『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家

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 太陽が傾いた後は是川の村と同じで、子供たちは家族と仕事をするか、他のやりたいことを共同で行うそうだ。
 僕はゴウさんの家に戻り、サキさんとレイの姿を探した。二人はまだ家におらず、サンおばさんから「仕事場にいるわよ」と言われ、小さな土器を貰い、仕事場へと向かった。土器の中身は小魚と海藻を干したもので、つまんでぽりぽりと食べると美味しいものだ。
仕事場に行くと、サキさんが他の女性の手を借りて、レイを立たせよとしていた。
「どうしたんですか?」
 僕が駆け寄りながら声をかけると、サキさんと女性は「ちょうどよかった」と言い、事情を話し始めた。どうやらレイは、排便をしたいそうだ。
「カラ、自分でも何だか情けないって思うけど、これが僕なんだ」
少し悲しげな眼をしつつ、レイが口を開いた。
 僕は今日の朝のゴウさんのやり方を思い起こしつつ、レイの右腕に、自分の身体を入れるようにして、レイの身体を支えるよう持ち上げた。
「思ったより、重いね?」
 僕が言うと、レイは「骨が太いんだよ」と言った。しかし僕から見ても、レイの骨が太いようには感じられなかった。
「さ、早く行きましょう」
 サキさんがレイの左腕を支えつつ、排便するという場所まで、三人でゆっくりと歩いていった。
 レイが排便するという場所には多くの木の灰が撒かれており、小さな穴が掘られていた。
「ゆっくりと、レイの身体を降ろしてあげて」
 サキさんに言われ、僕は慎重にレイの身体を降ろそうとした。
「あ、待って」
 レイが叫ぶように言い、僕は動きを止めた。
「カラ、もうちょっと体制を上げながら降ろしてくれない?」
 僕はレイのいう『ちょっと』がよく分からず、少し肩を上げるようにして降ろそうとした。
「あ、だめ。そうしたら私の方に、左の方に落ちちゃうわ」
 二人の言葉を聞きつつ、僕は『どうすればいいのさ』という、悪い気持ちが出て来てしまった。それが顔に出ないように、サキさんの指示に従いつつ、レイの身体をあお向けに横たわらせた。レイのお尻の場所に、ちょうど掘った穴がある。
「これでいいの?」
 少しの間なのに僕は汗をかき、顔の汗をぬぐいながら二人に尋ねた。
「ええ、後は出すだけだけど、消臭用の木の灰を持ってきてくれるかしら?」
 僕はサキさんの指した方向に歩いていき、木の灰がこんもりと盛られている場所を見つけた。そこで、木の灰を両手で掬い上げる様にして持っていくことにした。
 二人の元へ戻ると、レイはまだあお向けになったままだ。僕が身体を起こすのを待っていたのかと思い近寄ると、まだレイは排便を終えていないという。
「横になったままだと、排便がし辛いのよ。それにあまり力も入らないから、自然に出るのを待つしかないの」
 サキさんがレイの顔を見つつ、レイは空を見上げたままだ。
 僕は『いつ終わるの?』という言葉を口の中で止め、代わりにハムさんの機嫌が悪そうに見えた事を話した。
「ハムさんか、うん。もしかすると、カラの事があまり気に入らないのかもしれない」
「え?」
 レイの言葉に、僕は驚いた。ハムさんとは、入江に来た時に顔を合わせた事はあったけれど、話しをしたことはほとんど無かったはずだったからだ。
「僕の何が、気にいらないの?」
 僕が口を尖らせながら言うと、レイは空を見上げたまま、「今、この村は二つに分かれているかもしれないんだ」と、少し悲しげな声を出した。
 僕が『どういうこと?』と言葉を出す前に、サキさんが口を開いた。
「簡単に言うと、昔からの暮らしと、他の村々と交流して豊かになろうとする暮らしのどちらが正しいのかって、たまに口論になるのよ」
 僕はサキさんの言っている意味が、よく分からなかった。
「どうしてさ。色んな村との交流があれば、みんな助け合えるし、人も死ななくなっていくはずだよ?」
 僕の頭には12年前の話がよぎり、その悲劇を繰り返さないために、僕は是川で頑張ってきたつもりだった。
「ええ、私たちもそう思うわ。でも、それは『自然に反する』っていう人もいるの」
「自然に反するって・・?」
 僕が言葉に出すと、以前聞いた、楽をしようとして無くなった村の事を思い出した。
「自然に反するって、獲物の死体を餌にして、獲物をおびき寄せようとする事なの。そんな事、僕はしていないし、考えてもいないよ」
「それって、確か三内でも話題になっていた話よね。でも、それとはまた違う話よ。ハムたち昔の暮らしがいいっていう人は、『人は自然に生きて、自然に死ぬ』って言う主張なのよ」
僕はサキさんの言葉を聞き、なお混乱した。
「例えば、群れをつくる動物、鳥で例えると、鳥は自分たちで縄張りをつくるでしょ。他の縄張りにいる鳥が来ると、集団で追い払おうとするじゃない。それが本来の自然であって、必要以上に人間同士、他の村同士で助け合うのは自然に反するって主張よ」
 サキさんから聞いたその主張に、僕は納得しがたかった。それ何故、僕がハムさんから気に入られていないかも分からなかった。
「カラは、僕も含めて変えすぎたんだよ」
「変えすぎた?」
 空を見上げていたレイが口を開いた。
「うん。もし、カラがいなかったら僕は何も生きる目的を持てず、自然と元気がなくなって、死んでいたかもしれない。それは動物も同じで、怪我をした動物は、最初は群れの中で助けられても、そのうち死んでしまう事の方が多い。でも、僕は生きていて、カラの影響で石器や弓の矢、釣り具を造って、入江の人たちは獲物を多く狩れるようになった。そして、是川の村に影響されて、入江の村でも他の村との交流を多くしようって話になったんだ。それが、気に入らないんだ」
 僕はその話を聞き、憤慨した。
「それじゃあ、ハムさんはレイが死んでいてもよかったって思っているの?」
 僕の問いかけに、レイとサキさんしばらく黙りこみ、二人のどちらの言葉かは分からなかったけれど、「わからない」と言う言葉が聞こえた。
 しばらく黙り込んだ後、レイが「全部出たよ」と言った。サキさんがレイの身体を横に向けてやり、僕にレイが出した便の穴に木の灰を撒くように言った。
「木の灰って、消臭のため?」
 僕が穴に入れながら聞くと、サキさんは「蠅とかが来ないようにするためって理由もあるわ」と答えた。
 今度は上手くレイを立たせることが出来、僕はレイとサキさんと一緒に仕事をすることにした。僕は磨きかけの石器を手に取り、以前レイが使っていたという研ぎ石で磨き始めた。
「僕の代わりに、存分に使って」
レイが自分に向けて皮肉るように言い、それが僕の心を痛めた。

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