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黒字への道
本来の悩み、秋の悩み
●
弁当は幾つか試作し、組み合わせや形状を洗練する作業に入った。
ここからは美琴が努力し、納得する作業なので健はすることがない。結果的に本来の仕事である十月のフェアに向けて動き出すことになる。
もっとも本来の仕事はこちらなのではあるが。
「へえ。意外と善戦してるなあ」
「しかし売れるのか、というより満足可能なのか?」
秋の幸フェアの料理を試食する豊に健は首をひねった。
美琴が用意している弁当はいずれも軽く、例えばガーリック風味の味付けなどは排除されているのだ。パンチ力があり引き付けることのできる味を最初から外しても大丈夫なのかと健としては不安なのである。
この辺りは豊が男性支店よりも、コンサルとして見ている差だろう。
「別に問題ねえだろ。この場合は『ちょい足し』という『追加の選択肢』であるってことなんだよ。自分の弁当としてはそこそこ満足している状態で、付け足しを狙うんだ。悪く無いと思うね」
「そうは言うがなあ……」
不安がる健に豊は仕方なく簡単な例を示すことにした。
半端に切られたバゲットを勝手知ったる場所だとばかりに取り出すと、試食に合わせるために用意したコーヒーの脇に置いた。
これで主食とコーヒーのセットは自前で揃えた事になる。
「いいか? 例えば奥さんから渡された小遣い2万円の旦那が、節約の為にコンビニで買ったパン二つとコーヒーで済ませると思ったとする。この段階で300円ちょいだ。用意した弁当とコーヒーのセットもそのくらい」
「まあそれは判るよ」
ボリューム弁当とコーヒー・豚汁のセットは350円になる計算だ。
仮にコーヒーを家からポットに入れて持ってくれば、300円にもできるし、豚汁の方を買うという決断もできるわけだ。
豊から案を出されて、ボリュームだけでなく味の方も整える事には成功した。
「だが飯を自分で箱に詰めて持ってくれば、ちょい足しのおかずと豚汁の250円で済む。最初から決断はしているし、ソレで完成するように計算してるんだ。もちろん簡単なおかずも自分で詰めたっていいよな。昨夜の残り物とか」
豊はバゲットの上に、健が仕込みを作る時に出した手屑を載せた。
肉や野菜の切り落としだが、量を載せればそれなりのおかずになる。そもそもコレを使ってお通しを作ることもあるので、味だって整っているはずだ。
このまま食べれなくもないし、チーズあ何かあれば申し分ない。
「これがリーマンの旦那じゃなくて忙しいOLならもうちょっとマシなのを自作できるかもな。サンドイッチなら手間いらずだ。そこにハンバーグなりコロッケが追加できるなら問題なんかねえよ」
ハムとレタスを挟み、マヨネーズで簡単なサンドイッチを用意する。
そして美琴が用意するクリケットや、健が用意するハンバーグなり唐揚げを追加で並べるのだ。最低限でしかなかった料理が、立派な弁当に早変わり。もしこの計画を立てた時点で、パンチ力が足りなければ自分で追加して用意するはずであると豊は言うのだ。マヨネーズだけではなく辛子やチーズを入れるとか、ツナの缶詰を開けて入れるなど幾つかの例を付け足しておいた。
最初から満足した状態で、より満足する為に購入するから問題ないのだと。
「ま、こういう感じで自分の計画を修正する為のツールが『ちょい足し』需要ってことさ。本来は物足りない既存のメニューを買って、付け足す物なんだがよ。普通の品に加えて、ちょい足し『も』あるのが重要なんだ」
最初から変化球では狙いを外した時が怖い。
だからこそ直球である普通のボリューム弁当も用意した上で、おかずだけを安価に用意するちょい足し『も』あるというラインナップなのだ。外したとしても『ボリューム弁当だけの方が利益が多かったはず』程度に収まるのが大きい。
暫く試し需要が多ければ増やし、全くなければ減らせばよいだけの事だ。
「ちょい足しにはちょい足しのライバルが居るけどな。ひとまずお前さんは自前の心配をしとくだけでいいと思うよ」
