【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!

華抹茶

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2.勇者は『賢者』にジョブチェンジ

 俺はただいま、異世界にて魔法の講義を受けて練習をしています。

 結局あのあと「勇者」として異世界召喚された俺の魔力量を調べたところ、この国どころかこの世界で一番と言っても差し支えないほどの膨大な魔力量を持っていることがわかった。
 この国、アーマンド王国の王太子であるフェリクス王子もとんでもない魔力量を持っているらしいが、それを軽く超える魔力量だったらしい。チートである。

 だが悲しいかな。剣や弓といった適正は皆無だったのだ。なぜなら俺が運動音痴だったから。
 勇者として召喚されたのならチートによって運動能力が上がるかと思いきや、そんなことはまったくなく武器を持って戦うこと全般がことごとく駄目だった。
 ただ現代日本で育った俺としては、正直武器を持って戦うなんて恐ろしくて御免被りたいところだったからちょうどよかった。十代だったら「よし! 俺がみんなを救ってやるぜ!」みたいになれたんだろうが、俺はもう三十路を目前にしている二十七歳。
 自分の身の丈くらい十分すぎるくらいにわかっている。

 そしてこの世界の事情も聞かせてもらった。
 この世界には魔物がいるそうなのだが、『討伐士』という魔物討伐を専門に扱う職業の人が討伐している。また大型の魔物の場合は各国の騎士団も討伐に参加することもあるんだそうだ。
 そういった討伐士や騎士団の人がいるおかげで、人里で魔物による被害というのはほぼないんだそう。だがそれが数年前から変わってしまった。なぜか魔物の数がどんどん増えたらしいのだ。
 そこで各国が調査したところ、隣国のジュリヴァ王国の端っこにある山で巨大で狂暴な魔物が誕生していたことがわかった。なんとその魔物は自らの体から魔物を生み出していたんだそうだ。

 元凶はコイツだとわかったため、英雄と呼ばれるような強い人たちが討伐に赴いた。だが魔物の強さは尋常じゃなく、ことごとく返り討ちに遭ってしまったらしい。
 ここまで強い魔物であったことから、これはもう伝説の『魔王』と同じだろうということになり、各国に『魔王』の出現が発表された。

 英雄と呼ばれるような強い人たちですら太刀打ちできないような『魔王』の誕生。それに打ち勝つためには同じく伝説の『勇者』が必要だ。そう結論付けられ、勇者召喚をすることに決まった。
 五百年ほど昔にも魔王が誕生したらしく、それを異世界から召喚された勇者が討伐したという伝説。俺と同じ黒目黒髪の勇者が、あっという間に討伐したんだそうだ。
 ……もしかしてその勇者も日本人だったんじゃないだろうか。

 五百年前に勇者を召喚した召喚魔法を研究、復元し、俺を召喚することに成功した。ということらしい。

「さすがは『勇者様』だな。もうここまで魔法を使えるようになったのか」
「あ、フェリクス」

 外の訓練場で魔法の練習をしていると、王太子であるフェリクスが様子を見に来たようだ。最初は相手が王子様ということでフェリクス様、と呼んでいたのだが、「勇者様にそのように呼ばれるのは恐縮してしまいます」と言われ呼び捨てで呼ぶことに。
 最初は呼び捨てなんてと思っていたのだが、フェリクスが俺より年下の二十三歳というのもあり、今では違和感もほとんどなくなった。それにフェリクスも呼び捨てで呼んだ方が嬉しそうだし。

「その『勇者様』ってのやめてくれって言ってるだろ」
「はは、そうだった。……ソウタ、この世界のために本当にありがとう」
「……ん。まぁやれるだけやるよ」

 ただ魔王を討伐するなんて正直怖すぎて今すぐにでも元の世界に帰りたい。でもこの世界に来て数日で、俺はここの人たちに絆されてしまった。
 国王陛下並びに他の王族の方々も、平伏まではしなかったが俺に頭を下げてくれたし、それ以外にもこの城にいるすべてと言ってもいい人たちからお礼と謝罪の言葉をかけられた。

