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楓南と恵未

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1. 楓南-1

 初夏のある週末の朝のことだった。
その日も1週間の仕事の疲れを癒すべくゆっくりと朝寝を楽しんだ後、ひとり寝のダブルベッドからノソノソと起きだしていつものようにひとりで簡単にブランチを済ませ、ダイニングキッチンの片付けと掃除をしていた。
 
すると
“ピンポーン”
インターホンのモニターに若い女らしい姿が写っている。
何かのセールスだろうか。掃除の邪魔だから門前払いだ。
「はい。」
楓南ふうなです。」
女は遠慮がちに返事をした。
はぁ?なんだろう?心臓がドキンとした。
「は~い、今開けまぁす。」
玄関まで慌てて走った。
「こんにちは。お久しぶりです。」
「いらっしゃい楓南ちゃん。今日はどうしたの?」
「近くまで来たので寄ってみたんです。」
「よく来てくれたね。うれしいな、入って。」
「はい、お邪魔しまぁす。」
「どうぞ。」
しばらく使うことのなかった来客用のスリッパを出した。

 やって来たのは、半年前から別居している妻恵未えみの妹楓南だった。
恵未に似て頬にできる大きなエクボがチャーミングでちょっとそそられる。いや、かなりそそられる。
妻の妹という関係がとても悩ましい。
これまでも恵未がいる時に何度か遊びに来たことがあったのだが、恵未が別居してからはこれが初めてだ。
休日にわざわざやって来るというのは恵未から何か頼まれたからなのだろうか。
いやいや理由なんてどうでもいい。非モテの俺にとって理由が何であれ若くてきれいな女と親しく話ができるというだけで気分が上がる。

 楓南は部屋の中を見回して言った。
「ふ~ん、お義兄さん案外きれいにしているんですね。」
「うん、恵未がいつ帰ってきても叱られないようにね。恵未はきれい好きで、いつもきちんと片付いていたから。」
「そうなんですね。」
「ところで恵未の様子はどう?」
「最近パートに出るようになったんですよ。だから、もうここに戻るつもりはないのかもしれない。」
「そうか…。」
落胆した気持ちが声に表れる。
「ごめんなさい。」
「いやいや、楓南ちゃんが謝ることじゃないよ、もともと俺が悪いんだし。」

 恵未が家を出た経緯は、会社でのある飲み会の後、俺が悪友に誘われて怪しげなサービスをする店に行ったのが恵未にバレて怒らせたからなのだ。
数年前に一度、酔った勢いでやっぱり友人に誘われて行った別の風俗店でいかがわしいサービスを受けてカッターシャツを口紅で汚してしまい、恵未を怒らせた前歴があった。それで、もう二度とそういう店には立ち寄らないという約束をしてたのに、それを破った意志薄弱な俺に愛想を尽かして実家に戻ったということだ。
潔癖な恵未にとってそういういかがわしいサービスが許せないんだろう。
酒に酔ってタガが外れたせいとは言え、自業自得のひとり住まい中というわけなのだ。

「コーヒーでも淹れるね。」
「私も手伝います。」
楓南もキッチンに入ってきて俺と並んだ。
姉の恵未と背格好はほぼ同じ、つい恵未を思い出してしまう。
「こうして楓南ちゃんと並んでいると、なんだか恵未が戻ってきたような気分だなぁ。」
「ほんとに? 私、姉さんとそっくりだってよく言われるんですよ。」
「そうだね、恵未をちょっと若返らせたような感じかな。」
「ふふふっ、姉さんが戻ってきたようでうれしい?」
「うん、でも楓南ちゃんもいいな。」

久しぶりに若い女性と接したせいで、つい悪乗りして戯言を言ってしまった。
これが楓南の背中を大きく押したのかもしれない。
「ほんとに?」
楓南は背伸びして、俺のほっぺに唇を寄せ、そこにかすかに紅の跡を残した。
「あっ!チョッ!」
俺は驚いて、持っていたカップを落としそうになった。
「フフッ、うれしいな。」
楓南はその日は特に何をするわけでもなく、コーヒーを飲み、楓南が持ってきたケーキを食べて雑談をして帰っていった。

 それから楓南は1週間おき位の頻度で、週末に俺のマンションにやって来るようになった。
話をしたり、アイロン掛けや繕い物など俺の身の回りの世話をして夕方までいて、たまに夕食を共にして帰っていくのだった。

 ある時はこんな事があった。
その日も楓南は洗濯物を干したり、あれこれ身の回りの世話を焼いてくれていた。
「俺ちょっと近くの商店街のスーパーに買物に行ってくるから、楓南ちゃん留守番していてくれる?」
「私も一緒に行きたい。」
「じゃあ一緒に行こうか。」
スーパーまでは歩いて7~8分だ。
マンションを出て2人並んで歩き始めた。
「こんな風に2人で買い物に行くのは初めてね。私達って夫婦に見えるかしら。」
「うん、ちょっと年の離れた夫婦に見えないことはないだろうな。」
俺は能天気に何も考えずに言った。
「ふふっ、楽しいな。」
楓南はしばらく俺と腕を組んで歩き、スーパーに着くと持っていった買い物メモを片手に俺と相談しながら、それらしく品定めをして商品をカゴに入れていた。
そして往きと同じように腕を組んでマンションに帰ってきた。
「楓南ちゃんに一緒に見てもらって助かったよ。ありがとう。」
「お安い御用よ。わたしだって主婦できるでしょう?」
「そうだね、もういつでも家庭を支える大黒柱になれるかもね。見直したよ。」
「ふふっ。」
その日もいつものように夕方まで俺のマンションで過ごして、帰っていった。

こうして何度も来てるんだが楓南が俺のところに来る理由がわからない。
俺に反省している様子があるのか報告しているのなら言動に注意しなければ恵未が戻ってくる可能性が低くなる。それとも…他のことを期待していいのか?


