【完結】金の双眸は愛しき者と奇跡を呼ぶ~平民シリーズ⑤ジェフリー編~

華抹茶

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31アーネストside

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「太陽が…欠けていく…」

 こんな不可思議な現象を目の当たりにして、信じたくない気持ちと、でもこれは現実なんだと思う気持ちが拮抗する。

「アシェル、始まるぞ」

「はい、アーネスト様。きっと大変な戦いになると思いますけど、僕たちなら絶対大丈夫です!」

 不安が押し寄せる中、俺の妻は何の心配もないとにこりと微笑んで見せた。その笑顔を見るだけで、その言葉の通り大丈夫だと思えるから不思議だ。

「母様……僕も一緒に…」

「ノア、言ったでしょ? 君は前線には出ちゃだめだよ。まだ11歳で冒険者登録して日も浅い。魔法だってまだまだ未熟だし。
 ここで母様たちの戦い方をよく見てて。それが一番勉強になるよ」

「でも……」

 ノアは上の兄たちに比べて魔力は多くはない。だが、それは比べる対象があの2人だからだ。普通に考えれば魔力量はかなり多い方なんだ。アシェルの血を引くお陰か魔法の才能もある。

 だが、それだけだ。まだ修練の時間も短く未熟。剣術に体術だってまだまだだ。何かあった時に上手く逃げられる術がない。

 アシェルは上の兄達とは違い、そんなノアをわざわざ前線に送り出すはずがない。だがノアだって自分が未熟なことは分かっている。それでも俺達を心配する気持ちから、前線に出たいと思っているんだろう。

 正直、俺達だって死んでもおかしくない戦いが始まるからな。

「ノア。前線に出るだけが仕事じゃないでしょ? 僕たちはこれから3日間大変な戦いをするんだ。それも皆で協力して交代しながら。
 前線から引いて休憩をとる皆のお世話をするのも立派な仕事だよ」

「わかってます……」

「怪我人の治療、食事の配膳、テントの用意、それから備品の補充に片付けや掃除だってある。それに関する様々な仕事が沢山あって、人の手はどれほどあったって困らない。
 領地の皆も協力してくれるけど、ノアのことを皆頼りにしてるよ。冒険者として培った知識や技術、それをノアは持ってる。それを使って前線で命を懸けて戦ってる皆をサポートしてほしいんだ。それで僕たち前線に出てる人たちが、次の戦いも頑張ろうって思えるんだよ」

「……はい。わかりました」

 まだ不服な顔をしているが、アシェルの言う事は分かっているノア。だから悔しいんだろう。自分も兄達のように戦えたなら、と。

 さて、戦場へ行こうと思ったその時。キィィィィィィンという音が鳴り響いた。後ろを振り返れば、領地全体を包み込むように透明な膜が張られていく。

「なんだこれは……」

 こんな物見た事がない。また不思議なことが起こり、この透明の膜が悪い物なのかそうじゃないのか判断することが出来ない。

「ノア、君はアレをどう思う?」

「……悪い気は感じません。むしろ温かい感じがします」

「うん。ノアがそう言うならそうなんだろうね」

 ノアは魔力や魔法に関してとても敏感に感じる子だ。魔法の発動や魔力の流れが見えずとも、肌で感じる不思議な力を持っている。だからこそ魔法の習得が恐ろしく早いのだが…。

「じゃあ僕たちは行ってくるよ。ノア、こっちのことは任せたからね」

「ノア、母様の事は俺がしっかり守るから安心してくれ」

「はい。父様、母様。どうかご武運を」

 もうすっかり太陽は完全に姿を消してしまった。辺りは暗くなり、時間の感覚がなくなってしまった。
 その中俺たちは戦場となる場所へと歩みを進める。

『グオオオオオオオオオオ』

 平野へと到着するなり、魔物の雄たけびが木霊した。それに合わせてドドドドドと地を踏み鳴らす音も聞こえだす。

「アシェル、来るぞ」

「はい。じゃあ作戦通りに行きますね」

 アシェルは両手を地面に押し当て目を閉じて集中する。その間俺たちは微動だにせずに待機していた。
 大量の魔物がこちらへと向かって走ってくる。その姿が見えても誰も攻撃態勢に入っていない。なぜならば――

