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38 よし、話を逸そう
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「ヒカル様、お騒がせ致しました……」
「……ダイジョウブデス」
勢いが凄かっただけで悪い人じゃないことは分かったから全然大丈夫。びっくりしただけだし。
「神子様、サザラテラで大変な目に遭われたとお聞きいたしました。あの国を出ることが出来て本当に良かったです」
レオナルドさんはブレアナさんの執事であるジャックさんに色々と聞いたそうで、ある程度の事は知っていた。
急に大勢で押し掛けてしまって申し訳ないと言ったら、この屋敷は元々そういうつもりで建てたから大丈夫だと笑ってくれた。
レオナルドさんは当然だけど、ブレアナさん達がオーサと共にサザラテラで死ぬつもりだったことも知っている。だけど大好きなブレアナさんを死なせたくない。もしかしたら皆でこの屋敷に移って来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を込めてこの屋敷を建てたそうだ。
「父である国王も兄上達も、神獣人や神子に対しての教養はきちんとあります。ですからあの国のような目に遭う事はないでしょう。心穏やかにお過ごしください」
「レオ……そのことなのだが」
あの王宮で何があったのかを未だ知らないレオナルドさんに、ブレアナさんは宰相さん達他の人から俺が『化け物』と言われたことを話した。
王族の人達は大丈夫だったけど、そうじゃない人達は俺の事を神子だと分かっていてもこの顔を見て嫌悪感を抱いた。だからこの国もあの国に似たところがあるのだと、そう説明した。
「は……? 『化け物』……?」
俺の火傷の跡を知らないレオナルドさんとエリオット君が首を傾げている。俺は今、仮面を付けているからまだ見せていない。「びっくりしないでくださいね」と一言言ってから、俺は仮面をそっと外した。
するとレオナルドさんもエリオット君も、零れ落ちそうな程目を見開き言葉を失った。エリオット君は子供だから、これを見せて変にトラウマにならなきゃいいんだけど大丈夫だろうか。エリオット君だけ席を外してもらった方が良かったかもしれない。失敗したな。
「「神子様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「ん!?」
レオナルドさんとエリオット君は流石親子というべきか。同じように怒涛の涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
「み、神子様の顔にあんなに大きな火傷の跡がっ! し、死ぬようなことがあったと言う事ですよね!? 何故その場に僕はいなかったんだぁぁぁぁぁぁ!」
「女神テラよ!! 神子様の命を繋いでくださったことを感謝いたします!!」
……うん。全然平気だったみたいだ。
なんか極端だよな。この火傷の跡を見て化け物と言うか、泣いて身代わりになりたかったと言うか。この世界に来る前は前者しかいなかったのに、こっちじゃ神子ってだけでそこまで思ってくれる人がいる。本当に不思議な感じだ。
「ヒカル様、これで義兄上達の人柄が分かっただろう。あの宰相達は神子や神獣人に対する考え方が少し違うのだ。人と違う事が違和感となり、畏怖や恐怖、嫌悪といった感情となることがある。だがそれを尊敬や崇拝、憧憬と思う事もあるのだ。その事柄をちゃんと知っているかそうでないか、それによって大きく変わってくる」
オーサが言っていることは凄くわかる。神子とは何か。神獣人とは何か。それをちゃんと理解しているから例え俺に大きな火傷の跡があろうとも、ヘインズ公爵家の皆は俺に対し嫌悪感を抱くことなく大切に扱ってくれた。先祖返りのオーサに対しても同じ。
女神との関りが無くなり長い年月が経ち、神獣人という存在が正しく理解出来ていない人が増えていった。
神子の存在さえあればこの世界は救われる。それに慣れてしまったことで自らの世界の問題を、本来なら無関係である他の世界の人間に押し付けていることすら何とも思っていない。思わなくなってしまった。
きっと他の国へ行っても、あの宰相さん達のような人は多いのだろう。サザラテラ王国は特別腐ったどうしようもない国だったけど、似たようなことはどこにでもあるんだろうと思う。
「俺、オーサや皆に出会えたことが本当に奇跡なんだって思ってる。ありがとう」
「それは私の台詞だ。この世界に来てくれてありがとう、ヒカル様」
そう言って俺の手を握り、にっこりと美しすぎる満面の笑みを浮かべたオーサ。その笑顔の迫力に、俺はいつになったら慣れるんだろうか……。
「え……? オースティンが、笑った……? しかも愛称呼び!?」
レオナルドさんもエリオット君も、オーサの笑顔を見て呆然としている。そしてレオナルドさんは俺とオーサを交互に首をぶんぶん振りまわし始めた。
「ちょちょちょ、ちょっと! アナ! 一体どういう事!? ねぇ! この2人ってそういう関係だったの!?」
「うふふふふ。びっくりしただろう? ヒカル様のお陰であの子がまた笑えるようになったんだ! ここへ来る途中も2人共すごく仲が良くてその姿は眼福だった!」
眼福……。ブレアナさん、そういう風に見てたんだ。
「私はヒカル様を愛している。この気持ちは一生変わることはないだろう」
「ふあっ!?」
だからいきなり直球投げてくるのやめてー! 本当にどうしていいかわかんないから! 皆もニヤニヤしてないで助けてよ!