 次に楓南が来た時、これまで疑問に思っていたことを話の合間にそれとなく聞いてみた。
「楓南ちゃんは恵未から俺の様子を見てくるように頼まれてるの?」
「ううん、違う。私の意思で来てるのよ。」
「それなら俺なんかのところよりもっと楽しいところがあるんじゃないの?」
「お義兄さん、私が邪魔だから来ないほうが良いの?」
「いや、勿論楓南ちゃんが来てくれるのは嬉しいさ。」
「それなら良いんじゃないの?私がいると鬱陶しくて邪魔だって言うのならもう来ないけど。」
上目遣いに俺を見て、拗ねたように何となく寂しげな顔をして言った。
なんとも男心をくすぐる小悪魔のような表情だ。
しかし…

「ごめん、そんなつもりじゃないんだ。そういうことなら楓南ちゃんがここに来ることを恵未がよく思わないんじゃないかと思って。」
「姉さんは姉さん、私は私だから関係ないわよ。それにお義兄さんのとこに行くとは言ってないし、母さんも友達の家にでも行ってるんじゃないかと思ってるでしょ。」
「だったら余計まずいんじゃないの?お義母さんにとって娘を裏切った男のところは…。」
「だからそんなことはどうでも良いんだって! 母さんも姉さんも関係ないわ。私がお義兄さんのとこが良いから来てるのよ。」
「う・うん、わかった。ありがとう。」

 若い楓南が俺に好意を寄せているのは間違いないんだろう。
何事にも楽天的な俺は、その結果として三角関係でこの先とんでもない事態に陥ることになるとは夢にも思ってなかった。

 「ついでに言うけど、もう私のことを『楓南ちゃん』なんて呼ばないで! 姉さんのこと『恵未』って言うんだから、私も『楓南』って言ってよ。」
「だって。」
「だってもヘチマもないの!『楓南』って言えばいいのよ!」
「う・うん、わかった。」
「じゃぁ言ってみて。」
身体を乗り出してきた。
「ふうな…。」
「だめ、大きな声でもう一回!」
「楓南。」
「はいっ!」
「なんだか照れるなぁ。」
「すぐに慣れるわよ。私もこれから『お義兄さん』じゃなくて『宗介さん』って名前を呼ぶからね。いいこと?」
「う・うん、わかった。」
楓南は満足そうにニッコリ微笑んだ。
楓南の勢いに押されて、変な方に話が進んでしまった。
どうもやぶ蛇になったようだ。
しかしあのキュートな笑顔は何度見ても癒される。
できることなら毎日でも見ていたい。
男ならだれでもそう思うのではないだろうか。

 そうは思ったものの楓南が帰った後で落ち着いて考えてみて、やっと危険な匂いを強く感じ始めたので、数日後、楓南と恵未が勤めに出て家にいない頃を見計らって楓南の母親に電話をしてみた。
「ご無沙汰しています、お義母さん。中川です。」
「あら、宗介さん?恵未はパートに出てるけど何か用かしら?」
「いいえ、そうじゃなくって、あのぅ、楓南ちゃんが時々家に遊びに来るようになったんですけど、構いませんか?」
「え、そうなの?全然知らなかったわ。最近行先を言わずにちょくちょく外出すると思ったら宗介さんのところに行っていたのね。それは…あなたには悪いけど、よろしくないわねぇ。恵未が聞いたら言い争いになるかもしれないわね。わかりました。楓南にはもう行かないよう、きつく言っておきます。連絡してくれてありがとう。」
「いいえ…。」

 更に恵未の様子も聞きたかったのだが、なんとなく聞きそびれてしまった。
恵未とよりを戻すのは難しいのだろうか。
仲直りがだんだん遠くなっていくような気がする。
それならいっそのこと楓南を、と気持ちが揺れるのだが…。

 ところが、その夜遅くなって一気に情勢が変化した。


2. 楓南-2

“ピンポーン“
こんな遅くに誰だろうとインターホンのモニターを見ると、楓南がただならぬ様子で写っていた。
あわててドアを開けて入れた。
「こんな遅くにどうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ。どうして母さんに告げ口したの?『もう宗介さんのところに行っちゃいけない』って言ったから喧嘩して飛び出してきたの。どうして私が来ちゃいけないの? 宗介さんのことが好きで好きでたまらないのに、どうして?」
まくしたてると俺の胸に飛び込んで、大粒の涙をこぼして泣き出した。
まずい、最悪の状況になってしまった。