「ここ!!」

 タイミングを見計らい、一気にアシェルは魔法を放った。それは向かってくる魔物、ではなくその通り道である地面に。

 いきなり横一列に長く深い穴が出来、そこへ魔物がどんどんと雪崩れ込んでいく。いきなり消えた地面に対応することの出来ない魔物は、吸い込まれるようにしてその穴へと落ちていった。

「よし! あの穴の中へ向かって魔法を撃ちこめ!!」

 辺境伯領軍の総指揮者である、俺の一の兄がそう叫んだ。そこへ魔法使いたちがどんどんと一斉に炎の攻撃魔法を放っていく。
 穴に飛び込む魔物も、飛び込んでしまった魔物も、まとめて焼かれ墜ちていく。

 だが魔物の数も多くその穴を超えて走り抜けてくる魔物が出てくるようになった。

「アシェル!」

「任せて!」

 言うや否や、こちらへ向かって迫りくる大量の魔物を一斉に氷漬けにしてしまった。

「流石は俺の妻だ。では行ってくる」

 ここからは剣士の腕の見せ所。アシェルばかりに美味しいところを持っていかれては堪らない。

 俺は剣を抜き放ち、凍った魔物を次々と斬りつけていった。俺だけじゃなく、騎士や冒険者の人々も一斉に。
 凍った魔物はガラス細工のように砕け散っていく。

 後ろではアシェルが穴を掘り、凍らせ、風の刃を放ち、草の蔓で足止めをする。次々と魔物の行く手を防ぎ、俺たちが戦いやすいよう魔法を使う。
 アレをたった一人で行ってしまうアシェルの恐ろしさ…。学生の時から凄まじかったが、今は更に腕を上げそれは止まることを知らない。

 だがアシェルの魔力だって限界はある。あれをずっと続けるなんて無理だ。ポーションで魔力を補いつつ魔法を使う。だがそれもやがて限界を迎える。
 集中力や体力、それらが切れてしまえばさすがのアシェルだって魔法を上手く扱えなくなる。

 どれほど戦っていただろうか。アシェルの魔法を搔い潜り、襲ってくる魔物も出てきた。次々と生まれ出てくると聞いていたが、魔物の数が多すぎる。そんな時。

『グオオオオオ!』

 また新たな魔物の叫び声が木霊した。だがその正体は――

「ドラゴン!」

 ジェフリーが言っていた、味方となってくれるドラゴン。
 昔、まだ学生時代だった時に一度戦ったことのあるドラゴン。非常に厄介な相手で、俺は一度死にかけた。

 そんな厄介なドラゴンだが、味方となったらこれ以上にない心強い味方だ。
 口を大きく開け、ドラゴンブレスを放っていく。そのたった一発であっという間に大量の魔物は消し炭となって消えた。

「ははは……凄まじいな」

 あんなものを喰らっては流石の魔物も太刀打ち出来やしない。そんなものを次々と放っていくドラゴン。

『ウオオオオオオオン!』

 また別の魔物の鳴き声だ。だが、これはもしやフェンリル?

 それは白銀の毛並をはためかせ勢いよく魔物の大群へと突っ込んでいくと、勢いよく魔物が散り散りに吹き飛んでいった。
 あちらこちらで魔物が消され、吹き飛ばされ、散り散りになる。

 人間では到底真似のできないような攻撃が繰り返されている。
 ……人間で出来るのもいたな。愛する妻と、可愛い息子が。

 そんなドラゴンとフェンリルの戦いに触発され、俺達の士気も一気に上がる。

「おい! 負けんな! 俺達もいけぇ!」

 人間だけだったならば、ここまで戦いは楽ではなかっただろう。もしかしたら今頃、とっくに領地を荒らされていたかもしれない。

 ジェフリーがずっと探し続けてきたおかげで、このスタンピードに対する準備が万全に出来た事と、あの金の瞳によってドラゴンとフェンリルの手を借りることが出来た。
 あの子自身はそう強くなくても、とんでもないものを味方に引き込むジェフリー。人類で最強なのは、あの子なのかもしれない。

「アシェル! いったん引こう!」

「はぁ、はぁ……はい、アーネスト様……」

 ある程度戦い続け、アシェルの様子を見に来れば大量の汗をかき肩で息をするアシェルの姿。
 これ以上は危険とみなし、すぐさま後退した。

「母様大丈夫ですか!?」

 こんなに疲労困憊のアシェルを見るのが初めてなノアは、すぐさま水と食事を持ってきた。だが大きな怪我もないとわかるとほっとした表情を浮かべた。

「これを食べて休んでいてください。足りなければ言ってくださいね。僕はあちらに行って手伝ってきます」

 料理を乗せたトレーを置くと、直ぐに他の場所へと走っていくノア。
 今ここの休憩所は人でごった返している。次から次へと料理を運び、水を配り、必死になって仕事をしている。
 表情も始めの不服さは鳴りを潜め、周りの人と協力しながらこなしている。

「……ノアの表情が良くなったな」

「はい。ここの仕事だってすごく大変です。ノアも自分が出来ることを一生懸命やろうとしてて立派ですね」

 成長した姿を見るのは嬉しいが、もっと子供として手のかかる時間が長ければいいのにと思ってしまうのは親だからだろうか。なんとなく寂しくも感じてしまう。

「アシェル、体の方はどうだ?」

「……正直、魔力はもうすっからかんです。少し休憩を長めに取らないと回復は難しいですね」

「頑張りすぎだ。アシェルはここの要でもあるんだ。必死になるのはわかるが、他の魔法使いだって強くなっている。今はしっかり休んで次に備えよう」

「はぁ…どうして僕は運動神経がないんだろう。剣が使えれば僕もまだ戦えたかもしれないのに……」

「俺の出番を取り上げないでくれ。そういうのはフィンレーだけで十分だ」

「ふふ。頼りにしてますね、旦那様」

 息子のフィンレーにはあっという間に抜かされてしまった。魔法だけじゃなく剣まであんなに扱えてしまったら、本気で戦えば魔法が嗜み程度の俺には敵わない。強くなってくれたのは嬉しいが、父親としての威厳が無くなったようで悔しかった。

「ねぇアーネスト様。フィンレーってばアーネスト様に凄く憧れてるの知ってますか?」

 アシェルの思わぬ発言に目が瞬く。フィンレーが憧れていたのは義父上だったはずだが。

「もちろん父さんの事も尊敬してますよ。だけど、フィンレーが小さい時からずっと剣を教えてきたのはアーネスト様じゃないですか。魔法が無くてもあんな風に戦えるアーネスト様のことを凄い凄いって言ってるんですよ。
 きっと照れくさくて本人には言えないんでしょうけど。ふふふ。フィンレーも大きくなったのにまだまだ可愛いですね」

 なんだか心の中がくすぐったくも温かくなった。
 ……帰ってきたらまた手合わせでもするか。しばらくやっていなかったからな。それならリアムやノアも一緒に。たまには息子たちとの時間も欲しいからな。

 そのためにはこの戦いを何としても生きて勝ち抜かなければならない。

 また家族全員で笑い合う日常を迎えるために、今しばらく英気を養うことにした。








* * * * * *

この話、実はアシェル編で出てきた親衛隊長A視点にするつもりでした。でも、めんどくさいしまぁいっか、と無しにしましたw
すまんな。親衛隊長A…(だって名前付けてないもんw)

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