「判ったような判らないような……まあ、納得することにしとくよ」
対抗馬はコンビニの揚げ物などのラインナップになる。
お握り二つと揚げ物、あるいは大き目のお握りと揚げ物の組み合わせで勝っていく者が多い。夏場であれば蕎麦やウドンとの組み合わせもあるだろう。そういった需要と殴り合うには、職場の近くだとか味や値段が良いなどの勝負になるので一概には言えなくなってしまうのだ。健が口を出す段階ではないと言えるだろう。そして健には、健の勝負が待っている。
十月頭に成ったことで本格的に秋のシーズンだ。豊富なので『秋の幸フェア』としたが、豊富なだけにインパクトを与えなければフェアにした意味がない。美琴に関わって居られる余裕はないだろう。
「判ってるよ。その為に用意したんだ」
そこにあったのは栗の他、無数のキノコ類だ。
魚介類に比べて事前に準備し易く、焼いても良し似ても良しと扱い易い。これに九月から仕入れているサツマイモを含めれば秋の味覚としてのイメージは十分である。その上で仕入れ易い魚介を用意すれば、食材という意味では問題ないだろう。旬の写った海老からキノコに入れ替えたアヒージョでビールを一杯。あるいはホイル焼きで蒸し焼きにして、出汁を入れた酢醤油を掛けて日本酒というのも良いだろう。もちろんバター焼きや酒蒸しというのも良いだろう。そういう意味では二回目の旬が訪れるアサリを忘れることはできない。
普段はメインの肉類を差し置いてコレなのだ、秋の味覚がいかに豊富か判ろうものである。
「問題は……」
「主役に何を据えるかだな」
様々な食材が一斉に旬を迎えるからこそ、何をメインにするかが問題だ。
どれでも良いし客の方も好きな物を注文するだろう。だがそれはそれとして、ホームページやパンフレットに主役として載せる効果は捨てがたい。あれも旬、これも旬、旬はまだだけど出回り始めた、逆にまだ出回ってるけど旬は終わった。そんな悩みがあるのが秋なのである。
これが家庭ならば『鍋でいーじゃん』となるが、ここは居酒屋なのである。
弁当は幾つか試作し、組み合わせや形状を洗練する作業に入った。
ここからは美琴が努力し、納得する作業なので健はすることがない。結果的に本来の仕事である十月のフェアに向けて動き出すことになる。
もっとも本来の仕事はこちらなのではあるが。
「へえ。意外と善戦してるなあ」
「しかし売れるのか、というより満足可能なのか?」
秋の幸フェアの料理を試食する豊に健は首をひねった。
美琴が用意している弁当はいずれも軽く、例えばガーリック風味の味付けなどは排除されているのだ。パンチ力があり引き付けることのできる味を最初から外しても大丈夫なのかと健としては不安なのである。
この辺りは豊が男性支店よりも、コンサルとして見ている差だろう。
「別に問題ねえだろ。この場合は『ちょい足し』という『追加の選択肢』であるってことなんだよ。自分の弁当としてはそこそこ満足している状態で、付け足しを狙うんだ。悪く無いと思うね」
「そうは言うがなあ……」
不安がる健に豊は仕方なく簡単な例を示すことにした。
半端に切られたバゲットを勝手知ったる場所だとばかりに取り出すと、試食に合わせるために用意したコーヒーの脇に置いた。
これで主食とコーヒーのセットは自前で揃えた事になる。
「いいか? 例えば奥さんから渡された小遣い2万円の旦那が、節約の為にコンビニで買ったパン二つとコーヒーで済ませると思ったとする。この段階で300円ちょいだ。用意した弁当とコーヒーのセットもそのくらい」
「まあそれは判るよ」
ボリューム弁当とコーヒー・豚汁のセットは350円になる計算だ。
仮にコーヒーを家からポットに入れて持ってくれば、300円にもできるし、豚汁の方を買うという決断もできるわけだ。
豊から案を出されて、ボリュームだけでなく味の方も整える事には成功した。
「だが飯を自分で箱に詰めて持ってくれば、ちょい足しのおかずと豚汁の250円で済む。最初から決断はしているし、ソレで完成するように計算してるんだ。もちろん簡単なおかずも自分で詰めたっていいよな。昨夜の残り物とか」