と、そこに電話が鳴り始めたので楓南をリビングのソファに座らせて受話器をとった。
「はい中川です。」
「夜遅くにごめんなさい。そちらに楓南が行ってないかしら?」
楓南の母親からだった。
「ちょうど今来たところです。」
「そうなの…困った娘ね、迷惑かけて悪いわね。楓南に家に戻るように言ってもらえないかしら。」
「わかりました。そうします。」

とりあえず今日のところは何が何でも楓南を帰さなければならない。そうしないと事態は悪くなる一方だ。でもなんて言えばいいんだろう。
楓南の気持ちはうれしいんだけど、困った。
「楓南ちゃん、お義母さんが心配しているよ。」
楓南の隣に座った。
「ふんっ、“ちゃん”はいらないって言ったでしょ!」
「そんな事言ってる場合じゃないんだよ。」
「やっぱり宗介さんは私が来たら迷惑なのね。」
泣き止んではいたものの、頬を膨らませ口を尖らせて横目で俺をにらんでいる。
ちょっと待ってくれ、そんな可愛い表情を見せられるとじっと我慢している俺の心が折れてしまいそうだ。

「迷惑だなんて、そんなことないよ。」
「だったらどうして私が来てるって言ったのよ。」
「だってお義母さんがあんなに心配しているんだよ。」
「じゃあ、私のことなんかどうだっていいって言うの?」
「そんなに聞き分けのないことを言わないで。俺のほうが泣きたくなっちゃうよ。」
「じゃあ私をここから追い出せば?」
「そんな事できるわけないじゃないか。」
「じゃあ私をずっとここに置いてくれるの?」
「無理だよ。そんなことしたら恵未がなんて言うか。」
「やっぱり私より姉さんのほうが大切ってことなんだ。」
「楓南も同じくらい大切だよ。」
「そう思うのなら姉さんに言ってよ。」
「何て?」
「姉さんなんかいらないから私と一緒にいるって。」
「え?そんなこと言ったら、火に油を注ぐようなもんだよ。事もあろうに、自分の妹にまで手を出したって。」
「でもまだ手を出してないじゃないの。」
「だからいくら好きでも手を出せないんだよ。」
「え?今なんて言ったの?『好き』って言った?」
「う・うん、い・言った。」
「やっと『好き』って言ってくれた!」
「そうだよ、一度『好き』って言ったらもう歯止めが効かなくなると思って、ずっと我慢していたんだ。」
「ほんとに?」
「嘘なんか言わないよ。可愛い楓南が目の前にいるのに、ずっと指をくわえて我慢していたんだ。」
「どうして? 我慢しなくていいのに。私はそのつもりよ。早くそうなりたいと思って待ってるのに…。」
「楓南と大人の関係になってしまったら、恵未からほんとに懲りない男だって思われちゃうよ。お義母さんや恵未に話す前にそうなったら俺のことをほんとに最低の男だと思って、通る話も通らなくなっちゃうから。」
「ふうん、そうなの?」
「だから今日のところはおとなしく帰ってくれたらうれしいな。楓南が俺の目の前にずっといたら理性を押さえきれなくなってそれこそ取り返しのつかないことになっちゃいそうなんだよ。」

「ほんとに信用していいのね? 母さんと姉さんにちゃんと言ってね。」
「うん、指切りするから信用して。」
「わかった。じゃ指切りね。」
「そしたら送っていくから、今日はお家に帰ろう。」
「じゃ、キスして。」
楓南の額に口づけすると
「違う、そこじゃない。」
自分の唇を俺の唇に押し付けてきた。
楓南の柔らかくふっくらした唇の感触が俺の唇に記憶された。
楓南は唇を離すと名残惜しそうに渋々立ち上がり、俺の腕を取って並んでマンションを出た。
そして大通りまで歩いてタクシーを拾い、楓南を義母のもとまで送っていった。


3. 恵未

 その週末、いつものようにひとりブランチの後、家中の掃除をしていた。
“ピンポーン”
「はい。」
モニターには懐かしい恵未の姿があったので慌ててドアを開けに行った。
「久しぶりね。入ってもいいかしら?」
遠慮がちに言った。
「そんなこと聞かないでよ。自分の家じゃないか。」
「ありがとう。」

 リビングに入り、別居前と同じように長椅子に並んで腰を下ろしたところで、恵未がしんみりと切り出した。
「今日はちょっとお話ししようと思ってきたの。まず楓南のことだけど。」
「うん。」
「この前は連れて来てくれてありがとう。」
「ううん、恵未をこれ以上怒らせることをしちゃいけないと思ってね。楓南ちゃんがおとなしく帰ってくれて良かった。」
「楓南はそんなに何度もここに来てたの?」
「うん、もっと早く言えばよかったね。お義母さんにも黙って来てるとは知らなかったんだよ。」
「楓南があんなに思いつめているなんて全然知らなかった。」
「俺も驚いたよ。」
「やっぱり姉妹なのかな。同じ人を好きになるなんて。」
「う、うん。」
改めてそう言われると顔がほてってくる。

