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作戦
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言葉はあるが文字はまだない。
僕が平地人の人質と共に過ごす西の森に、
今日はゾマがやってきた。
僕はゾマに伝言を頼んでいるのだが、
まったくといっていいほど覚えてくれない。
もどかしくなった。
「わかった、戦いの訓練だけはしっかり続けておくように言っといて。」
「わかっタ。」
ゾマは食料を持ってくる役割だから、
それ以上は求めないことにした。
「あんたも大変だな。」
食事を頬張りながらラルが話しかけてきた。
「まあね。」
と僕も相づちを打つ。
彼と過ごし始めて三日になる。
最初と違い、彼も自分から話をするようになってきた。
そもそも、話す以外にやることもないからだ。
ラルは両手を縛ってあるので、
僕が彼の口に食べ物を運んでやる。
この三日はずっとそうだったが、
ふとその手を止め、彼を脅してみた。
「今から聞くことに答えてくれ。でないと食べ物はやらない。」
ラルは口を半開きにして食べ物を待っていた。
その口を閉じると、
「わかったよ。なんだい?」
と頷いた。
「ラルの弟…名前なんだっけ?彼は君を助けに来ると思うかい?」
ラルを捕らえた時に逃がした弟のことだ。
「レコのことか。弟はきっと首飾りを持って助けに来る。来てくれなくちゃ困る。でも…。」
「でも?」
「ジェイがなんと言うか…。」
そこまで言うと、ラルの表情は冴えなくなった。
助けに来ないのでは、
見捨てるのでは、
と心配しているのか。
僕はその点を尋ねてみた。
「いや、それはない。仲間を助けなければ、村で指導者として認められない。」
「じゃあ何を心配して…?」
ラルは少し躊躇うそぶりを見せたが、
思い切ったかのように口を開いた。
「あんたらを襲えと命令するかもしれない。」
僕は食料を口に運んでやる。
巣の中の小鳥のように、ラルが口を開けた。
「わかってる。きっとそうなる。」
と僕は言った。
ラルは咀嚼しながら、僕の言葉に少し驚いた様子だ。
食べ終わるのを確認してから、
僕はもう一度
「僕はジェイが味方を連れて、取引の場までやってくると思うんだけど、どうだい?」
と尋ねてみた。
「それはない!」
ラルの思いのほか大きい声に驚いた。
僕は食べ物を口に運びながら、
「それはどういうこと?」
と聞いてみる。
ごくん
と飲み込むまでにやや間があって、
ラルがようやく言葉を発した。
「ジェイは…ジェイ様は昔、森に入ったところを襲われたことがある。」
誰に?
ネアンか?
「そうだ。そいつが木の上に居たから気がつかなかった。そいつは武器を持っていなかったが、上から襲いかかってきて、両手でジェイ様の首をつかんで絞めようとした。」
森の中の戦いでは、ネアンの方に一日の長がある。
「それでどうなった?」
僕は勢い込んで尋ねた。
「どうもしない。周りの仲間がみんなでそいつを押さえて引き離して、ジェイ様が自らの石槍でそいつの目を突き刺した。」
「それがどうした?」
先程聞いたことと直接どんな関係があるのか、
僕は改めて尋ねてみる。
「それ以来、ジェイ様は戦いの場には来ない。命令をするだけだ。それで、ジェイ様のことを臆病だと思っている仲間もいる。」
僕のあてが一つ外れる。
次の取り引き、平地人が、いやジェイが素直に応じるとは思っていなかった。
必ず仲間を引き連れて、実力行使で人質を助け、僕らを討つだろうと。
ジェイを倒すのはその場だと考えていた。
しかし、今の話が正しければ実現不能だ。
僕は少し落ち込んで、
ラルの口にまた食べ物を運んでやった。
「会いたかったのか、ジェイ様に?」
ラルが聞いてくる。
こうやって食べ物を運んでいる間に、
彼も少しうちとけてきたらしい。
僕は深い考えなく
「まあな。でも来ないんじゃあね。」
と呟いた。
「だったらジェイ様は森の中の入り口にいる。戦いの時はそこまで来て、仲間に命令を下して待っている。」
