2 / 10
第2話
しおりを挟むご主人の屋敷で毎日負傷兵の治療をしている。兵士は領主お抱えの兵である。国境に隣した領地の外ではA級からS級レベルのモンスターがウヨウヨ居るらしい。その砦として兵士たちは日々闘いに明け暮れている。
「今、包帯を付け替えますね」
全身を包帯に巻かれた男に声を掛ける。右足はない。俺は丁寧に包帯を外して、様子を見る。一度に治癒を掛けてしまうと負担が大きすぎてしまうため、自然治癒を促すような形で少しずつ魔法をかけている。俺は自分の能力をあまり知られないようにしているというところもある。
いかんせん、大治癒士として知られれば、奴隷ではなくなるにしろ死ぬまで治癒士として働かされる。また俺はオメガだから能力を買われてアルファに乱暴でもされたらどうしようもない。俺は静かに暮らしたい。
包帯を巻かれている男は掠れた声で「ああ」と返事をする
俺は手を胸に当てて少しずつ力を注ぐ。すると手のひらから夜空の星を集めたような煌めく光が漏れてくる。
「痛みがだいぶ軽くなったよ」
「いえ、あなたの治癒力を少しお手伝いしたまでです」
「俺は片足がなくなった。5歳になる子供と妻が家に待っているんだ」
俺は荷物をかごに入れていた手を止めた。
「ですがこのまま治療して除隊になるのでは?」
「たしかに故郷には帰れるさ。だけどよ、片足なくしてどうやって仕事をするんだ。俺には学がねえんだから、畑仕事とかになるだろ」
「そうなんですね」
「あんたみたいに能力があれば少しは仕事があったんだろうけどね。オメガだから大変ではあると思うが」
俺はうつむいていた顔を上げ、
「除隊後はどうされるんですか」
「そのまま死んだことにするしかないかもなあ」
また、うつむいて包帯男の手を見つめていた。
それから一週間後、除隊が決まり退院することになった。正門には妻と5歳くらいの子供が居た。
「生きていてよかった」
男は驚いた表情で「なんでここにおるんだ」
「あんたが死んだなんて信じられないからね。で、片足をどうしちゃったのさ」
気丈に振舞っていたが、涙がポロリとこぼれる。
「食いちぎられちまった」泣き笑いしていた。
妻は涙をはらはらとこぼし声を殺している。小さな少年は顔をゆがめて泣きじゃくる。
俺は物陰から隠れてみていた。何度も振り返り、こんな面倒な性格でなければよかったのに。淡泊な性格であればどれだけ楽だったんだろうか。頭に浮かぶ悪い予感を振り払うかのように頭を振り、監視の隙を盗んで包帯男のもとへ走った。
突然の奴隷の出現に家族たちがどうしたんだと唖然としているうちに男に近寄る。
そしてありったけの力を込める。男は唖然としていた。
俺は体の隅々からエネルギーを取りえ出して治癒能力と形を形成する原子結合エネルギーを送り込み、骨を作り周りに筋肉、血管、皮膚を形成した。最大出力を出したおかげか何とか形になった。妻と子供はお互いに抱き合いながらオーロラのように輝く光を瞬きも忘れて見守った。
「ありがとう。本当にありがとう。なんて言葉にしたらいいのかわからない」
家族と涙を流しながら震える声で見つめられる。
「俺はカリーフ村のマーティン。何かあればいつでも頼ってくれ」
俺は疲れすぎて声も出せず、ただ笑顔でうなずき走り去る。
その男の隣にいた少年と再会するとはつゆとも知らずに。
1
あなたにおすすめの小説
俺の居場所を探して
夜野
BL
小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。
そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。
そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、
このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。
シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。
遅筆なので不定期に投稿します。
初投稿です。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる