重要なのは一人でも十分に回せる店構えだったということだ。
叔父さんの時代から住民が減っているのは確かだが、その当時はそれほど集客努力をしたわけでも傾向と対策を建てたわけでもない。減っていく人々に合わせて貯金しながら色々と考え、イザ今から何かしようという所で亡くなったようなのだ。店を他に移すという計画で無かった以上は、それなりに採算が見込めるという事だろう。
それを知る由もないが、どのみち人間も時代も違うのだから流用は難しいだろう。
「まあな。どっちかといえば美琴に古民家カフェの話を知られる方が怖いよ」
「ははっ。叔父さんの遺志だとか言って乗り込んで来そうだしな」
そういって健は茹で終えた麺を小さく小分けしていった。
本来ならばフライパンで野菜を炒めながら味を付けるところだが、今回は色々なソースを試すために小分けしていく。普通はやらないが蕎麦のように浸して味見することにした。ソースの種類は豊富だし、お通し用・小鉢用・大皿と分量を見分けておかねばならないからだ。麺は普通のスパゲッティだが、当日は形状や味の差という意味で穴の開いたペンネと芋を使ったニョッキも用意する。ソースはトマトソースやクリームソ-スなどのソースベースを用意して、フライパンや片手鍋で追加の味を足してソースを完成させる方式だ。
もちろん麺を半分に折る、子供用パスタは用意もしていない。
「酒は?」
「定番だが今日はワインだな。当日までにウオッカやテキーラなんかも少しずつ用意する。自家製はサングリアと梅酒を注文だけした」
今回のフェアは酒と微妙な品を合わせるので、酒を忘れてはいけない。
パスタ祭りには洋酒を合わせるので色々用意するが、サングリアと梅酒のみ自家製を発注したのは理由がある。サングリアはフルーツを漬けたワインであり、梅酒はもう少し酒の種類がバリエーションに富み梅を色んな酒で漬け込んだ物。今回は手に入れ易い物を選んだので一酒ずつしか頼んでないが、余った洋酒で試すつもりなのだ。豊の指導よろしく在庫管理は徹底しているし、免許は持っているので店で出だけならできる。もし好評ならば梅酒祭りを拓くことも可能かもしれない。
この計画を亡くなった叔父さんが聞いたらどう思うだろう? そんな事を思いながら食べ比べてみることにする。
計画を仮決めし、推敲しながら細部調整を進めていく。
以前に訪れた酒屋や醸造所に、クラフトビールや洋酒を受取日指定で注文できるか、金額は幾らくらいなのかを尋ねる。
そんな中で意外な話を聞く事になった。
「叔父さんも?」
「ああ。君と同じように鮎を分けてくれってね。こういうところは似るんだねぇ」
妙な所で亡くなった叔父さんの知り合いに合った。
釣りキチの中にはアユ釣り舟を個人所有する者も多く、特に元は教職員や公務員だった面々はあまり異動が無い事もあって定年後に購入することがあるようだ。
この日は御隠居の伝手でそう言った人を紹介してもらった。
「もっと早くに教えてくださればよかったのに」
「ワシもタケ坊と忌んだ猛が叔父甥とはこの間知ったからのう。名前の読み方は同じでも漢字は違うし、苗字も微妙に違うのじゃから気が付けというのも酷じゃろう」
この間の猪もだが現金なら幾ら、食事代ならば幾らの話を詰めたのだ。
お互いに無理をしない範囲、あくまでついで。狩猟や仕出しなど何かを要求する時は割増条件で……としておいた。そして猪のソーセージなどジビエ系の保存食は供給が安定しないので積極的に商品とはせず、基本は町内会や農協の催しなどにそのまま流れる事にした。ジビエの処理や注文で保存食を作っても特に儲けなどないが、こうした集まりに顔を出して話を聞くのは面白かったし、その流れで知り合った人々へ結果的な宣伝ができる方が大きかったと言えるだろう。
これもまた『情けは人の為ならず』だろうか。
「へえ。やっっぱり叔父さんは一人でやってたのか」
「みたいだよ。夏祭りとか収穫祭みたいな時だけ知り合いに頼んでたらしい」
