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黒字への道
弁当への視点
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十月頭のフェアよりも先にやるべきことがある。
美琴が本格的にアルバイトや意見出しに協力することに成ったので、代価としてそのやりたい事……今は弁当に関して色々と支援して行かないといけない。
昼間営業をさせないからこそ、弁当へ真摯に取り組む必要があるのだ。
「定番は単品の主人公的なおかずをメインに、安くてボリュームある弁当と、ワンコインよりも安価に抑えて栄養価のある弁当だな」
「ジャンクだけどすっごい安さね」
豊が参考として用意した弁当は非常に極端な例だった。
ハンバーグ弁当が300円だと主菜はもちろんハンバーグで、副総菜やキャベツが少々とマッシュポテトが付けばよい方。他にも唐揚げ弁当や焼き肉弁当もあるが、似たようなものだという。
これに比べれば440円でバランスよく入った弁当は、インパクトが欠けると言わざるを得ない。
「まあ当然こっちに目が行くよな。人気があるのは当然こっちだし間違っちゃいない。ちなみにもう片方は地方の商店街殺しじゃあるが弁当としてはいまいちだ」
「商店街殺し?」
疑問に対し豊が見せたのは、栄養価や納入会社まで明示された資料だ。
専門の栄養士を使って全国区で管理し、あらゆる素材や調味料を何処で調達したのか一目瞭然である。
ではその、『地方として』の問題に移ろう。
「これが何か凄いの?」
「そりゃ凄いさ。何しろ契約している納入会社は全て大手。そこから仕入れるという事は途切れる事が無いし、これだけの量だと大量仕入れで安くなる。真面目にこの弁当を作ったらワンコイン近いぜ。何が酷いかというと、地方商店とは絶対に契約しないんだ」
「安くなるなら当然の……」
豊の言葉に健は何処から仕入れているかを思い出して青くなった。
漁師や蔵元と直接交渉した方が良い品を安く手に入れられるというのもあるが、この会社はそういった場所と絶対に交渉しない。その上で同じ商圏で同じ様な会社に対して、圧倒的に安い値段で営業を掛けるのだ。地方の弁当屋や社内食堂が500円近く掛かる弁当を、全国区の店は440円で販売する。勝てるはずがないではないか。その結果、地方の弁当屋は潰れて、そこが仕入れている漁師や蔵元は困ることになる。
地方にある弁当屋や社内食堂の類が、全て潰れたら蔵元だろうと漁師だろうと食ってはいけない。
「まあこっちの話はひとまず置いておこうや。こういう弁当屋も個人で持ち込む弁当が増えたり、移動販売やコンビニに押されてるからな」
「なら脅かさないでよ……」
厳しい現実を見せて置いて、豊は実際の内容に入ることにしたようだ。
美琴が考えているのはこちらに近い事を見抜いて、勝負しても勝てない事を悟らせたのだろう。
重要なのは確実に売れる魅力を用意する事だ。
「こっちの移動販売に関しては、大手に負けそうな地方の弁当屋が良くやる手だな。大手だったり妙な流通だったり差はあるが、大量を前提に物凄く安価に手に入れて、代わりに品目を絞る。今回のは極端だが、サイドはあっても二・三種ってとこか」
家族経営だから人件費や輸送費は必要以上に掛からない。
だからメインの食材にだけ極力コストを割り振り、場合によっては味付けも絞って労力も抑えているのだろう。この店の小鉢は400円だが、味が劣ろうとも税込み300円でなら買っていく者も多いだろう。実際、ハンバーグのサイズは割りと大きいし味付けも悪くは無いように思える。
では、できるだけサイズを落さずにどうやって値段を下げるのか?
