【完結】化け物神子は白蛇に愛を請われる

華抹茶

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24 ヘインズ公爵家の過去

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「朝食後、ヒカル様の部屋へ伺い昨日の話の続きをしようと思うのですが、よろしいでしょうか」

 朝食を食べ始めてしばらくした後、ブレアナさんからそう提案があった。そして「決して楽しい話ではないですが……」と言われたが、俺は引く気は全くない。大丈夫と返答し、朝食を口に運んだ。

 朝食後、自室へと戻りしばらく待っているとブレアナさんとオースティンさんの2人がやって来た。
 椅子に掛けて貰い、レイフがお茶を用意する。オースティンさんはいつも通り無表情だからよくわからないが、ブレアナさんの顔は緊張が見て取れた。
 お茶の入ったカップが目の前に出されると、ゆっくり一口飲んだブレアナさんがふぅと一息つき口を開く。

「この世界では魔力持ちが年々減少しています。それにより、貴重な魔力持ちを調べるために必ず魔力検査を受けることになります」

 ブレアナさん曰く、7歳ごろになると必ず全員魔力検査を行い保有魔力を調べられるそうだ。それはこの国だけではなく、全世界共通のことらしい。

 オースティンさんも例外はなくその検査を受けることになった。そして先祖返りだったからこそ膨大な魔力を持っていることがわかる。
 この国だけじゃなく世界中が魔力持ちを求めている。そして期待以上の魔力を持っている人が現れた。それも『化け物』と蔑まされていた人だった。

 それを知ったこの国の王家は、直ぐにオースティンさんを縛り付けようとした。だがそれを先代のヘインズ公爵家当主、ブレアナさん達の父親が許さなかった。
 王家はオースティンさんを何度も呼びつけるが、先代の当主は決してオースティンさんを屋敷から出すことはなかった。何故ならオースティンさんがどうなるかわかっていたからだ。

 だが王家は騎士たちを連れヘインズ公爵家を襲った。その時無抵抗だったにも関わらず、公爵家の使用人達は騎士たちによって容赦なく殺されていく。それを見た先代はそれ以上誰も傷つけさせるわけにはいかないと、王宮へ行くことを了承した。

 そして公爵、公爵夫人、ブレアナさん、オースティンさんは無理やり王宮へと連れてこられることになった。

 国王はオースティンさんを結界石の前に立たせ、魔力を注げと命令する。そしてオースティンさんは言われた通り魔力を流した。するとあっという間に結界石に魔力が満ちていくのを見た王族は、オースティンさんに奴隷契約を結ばせようとする。
 だがそれを先代公爵は拒否した。

 だが王族はオースティンさんを逃がす気は全くない。先代公爵と公爵夫人は騎士たちによって抑えられる。そして国王はにやりと笑い『この2人の命が惜しくば、奴隷契約を交わせ』と言い放つ。

 目の前で両親が人質となり脅迫されたオースティンさんは、2人を助けるために奴隷契約にサインしようとした。だが先代公爵は『やめろ! 絶対にサインしてはならん!』とオースティンさんに言っていたそうだ。自分の命よりも、息子を守ろうとしていたのだ。

 それを聞いてオースティンさんはどうしていいかわからず迷った。奴隷契約をしないと両親が殺される。だけど両親は必死になって止めている。まだ7~8歳の子供だったオースティンさんに、どうすればいいかなんて分かるはずもない。

 いつまで経っても契約を交わさないオースティンさんに焦れた国王は、先代公爵を取り押さえていた騎士に命令を下す。それを受けた騎士は、容赦なく先代公爵の胸を剣で貫いた。
 血を吐き崩れ落ちる先代公爵。それを横で見ていた公爵夫人は発狂した。

『お前が何時まで経っても契約をしないから死んでしまったではないか。次はそこで喚き散らす母親の番だな。さぁどうする? お前は両親2人共見殺しにするのか?』

「あの時の国王の顔は忘れようにも忘れられません。醜く、そして愉快だと言わんばかりのあの顔を」

 その時の事を語ったブレアナさんは、今にも泣きそうな表情で両手を強く握りしめていた。


 そしてオースティンさんは自分はどうなってもいい、母を助けなければ、と慌てて奴隷契約書にサインをした。
 そのお陰で公爵夫人は殺されずに済んだものの、先代が目の前で殺されたことで夫人は精神を病み、そしてある日自殺した。

 そしてオースティンさんもこの時から表情が抜け落ちてしまったそうだ。両親が死ぬ前までは、普通の子供と変わらず明るくよく笑う子供だったらしい。

 それからオースティンさんは1人で結界石に魔力を注ぐことを続けて来た。それも20年間も。

『お前のような化け物など誰にも必要とされることはない。忌み嫌われるお前にこうして仕事を与えてやっているのだ。感謝してもらおう』

 王家の人間はオースティンさんに向かってこう言い放った。そしてオースティンさんを知っているこの国の人は皆、それを否定することはなくむしろ同調した。

『この国はもう狂っているのです』

 以前ランドルが言っていた言葉だ。本当にその通りだと思う。その話を聞いて俺は自分の中の怒りを抑えることが出来ない。
 俺はもう涙を止めることが出来なかった。1人でぼろぼろと泣く俺を見たブレアナさんも、とうとうこらえきれず涙を零す。

「ごめん、なさいっ……俺がまだ神子の力を使えないから、オースティンさんを辛い目に遭わせてる……」

「ヒカル様、それは違う」

 オースティンさんは立ち上がり俺の側まで来ると、俺をそっと抱きしめた。

「我々は、貴方に力を使えるように強要するつもりは一切ない。貴方にこの世界の事を押し付けたいと思っていない」

「でもっ……」

 このままじゃ、オースティンさんは魔力枯渇で死んでしまう。俺が絶対助けるけど、もし間に合わなかったら?
 そう思ったら恐怖で体が震えてしまう。こんなに綺麗で優しい温かい人を見殺しにしてしまう。

 俺が神子の力を扱えれば、オースティンさんは苦しまなくて済む。死ななくて済む。

「ここ最近、王宮から神子の力を扱えるようになったか聞かれることが多くなりました。恐らく早く奴隷契約を結ぼうとしているのだと思います」

 ブレアナさんはまだ使えないと返事を出しているが、それもいつまで持つかわからないと言う。以前この公爵家を襲ったように、また突然やってくるかもしれないとその可能性を話してくれた。

「ヒカル様が魔法を扱えるようになったことも話しておりません。魔力を扱える事が分かれば、強制的に奴隷契約を結ぼうとするでしょう。どうか約束してください。我々に何かあっても、絶対に契約を結ばないと」

 ブレアナさんは涙を流したまま、でも力強くそう言った。俺はそれに返事を返すことが出来なかった。
 
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