ちょうど豊も来る日で、この話が弾んだ。
当時を知る人に話を聞けたのは大きかった。昭和の時代は今より人通りが多かったらしいが、それでも平成に入ってからは見込みよりも人が減ったのが大きいらしい。昔に導入した高価な調理器具の返済や店舗を補修したりと費用がかさむこともあり、気軽に楽しくやる為に一人だけで店を回していたらしいのだ。
要するに当時も一人なら黒字で、バイトはともかく本格的に誰か入れる余裕はなかったということだろう。
「となると上手く行っても人を雇うのは難しいってことか?」
「どうだろうな? 倉庫兼仮眠室だけ存在してる二階部分を改装して、ちゃんとした住居にするか古民家カフェみたいにするか悩んでたらしいから、貯金はそれなりにあったと思うよ。この店自体が担保には難しい場所だしな」
実に生々しい話で、さっさとこの話題は終わらせることにする。
実際の話、健は遺産分けで店を指定しただけで、他の者は扱い易い金銭や物を指定していたはずだ。今思えばその中には改装費用や、場合によっては新しい機材の代金。もしかしたら良い銘柄の酒やアンティークの器か何かもあった『かも』しれない。もちろんそこまで大層な品は存在しないだろうし、金も改装費用の頭金くらいだろう。
健が受け取ったのは店だけだし、他人に渡った物を勘定しても意味がないので忘れる事にした。
「どのみち俺の腕とお前のアイデア次第だろうな。この辺の開発計画も聞けたけど玉虫色らしいし、地道に頑張るとするよ」
「それが一番だろ。頑張れば美琴ちゃんのバイト代くらいは出せるだろうぜ」
ここで重要なのは一人でも十分に回せる店構えだったということだ。
叔父さんの時代から住民が減っているのは確かだが、その当時はそれほど集客努力をしたわけでも傾向と対策を建てたわけでもない。減っていく人々に合わせて貯金しながら色々と考え、イザ今から何かしようという所で亡くなったようなのだ。店を他に移すという計画で無かった以上は、それなりに採算が見込めるという事だろう。
それを知る由もないが、どのみち人間も時代も違うのだから流用は難しいだろう。
「まあな。どっちかといえば美琴に古民家カフェの話を知られる方が怖いよ」
「ははっ。叔父さんの遺志だとか言って乗り込んで来そうだしな」
そういって健は茹で終えた麺を小さく小分けしていった。
本来ならばフライパンで野菜を炒めながら味を付けるところだが、今回は色々なソースを試すために小分けしていく。普通はやらないが蕎麦のように浸して味見することにした。ソースの種類は豊富だし、お通し用・小鉢用・大皿と分量を見分けておかねばならないからだ。麺は普通のスパゲッティだが、当日は形状や味の差という意味で穴の開いたペンネと芋を使ったニョッキも用意する。ソースはトマトソースやクリームソ-スなどのソースベースを用意して、フライパンや片手鍋で追加の味を足してソースを完成させる方式だ。
もちろん麺を半分に折る、子供用パスタは用意もしていない。
「酒は?」
「定番だが今日はワインだな。当日までにウオッカやテキーラなんかも少しずつ用意する。自家製はサングリアと梅酒を注文だけした」
今回のフェアは酒と微妙な品を合わせるので、酒を忘れてはいけない。
パスタ祭りには洋酒を合わせるので色々用意するが、サングリアと梅酒のみ自家製を発注したのは理由がある。サングリアはフルーツを漬けたワインであり、梅酒はもう少し酒の種類がバリエーションに富み梅を色んな酒で漬け込んだ物。今回は手に入れ易い物を選んだので一酒ずつしか頼んでないが、余った洋酒で試すつもりなのだ。豊の指導よろしく在庫管理は徹底しているし、免許は持っているので店で出だけならできる。もし好評ならば梅酒祭りを拓くことも可能かもしれない。
この計画を亡くなった叔父さんが聞いたらどう思うだろう? そんな事を思いながら食べ比べてみることにする。
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