「凄い……素晴らしい! 神子様と先祖返りのオースティンが恋人だなんて! これはもはや運命だ! 女神テラが結んだ運命なんだ! そんな場に僕がいるなんて信じられない!」
……もうどうすればいいんだろう。どんどん誤解が広まっていて、俺にはもうどうすることも出来ない。
「あ、あの! それよりもこの火傷の跡は幻影なんです! 今は治癒魔法で治っていて、ほら!」
どうすることも出来ないので、無理やり話を逸らすことにした。火傷の跡の幻影を解き、綺麗に治った俺の顔を見て貰う。
「な、なんてお可愛らしい! 火傷の跡があっても可愛らしいと思っていましたが、それが無くなったら更に可愛らしく! あああ! 仕立て屋を! 絵師を! やりたいことが一杯ありすぎて困ってしまう!」
と、レオナルドさんは更に暴走した。エリオット君まで一緒になって、「いつ呼びましょうか!?」なんて言っている。
その反応の仕方に驚いたけど、話を逸らすという俺の目的は達成した。
「……ダイジョウブデス」
勢いが凄かっただけで悪い人じゃないことは分かったから全然大丈夫。びっくりしただけだし。
「神子様、サザラテラで大変な目に遭われたとお聞きいたしました。あの国を出ることが出来て本当に良かったです」
レオナルドさんはブレアナさんの執事であるジャックさんに色々と聞いたそうで、ある程度の事は知っていた。
急に大勢で押し掛けてしまって申し訳ないと言ったら、この屋敷は元々そういうつもりで建てたから大丈夫だと笑ってくれた。
レオナルドさんは当然だけど、ブレアナさん達がオーサと共にサザラテラで死ぬつもりだったことも知っている。だけど大好きなブレアナさんを死なせたくない。もしかしたら皆でこの屋敷に移って来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を込めてこの屋敷を建てたそうだ。
「父である国王も兄上達も、神獣人や神子に対しての教養はきちんとあります。ですからあの国のような目に遭う事はないでしょう。心穏やかにお過ごしください」
「レオ……そのことなのだが」
あの王宮で何があったのかを未だ知らないレオナルドさんに、ブレアナさんは宰相さん達他の人から俺が『化け物』と言われたことを話した。
王族の人達は大丈夫だったけど、そうじゃない人達は俺の事を神子だと分かっていてもこの顔を見て嫌悪感を抱いた。だからこの国もあの国に似たところがあるのだと、そう説明した。
「は……? 『化け物』……?」
俺の火傷の跡を知らないレオナルドさんとエリオット君が首を傾げている。俺は今、仮面を付けているからまだ見せていない。「びっくりしないでくださいね」と一言言ってから、俺は仮面をそっと外した。
するとレオナルドさんもエリオット君も、零れ落ちそうな程目を見開き言葉を失った。エリオット君は子供だから、これを見せて変にトラウマにならなきゃいいんだけど大丈夫だろうか。エリオット君だけ席を外してもらった方が良かったかもしれない。失敗したな。
「「神子様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「ん!?」
レオナルドさんとエリオット君は流石親子というべきか。同じように怒涛の涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
「み、神子様の顔にあんなに大きな火傷の跡がっ! し、死ぬようなことがあったと言う事ですよね!? 何故その場に僕はいなかったんだぁぁぁぁぁぁ!」