「それでね、あなたのことを色々考えていたら、あなたにも良いところがたくさんあったんだなって思い出して、ちょっと考え直そうかなって。」
「え?じゃあ帰ってきてくれるの?」
「ええ、なんて言うか、つまり大好きなあなたを楓南に取られるのが惜しくなったって言うか…。」
「ほんとに?」
「あの時はあなたが約束を破ったことで頭に血が上ってしまって後先考えずに家を飛び出しちゃったんだけど、落ち着いて思い出して考えてみたら、あんなお店に行ったっていうだけで何もしてないんでしょう?」
「うん、前にも言ったように誘われてついて行ったけどすぐに帰ったから何もなかったんだ。」
「ごめんなさい。」
「いや俺の方こそ軽々しく行かなきゃ良かったんだ。もう行かないって約束を破って謝るのはこっちの方だよ。」
「じゃ、またここに戻ってきても良いかしら。」
「ほんとに?うれしいな。今日から?」
喜びが表情にジワジワにじみ出てくるのを隠さずに言った。
「今日は話をしに来ただけだから一旦実家に戻るわ。」
「ここは恵未がいつ帰ってきても良いようにきれいにしてあるからね。」
「そのようね、うれしいわ。じゃ、久しぶりにお昼ごはんの用意する?」
「いいね、でもその前に´あれエッチ´しようよ。恵未が出て行ってから何ヶ月もずっとご無沙汰だからう~んと溜まってるんだ。」
「いやだ。早速なの? 相変わらずね。」
「だって俺には恵未しかいないんだもの。」
「楓南とはそんなこと、何もしてないのね?」
「そうだよ。正直な話、恵未と似ているから恵未の代わりに、と思ったことはないと言えばウソになるけど、やっぱり恵未じゃないから。」
「そう? 我慢して手を出さなかったの?」
「うん。楓南ちゃんには指1本触れてないよ。」
ちょっと心が痛んだが、ここまで来て話を逆戻りさせるようなことを言ってはいけない。胸の内でしっかり謝っておこう。
「いいわ、仲直りに思いっ切りしよう。」
「よ~し、がんばるぞ。」
「いやだ、そんな嬉しそうな顔して!」
最初は硬い表情をしていた恵未も気分がほぐれたようだった。
満更でもなさそうだ。こうなることを少しは期待してたんだろうか。

 これまで慣れ親しんだ恵未の肉体のはずだったが、1年近くのブランクは大きかった。
固く抱き合って熱い口づけを交わし、自らもどかしそうに衣服を脱ぎ去った後に現れた胸や腰回りの豊満な膨らみ、手触り・肌触り・息づかいやその身体から放たれる心地よいフェロモン等々いろんな感覚が新鮮で、そのすべてが以前よりもはるかに強い刺激で俺の五感に襲い掛かってきた。
瞬く間に1匹のオスと化した俺は、か弱い獲物となり組み敷かれた恵未の肉体を弄び、夢中で頭の天辺から足の先まで全身を心ゆくまで貪った。
そしてオレ自身はこれでもかというほど天を衝いていきり立ち、しばらくひとりで持て余していたダブルベッドの上で、身体は逃げようとしているのにもかかわらずまとわり絡みつく恵未の芯を奥深くまで容赦なく攻め立てた。
「はァッ」
「やッ」
「くうッ」
「んんっ」
「ああ~っ」
それは俺も恵未もその長かった空白の期間を埋めるべく大いに燃えて激しく情欲をぶつけ合った営みになっていた。

 1時間後、俺と恵未はこれまでになかったほどの激しい絡み合いに満足して、汗にまみれてぐったりとベッドに横たわっていた。
「もうだめ!これ以上続いたら死んでしまいそう。」
恵未があえぎながら言った。
「すっごく暴れてたね。隣に声が聞こえてたかも…。」
「恥ずかしい。こんな激しかったの初めてかもしれない。あなたがずっと我慢していたって言うのがよくわかったわ。」
「満足してくれた?」
「ええ、もう十分。おかげで身体に力が入らなくて起き上がれない。」
「いいよ、まだ寝てれば。」

 俺はヨロヨロ起き上がって冷蔵庫から缶ビールを取りだして戻ってきてビールを口移しで恵未にふくませた。
恵未は1口2口と美味しそうにゴクゴクッと飲んだ。
それから恵未は「ふぅーっ」と大きく息を吐いて感慨深げに言った。
「やっぱり良いわね。」
「何が?」
「この部屋であなたと2人でいられるのが。」
「そうだね、恵未とまたエッチすることができて幸せだよ。」
「イヤだ、エッチだけ?」
「エッチも。」
久しぶりに2人で笑った。
その日は恵未は夕方までいて、身の回りの品を取りに一旦実家に戻った。


4. 楓南-3

 そして翌朝のことだ、前日の営みの疲れを癒すべく昼近くまでベッドでゴロゴロしていると
“ピンポ~ン“
もう恵未が来たのかなと思ってモニターを見ると楓南の姿がそこにあった。
しまった、昨日は恵未とのエッチに夢中になって、楓南のことがすっぽり頭から抜け落ちていた。まずい!

