『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家

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 サキさんの話を聞き、小さな子供たちの反応は様々だった。しかし、一様にみなが空を見上げていた。
 僕は空を見上げる事無く、サキさんを見ながら近寄った。
「サキさん、どうしてレイは『動かない神様』なんて言葉を使ったんでしょうか?」
 動かない神様なんて、ある意味罰当たりな話でもあると、僕には感じられた。
 そんな僕の気持ちを読み取ったのか、サキさんは難しげな顔をして口を開いた。
「たぶん、レイは自分の事をなぞったんだと思うわ」
「自分の事を、ですか?」
 どういう事だろうか。レイは、自分が神様扱いされる事を嫌がっていた。それにも関わらず、何故動かない神様、レイという動けない自分をなぞった話を創ったのだろうか。
「レイはリウさんとキミさんを見て、この話を創ったのよ」
「どういう事でしょうか?」
「二人の最初の子供は成長する事無く、一年も経たずに亡くなったわ。でも、それは決して無駄な死だったわけではないわ。二人にとって大きな経験になったのよ。次に産まれる子を、必ず育て上げる。そういう決心をつけ、周りの人たちも自分の村の子を、死なせないようにする。そうして、二人は去年無事に子を授かったのよ。例え動かない神様や人間がいたとしても、不要な命など無いし、不要な神様もいない。誰にも、何かしら役割がある。そして、人を信じる事が一番大事だと。そう、レイは言いたかったのかもしれないわ」
 僕はサキさんの話を聞き、「誰にも、役割はある、か」と、一人呟いた。 
 僕はざわついている女性や小さな子供たちを残し、一人で自分と同じ年に産まれる予定だった赤ん坊や、僕が産まれた年に亡くなった小さな子供のお墓を見て周った。
これらのお墓は、それぞれの家の近くにあり、赤ん坊や小さな子供が亡くなった後も、自分たちの側に置いておきたいという、親の心理からくるものらしい。
 僕はその中の一つに目をやり、『この子が産まれた、産まれずに亡くなった意味はあるのだろうか』と考え始めた。答えはその両親や、身近な人にしかわからないだろう。
 僕は少しの間だけ悩み、その悩みを『お前は俺の弟でもある』と言ってくれた人に会って、話を聞いてもらうことにした。
「で、俺の所に来たわけか」
 キドさんが半ば呆れたように、僕の顔を見つめている。
「一人で悩むなって言ったのはキドさんで、僕の悩みを答えてくれそうな人もキドさんでした」
 僕がそう言うと、キドさんは「アラさんも大変だな」と呟きつつ、口を開いた。
「えっとお前の悩みは、すぐに亡くなったりした赤ん坊や、小さな子供は、何かしら役割はあったのかって事でいいのか?」
キドさんの確認に、僕は頷いた。
「役割って言っても、それは人によって考え方が違うと、俺は思う」
「どういう事でしょうか?」 
「カラは俺の弟が亡くなっても、それほど気にはしなかっただろう?」
 キドさんに言われ、僕は「そんなことありません」と、すぐに首を横に振った。
「それほど苦にはならなかった、という方が正確だな。家族が一人減って、悲しみで辛気臭くなった家の中にいた事なんて、カラは経験したことが無いだろう?」
 キドさんの言う様に、僕の家ではまだ誰も亡くなった事が無かった。
「その悲しみを乗り越えるために、人は勝手に理由を付けるんだ」
「勝手に、ですか?」
「そう。俺の様に『自分より年下は、みんな俺の弟だ』って宣言するようにな。俺は勝手に亡くなった弟の分まで、年下の子供を弟の様に大事しようと思う事で、悲しみを乗り越えようとしたんだ」
僕はキドさんの話を聞き、口から何を出せばいいのか、言葉が見つからなかった。
「俺は弟が亡くなって、自分は年下の子供に優しく出来る人になろうと思った。俺は弟が亡くなるまで、そんな事はほとんど考えてこなかった。アラさんやジンさんが俺を一人にせず、誰かと一緒に行動させたのもそのためだ。俺一人だと、俺は勝手気ままに行動していたからな。弟が亡くなったから、俺は年下の子供に優しくしようと思い、今日までやって来たんだ」
 キドさんはそこまで言うと、何かを思い出したかのように、空を見上げた。
 僕はキドさんに聞いてはいけない事を聞いてしまったのかもしれないと思った。
 キドさんはそんな僕を見て、口を開いた。
「カラ、これからも頼っていいんだぞ?」
僕はそれを聞いて、少し安心した。
「でも、亡くなったキドさんの弟は、どう思っていたんでしょうか」
僕はキドさんも知らないだろう答えを尋ねてみた。
「さあな。もっと生きたかったとは思ってはいただろうな。だが、少なくとも俺に死んでほしいとは思っていないはずだ。俺に生きていて欲しいと思っている。俺はそう、信じている。勝手にな」
 キドさんはそう言って、自分を鼓舞するように頬を叩いてから歩き去っていった。
「生きている人には勝手な想像をしてはいけないけど、亡くなった人には、勝手な想像をするしかないんだよね」
 僕は近くにある、自分と同じ年に産まれるはずだった赤ん坊のお墓に手をやった。
「僕は、君たちの分まで生きようとは思わない。僕は自分勝手に生きるよ。君たちが生まれ変わった時に、飢饉や寒さに凍えないように、村々との交流を広げようと思っているよ。それでもいいかな?」
僕は何も言わない石に手をやりながら、土に中に眠り、すでに海に還っているだろう名前も無い村人たちに語りかけた。

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