【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!

華抹茶

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8.異世界に来たのだから

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「ところで、なんで俺はまた召喚されたんだ?」

 ある程度お腹も膨れてきたタイミングで気になったことを訪ねてみた。まさかまた魔王が復活したとか言わないよな?

「会いたかったから」
「へ?」
「私がソウタに会いたかったからだよ」

 なんだと!? ってことは、フェリクスはまだ俺を諦めていなかったってこと!?

「実はね、ソウタと別れる時に印をつけたんだ」
「印?」
「そう。ソウタの額にね」

 フェリクスはにっこり笑って楽しそうにそう宣った。おでこに印って……まさか!?
 ハッと気が付いた俺の顔を見てますます笑みを深めるフェリクス。おいおいおい、全っ然気が付かなかったぞ……

 あっちの世界へ戻る前日、あのバルコニーで告白をされた日。俺はフェリクスの真剣な告白を断った。その時フェリクスは『最後にあなたの幸福を願わせてほしい』と言って俺の額にキスをした。
 少し長いキスだったなと思っていたが、どうやらあのキスの時に俺に魔法をかけていたらしい。それも俺がどこにいるのかわかる、いわゆるGPS的なものを。

「ソウタが向こうへ帰ってからいろいろとわかったことなんだけど、どうやらこの世界とソウタの世界は時間軸が同じようなんだ」

 フェリクスは俺がいなくなってから額に付けた印を辿り、俺が向こうでどのような動きをしていたのかを観察していたそうなのだ。
 朝と夜は同じ場所から印が動く様子はない。だが日中は印の場所が移動する。これは家から仕事へ向かったということ。俺があっちの世界に戻ってからしばらく俺の印の動きを見て確信を得たそうだ。

 それに俺はこっちの世界にいた時に、フェリクスに向こうの世界はどんなところなのか、どんな生活を送っているのか、仕事はどんなことをしているのか、そういったことを聞かれたくさん話をしている。
 その時の情報と擦り合わせていたのも大きい。

 この一か月の間に召喚魔法の内容も熟知し、膨大な魔力はフェリクス一人で賄えることもわかった。
 どういうことかというと召喚魔法をいろいろ弄って省エネで俺を召喚できるようにしたそうなのだ。それでも多くの魔力が必要なことは変わらないものの、フェリクス一人の魔力でできるようになったそうだ。

「ソウタはドニチがお休みなのだろう? だから今日ソウタが帰宅したのを見計らって召喚したんだ。上手くいったね」
「いやいやいやいや! いつの間にそんな魔法を開発してたんだよ!?」
「んー……ソウタが魔法は想像力が大切だと言っていた時から徐々に、かな?」
「ってそれ、ほとんど最初の時じゃん!?」

 この世界に来て、俺は初めて魔法というものを勉強した。チートだったからというのもあるが、大体のことを学んだ後は魔力の使い方も魔法もあっという間に使うことができた。
 それからフェリクスにどうやって魔法を使っているのかを聞かれ、俺独自の理論を話したのだ。最初はフェリクスも驚いていたけど、元々優秀なフェリクスは俺の魔法講義にしっかりとついてきた。
 それどころかいろいろ質問も飛び、俺もそれに答えている内にフェリクスは誰よりも早く新しい魔法を習得した。
 それがまさか自分で独自の魔法を開発するところまで成長していたなんて……

「ねぇソウタ。私はソウタのことが好きだ。これほど心から人を好きになったことが初めてなんだ。そんなソウタを諦めるなんてできないよ。だからこれから覚悟しておいてね」
「え……マジっすか……」
「あ、でもちゃんと明後日の夜にはあちらの世界に戻れるようにするから安心して」

 フェリクスって爽やかな顔しておきながら、かなりの執着心をお持ちのようだ……俺、まさか貞操の危機!?
 と一瞬不安になったものの、フェリクスは俺を無理やりどうこうしようとする気はないようだった。
 食事が終わり風呂に入った時も俺一人でのんびり入らせてもらえたし、寝る時も同じベッドで寝るなんてこともない。もしそんなことになったら頑として断ろうと思っていたからちょっと拍子抜けしてしまった。

 それとなんだかフェリクスの雰囲気が変わった気がする。
 以前は王子様然とした様子があったのに、久しぶりに会ったらものすごく柔らかくなったというか。もしかしてこっちが素なんだろうか。
 でも俺はこっちの方が付き合いやすくて気楽だと思った。



「ソウタさん! お久しぶりっす!」
「シャノン! 元気にしてたか?」

 翌日、朝食後に俺の部屋にやって来たのはシャノンだった。シャノンは俺の顔を見るなり勢いよく駆け寄って抱きついてきた。それがまるで尻尾を振って喜ぶ犬のようで可愛くて堪らない。
 思わず頭をわしゃわしゃとかき混ぜるように撫でてやると、「にへへ」と嬉しそうに笑ってくれた。こんなに可愛い子だけど魔物相手には非情にもなれるめちゃくちゃ強い討伐士だ。

