雪に花を散らすように…

真田 真幸

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 ニ年前、彼女は悲壮の花嫁だった。

嫁ぐべき相手を婚礼の朝に事故で失った…哀れな花嫁。

早朝、立て込んでいた仕事を終わらせ、都会から結婚式の為に田舎へ帰省する道で居眠り運転の大型トラックに突っ込まれ、夫になるハズだった男は即死だった。

遺体の損傷も激しく、最後の別れすらすることを許されず、葬送の日、真冬には珍しい季節外れの雨の中で傘もささず、上っていく火葬の煙を見上げ、静かに佇む彼女を俺は見つめるしかなかった。

 そんな彼女は今日…再び白無垢を纏った。

俺の隣で美しく存在する彼女を、俺は複雑な思いで見つめた。

「…良いのか?古い仕来しきたりなんぞに忠実である必要性はないんだぜ?」

「良いの。元々、家の為の結婚だったのだから…。」

…違う。

彼女がどれだけニ年前に夫となるはずだった男のことを好いていたか、俺は知っている…。

「お前…忘れられるのか?」

「忘れます…。今日から私は貴方の妻です。」

いや…忘れられる筈など…無い。

きっと穏やかな日々の中でも、彼女はその男の面影を追いながら俺の隣で歳を重ねて行くんだ…。

 窓越しに白い雪が花びらのように舞う。

祝詞を上げる低めの神主の声と、火鉢にかかった鉄瓶から吹き出すシュンシュンという音だけが響く。

雪国ゆえになかなか場は温まらず、外よりは幾分ましかという身の引き締まる寒さを感じながら、神前で三三九度の夫婦の契りを交わした。

雪路を縫う様に集落の人々の祝福の中、彼女は花嫁道中を行い、この辺でも一番の大屋敷と言われるも古ぼけた我が家には、空にほんのりと茜が射し始めた頃に到着した。

大広間での祝宴は親戚が一同に介し、とても賑やかなものだった。

ニ年前の悲劇が、今宵やっと幸福なものとなったと…俺以外は誰一人この結婚の幸せを疑う者などいない祝宴。

青年団や幼馴染みたちがこぞって俺を酔い潰そうと代わる代わる酒を注ぎにやって来て、普段よりも酒量を多めに飲んだにも関わらず、さほど酒が酔いをもたらしてはくれなかった。

紋付き袴のまま自室に戻れば、御丁寧に敷かれた初夜の寝床…。

真新しい真っ白な布団カバーの中におさまった、深紅の絹に金糸の鶴が舞う刺繍が眩しい新床を見て、本当に酔い潰されてしまえば良かったと片手で目を覆う。

その新床の上で白無垢姿の彼女が三つ指をつき「不束ものですが…」と、緊張からか…ぎこちなく言葉を紡いだあと、目元にほんのり紅を射したかんばせをほころばせて微笑んだ。

だけど、俺にはあの日の彼女の泣き顔が重なって見えて苦しくなった。

「…華菜乃かなの

「はい」

「本当に良いんだな?」

「はい」

「お前は…本当に俺を…俺を受け入れられるのか?」

「はい」

「いや…分かってないよ…お前は…」

もう…どうにでもなれ!

そんな気持ちだった。

華菜乃をいきなり押し倒し、両手首を掴んで帯から抜き取った着物紐で縛り、床の間の柱に結わえた。

「あんっ!ちょっと…待って…!」

戸惑う華菜乃の声をしり目に帯をほどき、襟元を開いて豊かな乳房を露にした。

動揺した目で俺を見ている華菜乃を見て、俺は我に返った。

(違う…こんなのは…違う…)

華菜乃の目を手で覆い、俺は伝えるべきことを伝える決心をした。

「…華菜乃、無理をしなくていいんだ。お前…昔から兄貴が好きだったんだろ?中学の時からずっと欠かさず、兄貴の剣道の試合に来ていたことも…俺、知ってるんだ…」

「えっ?…」

「俺と兄貴は双子で…一卵性だから見た目は瓜二つだし…華菜乃が俺を通して兄貴を見てること…俺は気が付いている。」

華菜乃が息を飲んだ音を聞いた。

美しく引かれていた唇の紅が歪み、俺の言葉への返答を悩んでいるのが手に取るように分かった。

「これから先も…俺を通して華菜乃は…兄貴を見続ける。別にそれでも良いんだ。俺は…兄貴を見つめるばかりで…俺のことなんか振り向いてくれない…そんな華菜乃が…それでも好きだったから。」