 楓南は玄関に飛び込むなり俺に詰め寄った。
「姉さんがここに戻って来るってどういうことなの?」
「え? そ・そういうことだよ。」
「ウソつきっ! 姉さんじゃなくって私を取るっていう、あの約束はどうなったの? 指切りまでしたじゃない!」
一気にまくし立てる。
「ウ・ウソじゃないよ、楓南のことも好きだよ。」
「姉さんも私もどちらもってこと?」
「そう、楓南も恵未も両方大切だって。」
「そんなのずるい! どうして私を取るって言わなかったの?」
「だって最初から恵未が戻ってくるっていう話になったから、そんな事言えなかったんだ。恵未が悲しむから。」
「じゃ私はどうなるの? どうなっても良いの? 私ひとりでほっぽり出すの?」
「でも俺の奥さんは恵未だし…。」
「私も同じくらい大切だって言わなかった?」
「う・うん、言ったかも…。」
楓南の勢いに押されてしどろもどろになる。
「じゃあどうするの?」
「そんなに困らせないでよ」うなだれる。
「もうっ、じれったいなぁ。はっきりしてっ!」
「だって。」
「じゃあ既成事実を作ろうよ。」
「え?」
「私を抱いて! 早く大人の男と女の関係になるのよ。」
「でも、昨日恵未と…。」
「もうエッチしたの!?」
「うん」声が小さくなる。
「ほんとにやだっ。姉さん、あなたを私から取られないよう先回りしたんだわ。」
「…」
楓南からにらまれてなんとも身の置き所がない。
しかし、そのにらむ顔も何とも言えないほどかわいいんだ。それを見てるとこのような切羽詰まった状況にもかかわらず、つい顔がにやけてしまいそうだ。

「じゃあ、私も負けてられない。女の意地よ、黙って引っ込んでいられないわ!」
「そんなぁ。」
「早くっ、エッチしよう。」
「でも恵未が。」
「姉さんは今日は来ないわ。大丈夫。ねっ早く。」
楓南は着ていた服を脱ぎ始めた。
「そんなことだめだよ。恵未にバレたら…。」
「バレても良いわ、その時はその時よ。見せつけてやるわ。とにかく既成事実を作るんだから。あなたも早く脱いで!」
「でも…。」
「姉さんと私と同じくらい大切なんでしょう? だから姉さんとだけじゃダメよ。私ともちゃんとエッチしなきゃ。不公平でしょ。」

 楓南はあっという間に全裸になった。
初めて見る楓南の裸体だ。多少小ぶりだが、恵未に劣らずメリハリのきいたグラマラスなボディで、やや日焼けした肌にごく小さなビキニの跡が白くセクシーだ。
続いて楓南は俺のパジャマも脱がし始め、そして同じく全裸にした。
オレ自身ペニスは楓南の若くきれいな裸体を見た時点で臆面もなく、すでに見事なほどに膨らんでそそり立っていた。前日恵未の身体で溜まりに溜まった性欲を十分に吐き出したばかりと言うのに、だ。
楓南はオレペニスのそそり立つ姿を見て
「うれし~い、私のためにこんなに大きく立派になってる。」
「うん、楓南はすっごく魅力的だよ。」

 実際、恵未には悪いが楓南のほうが若いだけに肌に張りがあって固く締まり、ツヤツヤと輝いている。成熟適期、旬真っ盛りの強みだろうか。
楓南は俺の手を取って寝室まで行き、俺をベッドに押し倒して上に載って熱烈な口づけを交わし、俺も後先考えることなく楓南の情熱に応え、その肉体に溺れた。
前戯もそこそこに楓南は俺に跨って、鬼のように勃起してそそり立っているオレ自身ペニスの先端を蜜があふれる自分の花弁に押し当てて腰を落とすと、それは内部の襞をググーっと押し広げながら最奥部まで到達した。
「あ~っ、お・大きいっ!」
「はあぁ~っ!」
「んぐっ!」
「はぁっ、ハァッ、はぁっ、ハァッ。」
楓南は姉に対する鬱憤を晴らすかのように激しく喘ぎながら数え切れないほど腰を動かしていた。
その後反転して、楓南をしっかり抱きしめたオレが上から激しく容赦なく攻め続けた。
「大きいっ」
「くうッ、苦しいッ」
「はあッ」
「もうだめッ」
「い・いくッ」
楓南はオレを押し出して逃れようと必死でもがき、のたうち回って何度も達した後、俺も限界を迎えて果てた。

 俺は連日の激しいセックスで疲労困憊し、精魂尽き果ててベッドに突っ伏して大きく息を弾ませていた。
そして楓南もまた俺の横で目もうつろに、放心状態で四肢を投げ出して横たわっていた。
しばらくしてまだ息を弾ませながら楓南が口を開いた。
「お願い、少し水飲ませて。」
「うん、ちょっと待ってて。」
俺は昨日と同じように冷蔵庫から水のペットボトルを持ってきて、口移しで楓南に与えた。
楓南は美味しそうにゴクゴクッと飲み、一息ついて喘ぎながら言った。
「はぁーッ、すごかった。もうどうにかなりそう。」
「楓南が素敵だったからだよ。」
「腰から下がだるくて起き上がれそうにないから、今日はこのまま泊まっていこうかな。」
「えっ!?」
「だめ?」
「うん、泊まるのはちょっとまずいな。後で途中まで送っていくから、もうしばらく横になってるといいよ。」
「うん、安心して眠くなっちゃった。」
しばらくするとスースー寝息が聞こえてきたので、俺はそっと起き上がり、身繕いをした。

