女王特権で推しと結婚するなんて、はしたないですか?

sohko3

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応援の功罪

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「赤首昇格、おめでとうございます。ランセル殿」

 

 ランセル殿が赤首になったのは十八歳の時でした。殿堂入りとはいっても特別な式典が催されるわけではなく、いつも通り、剣闘場の事務室にて直接に手渡しするだけです。本来でしたら剣闘大臣や近衛兵も同席しますが、父上が妙な気のまわし方をしたもので、わたくしとランセル殿のふたりきりでした。

 

 

 わたくしは小さな金属板を両手で軽く挟むようにして、胸の高さで差し出します。手が触れてしまうかしらとドキドキしましたが、ランセル殿はわたくしの手を避けてプレートを両手の親指と人差し指で挟むようにして、すっと引き抜くように受け取り、一礼します。はい、残念ですが、彼はいたって紳士的な方なので当然の結果でしょう。

 

 

「ランセル殿は……すごいですね。お強くて……わたくしはグランティスの女王になるというのに……どうしても、戦いが好きにはなれなくて……」

 

 こうして直接にお話し出来たのは久方ぶりだというのに。またしても、わたくしは彼に、泣き言を溢してしまいました。何とも卑怯なのですが、わたくしは彼に思慕の念を抱きながらも、同時に。「外部に情報を漏らせない彼にであれば、自分の弱音をさらけ出せる」。無意識下でそんな風に思ってしまっていたのです。恋い慕う彼にだからこそ、自分の弱みを受け止めて欲しいというような、浅ましい感情もあったかもしれません。

 

 

 ランセル殿はわたくしを見下ろしながら、少し、悲しげな表情でした。思い返せば赤首を授与した時だって、とても嬉しそうとは思えない雰囲気でしたが。

 

 そのまま、静かに、首を横に振りました。そうして、腰に下げていた、小銭の詰まった巾着状の袋を持ち上げて、じゃらじゃらと鳴らします。

 

「ランセル殿……?」

 

 そのお金は、彼の百勝目が確定した時に、観客席から投げられたお祝いの硬貨を係の者が拾い集めたものです。

 

 

 彼が闘うのは、お金のため。口をきけない自分には、他に金銭を得る手段がないから。好き好んで戦っているわけじゃない。言葉はないのに、その時だけは……わたくしは、彼の心の声が聞こえたような気がしました。

 

 

 彼がもう一度頭を下げて退室しても、わたくしは呆然と、その場を動けませんでした。

 

 

 わたくしや彼を応援する全ての観客は、彼の身のこなしや誰も傷つけず闘う姿に見惚れてしまいます。他の剣闘士に類を見ない唯一無二の個性であり、美しい、と。ですが、彼自身はその行為をちっとも望んでいない……そう、知ってしまったから。

 

 でしたら、「わたくし達が彼を応援する」というその行為は、はたして彼にとって有益といえるのでしょうか……?
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