豊はバゲットの上に、健が仕込みを作る時に出した手屑を載せた。
肉や野菜の切り落としだが、量を載せればそれなりのおかずになる。そもそもコレを使ってお通しを作ることもあるので、味だって整っているはずだ。
このまま食べれなくもないし、チーズあ何かあれば申し分ない。
「これがリーマンの旦那じゃなくて忙しいOLならもうちょっとマシなのを自作できるかもな。サンドイッチなら手間いらずだ。そこにハンバーグなりコロッケが追加できるなら問題なんかねえよ」
ハムとレタスを挟み、マヨネーズで簡単なサンドイッチを用意する。
そして美琴が用意するクリケットや、健が用意するハンバーグなり唐揚げを追加で並べるのだ。最低限でしかなかった料理が、立派な弁当に早変わり。もしこの計画を立てた時点で、パンチ力が足りなければ自分で追加して用意するはずであると豊は言うのだ。マヨネーズだけではなく辛子やチーズを入れるとか、ツナの缶詰を開けて入れるなど幾つかの例を付け足しておいた。
最初から満足した状態で、より満足する為に購入するから問題ないのだと。
「ま、こういう感じで自分の計画を修正する為のツールが『ちょい足し』需要ってことさ。本来は物足りない既存のメニューを買って、付け足す物なんだがよ。普通の品に加えて、ちょい足し『も』あるのが重要なんだ」
最初から変化球では狙いを外した時が怖い。
だからこそ直球である普通のボリューム弁当も用意した上で、おかずだけを安価に用意するちょい足し『も』あるというラインナップなのだ。外したとしても『ボリューム弁当だけの方が利益が多かったはず』程度に収まるのが大きい。
暫く試し需要が多ければ増やし、全くなければ減らせばよいだけの事だ。
「ちょい足しにはちょい足しのライバルが居るけどな。ひとまずお前さんは自前の心配をしとくだけでいいと思うよ」
「判ったような判らないような……まあ、納得することにしとくよ」
対抗馬はコンビニの揚げ物などのラインナップになる。
お握り二つと揚げ物、あるいは大き目のお握りと揚げ物の組み合わせで勝っていく者が多い。夏場であれば蕎麦やウドンとの組み合わせもあるだろう。そういった需要と殴り合うには、職場の近くだとか味や値段が良いなどの勝負になるので一概には言えなくなってしまうのだ。健が口を出す段階ではないと言えるだろう。そして健には、健の勝負が待っている。
十月頭に成ったことで本格的に秋のシーズンだ。豊富なので『秋の幸フェア』としたが、豊富なだけにインパクトを与えなければフェアにした意味がない。美琴に関わって居られる余裕はないだろう。
「判ってるよ。その為に用意したんだ」
そこにあったのは栗の他、無数のキノコ類だ。
魚介類に比べて事前に準備し易く、焼いても良し似ても良しと扱い易い。これに九月から仕入れているサツマイモを含めれば秋の味覚としてのイメージは十分である。その上で仕入れ易い魚介を用意すれば、食材という意味では問題ないだろう。旬の写った海老からキノコに入れ替えたアヒージョでビールを一杯。あるいはホイル焼きで蒸し焼きにして、出汁を入れた酢醤油を掛けて日本酒というのも良いだろう。もちろんバター焼きや酒蒸しというのも良いだろう。そういう意味では二回目の旬が訪れるアサリを忘れることはできない。
普段はメインの肉類を差し置いてコレなのだ、秋の味覚がいかに豊富か判ろうものである。
「問題は……」
「主役に何を据えるかだな」
様々な食材が一斉に旬を迎えるからこそ、何をメインにするかが問題だ。
どれでも良いし客の方も好きな物を注文するだろう。だがそれはそれとして、ホームページやパンフレットに主役として載せる効果は捨てがたい。あれも旬、これも旬、旬はまだだけど出回り始めた、逆にまだ出回ってるけど旬は終わった。そんな悩みがあるのが秋なのである。
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