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20.何気ない日常
あれから俺はフェリクスにしがみ付いて泣きはらした。涙と感情が落ち着いてくると、今度は恥ずかしさがこみ上げる。
二十七にもなったいい大人が年下にしがみ付いて泣くなんて。
案の定俺の顔は酷くブサイクになった。なのにフェリクスは俺が初めてこいつの前で泣いたことが嬉しかったのか、「可愛い」なんてい言いやがった。どこがだよ。
顔を洗ってしばらくは家の中でぼーっと過ごした。こんな顔ですぐにでかけるなんてできないからな。
フェリクスはソファに座っている間、ずっと俺の手を握っていた。女の子とは違って、俺よりも手は大きいしごつごつしてる。柔らかさのない手なのに、家族と同じくらい温かい手だった。
あんなに大泣きして恥ずかしいのに、でもこいつがいてくれたからあんなに泣けたような気がする。大泣きするなんてばあちゃんが死んだ時以来だ。
なんだか気持ちがすっきりした気がする。やっぱり誰かが一緒だと安心するんだな。
それから数時間ほどすると俺の顔も落ち着いてきて、最初の予定通りでかけることになった。
大きなショッピングセンターへ出かけると、またフェリクスは大興奮に。一か所にこれだけたくさんの店が入っていることも、多くの人が買い物していることも、人々の服装にもずっと驚いていた。
中でも一番面白かったのは――
「ソ、ソウタっ……! あ、あの女性、ドレスが短いんだけど大丈夫なの!? 破廉恥過ぎない!?」
その言葉を聞いて思わず笑ってしまった。確かにあっちの世界じゃこんなに短いスカートなんて誰もいなかったしな。フェリクス曰く、向こうでは女性が足を出すのははしたないことなんだそうだ。
こっちの世界では普通の格好だと話したら「……どこを見ればいいのかわからない」となんとも初心な言葉。顔も少し赤くなっている。可愛いじゃないか。
ショッピングセンターで食器類や日用品、それからついでにフェリクスの服も買った。
フェリクスが持ってきていた服はシンプルなシャツとパンツばっかりだったが、それじゃ面白くない。こいつはせっかく格好いいんだから。
お店に入れば店員が目をハートにしてあれこれ勝手に世話を焼いてくれた。フェリクスは着せ替え人形になってたくさんの服に袖を通す。
店員さんのセンスは抜群で、どれもこれも似合っていた。服装が変わるだけでまた雰囲気も一気に変わる。ただのジーンズですらフェリクスが身につけると超高級ブランドにしか見えない。
そのまま服を数着購入し、フェリクスにはせっかくだからとこっちの服を着てもらった。
そこからはすごかった。元々フェリクスはイケメン過ぎるくらいイケメンだからかなり目立つ。それでも服が少々味気なかったからか声をかけられることはなかった。
だが服を変えただけで多くの女性から声をかけられることに。フェリクスは一瞬戸惑ったものの、王子様スマイルで優しく断りを入れる。
大体はそれで諦めてくれるのだが、中にはしつこい人もいた。これ以上相手をする必要はないとフェリクスを連れ出そうとしたのだが、フェリクスは俺の肩に腕を回してぐっと引き寄せる。
「ごめんね。私は、彼のしもべだから」
「……は?」
「彼にしか興味ないんだ。だからごめんね」
しかも俺の頭にちゅっとキスまでしやがった。その途端「きゃー!」と女性の声が響き渡り、かなり騒がせていることに焦る。
フェリクスの腕を引き走るようにその場を去った。ただひとりフェリクスだけは楽しそうに声を上げて笑っている。
笑いごとじゃない! と怒ったのだが、普段絶対に起こり得ない状況になったことが、あとから段々と面白くなって俺まで一緒に笑ってしまった。
車に乗り込んでからしばらく、笑って運転ができないくらいだった。
「ありがとうフェリクス」
「え?」
「お前がいてくれて助かった」
あんなに大泣きしたあとなのに、フェリクスといると自然と笑っていることに気が付いた。家族のことを思い出したのに全然寂しくないんだ。
フェリクスの存在がいかに大きいものなのか、嫌でもわかってしまった。
こいつと一緒にいたら、家族を失った悲しみからも脱却できそうな気がする。そんな予感がした。
◇
「ただいまー」
「ソウタ、おかえり! 食事にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
「……お前はそんなことまで覚えたのかよ」
「あははははは!」
あれからフェリクスとの生活は順調だ。俺は平日どうしても仕事に行かなければいけないのだが、家で留守番しているフェリクスはその間に家のことをすべてしてくれた。掃除に洗濯、それから料理まで。
家に帰ってくると出来立ての料理が並んでいる。快適なんてもんじゃない。
フェリクスにはスマホを購入して渡してある。ネットの使い方も覚え、今では自分でいろいろと検索してたくさんのことを覚えてしまった。……余計なものまで覚えてしまっているけど。
今のフェリクスのお気に入りはレシピがたくさん載っているアプリだ。それを見ては料理の腕を上げていくもんだから毎日のご飯が楽しみになった。
