『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家

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 入江の外は、是川の外よりも寒く感じた。
「さ、早く火を大きくしましょう」
 サンおばさんは風で火種が消えないよう、手で火種を隠しながら、いつの間にかサキさんが置いた乾いた草に火種を移した。
 その間に、ゴウさんが水を汲んできて、レイは魚の干物を、尖った石器で穴をあけるようにして刺していた。
「こうすると、早くふやけて食べやすくなるんだ」
 レイは少しボロボロになったように見える干物を、ゴウさんの持ってきた土器の中に入れた。
「カラ君、火を吹いてくれないかしら?」
 サンおばさんに言われ、僕は何もしていない事に気がつき、慌てて炉の火に息を吹きかけた。すると焦ってしまい、煙を吸い込んで咽てしまった。
「大丈夫?」
 レイに心配され、僕はとっさに「大丈夫」と答えた。
「声がガラガラだよ?」
「大人になる前に、声がガラガラになるって昨日言ってじゃん」
僕は無理に笑顔を造り、再び火に息を吹きかけた。
 しばらくして、土器の中身の干物が茹で上がり、朝食となった。
「カラ君、是川の朝食と違うかしら?」
 サンおばさんが、少し心配そうに尋ねてきた。
「だいたい同じです。この時期だと、貯蔵してあった木の実の粉を混ぜた、団子状の物を入れることもあります」
 僕が答えると、ゴウさんが「この時期まで、残っているのか?」と、少し驚いたような声を出した。
「是川の村では残りますが、入江では冬の内に食べ尽くしてしまうんですか?」
「いや、食べ尽くすというより、ほとんど採れないんだ。今日、子供の仕事をする時に山を見て来ればいい。おそらく、是川よりも食べられる木の実を落とす木が少ないはずだ」
 ゴウさんに言われ、以前入江に来て、湖やアザラシを見に行った時にはあまりドングリの木などを見なかった気がした。
「代わりに、アザラシなどの海獣の肉が残るんじゃないでしょうか?」 
 僕の問いに、ゴウさんは「残るには残るんだが」と、少し煮え切らない声を出した。
「たくさんの塩で漬けるか、雪の下で凍らせないと、腐っちゃうのよ。でも、サキの作るものなら残ると思うんだけどね」
サンおばさんが話を引き継ぎ、サキさんの顔を見た。
「あれは、村のみんなの好みがわかれますから」
少しばかり、サキさんは不満そうな顔だった。 
「僕はサキさんの作るどろどろの物は、好きですけど」
 僕が言うと、サキさんは「小さな子供があまり、食べたがらないのよ」と苦笑した。
「酒宴の時に、大人たちが食べるようになっちゃったわね。何だか『癖になるから』って言って、去年はたくさん作り置きもしたんだけど、冬の寒い日に大人たちがお酒と一緒に食べて温まりたいって言って、みんな食べちゃったのよ」
サキさんはゴウさんの顔を、じろりと見た。
「あれはすまなかった。代わりに、子供たちには優先して甘味のあるものを渡すから」
 ゴウさんが少し焦りながら言うと、サキさんは「私はもう、大人ですけど?」と言い返した。今サキさんの顔をよく見ると、何だか大人びた風格があった。
「サキさんは、もう大人になったんですね」
 僕が言うと、レイは「そう言えば、言っていなかったね」と呟いた。
「入江だと男女共に15歳から大人だけど、是川だとどうなんだっけ?」
「うん、是川でも15歳からだよ」
 太陽が少しずつ空に昇るのを見つつ、僕らは朝食を終えた。

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