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次の日、僕とヨウとイケは、久慈村に送る貝の装飾品造りのための道具を丸木舟に乗せた。操船はヤンさんだ。
「貝の中身があったらよかったのにな」
ヤンさんは涎を垂らしそうな顔で言ったが、ヨウに「中身があったら、重くて沈みますよ?」と、冷静に切り返されていた。
「冗談だって。でも、ヨウなら船を引っぱりながら泳げるんじゃないか?」
ヤンさんは冗談を言いつつ、船に乗って岸から離れていった。
「さあ、僕たちの仕事を始めよう」
僕は二人を促し、集合場所へと向かった。
集合場所に、マオとカオの姿はない。事前にシキさんから「二人を借りる」と言われていたのでいないのは当たり前だが、いつも賑やかな二人がいないのは、寂しい気持ちだった。
「じゃあ、今日は磯部でナマコやタコを獲る事にする。ズイとオクはタコを見つけてもすぐに手に取らず、年上の子に見てもらいながら獲ること」
僕は指示を出し、ヨウとズイ、イケとオクを組ませるようにして磯部へと歩いた。
「何だか、やる気が出ないな」
僕は前を歩いている四人を見ながら、誰にも聞こえない様な声で呟いた。
今までは、キドさんやコシさんと持ち回りで班長をし、誰かが班長を補助していた。そして、ヨウとイケは僕から見ても成長が著しい。ヨウの海を見る目は大人たちからも信頼され、海や川でも手づかみで魚が獲れるほどの泳ぎのうまさだ。
イケは妹のイサを可愛がりつつ、他の小さな子供の相手をし、空いている時間には女の子たちとも装飾品造りを行っている。イケの考えの根幹には輪廻転生があり、この周辺で途絶えつつある文化の土偶を造ろうと模索をしている。
僕は自分だけ、何となくやることが無い気がした。いや、班長として今いる子共が無事に仕事を終えられるようにしなければならない。それでも、心のどこかに引っかかりが残っている。それは、お父さんとシキさんの関係だ。
僕に出来ることは無いけれど、僕がこのまま班長をしてもいいのだろうか。僕も知らないうちに、誰かを傷つけてはいないだろうか。
そんな怯えが、自分の中で膨らんでいた。
「カラさん、ちょっと来てください!」
急にオクの大きな声が聞こえ、「何かあったのか?」と声をあげながら、僕は声の元へと走った。
そこにはタコに手を絡められているイケの姿があった。
「イケ、今取ってやるからな」
僕が言うと、イケは「取らないでください」と、不可思議な事を言った。
「タコに締め付けられて、痛いだろう?」
僕が不思議そうに尋ねると、イケは「何だか、面白い土偶の構想が出来そうなんです」と言い、自分の手に絡みついているタコを凝視していた。
太陽が真上に昇る頃、僕たちは村の中心に戻り、火にかけた土器に中にイケに絡みついていたタコや、ヨウとズイが獲ってきたナマコを放り込んだ。イケの腕は腫れあがったように、タコの吸盤の跡がくっきりと残っていた。
「どうして、そんなことをしたんだよ?」
ヨウも不思議そうに、イケの吸盤の跡が付いている腕を触った。
「あ、痛っ」
イケは少し悲鳴をあげ、自分の息を吸盤の跡に吹きかけた。その様子を、ズイとオクが心配そうに見つめている。
「僕は班長として、これは危険な行為としてみなさないといけなくなるかもしれない」
僕が真剣な声で言うと、イケは「ごめんなさい」と、素直に謝った。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「えーと、以前入江のレイさんがアザラシの形をした土偶を造って、入江の人たちが持ってきた事を覚えていますか?」
イケの言葉に僕は「覚えている」と言った。その時の土偶は、僕の家の奥に飾ってある。
「だから、僕も何か動物を模した土偶を造ってみたいって思って」
イケの声が少しずつ小さくなった。僕が怒っていると思っているのだろう。僕はそれほど怒ってはいなかったけれど、このままではズイとオクに示しがつかないと思った。
「イケ、観察をするのはいいが、安全を確保してやってくれ。自分の身が傷つくような観察の仕方は、二度としないと誓ってくれ」
僕はあえて厳しい言い方をし、イケも「わかりました」と返答した。少し気まずい空気のままタコとナマコを食べ終わり、僕たちは解散となった。
「カラさんは、本当は怒りたくなかったんですよね?」
ヨウが僕の側に駆け寄り、話しかけてきた。
「うん。でもそうしないと、イケは本当に危険な事をしてしまうかもって思ったんだ」
僕は自分の心内をヨウに話すと、何となくだけど、自分の中にあったわだかまりが薄れていくのを感じた。
『僕は一人で何を考えているんだ』
僕は以前、キドさんから「お前は一人で考え込みすぎなんだ」と言われたことを思いだした。そして、僕は今また同じことを繰り返そうとしていた。
ヨウは年下で、まだ11才だけれど、周りの人をよく見る性格だと僕は思っている。僕はもっと、ヨウを信頼した方がいいのかもしれないと思った。
「ヨウ、僕に足りない部分があったら遠慮なく言ってくれ」
ヨウは僕の言葉に驚いたみたいだったけど、「はい」と言ってくれた。
「カラさんに足りない事は、カラさんが造る鋭い石器のついたモリを僕にくれない事だと思います。僕にくれたら、たくさん魚が獲れると思いますよ?」
「だめだ。そんな物を渡したら、ヨウは一日中海の中に潜りっぱなしだろう?」