 しかし情欲の嵐が去って賢者タイムを迎え、改めて落ち着いて考えてみると、楓南の勢いに負けたとは言え、とんでもないことをしてしまったことに気づき、今後の展開を考えると頭の中は真っ白になってしまった。
楓南を抱いたことが恵未にバレたら元の木阿弥、昨日和解したことが全て消え去ってしまう。
その結果、もし恵未と離婚することになったとしても、楓南との関係も絶対に認めてくれることはないだろう。困った。

 不安な気持ちでいっぱいになり、頭を抱えていると突然携帯の呼び出し音が鳴り始めた。
「うわっ!!」
恵未からだ! 心臓がバクバクと大きく脈動を始めた。
「もしもし、どうしたの?」
「これからそちらに行こうと思うんだけど、荷物が多いから駅まで迎えに来てくれない?スーパーで少し買物もして行きたいし。」
「う・うん、わかった。」
「あと20分くらいで着くと思うからおねがい。」
「はい、じゃ後でね。」

チョーやばい! 早く楓南を起こして帰さなきゃ! 俺は寝室に飛びこんだ。
「楓南、起きてっ!」
「う~ん、なぁに?」
「恵未が来るから早く起きて出ていって!」
俺は大げさではなく、姉妹がここで鉢合わせして修羅場になる恐怖に直面して顔面蒼白になっていた。
「ふぅん、このまま待ってるわ。」
「冗談じゃない。とんでもない修羅場になっちゃうよ、早くして! お願い!」
俺のしでかしたことを忘れて必死の思いで懇願した。
「しょうがないなぁ。」
楓南はノロノロと上体を起こし、裸の胸を露わにした。
「俺、これから駅まで迎えに行ってできるだけ時間を稼ぐから、途中で会わないようにね。」
「う~ん、いいわよ。」
「鍵はこのスペアキーを使って。」
「やったー、これでいつでも入れるわ。うれしいな。」
「それじゃ俺、駅まで行くから何も残さないよう、くれぐれも頼んだからね。」
「は~い。」
楓南は満足して上機嫌で返事した。

 俺はマンションを飛び出して駅まで急行し、合流した恵未とスーパーでゆっくり時間をかけて買物をして帰ってきた。
楓南が情事の痕跡を残さず出て行っているか、マンションに近づくと不安で心臓がまたまたバクバクと大きな音を立て始めた。
しかし玄関のドアを開けて中に入ってみると室内はきれいに片付けてあったので一応ホッとしたのだが…、俺のあとに続いて恵未が入ってくると何かを感じ取ったようだ。
「ん? なにか化粧品の匂い?」
鼻をクンクンと匂いを嗅いだのだ。
俺は一瞬ドキッとしたのだが
「ふ~ん、昨日の恵未が残した匂いじゃないの? 俺にはわからないけど。」
と平静を装ってごまかした。しかし
「ううん、私のじゃない。今日誰か来たの?」
鋭い! 緊張して声が震えてくる。
「え、だ・誰も来てないよ。」
「そう? ふ~ん。」
納得してない様子だ。まずい、ソワソワしてくる。
そして声のトーンを落として言った。
「あなたは昔からウソをつけない人なのよね。」
恵未は俺をじっと見つめる。その気迫に押されて、つい目をそらしてしまった。
「ひょっとして楓南が来てたの?」
ウワッ、ずばりお見通しだ。万事休すか? 心臓の鼓動がドッドッドッドッ…と一段と大きく速く鳴り響く。
「うん、あの子のコスメの匂いだわ。朝から出かけてたから、楓南が来てたんでしょう。」
頭から血の気が引いて気が遠くなりそうだ。
「あの子のことだから既成事実を作ろうってそそのかしに…」
恵未の言葉が終わるのを待たずに遮って言った。
「すまない! 恵未に余計な心配をさせないようにと思って『誰も来てない』って言ったんだ。楓南ちゃんは来たんだけど、説得して帰したんだ。指1本触れてない。俺はウソのつけない男なんだっ。」
平身低頭して謝り、必死の弁解をする。ここはあくまでも白を切り通さなければ取り返しのつかないことになってしまう、踏ん張りどころだ。
「ふ~ん、わかった。一応信用しておくわ。昨日の今日だし、あなたも2日続けてはできないでしょう?」

 昨日の情熱的な営みで楓南に対する優位性を確信して気持ちにゆとりができたのか、心が少々痛むがウソも方便、今日のことは楓南に固く口止めしておかなくては。
「ほんとにあの子は困ったものだわ。母にも頼んできつく言っとかなきゃ。」
それで諦めてくれれば俺も安心なんだが、楓南は多分聞く耳を持たないんだろうな。
俺は何気ない素振りで寝室に行き、楓南がいたずらを仕掛けてないかここも一応チェックしてみた。
うん、多分大丈夫だろう。
「今日はもう実家には戻らないんだろう?着替えてきたら?」
「そうね。」
「タンスは恵未が出ていった時のまま開けてあるから。着替えてる間にコーヒーでも淹れておくよ。」
「ありがとう。」