「…」

「兄貴が生きてくれてれば…こんなことには…ならなかったのにな…。夫婦になってまで…永遠に片想いじゃ…正直キツイわ…。」

 そう…華菜乃は俺が好きで嫁いで来た訳ではない。

この辺りは、昔からの古い仕来たりが未だに数多残っている。

家の財産や家族を守るために、長男が亡くなった場合、その妻や婚約者を他の男兄弟が引き継ぎ、妻として娶る。

華菜乃はその古い仕来たりに則り、俺の元へ嫁いだのだ。

今時、こんな古すぎる仕来たりを持ち出してきた親父に心底苛ついたが、華菜乃がすんなり了承したと聞いた時は驚いた。

まだ、兄貴が亡くなって一年を少し過ぎた頃だったし、自棄に走っているとしか思えなかったのだが、今日まで華菜乃と話し合う時間を持つことを避けていた。

華菜乃に惚れている俺にとっては都合の良いこと、でも…華菜乃にとっては…?

そう、何度も話そうとした言葉を臆病にも口に出来なかったのだ。


「まだ、入籍を済ませてないし、俺が親父に話しておく…。だから…やめようぜ結婚。」

それまで黙って俺の話を聞いていた華菜乃が、突然、涙を溢し始めた。

「嫌…」

「え…?」

「嫌…聖くんと離れるなんて…嫌だ…」

「華菜乃?」

「司くんのこと…好きだったよ。でも、今は聖くんと離れたくない!」

「それは俺の顔がっ…」

「違う!私…知ってるの…司くんが生きていた頃から司くんの代わりに聖くんがずっと…お花を贈り続けてくれていたことを…。」

俺は息を飲んだ…。

華菜乃が好きな撫子の花を週に一度、兄貴の名義で俺は送っていた。

「古い家だからと言って気兼ねせずに、安心して嫁いできて欲しいんだが…」という兄貴の言葉に、俺はこっそり行動した。

バレる筈がない。

兄貴のふりして花屋に手配していた事を知る人間なんて…。

「偶然、お花屋さんでお花を頼んでいた聖くんを見掛けたの。最初は司くんだと思ったんだけど、ペンを持つ手が右手だったから聖くんだって分かった。」

「あれは兄貴に頼まれて…」

「嘘。司くん、私が花が好きだなんて知らないもの。それどころか祝言のあの日まで、なかなかこっちに帰ってなかったし、あまり会話したことすらなかった。司くんにとって…私は本当に家同士の結婚で宛がわれた相手でしかなかった…」

「…違うよ華菜乃…兄貴は俺の気持ちを知っていたから…あえて素っ気ない態度を取っていたんだ。兄貴は華菜乃を嫌っていた訳じゃない…。寧ろ、俺の為に兄貴は好きになる気持ちから避けていたんだ。」




 文武両道で、頭がよく社交的な兄貴は早くから家督を継ぐことを望まれていた。

俺はというと兄貴と同じことをするのが嫌で、剣道は中学で辞め、勉強は同じぐらいに出来たが、なるべく目立たず生きることを選択していた。

高校を同じにしなかったのも、俺の意地だった。

他校に進学した兄貴と俺と同じ高校に進学した華菜乃の接点は、縁談が整うまでは薄いものだったが、中学時代の華菜乃のことを兄貴は覚えていた。

双子ゆえに、好みは似る。

だから、兄貴が華菜乃を覚えていたことは驚きもしなかった。

『鶴見家との縁談、聖が受ける気ないのか?』

『何言ってんだ。家督を継ぐのは兄貴だろう?華菜乃のこと嫌いなのかよ?』

『いや、中学の頃から健気で淑やかで可愛い子だと思ってたよ。お袋も気に入ってるみたいだしな。』

『なら、ちゃんと幸せにしてやってくれよ。華菜乃は兄貴のことがずっと好きなんだ。兄貴だって華菜乃に惹かれ始めてるんだろう?華菜乃と兄貴が仲良く暮らしてくれれば、俺は問題ない。変に気を使ったりせず、存分に幸せになってくれ。』