「お前さんならどんな味付けにする?」
「そうだな。ハンバーグは照り焼き、またはおろし。カツ系はソースカツかガーリック風味だけ。サイドはキンピラごぼうとか簡単な天麩羅くらいか? 飯もこれだけ入ってるなら十分に満足できるだろう」
「味気ないけど300円ならそんなもんか」
茹で卵や目玉焼きもあるだろうが、それほどサイドは多くないだろう。
どうしても主采とライスに比重が取られてしまう為、それほどおかずに予算が割けはしない。メインだって季節によっては魚も選べるかもしれないが、近頃は冷凍込みでオールシーズンになっている鯖の味噌煮やらカツの種類をハムやら何やら変えるくらいである。
造れない訳ではないが、可能な物は少なくなるだろう。
「と、まあ脅しはしたが、このレベルの物を『適切な場所』に持って行けば間違いなく売れるぜ。ライバルさえいなきゃコレと勝負する必要はないしよ」
「そうなんだが……どうしても意識してしまうな」
「……」
あまりのインパクトにもはや黙るしかない。
そこで豊は笑って、美琴の頭にデコピンを入れて笑って道を示した。
別に心を折りたいのではなく、現実を見せただけなのだから。
「あいた!?」
「何を黄昏てるんだ? こいつに対抗できるようにするのが美琴ちゃんの役目だろ? 要するに、この値段設定を参考に高くても売れる物を考えるか、逆にボリュームを少なくしても売れる品を考えればいいのさ。それこそコレって男性視点しか入ってねえしな」
「ああ、そうか。確かにこれを買うのは男が多いだろうな」
主に働く男性用のボリューム弁当である。
会社や工場の差はあれこの手の料理を好むのは男性が基本だ。その筋が多いのでメインに据えるとしても、対抗する料理を調整するのは健で良い。それだけならば同じような物を工夫して、違う場所に持って行けば良いのである。それこそ目玉焼きや茹で卵の形状を変化させ、ちょっとした工夫を凝らすだけでも大違いである。
男性のみのままならソレ用の工夫を、そうでないなら女性用の工夫を積めばよい。
「うー。判ったわよ! ……ところで豊さんならどんな工夫を考えるの?」
「俺か? 俺は料理できねえし……そうだな。豚汁かコーヒーを100円、セットでなら50円で売るな。儲けは取れなくても弁当の方を目当てに買いに来てくれる」
これもまた考え方の差という奴だろう。
豊はコンサルであって料理人ではない。料理人ではないからこそ、こんな考え方の突破口があるのだ。美琴に求められるのは、女性ならではの視点であろう。
十月頭のフェアよりも先にやるべきことがある。
美琴が本格的にアルバイトや意見出しに協力することに成ったので、代価としてそのやりたい事……今は弁当に関して色々と支援して行かないといけない。
昼間営業をさせないからこそ、弁当へ真摯に取り組む必要があるのだ。
「定番は単品の主人公的なおかずをメインに、安くてボリュームある弁当と、ワンコインよりも安価に抑えて栄養価のある弁当だな」
「ジャンクだけどすっごい安さね」
豊が参考として用意した弁当は非常に極端な例だった。
ハンバーグ弁当が300円だと主菜はもちろんハンバーグで、副総菜やキャベツが少々とマッシュポテトが付けばよい方。他にも唐揚げ弁当や焼き肉弁当もあるが、似たようなものだという。
これに比べれば440円でバランスよく入った弁当は、インパクトが欠けると言わざるを得ない。
「まあ当然こっちに目が行くよな。人気があるのは当然こっちだし間違っちゃいない。ちなみにもう片方は地方の商店街殺しじゃあるが弁当としてはいまいちだ」
「商店街殺し?」
疑問に対し豊が見せたのは、栄養価や納入会社まで明示された資料だ。
専門の栄養士を使って全国区で管理し、あらゆる素材や調味料を何処で調達したのか一目瞭然である。
ではその、『地方として』の問題に移ろう。
「これが何か凄いの?」
「そりゃ凄いさ。何しろ契約している納入会社は全て大手。そこから仕入れるという事は途切れる事が無いし、これだけの量だと大量仕入れで安くなる。真面目にこの弁当を作ったらワンコイン近いぜ。何が酷いかというと、地方商店とは絶対に契約しないんだ」
「安くなるなら当然の……」
豊の言葉に健は何処から仕入れているかを思い出して青くなった。