楓南が何も仕掛けずに帰ったのがわかったので少し気分が落ち着いてきたのだが、隣の部屋から恵未の声が聞こえてきた。
「家中あの子の匂いがするわね。」
一難去ってまた一難か?
「窓を締め切っていたから匂いがこもってるんじゃないの?」
また動悸が激しくなった。落ち着け!ついコーヒーを淹れる手が震えて、ガチャガチャっとカップがぶつかる音が大きく響く。
「そうね、ムカつくから窓を全部開けて空気を入れ替えてよ。」
「うん、わかった。」
コーヒーの香りを家中に広げてなんとかごまかそうとしていると、恵未がキッチンに入ってきて穏やかな声で言った。
「ああ、コーヒーがいい香りね。」
それを聞いてホッと胸をなでおろした。

 しかし、まだまだ危機は続く。
「前に私が使ってたここのマンションの鍵はどこに行ったのかしら。」
「鍵? 確かリビングの棚においてあったと思ったんだけど。」
しまった、さっき楓南に渡した鍵だ! 慌てていたのでスペアキーと間違えて渡してしまったんだ。
「ちょっと見当たらないから、とりあえずスペアキーを使っておけば?」
と俺が保管していたスペアキーを取ってきた。恵未に渡す時に小刻みに手が震えた。落ち着け!
「どこかに仕舞ってあるはずだから、そのうち出てくると思うけど。」
「そうね。」
大丈夫、怪しんではいないようだ。

 恵未が実家からマンションに戻ってきて、やっと平穏な日常がよみがえった。
ただし、楓南の件を除けばの話しだ。楓南はこの後どう出てくるだろう。このままおとなしく引き下がることは考えられない。
必ず何か企んで仕掛けてくるに違いない。
それがとっても不安だ。
恵未も同じようにそれを心配していた。

「ねえ、楓南のことどうする? このままだといつまでもあなたにつきまとうかもしれないから油断できないわ。」
「そうだね、なにかいい考えはないかな。」
「あなたの会社に誰か楓南とくっつけられそうな人いないの?」
「う~ん、そうだなぁ、探してみるよ。」
「お願い。」


5. 楓南 vs. 恵未

 数日後、楓南に電話した。
「もしもし、楓南?」
「あ、宗介さん。私のことが恋しくなった?」
「いやその、この前は追い出して悪かったね。」
「ううん、宗介さんの愛を確かめられたからいいの。」
「あ、うん、いや、それでね、ちょっと会って頼みたいことがあるんだけど、いいかな。」
「えっ、うれしい、会えるの? いいわよ。」
「じゃ、お願い。」

 楓南を駅前の喫茶店に呼び出した。
「楓南、お願いがあるんだ。俺の勤め先に楓南とお似合いの男がいるんだけど、彼とお見合いしてくれない?」
「えっ? どうして私がお見合いしなきゃいけないの?」
それまでにこやかな顔をしていたのが急にふくれっ面になった。
「だって楓南がこのままじゃ宙ぶらりんで可哀想だもの。」
「ぃやだ! 宗介さんが私との約束を破って姉さんを受け入れるからいけないのよ。見合いなら姉さんに勧めなさいよ。冗談じゃないわ。」
思った通り、一筋縄ではいかない。

「そんなこと言ったって。」
「姉さんも勝手なのよ。私が宗介さんのこと好きだって言ったら、さっと元の鞘に収まってしまって。どうせその話も姉さんの入れ知恵でしょ?」
ふてくされてカップのコーヒーをスプーンでかき回し続けている。
「お願いだから機嫌を直してよ。」
「そうね、じゃあ交換条件を受け入れてくれたらお見合いしてあげる。」
何か思いついたように、いたずらっぽい顔をして俺を見た。
またまた俺のハートに矢が刺さった。
そのあどけないかわいらしい表情が男心をくすぐるのだ。
天使になったり悪魔になったり振れ幅が大きすぎる。

「うん、なにか欲しいものでもあるの?」
「またエッチしよ、そしたらお見合いしてもいいわ。宗介さんとの燃えるセックスが忘れられないの。思い出すだけで体の芯がうずいてくるわ。」
「え~っ、そんなの無理だよ。」
「どうして? 1回したんだから良いじゃない。」
「そんなこと言ったって。」
「じゃ、いやよ。お見合いなんかしない!」またそっぽを向く。
「お願いだからそんな事言わないで。」
「いやなものはいや。」
「う~ん、じゃ今度で最後だよ。」
俺にだって楓南の肉体に未練がある。この期に及んでまだ懲りない俺が姿を現した。
一度味わったおいしさをそう簡単に忘れられるものじゃない。
「うれしい! そしたら早速今日しようよ。」
「今日はダメだよ。楓南と会うのを恵未が知ってるから、遅くなったら恵未に怪しまれる。」
「じゃいつなら良いの?」
「う~ん、それなら来週泊りがけの出張があるから、その時に楓南が休みを取っておいでよ。」
「えっ、ほんとに? 行くっ!」
「ホテルの名前を教えるから向こうで落ち合おう。」
「ぅわ~、なんか不倫旅行の匂いがプンプンする。すご~い。」
満面に笑みを浮かべて大喜びしている。
この豊かな表情の変化が俺の心にグサグサ刺ささってメロメロになるんだ。
「だから絶対に恵未には内緒だし、お見合いもしてよね。」
「うん、わかった。すっごくわくわくするぅ。」
機嫌が治ったようだ。
腕を組んで駅まで行き、楓南と別れた。

