異世界で温泉はじめました 〜聖女召喚に巻き込まれたので作ってみたら魔物に大人気です!〜

冬野月子

文字の大きさ
17 / 43

17 魔王という存在

しおりを挟む
 魔王さんの言葉に、弾かれたようにロイドは飛び退った。

「そう慌てずとも、私は君を襲いはしない」
 笑みを浮かべたまま魔王さんは言った。
「人間との余計な争いは避けたいからな」
「……本物?」
「疑うならこれでどうだ」
 魔王さんは右手を上げると、パチンと指を鳴らした。
 ドサ、と何かが地面に落ちる音がする。

「――え?」
 ロイドが慌てて足元を見た。
 そこには剣の柄だけと、鞘が別々に落ちている。
「刃が消えた!?」
 鞘を逆さまにして振ると、サラサラと銀色の粉が落ちてきた。
「ばかな……粉々に……?」
「魔王さんすごーい!」
 勇者の剣はどんなものでも斬れるし決して傷ひとつつかないって、教会にいた時に聞いたことがあったけど。

「勇者。確かに君の剣は特別だが、そんなものでは私は斬れない」
 笑みを浮かべたまま魔王さんは言った。……普段穏やかで、正直「魔王」というイメージとは違うなと思っていたけれど。
 やっぱりすごいひとなんだ。
「そんな……」
 腰の力が抜けたようにロイドはがっくりと膝をついた。
「世界に一本だけだって……どんな宝石や王冠より貴重だって……」
 ポロポロと大粒の涙がその青い目からあふれ出した。
「勇者になって……父さんや……村の皆が喜んでくれたのに……」

「閣下。少しやり過ぎでは」
 ブラウさんが魔王さんを見た。
 ロイドはリンちゃんよりも少し幼く見えるから、十五、六歳だろうか。元の世界でいえばまだ高校生だ。
(そう思うと、ちょっとかわいそうかも)
 魔物たちを殺してきたことは許せないけど、まだ子供だし、今の言葉から察するにどこかの村出身の平民で。
 偉い人たちには逆らえないんだろう。

「そうか」
 もう一度魔王さんが指を鳴らすと、ロイドの前に散らばった柄と刃の残骸が光に包まれた。
「……剣が」
 光が消えると元の姿に戻った剣が現れた。
 その剣を手に取り、ロイドはのろのろと立ち上がった。
「お茶どうぞ」
 余っていたコップにお茶を入れてテーブルに置くと、のろのろとした動きのままイスに腰を下ろして、ロイドはコップを受け取りそれを一口飲んだ。
「――これは……」
 コップから口を離すとロイドは驚いたように目を見開いた。
「疲れが取れるでしょ」
 温泉で作ったお茶なので、飲んでも温泉に入るのと同じ効果があるのだ。
「……美味しい」
「おかわりあるよ」
 あっという間に飲み干したコップにお茶を注ぐと、ロイドはそれも一気に飲み干した。


「僕は……幼い時から騎士に憧れていて。だから勇者の資格があるって……分かって、とてもうれしくって」
 三杯目のお茶を飲みながらロイドが言った。
「勇者であることに夢中で……とにかく……魔物を倒さなくちゃって……魔物側の事情とか……そんなの知らなくて……」

「――こいつ、酔ってないか」
 鼻をグズグズさせながらブツブツ言っているロイドを見てエーリックがつぶやいた。
「え、お酒なんか入ってないよ?」
 香りのいい葉を乾燥させて作ったハーブティーだ。
 浄化魔法を掛けたから安全だし、むしろすっきりするのに。
「魔力酔いかもしれないな」
 ブラウさんが言った。
「魔力酔い?」
「この茶にも湯にもヒナノの魔力が込められているだろう。それを直接体内に取り込んだから酔った可能性がある」
「直接取り込むと酔うんですか?」
「場合によってはな。魔力には相性というものがあるから彼の身体には合わないのかもしれない」
 温泉に視線を送ってブラウさんはそう答えた。
「それにあの温泉の効果には分からないことが多いからな、人間には強すぎるということもあるだろう」
「そうなんですね……」
 それは悪いことをしちゃったかな。