漁師や蔵元と直接交渉した方が良い品を安く手に入れられるというのもあるが、この会社はそういった場所と絶対に交渉しない。その上で同じ商圏で同じ様な会社に対して、圧倒的に安い値段で営業を掛けるのだ。地方の弁当屋や社内食堂が500円近く掛かる弁当を、全国区の店は440円で販売する。勝てるはずがないではないか。その結果、地方の弁当屋は潰れて、そこが仕入れている漁師や蔵元は困ることになる。
地方にある弁当屋や社内食堂の類が、全て潰れたら蔵元だろうと漁師だろうと食ってはいけない。
「まあこっちの話はひとまず置いておこうや。こういう弁当屋も個人で持ち込む弁当が増えたり、移動販売やコンビニに押されてるからな」
「なら脅かさないでよ……」
厳しい現実を見せて置いて、豊は実際の内容に入ることにしたようだ。
美琴が考えているのはこちらに近い事を見抜いて、勝負しても勝てない事を悟らせたのだろう。
重要なのは確実に売れる魅力を用意する事だ。
「こっちの移動販売に関しては、大手に負けそうな地方の弁当屋が良くやる手だな。大手だったり妙な流通だったり差はあるが、大量を前提に物凄く安価に手に入れて、代わりに品目を絞る。今回のは極端だが、サイドはあっても二・三種ってとこか」
家族経営だから人件費や輸送費は必要以上に掛からない。
だからメインの食材にだけ極力コストを割り振り、場合によっては味付けも絞って労力も抑えているのだろう。この店の小鉢は400円だが、味が劣ろうとも税込み300円でなら買っていく者も多いだろう。実際、ハンバーグのサイズは割りと大きいし味付けも悪くは無いように思える。
では、できるだけサイズを落さずにどうやって値段を下げるのか?
「お前さんならどんな味付けにする?」
「そうだな。ハンバーグは照り焼き、またはおろし。カツ系はソースカツかガーリック風味だけ。サイドはキンピラごぼうとか簡単な天麩羅くらいか? 飯もこれだけ入ってるなら十分に満足できるだろう」
「味気ないけど300円ならそんなもんか」
茹で卵や目玉焼きもあるだろうが、それほどサイドは多くないだろう。
どうしても主采とライスに比重が取られてしまう為、それほどおかずに予算が割けはしない。メインだって季節によっては魚も選べるかもしれないが、近頃は冷凍込みでオールシーズンになっている鯖の味噌煮やらカツの種類をハムやら何やら変えるくらいである。
造れない訳ではないが、可能な物は少なくなるだろう。
「と、まあ脅しはしたが、このレベルの物を『適切な場所』に持って行けば間違いなく売れるぜ。ライバルさえいなきゃコレと勝負する必要はないしよ」
「そうなんだが……どうしても意識してしまうな」
「……」
あまりのインパクトにもはや黙るしかない。
そこで豊は笑って、美琴の頭にデコピンを入れて笑って道を示した。
別に心を折りたいのではなく、現実を見せただけなのだから。
「あいた!?」
「何を黄昏てるんだ? こいつに対抗できるようにするのが美琴ちゃんの役目だろ? 要するに、この値段設定を参考に高くても売れる物を考えるか、逆にボリュームを少なくしても売れる品を考えればいいのさ。それこそコレって男性視点しか入ってねえしな」
「ああ、そうか。確かにこれを買うのは男が多いだろうな」
主に働く男性用のボリューム弁当である。
会社や工場の差はあれこの手の料理を好むのは男性が基本だ。その筋が多いのでメインに据えるとしても、対抗する料理を調整するのは健で良い。それだけならば同じような物を工夫して、違う場所に持って行けば良いのである。それこそ目玉焼きや茹で卵の形状を変化させ、ちょっとした工夫を凝らすだけでも大違いである。
男性のみのままならソレ用の工夫を、そうでないなら女性用の工夫を積めばよい。
「うー。判ったわよ! ……ところで豊さんならどんな工夫を考えるの?」
「俺か? 俺は料理できねえし……そうだな。豚汁かコーヒーを100円、セットでなら50円で売るな。儲けは取れなくても弁当の方を目当てに買いに来てくれる」
これもまた考え方の差という奴だろう。
豊はコンサルであって料理人ではない。料理人ではないからこそ、こんな考え方の突破口があるのだ。美琴に求められるのは、女性ならではの視点であろう。
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