「女神テラよ!! 神子様の命を繋いでくださったことを感謝いたします!!」
……うん。全然平気だったみたいだ。
なんか極端だよな。この火傷の跡を見て化け物と言うか、泣いて身代わりになりたかったと言うか。この世界に来る前は前者しかいなかったのに、こっちじゃ神子ってだけでそこまで思ってくれる人がいる。本当に不思議な感じだ。
「ヒカル様、これで義兄上達の人柄が分かっただろう。あの宰相達は神子や神獣人に対する考え方が少し違うのだ。人と違う事が違和感となり、畏怖や恐怖、嫌悪といった感情となることがある。だがそれを尊敬や崇拝、憧憬と思う事もあるのだ。その事柄をちゃんと知っているかそうでないか、それによって大きく変わってくる」
オーサが言っていることは凄くわかる。神子とは何か。神獣人とは何か。それをちゃんと理解しているから例え俺に大きな火傷の跡があろうとも、ヘインズ公爵家の皆は俺に対し嫌悪感を抱くことなく大切に扱ってくれた。先祖返りのオーサに対しても同じ。
女神との関りが無くなり長い年月が経ち、神獣人という存在が正しく理解出来ていない人が増えていった。
神子の存在さえあればこの世界は救われる。それに慣れてしまったことで自らの世界の問題を、本来なら無関係である他の世界の人間に押し付けていることすら何とも思っていない。思わなくなってしまった。
きっと他の国へ行っても、あの宰相さん達のような人は多いのだろう。サザラテラ王国は特別腐ったどうしようもない国だったけど、似たようなことはどこにでもあるんだろうと思う。
「俺、オーサや皆に出会えたことが本当に奇跡なんだって思ってる。ありがとう」
「それは私の台詞だ。この世界に来てくれてありがとう、ヒカル様」
そう言って俺の手を握り、にっこりと美しすぎる満面の笑みを浮かべたオーサ。その笑顔の迫力に、俺はいつになったら慣れるんだろうか……。
「え……? オースティンが、笑った……? しかも愛称呼び!?」
レオナルドさんもエリオット君も、オーサの笑顔を見て呆然としている。そしてレオナルドさんは俺とオーサを交互に首をぶんぶん振りまわし始めた。
「ちょちょちょ、ちょっと! アナ! 一体どういう事!? ねぇ! この2人ってそういう関係だったの!?」
「うふふふふ。びっくりしただろう? ヒカル様のお陰であの子がまた笑えるようになったんだ! ここへ来る途中も2人共すごく仲が良くてその姿は眼福だった!」
眼福……。ブレアナさん、そういう風に見てたんだ。
「私はヒカル様を愛している。この気持ちは一生変わることはないだろう」
「ふあっ!?」
だからいきなり直球投げてくるのやめてー! 本当にどうしていいかわかんないから! 皆もニヤニヤしてないで助けてよ!
「凄い……素晴らしい! 神子様と先祖返りのオースティンが恋人だなんて! これはもはや運命だ! 女神テラが結んだ運命なんだ! そんな場に僕がいるなんて信じられない!」
……もうどうすればいいんだろう。どんどん誤解が広まっていて、俺にはもうどうすることも出来ない。
「あ、あの! それよりもこの火傷の跡は幻影なんです! 今は治癒魔法で治っていて、ほら!」
どうすることも出来ないので、無理やり話を逸らすことにした。火傷の跡の幻影を解き、綺麗に治った俺の顔を見て貰う。
「な、なんてお可愛らしい! 火傷の跡があっても可愛らしいと思っていましたが、それが無くなったら更に可愛らしく! あああ! 仕立て屋を! 絵師を! やりたいことが一杯ありすぎて困ってしまう!」
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