流行らない居酒屋の話【完】

流水斎

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黒字への道

涼を納める料理


 夏祭りに向けてちょっとした準備を始める。

シャッター商店街の中でも、まだ店の開いている駅前中心で屋台を開くからだ。もちろん来てもらった的屋・地元店が優先なので、健の店はハズレの方になる。

店が少ないので協賛している程度の賑やかしになる。

「で、今のところ漫画肉の具合はどうよ?」

「まずは煮込みで味を固定して形状を試している所だな。1作れたんだが他がいまいちだ」

 原作によっても変わるが、漫画肉にはある程度の種類と応用がある。

食べれば歯形が残るようなタイプはミンチで成型できるので楽だ。健はこれを鶏肉で成型し、片手で食べる物を完成させていた。こちらは色合いも単一なことが多いので、煮込みで味付けすればよいだろうとの見込みである。

一方で他の種類の漫画肉の場合はそうもいかない。

「前も言ったが、肉を巻く方が難航してる」

 例えば年輪の様な輪があり、食べれば筋繊維が付いてくるタイプ。

こちらは肉巻きで作っている最中なのだが、いまいちノリが良くない。スライスした肉を巻き付けても食べれば解け易いし、肉を食べている感がいまいち薄いのだ。

ミンチの方にも言えるがあまり『繋ぎ』が多いと違和感が出るのだ。

「別にこんなもんで良いと思うけどな。漫画肉はロマンだろ?」

「そうなんだが……。今のままだとハンバーグや角煮でも食った方が美味いだろ? 片手で食う方は見た目からして鶏肉だから鶏肉ハンバーグでも良いんだが」

 健は溜息を吐いて用意しておいた二つの試作品を取り出した。

それを豊には試食させず、以前からの試作品の方を食べさせた。確かに漫画肉を食べているようには思えない。

となると興味があるのは、用意された新しい試作品の方だ。

「遠目でいいならこんなもんなんだろうけど、祭りは見たままだからな。……味を気にしないならこっちの外見は問題ない」

「お? 生焼けがある? 豚じゃないにしても……大丈夫か?」

 こちらは健が自ら試食し、一口頬張った後で形状を見せた。

もう一つの試作品を頬張って見せると、今度は漫画肉にカブリついている雰囲気が感じられた。ただし中は焼けてないように見えるがゆえに、健が試食させなかったのだ、味にも問題があるのだろう。ローストビーフくらいの焼き加減にしているとは思うのだが……。

何というか料理としては首を傾げるのであった。

「簡単に作るために煮込んでるから生じゃないよ。これは色を付けて強引に問題を解決したんだ」

「なるほど、赤いソースを作って煮凝りみたいに混ぜ込んだわけだな」

 料理としてはテリーヌの亜流になるだろうか?

山賊焼きで女焼きと呼んでいる手法を使い、一度煮込んでから表面を焼いているという。中からしたたり落ちているのは着色したソースであり、最初の状態では肉を固めておく効果もあるのだろう。

最後にそれをタレで煮凝りにして完成だ。

「冷たいままハムだと思って食べるならこれで問題ない。新たらしい問題としては、煮凝りだから温めると……この通りだ」

「んー。なんだか不格好だな。隙間が空く分だけ少し問題があるか。まあスライスを巻いてるだけよりマシじゃあるが」

 食べ比べてみるが、断面を間近で見ると確かに歪だ。

しかも温めても肉自体はともかく、タレが赤いので依然として全体が赤いままだ。

ダラダラと滴り落ちるのもあまり良くない。

「後はもう温めても粘着性のあるモノを繋ぎに使うしかないな。下手をするとチーズ味の肉に成ってしまうのが難点だが」

「なら冷たい方で良いじゃない。氷を並べてマンモスの肉のローストビーフってイメージで売れば良いでしょ。あれは冷製で食べることもあるんだし。その上で温める方の研究続けたら? 冷製の方は納涼フェアにも出せるでしょ」

 解決方法は幾つかあるのが、それぞれに欠点があるのがもどかしい。

そう思って悩む二人に美琴が声を掛けて来た。これまで黙っていたのだが、口を挟む気になったようだ。キャッチコピーを付けるだけでは微妙だが、氷もあれば違和感が無くなるではないか。

普段は味付けで二種類を用意しているので、温製・冷製で別け、まずは冷製という訳だ。

「そいつは名案だ! 焼きたてというイメージじゃなくて、保存食にしちまうのか!」

「……確かにその手しかないな。俺は暖かい方のソースを考えてみるよ」

 妥協ではなく解決策となり、一歩進めたと言える。

それなら簡単だという美琴に対し、アイデアマンである豊は納得したようだ。一方で健は一度試して失敗したのか、肉の味のする『繋ぎ』を試すことに成った。ただ温めても粘着性が残り、美味しい物となると難しい。

おそらくスパイスか何かで上書きすることになるだろう。

「ひとまず肉の方はこんなもんだろ? 菓子はどうなってる?」

「俺の方は一通り回って来たから集められた。ポン菓子の味付けは、砂糖か水飴くらいしか思いつかなかったがな」

「こっちはカットフルーツのゼリー寄せね。納涼フェア仕様で用意したのが使えるから」

 菓子類は安定して人を呼ぶことができる。

ポン菓子に至ってはそのまま町内会のスペースにも置いて良いとの事だ。ゼリー寄せはそのままパインやオレンジをカットして、ゼリーで閉じ込めた一品である。こちらは冷たさとのど越し重視で、暑い夏の夜にはピッタリだろう。

スーパーで買えるとも言えるが、それを行ったら祭の料理も同じで、後は味の勝負である。

「……でやっぱり梅酒を使うのは駄目? 何なら梅だけでも」

「ダメダメ。味の深みは足りないしいぜ。納涼フェアで試飲用で販売するとしても、来年に向けた発注用ってとこかな」

 この間、豊が試飲した梅酒はやはり微妙であった。

六月頭に余った酒に漬け込んだばかりだ。七月末の夏祭りに間に合うはずがない。一週間後の八月頭であっても怪しい所だろう。もっとも、満を持するなら数年は漬けたいし……。

そこまでやるならもっと味の相性が良い酒にするべきだろう。

「そっかー。フルーツが一品足せると思ったんだけどな」

「そんなに欲しいならクエン酸を使った梅ジュースのならどうよ? あれならどっかで売ってるだろ」

「最悪、自家製梅酒くらいは通販でも売ってるとは思うが……。道の駅で良ければ探してみるよ」

 美琴は夏祭りには改訂版が間に合わないだろうことを悟った。

おそらくは納涼フェアに完成品を出すだろうなと思って、溜息を吐いたのである。
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