「シャノン、くっつきすぎだ」

 眉間に皺を寄せたフェリクスが、俺に引っ付いていたシャノンをべりっと剥がす。シャノンはそれにぶーぶーと不満の声を上げている。
 俺はまぁまぁと二人を宥めるとシャノンに椅子を勧めた。するとすぐに使用人の人がシャノンの分のお茶を用意してくれ、香り高い紅茶が並ぶ。

「シャノン、あれから魔物の方はどうなった?」
「魔王がいなくなったことで、今はだいぶ収まってきたっすよ!」

 討伐士と騎士団が総力を挙げて掃討戦を行ったこともあって、今じゃ魔物による被害はかなり抑えられてきたそうだ。それはこの国だけじゃなくて、各国でも共通していることだそう。
 復興しなければならない地域も多くあるが、魔王がいなくなったということで人々はとても明るくなり、復興も早く終わるだろうと考えられている。

「ソウタさん、今日は何か用事があったりするんすか?」
「いや、特に何もないよ」
「本当っすか!? じゃあソウタさん、今から一緒に討伐士の仕事、してみないっすか!?」

 討伐士の仕事って魔物討伐とかだよな? 魔物の数は以前よりも減ったとはいえ、まだまだたくさんいる。それにこの世界じゃ討伐士と呼ばれているが、漫画やアニメでよくある『冒険者』と同じようなものだ。
 魔王を倒すなんて冒険をやったが、冒険者の真似事はまだしていない。どうしよう。すんごい面白そう!

「え、やりたい! 一回やってみたいと思ってたんだ!」
「本当っすか! やりぃ! じゃあ早速行くっすよ!」

 折角異世界に来て魔法まで使えるんだ。漫画とかアニメで観ていた冒険者の仕事をやれるなんて楽しそう以外にないだろ!
 わくわくとした気持ちを抑えられずハイテンションのままシャノンと立ち上がる。だがそんな俺たちに待ったをかけたのはフェリクスだった。

「ソウタ!? 駄目だ、魔物討伐なんて危険だ! それにソウタは一目で『賢者』だとわかってしまう。そうなれば人々が押し寄せ街は大混乱となる」
「は? 危険って魔王以上に危険なやつなんているか? ……でも、確かに俺の黒目黒髪は正体が一発でわかるよな」

 俺のことはこの国だけじゃなくこの世界全体で広まっている。姿絵なんてものも出回っているらしく、平凡な俺でもちょっとした有名人だ。
 しかもこの世界はいろんな髪色や目の色の人がいるが、どちらも黒色っていうのはいないんだそう。この色を持っているというだけで、俺の正体はすぐにバレてしまうそうだ。
 そんな俺が街に行って、人々を混乱させるのは本意じゃない。

「んー、じゃあこうすればいい」
「なっ!?」

 俺は魔法で目と髪の色を変化させた。ちょっと憧れてた金髪に、というのは俺の平凡顔じゃ似合わないことはわかりきっているので明るめの茶色だ。
 黒目黒髪イコール賢者と結びついているのなら、色を変えてやればそうそうバレはしないだろう。

「うおおお! なんか一気に雰囲気変わるっすね! そんなソウタさんも似合ってるっす!」
「お、そうか? じゃあ大丈夫そうだな」

 うんうん。これなら街に行っても問題なさそうだ。と、俺とシャノンはわいわいと盛り上がっているが、ただひとりずっと眉間に皺を寄せて難しい顔をしているフェリクス。
 そんなに俺が討伐士の仕事をするのが嫌なのかよ。

「……ソウタがどうしても行くと言うのなら私も行く。今はダグラスもいないしソウタを守る者がいないから」
「シャノンが一緒だし大丈夫だと思うのに……ちょっと過保護すぎないか?」
「それでもだよ。……心配なんだよ、ソウタ。あなたが私の目の届かない場所で危険なことをするというのが」

 悲痛な面持ちで俺の手をそっと握るフェリクス。まぁ俺は魔法がチート並みとはいえ、運動神経はてんで駄目。旅に出ていた時も基本ダグラスが俺を守ってくれていたからフェリクスも安心して前に出られたんだ。
 討伐士は死と隣り合わせの仕事でもある。俺が考えている以上に危険な仕事だからこそ、フェリクスはここまで心配してくれるんだろう。

「……わかったよ。じゃあフェリクスも一緒に行こう」
「ああ、ありがとうソウタ」

 俺がそう言うとほっとしたように笑ってくれた。
 それなら善は急げとばかりに、俺たちは早速出かけることにした。
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