【完結】異世界に召喚された賢者は、勇者に捕まった!

華抹茶

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10.賢者の講義、受けませんか?

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 街の入り口近くまで馬車でやってくると、そこからは徒歩で街へと入る。
 街並みはまるでヨーロッパの街のようで、まるで海外旅行にでも訪れたかのようだ。まぁ俺は海外どころか異世界に来ちゃってるんだけどね。
 建物の密集具合や背の高い建物も多く、おまけに人の数も多くてさすがは王都。ただ歩いているだけなのにわくわくとテンションが上がり、周りをきょろきょろと見回していた。

「シャノン様! お疲れ様です!」
「シャノン様だ! 会えて嬉しい!」

 道を歩くだけでシャノンに気が付いた人々が声をかける。シャノンはそれに笑顔で手を振っていて、彼の人気が凄まじいことがよくわかる。
 ただシャノンにこれだけ人気があると、シャノンの恋人にしてみれば嬉しい反面、つらい気持ちを抱えるのもわからないでもない。

 街はかなり広大だ。歩いてあちこち移動するというのは無理がある。そこで路線バスのような役割をする乗合馬車というのがあり、それに乗って移動することになった。
 乗合馬車には他の乗客もいるし、シャノンがいるだけで車内の盛り上がりは凄かった。ただシャノンも以前、周りへの注意喚起として近寄ってきたり過剰な接触はやめてほしいとお願いしていたらしく、それ以上の混乱は起きなかった。
 大体の人はシャノンの気持ちを汲んでくれる人らしいのだが、中には関係なく突撃してくる人もいるとのこと。あまりにも酷い場合はシャノンが捕縛して警察の役割をする憲兵に突き出しているんだそうだ。
 人気がありすぎるというのも大変である。

「ソウタさん、次で降りるっすよ」

 シャノンの後に続いて馬車から降りる。そこから少し歩いて行けば一軒家が見えてきた。こじんまりとしているが、壁の色が白に屋根の色が水色の可愛らしい家。恋人と一緒に住んでいると言っていたし、二人暮らしならちょうどいい大きさだ。

「ただいまー」
「え!? シャノン!? もう帰って来たの!?」

 玄関の扉を開けてシャノンが大きな声を出すと、驚きながら奥から出て来るひとりの男性。え、男性!?

「モーリス、すっげぇ人を連れてきたぜ。なんとこちらの方はあの有名な『賢者様』なんだ!」
「え? 賢者、様……?」

 モーリスと呼ばれた男性はきょとんと不思議そうに俺の顔を見る。しかもこの人、顔立ちがめちゃくちゃ可愛らしい。中世的な顔で思わず守ってあげたいと思わせるような雰囲気を持っていた。
 シャノンの恋人が男性だと知って驚く俺をよそに、シャノンは笑顔で紹介してくれる。俺は慌てて髪と目の色を元に戻して余所行きの顔を張り付けた。

「はじめまして。恥ずかしながら『賢者』と呼ばれているソウタ・タケウチです。よろしくお願いします」
「え……嘘。黒目、黒髪……え、本当に賢者様……?」
 
 モーリスくんは目が零れ落ちそうなほど見開いたまま固まってしまった。え、大丈夫? 息吸えてる?

「ソウタさん、幼馴染で恋人のモーリスっす!」
「とっても可愛らしい人だね」
「そうっしょ!? モーリスって可愛いっすよね!」

 俺がそう言えばシャノンは嬉しそうに笑ってくれた。ただモーリスくんは固まったまま。大丈夫かな?

「あ、あ、あ、あ、あの! モ、モ、モ、モーリスと言います! け、け、け、賢者、様にっ、お、お、お、お、お会いっできてっ……こ、こ、光栄っですっ……! ひゃぁぁぁぁぁ! え、嘘、すごいっ! 賢者様が、賢者様がっ! 目の前にいるぅぅぅぅぅ!」

 モーリスくんは顔を真っ赤にさせて顔を両手で覆い、ジタバタと足踏みを繰り返していた。そこまで喜んでもらえてなによりだ。
 シャノンは「わはは」と笑ってモーリスくんの背中をさする。すると徐々に落ち着いてきたらしく、家の中へと入れてもらえた。リビングの椅子に座るとモーリスくんは慌ててお茶を用意してくれ、おまけに美味しそうなクッキーまで出してくれた。