それ以外にも動画を観たり、経済を調べたり、日本のことを調べたりと有効活用している。地図アプリも使いこなしているから、今ではひとりで出かけることも可能に。
メッセージアプリも使いこなしており、散歩に出かけた時に撮った写真を送ってくるからひとりでも楽しそうに日中を過ごしていることがわかる。
「ソウタ! 今日はブリダイコンに挑戦したんだ!」
「お、すごいな! 美味そう!」
「ふふ、ソウタに喜んでもらいたくて頑張ったんだ。さ、さっそく食べよう」
「ああ。それにしても、もうすっかりこっちの人になったな」
今でも新しいことを見たり知ったりすると興奮するのだが、ここ最近は落ち着いたものだ。こちらの服も難なく着こなしているし、言葉も流暢だし、機械を使うことにもすっかり慣れた。
家にいながらでも全世界のいろんなことを調べたりできるもんだから、フェリクスは毎日があっという間なんだそうだ。しかも今じゃ外国語まで勉強したいと言い出し、英語のテキストを数冊購入している。
フェリクスはこの世界のいいところや取り入れたいところをメモに残していて、あちらの世界に戻った時に弟のスウェインに伝えるんだそう。
もしかしたらアーマンド王国では革命が起きるかもしれないな。そしていずれは世界中に広がって、あの世界が大きく変わっていくのかもしれない。
フェリクスの努力が世界を変えるかもしれないなんて、やっぱりこいつは『勇者』に相応しい。
「うんまー! フェリクス、お前天才!」
「よかった! うん、美味しいね」
フェリクスの作る料理は本当に美味い。野菜や肉に魚とバランスもちゃんと考えられているし、なんだか健康になった気がする。
俺は家事を一切やってないから、せめて皿洗いくらいはするようにしている。ただその時に後ろから抱きしめられて「ソウタ、ありがとう」と頭にちゅっとキスされるもんだから恥ずかしい。
皿洗いの邪魔だと言っても「ふふ」っと笑うだけでやめる気配がない。俺もそれ以上は強く言わないってのもあるけど。
たぶんずっとフェリクスと一緒に寝ているから慣れてしまったのもあるんだろう。布団を購入しようとしたら、フェリクスが絶対嫌だと反対した。
そこで無理やりにでも布団を買えばよかったんだろうけど、俺もなんだかんだ一緒に寝ていて嫌じゃなかったから結局今も一台のベッドで一緒に寝ている。
「明日はあっちの世界に帰る日かぁ。本当にこの一か月あっという間だったなぁ」
「充実してると一日がすぐに終わるよな」
向こうから緊急連絡などもなかったし、普通に穏やかに日常を過ごしていた。俺も向こうへ行くのは久しぶりだ。あっちへ行ったら魔法を使いたいから討伐士の仕事でもすることにしよう。
二十七にもなったいい大人が年下にしがみ付いて泣くなんて。
案の定俺の顔は酷くブサイクになった。なのにフェリクスは俺が初めてこいつの前で泣いたことが嬉しかったのか、「可愛い」なんてい言いやがった。どこがだよ。
顔を洗ってしばらくは家の中でぼーっと過ごした。こんな顔ですぐにでかけるなんてできないからな。
フェリクスはソファに座っている間、ずっと俺の手を握っていた。女の子とは違って、俺よりも手は大きいしごつごつしてる。柔らかさのない手なのに、家族と同じくらい温かい手だった。
あんなに大泣きして恥ずかしいのに、でもこいつがいてくれたからあんなに泣けたような気がする。大泣きするなんてばあちゃんが死んだ時以来だ。
なんだか気持ちがすっきりした気がする。やっぱり誰かが一緒だと安心するんだな。
それから数時間ほどすると俺の顔も落ち着いてきて、最初の予定通りでかけることになった。
大きなショッピングセンターへ出かけると、またフェリクスは大興奮に。一か所にこれだけたくさんの店が入っていることも、多くの人が買い物していることも、人々の服装にもずっと驚いていた。
中でも一番面白かったのは――
「ソ、ソウタっ……! あ、あの女性、ドレスが短いんだけど大丈夫なの!? 破廉恥過ぎない!?」
その言葉を聞いて思わず笑ってしまった。確かにあっちの世界じゃこんなに短いスカートなんて誰もいなかったしな。フェリクス曰く、向こうでは女性が足を出すのははしたないことなんだそうだ。
こっちの世界では普通の格好だと話したら「……どこを見ればいいのかわからない」となんとも初心な言葉。顔も少し赤くなっている。可愛いじゃないか。
ショッピングセンターで食器類や日用品、それからついでにフェリクスの服も買った。
フェリクスが持ってきていた服はシンプルなシャツとパンツばっかりだったが、それじゃ面白くない。こいつはせっかく格好いいんだから。
お店に入れば店員が目をハートにしてあれこれ勝手に世話を焼いてくれた。フェリクスは着せ替え人形になってたくさんの服に袖を通す。
店員さんのセンスは抜群で、どれもこれも似合っていた。服装が変わるだけでまた雰囲気も一気に変わる。ただのジーンズですらフェリクスが身につけると超高級ブランドにしか見えない。
そのまま服を数着購入し、フェリクスにはせっかくだからとこっちの服を着てもらった。
そこからはすごかった。元々フェリクスはイケメン過ぎるくらいイケメンだからかなり目立つ。それでも服が少々味気なかったからか声をかけられることはなかった。
だが服を変えただけで多くの女性から声をかけられることに。フェリクスは一瞬戸惑ったものの、王子様スマイルで優しく断りを入れる。
大体はそれで諦めてくれるのだが、中にはしつこい人もいた。これ以上相手をする必要はないとフェリクスを連れ出そうとしたのだが、フェリクスは俺の肩に腕を回してぐっと引き寄せる。
「ごめんね。私は、彼のしもべだから」
「……は?」
「彼にしか興味ないんだ。だからごめんね」
しかも俺の頭にちゅっとキスまでしやがった。その途端「きゃー!」と女性の声が響き渡り、かなり騒がせていることに焦る。
フェリクスの腕を引き走るようにその場を去った。ただひとりフェリクスだけは楽しそうに声を上げて笑っている。
笑いごとじゃない! と怒ったのだが、普段絶対に起こり得ない状況になったことが、あとから段々と面白くなって俺まで一緒に笑ってしまった。
車に乗り込んでからしばらく、笑って運転ができないくらいだった。
「ありがとうフェリクス」
「え?」
「お前がいてくれて助かった」
あんなに大泣きしたあとなのに、フェリクスといると自然と笑っていることに気が付いた。家族のことを思い出したのに全然寂しくないんだ。
フェリクスの存在がいかに大きいものなのか、嫌でもわかってしまった。
こいつと一緒にいたら、家族を失った悲しみからも脱却できそうな気がする。そんな予感がした。
◇
「ただいまー」
「ソウタ、おかえり! 食事にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
「……お前はそんなことまで覚えたのかよ」
「あははははは!」
あれからフェリクスとの生活は順調だ。俺は平日どうしても仕事に行かなければいけないのだが、家で留守番しているフェリクスはその間に家のことをすべてしてくれた。掃除に洗濯、それから料理まで。
家に帰ってくると出来立ての料理が並んでいる。快適なんてもんじゃない。
フェリクスにはスマホを購入して渡してある。ネットの使い方も覚え、今では自分でいろいろと検索してたくさんのことを覚えてしまった。……余計なものまで覚えてしまっているけど。
今のフェリクスのお気に入りはレシピがたくさん載っているアプリだ。それを見ては料理の腕を上げていくもんだから毎日のご飯が楽しみになった。
それ以外にも動画を観たり、経済を調べたり、日本のことを調べたりと有効活用している。地図アプリも使いこなしているから、今ではひとりで出かけることも可能に。
メッセージアプリも使いこなしており、散歩に出かけた時に撮った写真を送ってくるからひとりでも楽しそうに日中を過ごしていることがわかる。
「ソウタ! 今日はブリダイコンに挑戦したんだ!」
「お、すごいな! 美味そう!」
「ふふ、ソウタに喜んでもらいたくて頑張ったんだ。さ、さっそく食べよう」
「ああ。それにしても、もうすっかりこっちの人になったな」
今でも新しいことを見たり知ったりすると興奮するのだが、ここ最近は落ち着いたものだ。こちらの服も難なく着こなしているし、言葉も流暢だし、機械を使うことにもすっかり慣れた。
家にいながらでも全世界のいろんなことを調べたりできるもんだから、フェリクスは毎日があっという間なんだそうだ。しかも今じゃ外国語まで勉強したいと言い出し、英語のテキストを数冊購入している。
フェリクスはこの世界のいいところや取り入れたいところをメモに残していて、あちらの世界に戻った時に弟のスウェインに伝えるんだそう。
もしかしたらアーマンド王国では革命が起きるかもしれないな。そしていずれは世界中に広がって、あの世界が大きく変わっていくのかもしれない。
フェリクスの努力が世界を変えるかもしれないなんて、やっぱりこいつは『勇者』に相応しい。
「うんまー! フェリクス、お前天才!」
「よかった! うん、美味しいね」
フェリクスの作る料理は本当に美味い。野菜や肉に魚とバランスもちゃんと考えられているし、なんだか健康になった気がする。
俺は家事を一切やってないから、せめて皿洗いくらいはするようにしている。ただその時に後ろから抱きしめられて「ソウタ、ありがとう」と頭にちゅっとキスされるもんだから恥ずかしい。
皿洗いの邪魔だと言っても「ふふ」っと笑うだけでやめる気配がない。俺もそれ以上は強く言わないってのもあるけど。
たぶんずっとフェリクスと一緒に寝ているから慣れてしまったのもあるんだろう。布団を購入しようとしたら、フェリクスが絶対嫌だと反対した。
そこで無理やりにでも布団を買えばよかったんだろうけど、俺もなんだかんだ一緒に寝ていて嫌じゃなかったから結局今も一台のベッドで一緒に寝ている。
「明日はあっちの世界に帰る日かぁ。本当にこの一か月あっという間だったなぁ」
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