初恋カフェラテ

真田 真幸

文字の大きさ
2 / 20
本編

冬のカミナリ

しおりを挟む
 閉店間際、天気が荒れているので早めに切り上げて、書類を片付けていると、いきなりバチンッという破裂音と共に店の明かりが消えた。

「キャッ!?」

窓の外の通路を見れば、そこも真っ暗。

どうやらターミナルビル全体が停電したらしいく、カフェの前を警備員がバタバタと走っていく。

「お客様、大丈夫ですか?」

懐中電灯を手に彼は私の元にやってきた。

「…少しビックリしたけど…大丈夫です。」

「予備電源があるので、もう少しで復旧すると思います。暫くこちらでお待ちください。」

「ありがとう。」

最後に残っていたお客が、私ひとりだったからだろう。

彼は私を気遣って側に居てくれた。

暗がりに少し眼が慣れた頃、彼のいう通り明かりがついた。

眩しさに目をキュッと閉じ、少しずつゆっくり目をならすように瞼を開けた。

ふと、彼と視線がぶつかり、カウンター越しのいつもの距離より近いことに気が付いた。

近くで見れば彫りの深い整った顔立ちが、よりいっそう分かる。

(本当に整った顔してるなぁ…)

一瞬、彼に魅とれたことに気が付き、私は誤魔化すように笑顔を作り、言葉を口にした。

「あ、明かりがついて良かったぁ!」

「そ、そうですね、良かった…。」

改めて書類の整理をしてバックに詰めていると、警備員さんが入ってきた。

「この辺一帯が、雷が落ちた影響で停電らしい。信号も機能してないから、街の方は本格復旧まで2時間以上かかるよ。」

「え?2時間!?…じゃあ…帰れないってこと?」

「お姉さん、家は何処?」

「…ここからバスなんです。」

「あちゃ…そら気の毒に…タクシーも使えないから復旧するまで待つしかないね。」

警備員さんはそう言うと、他の店舗にも知らせるためにカフェを飛び出して行った。

「はぁ…」

私は頭を抱えて溜め息をついた。

歩いて帰るのは…この天気では無理!

天気が良くても片道徒歩で2時間はかかる。

かといって、電気が2時間後に復旧したとしても、きっと直ぐには帰れない。

ギリギリ首都圏に入っているこの街は、それなりに大きな街なので、帰宅難民状態の人々が大量にいる。

停電ってことは、ビジネスホテルやネットカフェも使えないってことだし…。

とりあえず近くに住んでいる友人に電話を掛けたけど、この状況…繋がるはずもない。

「あぁ…八方塞がり…どうしよう…」

時計を見れば、閉店時間をかなり過ぎている。

「長居してゴメンなさい!ごちそうさまでした!」

私はそう言って慌てて鞄を持ち、カフェの外に出ようとした。

「あ、待って下さい!」

聞こえてきた声に振り向くと、ツカツカと歩いてきた彼は手早く、玄関の看板をcloseに変えてブラインドを下ろした。

「???」

「閉店作業中で慌ただしい状態ですが、外は寒いてですし、少しの時間になりますがこちらに居てください。」

「え?でも…」

「いつも御来店して頂いているお客様が困っているのに、放って置けませんから。」

彼の言葉に、他の店員さんたちも頷く。

「…じゃあ…御言葉に甘えて…」

私は彼に案内されて、彼らの閉店作業に邪魔にならない隅っこの席に座り、時間が経つのを待った。

約1時間後、彼らと共に店を出た私は、お礼を言ってターミナルビルの出口へ向かった。

雨脚は弱くなったものの、まだ電気は復旧しておらず、多くの人たちが途方にくれて立っていた。

「あと1時間で復旧すれば、御の字か…」

そう呟いて、ボーッと真っ暗な街を眺めていた時だった。

遠慮がちにポンポンと肩に触れられ、私は振り向いた。

そこには先程カフェでお世話になった、イケメンくんがホークロワ柄のニットとカーキ色のダッフルコートを羽織り、私服姿で立っていた。

「…君はカフェの…」

松永まつなが 幸太こうたといいます。」

突然に自己紹介されて、反射的に私も自己紹介をした。

藍原あいはら つぐみ…です。」

「フフフ…知ってます。メンバーズカードでお名前は確認してますから。あまり馴れ馴れしいのもと思って、お名前呼びはしてないですが…。」

「ああ…そっか…」

彼は私の隣に立ち、真っ暗な空を見上げた。

「復旧までに、まだ掛かりそうですね。」 

「うん…まぁ…根気よく頑張って待つしかないかも…。」

「藍原さん…嫌でなければ…俺の家で待ちませんか?」

「え?」

私は驚いて目を瞠った。

「ここから徒歩10分なんです。」

「あ、あの…ま、松永くん?」

「幸太でいいですよ。」

「こ、幸太くんはご家族と暮らしているの?」

「いいえ、一人暮らしをしてます。」

「…」

うーん、この誘い…どう取ればいいのだろうか…。

1年前の彼の純朴っぷりを考えると…下心ナシのただの親切とも取れなくはない。

真っ赤な顔でカウンターから渡される、カフェラテの入ったマグカップが震えなくなったのは、いつだったか…。

(それとなく、彼が発した言葉の事の重大性に気付かせてみるべき…?)

「…一人暮らしの部屋に、いくら年上でも女の私なんかを家に入れたなんてバレたら、彼女に勘違いされて怒られちゃうわよ?」

私の言葉に、やっと自分が言った事の重大性に気が付いた彼は顔を真っ赤に染めて少し後ずさった。

「あ、あの、変な意味とかではなくて…というか…ただ…困っているのに藍原さんを放って置けなくて…。」

「自分が言った言葉の重大性に気が付いたなら、良かった…。他の女の子に言ったら、色々と勘違いされるから気を付けないとね?」

私が軽く笑顔を見せると、彼はおずおずと話し始めた。

「…あの、本当に変な意味ではなくて…俺…藍原さんの役に立ちたいんです。藍原さんがカフェに来られない様なことはしません。だから…遠慮なく頼って欲しいんです。」

(ん?この子って以外と頑固で…)

「幸太くん…周りからお人好しって言われない?」

「ええ…まぁ…言われます。」

彼は頭を掻きながら恥ずかしそうに俯いた。

「あのね…幸太くんも1年以上も住んでるんだし、分かると思うんだけど、ここは恐い都会なんだから、もう少し考えて行動した方が良いよ?私は幸太くんのアルバイト先のただの常連客な訳だし…困っているからって簡単に信用しちゃダメだよ?」

「それ…説得力ないですよ…」

黙って私の話を聞いていた彼はポツリと言った。

「え?」

「こんな風に注意してくれる藍原さんを悪い人だと思え!なんて、無理な話です。」

彼は困ったように笑ったあと、私の手首を掴むと歩き出した。

「ちょっ!?ちょっと、幸太くん!?」

「やっぱり、このまま藍原さんを残して帰るなんて、俺には出来ません。幸い俺の家の方面は停電してないので、安心してください。」

「つ、慎んで遠慮します!」

「遠慮は無用です!それに…一人だと食事も味気ないので、藍原さんが一緒にご飯を食べてくれると助かります!今日はほうとう風の煮込みうどんにするので、身体が温まりますよ!」

「え、ちょっと~!!」

私の抗議の声は虚しく、私は駅から親切過ぎる彼に連れ去られる羽目になった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...