 城に滞在している時も俺に不便がないよう気を遣ってくれるし、なんなら俺の世話係を王太子であるフェリクスが率先してやる始末。
 仕事だって忙しいだろうに、それよりも俺のことをサポートする方が大切だと世話係を降りるつもりはないそうだ。

 それと俺は元の世界に戻れるそうなのだ。ただ召喚魔法を発動させるには膨大な魔力と緻密な計算が必要で、それをまた準備するために時間がかかるらしい。
 フェリクスが俺に対しそこまでしてくれたことと、元の世界に戻れるということで、俺は渋々ながらも魔王討伐に行くことを了承した。
 
 俺も了承した手前、死ぬつもりもないし成功させなければいけない。それに俺には膨大過ぎる魔力がある。
 魔法を磨きに磨くことを決め、こうして毎日魔法の鍛錬を行っているのだ。

「しばらくソウタの側を離れてしまって申し訳ない。ここからは私も参加しよう」
「だから俺にそこまでしなくていいって言ってるのに」

 フェリクスは今日、どうしても外せない仕事があったらしい。だがこれで魔王討伐が完了するまでは俺の側にずっといられるそうで、今の表情は実に晴れ晴れとしている。
 別にそこまでしなくてもいいんだけどな。
 ただフェリクスも魔王討伐メンバーに名乗りを上げたため、仕方ないのかもしれない。

「いや、ソウタからは学ぶことも多い。新しい魔法をどんどん作っているからな」

 この世界は魔法があるのだが、なんと攻撃魔法しかなかったのだ。他にある魔法と言えば、俺を召喚した召喚魔法だけ。それも過去の文献を漁り、なんとか復元したものに過ぎない。
 強い攻撃魔法はあってもそれ以外が発達していない、なんともアンバランスな世界だったのだ。

 そこで俺は過去に見た漫画やアニメなどから治癒魔法や補助魔法を開発。魔法はイメージが大事らしく、意外にも簡単にそれらを作ることに成功した。
 俺はもう水を得た魚のように魔法に熱中した。だって魔法が使えるんだぞ! あっちの世界じゃ絶対に無理だった魔法が!
 考えれば考えるほど、どんどん新しい魔法ができあがる。いろんなことがやれるようになって、面白くて仕方がなかった。

 そして今は補助魔法をかけたフェリクスが、動きの確認やどこまでできるのかをいろいろと実験してくれている。
 二人であーだこーだと議論するのも楽しくて、今は少しだけこの世界に来てよかったと思っている。

「んじゃ今日も始めるか」
「ああ、よろしく頼む」

 フェリクスに素早さを上げる補助魔法をかける。トントンと足の動きを確認したフェリクスは、目にもとまらぬ速さで動き出した。
 仮想敵を思い浮かべながら剣を振るうフェリクスは、見惚れるほどに美しくて格好いい。

 フェリクスは攻撃魔法だけじゃなく剣もかなり得意だった。しかも俺がかけた補助魔法によってその強さは跳ね上がる。
 こうなると、俺よりフェリクスの方が『勇者』に向いていると思うんだよな。

「フェリクス、お前が『勇者』やれよ。そっちの方がずっといい」
 
 俺はどうやってもフェリクスみたいに戦えない。魔法しか使えない俺は完全に後衛の人間だ。前衛のフェリクスが『勇者』を名乗るべきだろう。

「……だったらソウタは『賢者』だな。新しい魔法を生み出す『叡智の賢者』だ。ソウタにこそ相応しい」

 とんでもない過大評価が飛び出してしまった。だが悪くない。昔に封じ込めた俺の中の中二病がむくむくと顔を出している。

 それから『勇者』の称号はフェリクスに渡り、俺は『賢者』の称号を得ることになった。
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