『分かった、幸せにするよ。お前に「返せ!」と言われないように、絶対な!』

兄貴の笑顔に、俺は安堵していた。

兄貴になら華菜乃を任せられる。

好きだった気持ちも、きっと時間が解決してくれる…。

そう、思っていたんだ。



「兄貴は間違いなく華菜乃に惹かれていた。だから結婚の承諾をしたんだ。あんな事故になんて合わなければ、兄貴と華菜乃は…ちゃんと幸せになれていたんだよ。俺が兄貴の身代わりにお前を嫁に貰うこともなかった…。」

「…」

「華菜乃…頼む…今なら間に合う…。嫌だと暴れて泣き叫んで、俺から逃げてくれ。家のことや親父たちのことは、俺が何とかする。俺はお前を…無理矢理に兄貴から奪いたくない…。お前が俺を見るたび兄貴を思い出しているんじゃないかと…ずっと疑いながら夫婦として生きて行きたくない…。」

 本当は…なに食わぬ顔で、兄貴の後釜に座ることも考えなくはなかった。

兄貴の代わりに花を送り続けていたのは、華菜乃の為だったけど、そこには言えない気持ちを潜めていたことは否定できない。

愛する気持ちさえ続けば、いつか俺自身を華菜乃が見てくれるかも知れないとも思った。

だけど…俺の顔は恨めしい程に兄貴と一緒なのだ。

きっと一卵性の双子なんかに生まれなければ、こんなに兄貴と似ていなければ、俺はどんな努力をしてでも華菜乃の隣に座っていただろう。

華菜乃が逃げると頷くのを待つ間、必死で涙を堪えた。

ちゃんと別れるんだ…俺との結婚で無理矢理忘れることを強要された華菜乃に、兄貴への思いを返すために…。

「聖くん、手を退けて?」

「…」

「聖くんの顔が見たいの。だから…」

見られたくなかった…俺の顔。

だけどこれで最後だと思い、華菜乃の瞳を覆っていた手をそっと退けた。

華菜乃は眩しそうに二三度瞬きをしたあと、優しげな瞳で俺を見つめた。

「聖くんが好きよ…」

華菜乃の思っても見なかった言葉に、俺は混乱していた。

「…そんな嘘なんか言わなくていい…お前が好きなのは今も…」

「最初は聖くんを見るたびに司くんと重なって辛かったわ。司くんだと思い込んでしまえるほど狂えたら、どんなに楽だろうと酷いことを考えたこともあった…。そんな私の気持ちを思って、聖くんは司くんのふりをして、この2年ずっとお花を送り続けてくれたでしょ?嬉しかったの…。聖くんの優しさが嬉しくて、不器用さが愛おしくて…だから…結婚をしようと思ったの。家の為…とかじゃなくて…聖くんに嫁ぎたかったの…。」

「華菜乃…」

「どうしても離れなきゃいけないなら、聖くんの嫌い方を私に教えて?どうすれば嫌いなれるというの?嫁ぎたい!って思うほどに好きなのに…」

「それは…」

「奪って…何もかも…乱暴に刻み付けてくれてもいいの…聖くんは司くんの身代わりなんかじゃない…聖くん、貴方が好きなの…」

「…」

「信じられるまで刻み付けて…聖くんを…受け止めるから…」

信じたい…華菜乃の言葉を…

俺は返事の代わりに、初めての口づけをした。

軽く触れた後、はにかむ様に華菜乃は微笑んだ。

(信じたい…華菜乃の気持ちを…)

重なる度にお互いに深く吸い付き、舌を絡ませる度に分泌され混ざりあった互いの唾液を飲み込んだ。

華菜乃を切望し続け、その愛情に枯渇していた俺の身体を少しずつ華菜乃が満たしてくれているようだった。

だけど、普通の愛し方では足りないほどに俺は華菜乃を欲していた。

俺は華菜乃の手足の自由を奪い、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように布団の上で裾を広げて足を開かせた。