ラルの言葉に、僕は持っていた食料を落としそうになった。
「本当か?」
「本当だ。」
「いつもか?」
「いつもだ。」
西の森の入り口にある、あの小屋だ。
そこを最後に命令を下す場とするに違いない。
その後、何かがラルに許しを与えたのか、
彼は堰を切ったようにジェイの批判を始めた。
戦いの命令だけ下して、自分の命をかけないのは卑怯だとか、
若い女を片っ端から妻にしていくが、揃いも揃って美しくない細い女ばかり選ぶだとか、
実は村の人間のことを見下しているんだとか、
その一つ一つは、
(やはりジェイは…。)
と僕にある確信を与えてくれた。
「あの…。」
考え込む僕にラルが声をかけた。
「食べ物…口に運んでくれよ…。」
次の日の昼頃、
今度はマフが来た。
僕はラルから離れて彼と話す。
マフはリーダーとしての自負がそうさせるのか、
その頼もしさは輝きを増すばかりだ。
僕が話す作戦を、
ゆっくりとではあるが一つ一つ理解してくれた。
「わかっタ。俺が森の仲間に伝えておク。誰をどの役目にするか、俺が決めていいカ?」
「頼むよ、マフ。訓練も頼む。」
僕にも案があるが、マフに任せることにした。
冬の寒さをともに乗り越えて以来、
僕もマフもお互いに友情を感じるようになった。
僕はいつの間にか彼に対等の口を聞くようになり、
彼もそれを咎めたりしなかった。
ジェイがどう出るか、
もちろん僕にはわからない。
しかし来なければ倒せない。
(五分五分かな。)
空を見上げて思った。
しかし、やつが来るなら
戦いはひとまず終わる。
武者震いがした。
まだ夜は冷えるから、気候のせいかもしれないけれど。
ー続くー
僕が平地人の人質と共に過ごす西の森に、
今日はゾマがやってきた。
僕はゾマに伝言を頼んでいるのだが、
まったくといっていいほど覚えてくれない。
もどかしくなった。
「わかった、戦いの訓練だけはしっかり続けておくように言っといて。」
「わかっタ。」
ゾマは食料を持ってくる役割だから、
それ以上は求めないことにした。
「あんたも大変だな。」
食事を頬張りながらラルが話しかけてきた。
「まあね。」
と僕も相づちを打つ。
彼と過ごし始めて三日になる。
最初と違い、彼も自分から話をするようになってきた。
そもそも、話す以外にやることもないからだ。
ラルは両手を縛ってあるので、
僕が彼の口に食べ物を運んでやる。
この三日はずっとそうだったが、
ふとその手を止め、彼を脅してみた。
「今から聞くことに答えてくれ。でないと食べ物はやらない。」
ラルは口を半開きにして食べ物を待っていた。
その口を閉じると、
「わかったよ。なんだい?」
と頷いた。
「ラルの弟…名前なんだっけ?彼は君を助けに来ると思うかい?」
ラルを捕らえた時に逃がした弟のことだ。
「レコのことか。弟はきっと首飾りを持って助けに来る。来てくれなくちゃ困る。でも…。」
「でも?」
「ジェイがなんと言うか…。」
そこまで言うと、ラルの表情は冴えなくなった。
助けに来ないのでは、
見捨てるのでは、
と心配しているのか。
僕はその点を尋ねてみた。
「いや、それはない。仲間を助けなければ、村で指導者として認められない。」
「じゃあ何を心配して…?」
ラルは少し躊躇うそぶりを見せたが、
思い切ったかのように口を開いた。
「あんたらを襲えと命令するかもしれない。」
僕は食料を口に運んでやる。
巣の中の小鳥のように、ラルが口を開けた。
「わかってる。きっとそうなる。」
と僕は言った。
ラルは咀嚼しながら、僕の言葉に少し驚いた様子だ。
食べ終わるのを確認してから、
僕はもう一度
「僕はジェイが味方を連れて、取引の場までやってくると思うんだけど、どうだい?」
と尋ねてみた。
「それはない!」
ラルの思いのほか大きい声に驚いた。
僕は食べ物を口に運びながら、
「それはどういうこと?」
と聞いてみる。
ごくん
と飲み込むまでにやや間があって、
ラルがようやく言葉を発した。
「ジェイは…ジェイ様は昔、森に入ったところを襲われたことがある。」
誰に?
