流行らない居酒屋の話【完】

流水斎

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黒字への道

変って行くもの


 タイプの違う酒フェアが続くと修正の告知してから食いつきが違った。

パスタとサラダの時は口では『へー』とか言ってる割りに無関心に見えたのが、パスタと洋酒・サラダとクラフトビールに変えてからしょっちゅう質問が来る。宣伝用のポップを新調してパスタとワイン、そして枝豆へビールを合わせた絵を載せたことも影響しているかもしれない。

やはり人間、自分の興味ある物には露骨なのである。

「兄貴。お酒残ったら少しもらえない? みんなで試飲してみたいんだけど」

「梅酒にする予定だから少しだぞ」

 無事に美琴も成人を迎えてプチ贅沢。

この店で誕生日会をやるという話を嫌だとは健も言えなかった。貸し切りでもなく宣伝を兼ねた友人連れで女子会をやってくれてるので、文句を言い難いというのもある。

これが身内を抱える長所と短所であり、受け入れるしかあるまい。

「最初は一皿280円の店でオーダーバイキングした方がコスパ良いって話だったんですけどね。3つ毎にセットメニューで安くなると聞いて、なら同じじゃんって話になったんですよ~」

「ええと……好みで修正してもらえるって話じゃないですか。そういうの大事だと思います!」

 友人だからだろう、あけすけに物を言うのは他の女性陣も変わらない。

佐官屋の娘さんと花屋の娘さんだそうで、料理の道がダメだったら二人合わせてプチ造園業のパートナー(意味深)だと笑い合っていた。どうして居酒屋の入り口や、狭苦しい二階の方を見ているのだろうか。

それはともかく料理の話に戻ろう。

「メニューの豊富さはあちらの方がダントツだと思いますけど、そう言っていただけるとありがたいですね」

「身の程を弁えた良い反応かと思います。個性を活かせばよい店だと思いますわよ」

 この間の玄江さんも来ていたが、相変わらず歯に衣を着せない。

悪い点も良い点も隠さずに平然と口にする奇妙な人である。そういえば素敵なテラス席でもあれば人が来るかもと言っていた気がする。他のアイデアも美琴推しであった事を考えれば、『あそこの二人』が以前からそういうことをしてみたいと思っているのかもしれない。

頼むのも悪くないかもしれないが、そういうのは健が検討し自分の考えとしてからであろう。

「それはどうも。お通しのジェノヴェーゼ二種です」

「おっ。緑の方と茶色の方が両方揃ってますねー」

「日本だと緑の方だけが有名なのがおかしいですよねっ」

 料理学校の生徒だからか、基本はちゃんと知っているようだ。

日本でジェノヴェーゼというと、緑色のペスト・ジェノヴェーゼの方が有名になってしまった。そういえばイギリスで日本式のカレー、特に揚げ物を載せたカレーを全てカツ・カレーと呼ぶのも定着したそうだし一度広まるとそうなってしまうのだろう(肉はともかく揚げ豆腐でもカツ・カレーらしいのが解せぬ)。

ともあれ健は小皿に盛ったお試用のパスタを示した。

「こちらのお通しは御予約の方にはお題は頂きません。それではご注文が決まりましたら、よろしくお願いします」

 そう言って下がるのだが彼女たちの会話がいつもの客と違う気がした。

純粋に食べるための興味よりも、メニューの造りやお品書きの内容からどんな修正をするのか想像しているのではないかと思うのは健の気のせいだろうか?

実際にどうるかという経験則を目と舌で味わおうとするかのようだ。

「これがお通しってことはオススメは放っといたらパスタですよね。あんまり見たことないのを頼むとして、どうしましょう……」

「そういう時は注文を盗めばよいのですわ。アレをお願いできます? ってね」

「温野菜とチーズですね? あいよ!」

 変わった物を頼もうとする子に対し、玄江さんは端的に行動する。

常連の女性客が頼んでるいつものを指さしたわけだが、単語の判らない場所に行ったら良くやるやつだ。健は溶かしたチーズを小鉢に用意して、他にもう一種類ほど辛めのソースを用意しながら、妙な注文が来た時に断るべきかを悩んだ。常連だろうが知り合いだろうが線引きは重要だが、それこそ簡単な修正だと断るのもなんだろう。

そんな中でふと質問が出されたのである。

「あの、すいません。この和風マッシュポテトってなんですか?」

「うちで出してるコロッケには和風出汁を入れて甘めに仕上げてるんですが、それの衣が無いバージョンですね。サラダ・フェアに先行して少しだけ出してます」

「甘いサラダいいですね! じゃっ、それとコロッケを! 衣があるかどうかで比べちゃいましょー!」

 こうしてみていると三人の性格が判って来る。

花屋の娘さんはリストを眺めて検討するのは好きだが決断力が無い。逆に佐官屋の娘さんは何でも試してみないとすまないタイプ。玄江さんはお姉さんタイプで何のかんのと面倒見が良いのかもしれない。美琴が妙な事にこだわるタイプなので合わせればバランスが良いのだろう。

そんな美琴が関心を持つのはこの場に無い料理であった。

(兄貴。HPのポテト祭りの欄にあったシリシリ風って作れない?)

(できなくはないが際限無くなるので人前ではやってない。お客さんが居なければ別だがな。こんど自分で作れ。ピーラーなら貸すぞ)

 さすがに弁えていたのか、注文外の注文は小声で話しかけてきた。

健は他のお客の手前一度断り、誰も居なければ可能だとコッソリ教えておく。注文する時も声高に告げるのではなく念のために呼んでくれと忠告は忘れない。簡単に作成できる物は裏メニューのようなものだが、平常化するとフェアのありがたみがなくなるからだ。そして洋酒のフェアやクラフトビールのフェアで知った酒の内、ボトルをキープするなら酒類の取り寄せが可能な事を告げてこの日の誕生日会への対応は終わった。

四人連れの客も珍しいが、全員女性というのも珍しい経験だった気がする。

「賑やかに成ったわね」

「おかげ様で。指さして申し訳ありませんね。これはお詫びです」

 常連の女性客に詫びを入れつつスタンダードなジェノヴェーゼを持っていく。

肉をワインで煮込んだ茶色いソースが美味しいパスタで、今夜は妹たちの詫びも含めて自腹で白ワインを奢ることにした。まあ一杯400円の原価のみなので安いものである。首傾げる彼女に対し健は詫びの件を告げながら軽く頭を下げた。
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