そして、再び華菜乃の視界を白い細帯で塞いだ。

下着をつけていない華菜乃の紅く潤んだ性器をひと撫ですると華菜乃の身体はビクンッと跳ねた。

視界も声すら奪って、まろい乳房を歪に捏ねて弄び、硬く熟した乳首を噛み、下肢を指でまさぐり蜜を泡立てるように何度もイカせた。

華菜乃が初めてだからといって、俺には優しくなど出来なかった。

華菜乃の身体に兄貴よりも強く、俺の存在を刻み付ける事しか考えられなかった。

初めての感覚や身体に起こる生理的反応が襲う度に、視界を塞ぐ細帯の隙間から華菜乃は涙を流し、声にならぬ声で喘いだ。

窮屈ながらも華菜乃の中に指が3本入るようになった頃、尻から太ももを撫で上げながら、股に入り込み腰をゆっくり沈め始めると梁から吊るされた足にグッと力が入り華菜乃の身体は一気に硬直したように固まった。

「痛いんだろ?」

俺の声に華菜乃は、わなわなと震えながらコクリと頷いた。

「我慢しなくていい。声を上げて痛がってくれ。俺がお前を奪ったことを耳に焼き付けたいんだ。」

口を塞いでいた細帯を外してやると、華菜乃は泣きながらも一生懸命に微笑んで俺に笑顔を向けた。

「んっ…いっぱい…うっ…痛くして…聖くんが初めての人だって…うぅっ…私の夫だって…いっぱい私のここに…分からせて…」

じりじりとゆっくり腰を動かす。

抜いては奥まで突いて、華菜乃を責めると痛みを訴えながらも必死に受け止めた。

「うぅ…痛い…痛いよ…聖くんの…おっきくて…おなかいっぱいに…聖くんのが入ってきて…はぁうっ…んっ…苦しいよ…」

「でも…少しずつ…気持ちよくなっているだろう?
蜜が溢れてビショビョになってる。」

徐々に蜜の量は増え、部屋には俺と華菜乃の息遣いと、紡がれ続ける淫靡な会話と卑猥な水音が響く。

「お前の中…温かくて気持ちいい…もう…我慢できない…かも…」

「我慢…しないで…平気…だから…」

「もっと…痛がらせていいのか?」

「好きなように…私を…愛して…聖くんを刻み…付けて…」

華菜乃のその言葉に、一気に速度を早めて

腰を打ちつけ始める。

痛がりながらもあらわれ始めた心地よい感覚に、次第に甘い声を華菜乃は上げ始めた。

程なく一度目の射精、白無垢に華菜乃の血と俺の精が混ざったひと滴が溢れた。

ポタポタと次々に溢れるその滴は、まるで雪に紅を散らす花びらのようだった。

ぐったりしている華菜乃の足首をほどき、今度は手首を梁から吊し膝立ちさせた。

華菜乃を労うよりも、衝動に忠実なっていた。

むしろ、華菜乃を泣かせたかった。

快楽よりも痛みの記憶の方が鮮明に残る。

後ろから突き始めると子宮を揺らされ痛みから華菜乃は声をあげた。

「聖…くん…痛い…んっ…んっ…しきゅうが…いたい…」

「痛がらせてるんだ。痛がらせて…刻み込んで…お前にもっと痛みを覚えさせておきたいんだ。今日しかない痛みだから…」

「聖…くん…あぁっ」

「きっと…これから夫婦として身体を重ねる度に、お前は淫らに喘いで、お前の身体には快楽しか残らなくなる。俺も愛しかあたえなくなるだろう。だから、今日俺に奪われた痛みを覚えていて欲しい。兄貴から俺が…お前を…華菜乃を奪った痛みを…」

「…んんっ…覚えてる。聖くんしか…私にこの痛みは…与えられないんだもん…だから…覚えてる。」

そう、兄貴を失った痛みよりも、今日の破瓜の痛みを覚えていてくれ…。

その分、幸せするから…。

これから何度も重ねる身体の心地よさよりも、この痛みを

鮮明に…。

雪に紅を散らすように…。







fin

    
    
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