流行らない居酒屋の話【完】

流水斎

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黒字への道

微速前進2


 杞憂という物は何にでも存在する。

健が心配しているよりもライスはアヒージョに合った。というよりガーリックライスという物が存在する以上、ニンニクをオリーブオイルに入れて煮込むアヒージョにライスが合わないわけではないのである。

そのまま食べると脂っこ過ぎだが、酒があれば問題は無い。

「本日のお通しは中華風おこげのクオパーです。小鉢で必要な場合は厚さを変えて数枚盛り合わせます」

 クオパーとアン掛け自体はやはり微妙な売れ行きだった。

好きな者は好きだが大量に出る程ではなく、それはそれとして存在感が強いので気にはなるというレベルだ。

話題としては微妙だが消費できているようで何よりだとでもいうべきだろう。

「このおこげお皿みたいですねっ!」

「実際、そういう事も可能だよ。昔のパンを参考にしたんだ。アン掛けにする時に焼きたてが欲しい場合は注文してくれれば用意するよ」

 美琴の友人である佐官屋さんの娘は、むしろ自分で作りたそうだった。

セメントを塗る時の手つきで右左に手を動かしているのが面白い。もしかしたらこのライスで大きな器を作り、何か盛ろうとでも考えたのだろうか?

自分なら何が出来るか思うと程度に健は影響を受け易い方ではあった。

「他にも米粉クレープやライスペーパーもありますよね。作り方はあんまり知りませんけど」

「難易度を考えれば一部だけ普通のクオパーにして、残りは米粉にしてしまう方が楽ですわね」

 他にも美琴の友人たちが色々な意見を言い合う。

それというのも美琴の弁当屋が成功裏に進んでいるので、お祝いを兼ねているとのことだ。そのまま仕事の一環として始めるにせよ、適当な所で見切りをつけてやめるにせよ、貴重な経験になるというのは間違いない。

そう言ったことも踏まえてお祝いしているというわけだ。

「こう考えてみると今時、米なんかなくても良いかと思ったけど色々と面白い使い道ができるわね。昔と比べてパン食の方が楽になってるけど、弁当はともかく食事だと色々考えられるし」

「腹持ちや場持ちも良いですものね」

 今日ばかりは美琴もアルバイトではなくお客様。

手前みその話を続けるが、悲しいかなこの居酒屋には客が少ないからこそ許される。しかしメニューの組み合わせに思考が及ぶあたり、色々と気には成っているのだろう。それが五人も居ない客を増やす為か、それとも自分の弁当屋でもっと売り上げを増やす為か判らないが。

もちろん他の客が迷惑がって居ないから続けているのもあるだろう。

「山賊焼きはクオパーの上にも載せられますが、どうします?」

「載せてくれ」

 カッパさんは今日も相変わらずだが、クオパーの触感を試す気には成ったらしい。

お通しのクオパーに山賊焼きのタレを掛けて食べる気の様だ。間髪入れずに応えた後、まずは素の状態を確かめようと端っこの方をかじっている。

まあ、もろみよりは山賊焼きの甘いタレだよな。

「タレを付けるなら厚い方が。肉を削いで載せるなら薄い方がいいですよ」

「……」

 頷きはするが自分の舌で検証する方がお好みの様だ。

まあ時間潰しというか味比べというものは、他人よりも自分の手間暇を掛けてこそだろう。僅か数人の反応で判断するのもどうかと思うが、おこげの方がアン掛け自体よりも気に入られたのは単に自分の趣味に取り入れられるからだろう。気に入った料理と組み合わせ易いというだけで、バリエーションというのは広がる物だ。

アン掛けはアン掛けで美味しいのだが、イメージが強すぎて限定されてしまうのもあるかもしれない。

「そう言えばコレって甘い物載せても大丈夫なんですかね?」

「ちょっ……それは流石に止めておいた方が良いと思いますわよ」

「アハハ。薄い塩味というか調整した胡麻油で焼いているみたいだから、ちょーっと難しいんじゃないでしょうかね」

 という感じの恐ろしいアイデアも偶に出て来るが……。

意外とこれは的外れでは無かったりする。おこげはニュートラルな味わいなので、どんな物にも合い易いのだ。もちろん油を変えるなど、調整は必要であろうが。

そんな思案を見透かしたのか声が掛かって来る。

「で、どうなのよ兄貴?」

「油は変えるとして、クドイくらい甘い方が合うな。考えてみれば当然だがチョコバーの類にそんなのがあったろ」

「そういえばそんな駄菓子もありましたねー」

 これからも美琴が弁当屋をやる限り定期的に米を購入する事になる。

もちろんクズ枚も仕入れるだろうし、それなりに消費する必要はある。そこで色々試したのだが、その中に甘いものもあった。流石に健も試してはいないが、ポテトチップスのチョコ掛けフレーバーとか最近はコンビニにも売っている。

甘じょっぱい物というのは意外と美味しいものなのだ。

「他にもスープやサラダにも合うぞ。まあ大きなクルトンだから合わない訳もないんだけどな」

「それいいわね。今度少しだけ弁当と一緒に置いてみようかしら。いまスープが売れてるから、案外悪くないかも」

「コンビニでサラダを買っていく人も居ますしね。値段次第という事ではないでしょうか」

 こうして秋の幸フェアは微速前進ながら悪くない滑り出しであった。

それほど客が増えたわけではないが、途切れることなく一人か二人は誰かが来てくれる。忙しい時間帯でもアルバイトに美琴がヘルプに入れば助かる程度の人数でしかない。だが、着実にお役が増えフェアも愉しんでくれているようだ。

そんなことを実感して満足する健であった。
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