『潮が満ちたら、会いに行く』

古代の誇大妄想家

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2―2
 まず、僕がイケのいるガイさんの家に行くと、大きな声が聞こえてきた。
「お兄ちゃんの意地悪―!」
 イケの妹である、イサの声だ。
「何かあったんですか?」
 僕が家の中を覗くと、イケとイサが粘土の取り合いの様な事をしていた。
「イケ、妹をいじめちゃだめだよ?」
 僕が家の中に入りつつ言うと、イケは口を尖らせた。
「僕が取って来た粘土を、僕が使って何が悪いんですか?」
 イケは譲ることなく、イサと言い合いを続けていた。そこに、ケイさんが帰ってきた。
「またやっているのかしら?」
 ケイさんは大きなお腹をさすりながら、二人の間に割って入った。
「もうすぐイサもお姉ちゃんになるんだから、わがまま言わないの」
ケイさんが言うと、イサは「お兄ちゃんのばーか」と言い、外に飛び出てしまった。
「放っておいていいんですか?」
 僕がケイさんに尋ねると、ケイさんは「すぐに帰ってくるわよ」と言い、イケは「心配するのはお父さんだけだよ」と言った。ガイさんの子煩悩は、相変わらずの様だ。
「カラ、それで今日はどうしたのかしら?」
 ケイさんに尋ねられ、僕は三内まで歩いて行きたい事を、イケにも話した。
「うーん、最近マオとカオはシキさんと一緒にいて、カラさんまでいなくなると、少しつまらないなぁ」
 イケはそう言って、粘土を捏ね始めた。
「じゃあ、イケも来るかい。三内に行けば、面白い土偶も見られるかもしれないよ」
 僕が冗談交じりに言うと、イケは「行きます」と、即答してしまった。
 僕は突然のことに、言葉が出なかった。
「僕も、色々なところに行きたいですよ」
 イケは粘土を長く伸ばしながら、僕の顔を見つめた。
「私はいいと思うわよ。酋長に相談しなくちゃいけないけど、子供の仕事以外にも、オクとズイには土器作りを真剣に教えないといけない時期だし。あ、でもそうするとヨウが手持無沙汰になっちゃうかしら?」
 僕は「ちょっと、ヨウと相談してきます」と言い、いったん家を出た。
 ヨウは海で泳いでいたので、すぐに見つけられた。僕が声をかけると、まるで入江で見たカツオの様に、一直線に泳いできた。
 砂浜に上がったヨウに、僕は今までの事を話した。
「いいと思いますよ。僕はその間に、イバさんにアワの育て方を教えてもらいたいです。でもカラさん、秋までの約束は忘れないでくださいね?」
 ヨウは少しおどけたような口調で、僕とイケが三内に行く事を了承してくれた。
「イバさんには、僕から話しておくよ」
「わかりました。マオとカオはシキさんの所にいるので、僕から話しておきます」
 ヨウはそう言うなり、また泳いで行った。
「シキさんの所には、泳いで行けないと思うんだけどな」
僕はぽつりと呟きながら、イバさんの元へ向かった。
 イバさんは土を掘り、また土を均してを繰り返していた。土を柔らかくすると、アワが育ちやすくなると風聞したからだ。
「イバさん、相談があるんですか」
「なんだカラ。アワを交易品にしようというんじゃないだろうな。まだそこまで多く栽培は出来ていないぞ?」
 僕は「違いますよ」と言いつつ、僕とイケが歩いて三内に行く事と、ヨウがアワの栽培を習いたい旨を伝えた。
「わかった。ついでに、アワのエサになるモノがあったら聞いてきてくれ」
「エサって、キノジイの育てるキノコの様なモノじゃ駄目なんですか?」
「ああ、腐っている物の近くに生物を置いておくと腐るだろ。やってみないと分からないが、育つ途中で腐り始めたら嫌だからな」
イバさんはそう言って、また土を掘り返し始めた。
「何度、掘るんですか?」
 僕がイバさんを見つめながら尋ねると、イバさんは「それも、聞いてきてくれ」と言い、いつまで掘ればいいのか、自分でも分かっていないようだった。
 僕はガイさんの家に戻り、イケに伝え、それから自分の家に戻ってお父さんと話をした。
「イケも行きたがっているのか。なら、大人の数を少し増やそうか」
お父さんはそう言って、指で数を数え始めた。
「お兄ちゃんは、来ないの?」
僕が尋ねると、お兄ちゃんは「二ツ森までは一緒に行くさ。挨拶をしなくちゃいけないしな」と答えた。
「挨拶って、交流の挨拶?」
 僕が尋ねると、お兄ちゃんは頷いた。
「あら、他にも目的があるんじゃないのかしら?」
 お母さんがお兄ちゃんを見つめながら言うと、お兄ちゃんは顔を赤くした。
「何かあったの?」
 僕が二人に尋ねても、お兄ちゃんは顔を赤くしたままで、お母さんは微笑んでいるだけだった。

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