ネアンか?
「そうだ。そいつが木の上に居たから気がつかなかった。そいつは武器を持っていなかったが、上から襲いかかってきて、両手でジェイ様の首をつかんで絞めようとした。」
森の中の戦いでは、ネアンの方に一日の長がある。
「それでどうなった?」
僕は勢い込んで尋ねた。
「どうもしない。周りの仲間がみんなでそいつを押さえて引き離して、ジェイ様が自らの石槍でそいつの目を突き刺した。」
「それがどうした?」
先程聞いたことと直接どんな関係があるのか、
僕は改めて尋ねてみる。
「それ以来、ジェイ様は戦いの場には来ない。命令をするだけだ。それで、ジェイ様のことを臆病だと思っている仲間もいる。」
僕のあてが一つ外れる。
次の取り引き、平地人が、いやジェイが素直に応じるとは思っていなかった。
必ず仲間を引き連れて、実力行使で人質を助け、僕らを討つだろうと。
ジェイを倒すのはその場だと考えていた。
しかし、今の話が正しければ実現不能だ。
僕は少し落ち込んで、
ラルの口にまた食べ物を運んでやった。
「会いたかったのか、ジェイ様に?」
ラルが聞いてくる。
こうやって食べ物を運んでいる間に、
彼も少しうちとけてきたらしい。
僕は深い考えなく
「まあな。でも来ないんじゃあね。」
と呟いた。
「だったらジェイ様は森の中の入り口にいる。戦いの時はそこまで来て、仲間に命令を下して待っている。」
ラルの言葉に、僕は持っていた食料を落としそうになった。
「本当か?」
「本当だ。」
「いつもか?」
「いつもだ。」
西の森の入り口にある、あの小屋だ。
そこを最後に命令を下す場とするに違いない。
その後、何かがラルに許しを与えたのか、
彼は堰を切ったようにジェイの批判を始めた。
戦いの命令だけ下して、自分の命をかけないのは卑怯だとか、
若い女を片っ端から妻にしていくが、揃いも揃って美しくない細い女ばかり選ぶだとか、
実は村の人間のことを見下しているんだとか、
その一つ一つは、
(やはりジェイは…。)
と僕にある確信を与えてくれた。
「あの…。」
考え込む僕にラルが声をかけた。
「食べ物…口に運んでくれよ…。」
次の日の昼頃、
今度はマフが来た。
僕はラルから離れて彼と話す。
マフはリーダーとしての自負がそうさせるのか、
その頼もしさは輝きを増すばかりだ。
僕が話す作戦を、
ゆっくりとではあるが一つ一つ理解してくれた。
「わかっタ。俺が森の仲間に伝えておク。誰をどの役目にするか、俺が決めていいカ?」
「頼むよ、マフ。訓練も頼む。」
僕にも案があるが、マフに任せることにした。
冬の寒さをともに乗り越えて以来、
僕もマフもお互いに友情を感じるようになった。
僕はいつの間にか彼に対等の口を聞くようになり、
彼もそれを咎めたりしなかった。
ジェイがどう出るか、
もちろん僕にはわからない。
しかし来なければ倒せない。
(五分五分かな。)
空を見上げて思った。
しかし、やつが来るなら
戦いはひとまず終わる。
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まだ夜は冷えるから、気候のせいかもしれないけれど。
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