流行らない居酒屋の話【完】

流水斎

文字の大きさ
25 / 51
黒字への道

そして動き出す


 計画を仮決めし、推敲しながら細部調整を進めていく。

以前に訪れた酒屋や醸造所に、クラフトビールや洋酒を受取日指定で注文できるか、金額は幾らくらいなのかを尋ねる。

そんな中で意外な話を聞く事になった。

「叔父さんも?」

「ああ。君と同じように鮎を分けてくれってね。こういうところは似るんだねぇ」

 妙な所で亡くなった叔父さんの知り合いに合った。

釣りキチの中にはアユ釣り舟を個人所有する者も多く、特に元は教職員や公務員だった面々はあまり異動が無い事もあって定年後に購入することがあるようだ。

この日は御隠居の伝手でそう言った人を紹介してもらった。

「もっと早くに教えてくださればよかったのに」

「ワシもタケ坊と忌んだ猛が叔父甥とはこの間知ったからのう。名前の読み方は同じでも漢字は違うし、苗字も微妙に違うのじゃから気が付けというのも酷じゃろう」

 この間の猪もだが現金なら幾ら、食事代ならば幾らの話を詰めたのだ。

お互いに無理をしない範囲、あくまでついで。狩猟や仕出しなど何かを要求する時は割増条件で……としておいた。そして猪のソーセージなどジビエ系の保存食は供給が安定しないので積極的に商品とはせず、基本は町内会や農協の催しなどにそのまま流れる事にした。ジビエの処理や注文で保存食を作っても特に儲けなどないが、こうした集まりに顔を出して話を聞くのは面白かったし、その流れで知り合った人々へ結果的な宣伝ができる方が大きかったと言えるだろう。

これもまた『情けは人の為ならず』だろうか。

「へえ。やっっぱり叔父さんは一人でやってたのか」

「みたいだよ。夏祭りとか収穫祭みたいな時だけ知り合いに頼んでたらしい」

 ちょうど豊も来る日で、この話が弾んだ。

当時を知る人に話を聞けたのは大きかった。昭和の時代は今より人通りが多かったらしいが、それでも平成に入ってからは見込みよりも人が減ったのが大きいらしい。昔に導入した高価な調理器具の返済や店舗を補修したりと費用がかさむこともあり、気軽に楽しくやる為に一人だけで店を回していたらしいのだ。

要するに当時も一人なら黒字で、バイトはともかく本格的に誰か入れる余裕はなかったということだろう。

「となると上手く行っても人を雇うのは難しいってことか?」

「どうだろうな? 倉庫兼仮眠室だけ存在してる二階部分を改装して、ちゃんとした住居にするか古民家カフェみたいにするか悩んでたらしいから、貯金はそれなりにあったと思うよ。この店自体が担保には難しい場所だしな」

 実に生々しい話で、さっさとこの話題は終わらせることにする。

実際の話、健は遺産分けで店を指定しただけで、他の者は扱い易い金銭や物を指定していたはずだ。今思えばその中には改装費用や、場合によっては新しい機材の代金。もしかしたら良い銘柄の酒やアンティークの器か何かもあった『かも』しれない。もちろんそこまで大層な品は存在しないだろうし、金も改装費用の頭金くらいだろう。

健が受け取ったのは店だけだし、他人に渡った物を勘定しても意味がないので忘れる事にした。

「どのみち俺の腕とお前のアイデア次第だろうな。この辺の開発計画も聞けたけど玉虫色らしいし、地道に頑張るとするよ」

「それが一番だろ。頑張れば美琴ちゃんのバイト代くらいは出せるだろうぜ」

 ここで重要なのは一人でも十分に回せる店構えだったということだ。

叔父さんの時代から住民が減っているのは確かだが、その当時はそれほど集客努力をしたわけでも傾向と対策を建てたわけでもない。減っていく人々に合わせて貯金しながら色々と考え、イザ今から何かしようという所で亡くなったようなのだ。店を他に移すという計画で無かった以上は、それなりに採算が見込めるという事だろう。

それを知る由もないが、どのみち人間も時代も違うのだから流用は難しいだろう。

「まあな。どっちかといえば美琴に古民家カフェの話を知られる方が怖いよ」

「ははっ。叔父さんの遺志だとか言って乗り込んで来そうだしな」

 そういって健は茹で終えた麺を小さく小分けしていった。

本来ならばフライパンで野菜を炒めながら味を付けるところだが、今回は色々なソースを試すために小分けしていく。普通はやらないが蕎麦のように浸して味見することにした。ソースの種類は豊富だし、お通し用・小鉢用・大皿と分量を見分けておかねばならないからだ。麺は普通のスパゲッティだが、当日は形状や味の差という意味で穴の開いたペンネと芋を使ったニョッキも用意する。ソースはトマトソースやクリームソ-スなどのソースベースを用意して、フライパンや片手鍋で追加の味を足してソースを完成させる方式だ。

もちろん麺を半分に折る、子供用パスタは用意もしていない。

「酒は?」

「定番だが今日はワインだな。当日までにウオッカやテキーラなんかも少しずつ用意する。自家製はサングリアと梅酒を注文だけした」

 今回のフェアは酒と微妙な品を合わせるので、酒を忘れてはいけない。

パスタ祭りには洋酒を合わせるので色々用意するが、サングリアと梅酒のみ自家製を発注したのは理由がある。サングリアはフルーツを漬けたワインであり、梅酒はもう少し酒の種類がバリエーションに富み梅を色んな酒で漬け込んだ物。今回は手に入れ易い物を選んだので一酒ずつしか頼んでないが、余った洋酒で試すつもりなのだ。豊の指導よろしく在庫管理は徹底しているし、免許は持っているので店で出だけならできる。もし好評ならば梅酒祭りを拓くことも可能かもしれない。

この計画を亡くなった叔父さんが聞いたらどう思うだろう? そんな事を思いながら食べ比べてみることにする。
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開