 週が明けて打合せ通り、出張先のホテルであとから着いた楓南と合流して、夜の街で2人仲良く夕食を済ませてきた。
「今日は2人でゆっくり過ごせるのね。」
「うん、楓南との最後の夜だからね。」
「いやぁ、それはどうかな。お見合いは1回だけじゃないかもよ。」
楓南はいたずらっぽく妖しく笑っている。
「え? そんなことやだよ。」
「さぁ、いいから早くお風呂に入って遊ぼう。」
「う・うん。」

 お互いに服を脱がしあって全裸になった。
前回の営みから1ヶ月も経ってないのだが、やっぱり恵未と比べて若さが勝っていて新鮮だ。
恵未には悪いが、楓南の方が肌がしっとりと吸い付くようだ。
やっぱり若い楓南の方が気分が上がる。本当に懲りない奴だと自分でもあきれてしまう。

 さあ、いよいよこれからというところで、無粋にも俺の携帯から呼び出し音が鳴り始めた。
見ると恵未からだ! なんだろう? 今まで出張先に電話してきた事なんてなかったのに。
「楓南、ちょっと待って。恵未から電話だ。」
「え~っ、やだぁ。いいところなのにぃ。」
「お願いだから離れて静かにしてて。絶対に声出しちゃダメだよ。」
「うん。」

楓南から離れて電話に出た。
「もしもし、何か急用なの?」
「ううん、別に用はないんだけど、ちょっとあなたの声が聞きたくなっただけ。」
「そうなの、珍しいね。」
恵未がわざわざ電話してきた意図がわからないので、緊張して声が上ずってしまう。
「ええ、今日ね、もう少し荷物が残ってたから実家に取りに来て、泊まっていくつもりなんだけど、今日は楓南が出掛けてて家にいないのよ。平日だって言うのにわざわざ休みを取って友達と旅行にでかけたんだって。」
「え・あ・そ・そうなの?」
心臓が急にバクバク大きな音をたて始めて、呼吸が苦しくなってきた。
「そうなんだって、行先も言わずに気楽なもんだわ。あなたも行先は聞いてないでしょう?」
「う・うん、そうだね。お・俺が知ってるはずないだろう。」
「ふふっ、そうよね。し、楓南が勝手にあなたの出張先に後を追いかけて行くなんてこともないよね。。じゃ明日は早く帰ってきてね。今夜は独り寝だから明日の夜は激しいのを期待して楽しみにしてるわ。」
「う・うん。」

 電話を切ったのだが、恵未の言葉が耳に残ってざわついている。
頭から血の気が引いて気が遠くなりそうだ。
携帯をもったまま呆然としていると楓南が促した。
「姉さんなの?とんだ邪魔が入ったわ。さあ、お風呂に入って続きをしようよ。」

「あら? どうしたの? 元気がなくなってる!」
オレペニスはそれまで元気いっぱい屹立して自己主張していたのに、今の電話で恵未から『楓南が家にいない』と言われた途端に萎えてしぼんでしまった。
勘が鋭い恵未のことだから楓南は俺と一緒だと察知したに違いない。
それで牽制のためにわざわざ電話してきんだ。きっとそうだ。
はっきり指摘せず含みを持たせた言い方でジリジリ追い詰めるなんて悪魔の所業だ。
そして恵未の思惑通り、オレはビビってしまい、萎えて役立たずになってしまったのだ。
明日マンションに帰るのが怖い。

恵未、俺が悪かった。
赦して!もう二度とこんなことはしないから。
丸坊主になって反省するっ!!

楓南がオレペニスを一生懸命奮い立たせようとするが一向に言うことを聞かない。叩いてもダメ、叱咤激励しても力なくしょぼんとうなだれたままだ。
「あ~もうっ、姉さんはどれだけ邪魔をすれば気が済むのかしら。ムカつくぅ!」
「楓南ごめん、これじゃあダメだ。役に立たない。今日はおとなしく寝よう。」
「くやしい~っ! もう見合いなんかしない!」
「いやそれは困る、頼むから見合いしてくれよ。」
「いや、絶対に嫌だっ! 姉さんにとことん逆らってやる。あなたから離れない!」
「楓南、お願い! 落ち着いて。」
「いや! いや! ぜ~ったいイ・ヤ・だ~~~~~~!!」

楓南、俺が悪かった。
俺が優柔不断なせいでこんなことになってしまった。赦してくれ!!



おわり
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