僕は舌を出しているヨウの頭を軽く叩き、「自分で造りなさい」と言った。
次の日、僕とヨウとイケは、久慈村に送る貝の装飾品造りのための道具を丸木舟に乗せた。操船はヤンさんだ。
「貝の中身があったらよかったのにな」
ヤンさんは涎を垂らしそうな顔で言ったが、ヨウに「中身があったら、重くて沈みますよ?」と、冷静に切り返されていた。
「冗談だって。でも、ヨウなら船を引っぱりながら泳げるんじゃないか?」
ヤンさんは冗談を言いつつ、船に乗って岸から離れていった。
「さあ、僕たちの仕事を始めよう」
僕は二人を促し、集合場所へと向かった。
集合場所に、マオとカオの姿はない。事前にシキさんから「二人を借りる」と言われていたのでいないのは当たり前だが、いつも賑やかな二人がいないのは、寂しい気持ちだった。
「じゃあ、今日は磯部でナマコやタコを獲る事にする。ズイとオクはタコを見つけてもすぐに手に取らず、年上の子に見てもらいながら獲ること」
僕は指示を出し、ヨウとズイ、イケとオクを組ませるようにして磯部へと歩いた。
「何だか、やる気が出ないな」
僕は前を歩いている四人を見ながら、誰にも聞こえない様な声で呟いた。
今までは、キドさんやコシさんと持ち回りで班長をし、誰かが班長を補助していた。そして、ヨウとイケは僕から見ても成長が著しい。ヨウの海を見る目は大人たちからも信頼され、海や川でも手づかみで魚が獲れるほどの泳ぎのうまさだ。
イケは妹のイサを可愛がりつつ、他の小さな子供の相手をし、空いている時間には女の子たちとも装飾品造りを行っている。イケの考えの根幹には輪廻転生があり、この周辺で途絶えつつある文化の土偶を造ろうと模索をしている。
僕は自分だけ、何となくやることが無い気がした。いや、班長として今いる子共が無事に仕事を終えられるようにしなければならない。それでも、心のどこかに引っかかりが残っている。それは、お父さんとシキさんの関係だ。
僕に出来ることは無いけれど、僕がこのまま班長をしてもいいのだろうか。僕も知らないうちに、誰かを傷つけてはいないだろうか。
そんな怯えが、自分の中で膨らんでいた。
「カラさん、ちょっと来てください!」
急にオクの大きな声が聞こえ、「何かあったのか?」と声をあげながら、僕は声の元へと走った。
そこにはタコに手を絡められているイケの姿があった。
「イケ、今取ってやるからな」
僕が言うと、イケは「取らないでください」と、不可思議な事を言った。
「タコに締め付けられて、痛いだろう?」
僕が不思議そうに尋ねると、イケは「何だか、面白い土偶の構想が出来そうなんです」と言い、自分の手に絡みついているタコを凝視していた。
太陽が真上に昇る頃、僕たちは村の中心に戻り、火にかけた土器に中にイケに絡みついていたタコや、ヨウとズイが獲ってきたナマコを放り込んだ。イケの腕は腫れあがったように、タコの吸盤の跡がくっきりと残っていた。
「どうして、そんなことをしたんだよ?」
ヨウも不思議そうに、イケの吸盤の跡が付いている腕を触った。
「あ、痛っ」
イケは少し悲鳴をあげ、自分の息を吸盤の跡に吹きかけた。その様子を、ズイとオクが心配そうに見つめている。
「僕は班長として、これは危険な行為としてみなさないといけなくなるかもしれない」
僕が真剣な声で言うと、イケは「ごめんなさい」と、素直に謝った。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「えーと、以前入江のレイさんがアザラシの形をした土偶を造って、入江の人たちが持ってきた事を覚えていますか?」
イケの言葉に僕は「覚えている」と言った。その時の土偶は、僕の家の奥に飾ってある。
「だから、僕も何か動物を模した土偶を造ってみたいって思って」
イケの声が少しずつ小さくなった。僕が怒っていると思っているのだろう。僕はそれほど怒ってはいなかったけれど、このままではズイとオクに示しがつかないと思った。
「イケ、観察をするのはいいが、安全を確保してやってくれ。自分の身が傷つくような観察の仕方は、二度としないと誓ってくれ」
僕はあえて厳しい言い方をし、イケも「わかりました」と返答した。少し気まずい空気のままタコとナマコを食べ終わり、僕たちは解散となった。
「カラさんは、本当は怒りたくなかったんですよね?」
ヨウが僕の側に駆け寄り、話しかけてきた。
「うん。でもそうしないと、イケは本当に危険な事をしてしまうかもって思ったんだ」
僕は自分の心内をヨウに話すと、何となくだけど、自分の中にあったわだかまりが薄れていくのを感じた。
『僕は一人で何を考えているんだ』
僕は以前、キドさんから「お前は一人で考え込みすぎなんだ」と言われたことを思いだした。そして、僕は今また同じことを繰り返そうとしていた。
ヨウは年下で、まだ11才だけれど、周りの人をよく見る性格だと僕は思っている。僕はもっと、ヨウを信頼した方がいいのかもしれないと思った。
「ヨウ、僕に足りない部分があったら遠慮なく言ってくれ」
ヨウは僕の言葉に驚いたみたいだったけど、「はい」と言ってくれた。
「カラさんに足りない事は、カラさんが造る鋭い石器のついたモリを僕にくれない事だと思います。僕にくれたら、たくさん魚が獲れると思いますよ?」
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