「ごめんね、急に訪ねてきて」
「いいいいいいえ! 賢者様ならいつでもっ! 大歓迎ですので!」
「あはは! モーリスってば緊張しすぎ!」

 家の中は観葉植物がたくさん置かれていて落ち着く雰囲気だった。どうやらこの植物たちの世話もモーリスくんが一手に引き受けているんだそうだ。可愛い雑貨も飾られていて、どれもこれもモーリスくんのセンスらしい。

「あ、あのっ……シャノンが、魔王討伐の際に大変お世話になったと聞いております。無事に帰って来られたのも賢者様のおかげだと伺いました。本当に、本当にありがとうございました!」

 少し落ち着いてきたモーリスくんは真剣な表情になると、すっと立ち上がって俺に深々と礼をしてくれた。その姿に本当にいい子なんだなぁと嬉しくなる。
 きっとシャノンが無事に帰って来てくれるか不安だったに違いない。大事な恋人が魔王討伐なんて危険なことに出かけてしまったんだから。
 生きて帰って来た時はきっと嬉しかっただろう。たぶんぼろぼろと泣いていたんじゃないかな。そんな気がする。
 でも今現在、シャノンが更に有名になってしまったことで周りからは「シャノンに相応しくない!」と詰められている。別れた方がいいなんて思ってしまうくらい追い詰められているんだよな。なんとかしてあげられないだろうか。

「いえいえ。俺もシャノンにはたくさん助けてもらいました。すごく強くてバッタバッタと魔物を倒す姿は圧巻でしたよ」
「そうなんです! シャノンって目にもとまらぬ速さで駆け抜けてあっという間に討伐してしまうんです! 本当に格好よくて、戦っているシャノンも本当に素敵で……」
 
 俺がシャノンの強さを褒めたら自分のことのように嬉しそうに笑ってくれたモーリスくん。だがその声は段々としぼんでいき、悲痛な表情へと変わってしまった。

「モーリスさんって魔力量が多くて魔法が使えると聞きました。きっとシャノンといいコンビなんでしょうね」
「いえ……僕はシャノンと違って落ちこぼれで……魔法も上手く、使えなくてっ……」
「モーリス、そんなことないって言ってるだろ! 俺はモーリスにはたくさん助けてもらったんだって!」

 モーリスくんは耐えきれなくなったのか、ぽろぽろと涙を流してしまった。
 シャノンとモーリスくんは一緒に討伐士の登録をしてコンビを組んだ。最初はシャノンだって弱くて、なかなか上手く仕事ができずしばらくはかなり貧しい生活を送っていたらしい。
 シャノンは魔力が少なくて魔法を使えない。それをモーリスくんがカバーしたおかげで、なんとか仕事をやりくりしていたんだそうだ。
 そのおかげもあってシャノンは徐々に力をつけていき、Sランク討伐士にまで上り詰めた。モーリスくんの助力がなかったらできなかったことだとシャノンは言っていた。
 それを勝手なことを言っている周りの人は知らない。シャノンがいくらそう言っても、誰も聞く耳を持たない。モーリスくんが弱くてシャノンが可哀想だと言われる始末。関係ない俺ですら腹が立って仕方がない。

「モーリスさんはシャノンと肩を並べて戦えるようになりたいですか?」
「え? は、はい! それはもちろんです! 僕がもっと魔法を使えたら! もっと強かったらシャノンひとりで戦わせるなんてことはさせません!」

 お、結構気概のありそうな子じゃないか。シャノンにひとりで討伐士の仕事をさせるんじゃなくて、隣に立って一緒に戦いたいって気持ちが伝わってくる。そんな子には力になってあげたい。

「じゃあこういうのはどうですか? 俺の魔法講義、受けてみます?」
「え……?」
「ソウタさんっ……!」

 シャノンだけじゃなく、俺はモーリスくんも気に入った。だから俺はこの二人を応援したい。
 モーリスくんが討伐士として弱いからシャノンに相応しくないと言われているなら、モーリスくんが誰にも文句を言わせないほどに強くなってもらえばいい。

 俺は驚く二人に向かってにっこりと笑った。
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