「ぼくはぁ、村のみんなのためにもぉ、がんばってえ」
 魔王さんの隣で突っ伏しながらうめくロイドの姿は、確かにバイト先の居酒屋でよく見た酔っぱらいによく似ている。
「本当はぁ、ぼくだって……逃げる魔物を退治なんかしたくないのにい」
「そうか」
 ポン、と魔王さんはロイドの頭に手を乗せた。
「君も苦労しているな」
「……ぼくだってえ……」
 うめきながら、やがてロイドはそのまま眠り込んでしまった。

「どうしますか彼は」
 すっかり熟睡しているロイドを見つめてブラウさんが言った。
「そのうち起きるだろうからそのままでいいだろう」
 そう答えて、魔王さんはロイドの腰から剣を抜き取った。
「確かに普通の剣より硬く作られてはいるがただの剣だ。けれど魔力を込めることができるようだな」
 刃を見つめて魔王さんは言った。
「つまりその剣に勇者と聖女の魔力を込めることで、斬られると傷が治らないと?」
「ああ。だがこれで私は倒せぬ」
「……どうしてですか?」
 さっきもロイドに言っていたけれど。

「人間の魔力には『属性』というものがあるな」
 魔王さんは私を見た。
「……ああ、はい」
 私は水魔法と土魔法が使える、つまり水と土の属性があるということだ。
「そうして例えば火は風に強いが水に弱いというような相克がある。我らの魔力には属性や相克はないが、人間の持つ属性で唯一苦手なものがある。それが『光』だ」
「光属性……?」
「その光は勇者と聖女の魔力を重ねることで生まれる。だからこの剣で斬られた傷は治らない」
 魔王さんは手にしていた剣を軽く振ってみせた。
「だが、私に光の魔力は効かない」
「そうなんですか……」
「それが魔王という存在だ。人間はそのことを知らないがな」
 え、じゃあ。
「……魔王さんを倒すために、わざわざリンちゃんを異世界から呼んだのは意味がないと……?」
「そういうことになるな」
「そんな」
 わさわざ召喚されたのに。意味がなかったなんて。

「ヒナノ」
 エーリックが私の手を握った。
「ヒナノはこの世界に来なければよかったと思っているのか」
「……ううん」
 その瞳に不安そうな色を浮かべたエーリックに首を振る。
「家族に会いたいとは思うけど。でもここにも新しい家族がいるから」
 召喚された当初は帰りたくて仕方がなかった。
 けれどここでエーリックや魔物たちと出会い、生活していくうちに、ここが私の居場所となっていったのだ。
「……そうか」
 エーリックはほっとしたような顔を見せた。

「私には効かぬが、魔物にとってこの剣が危険であることに変わりはない」
 魔王さんがそう言うと、持っている勇者の剣が淡く光った。
「剣に宿っていた魔力と祝福を消した。新たに力を込めればまた元に戻るが、どうするかはこの者たち次第だ」
 眠るロイドを見ながら魔王さんは言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、竜人の国で寵妃にされました!?

星宮歌
恋愛
『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』の番外編として作っていた、シェイラちゃんのお話を移しています。 この作品だけでも読めるように工夫はしていきますので、よかったら読んでみてください。 あらすじ お姉様が婚約破棄されたことで端を発した私の婚約話。それも、お姉様を裏切った第一王子との婚約の打診に、私は何としてでも逃げることを決意する。そして、それは色々とあって叶ったものの……なぜか、私はお姉様の提案でドラグニル竜国という竜人の国へ行くことに。 そして、これまたなぜか、私の立場はドラグニル竜国国王陛下の寵妃という立場に。 私、この先やっていけるのでしょうか? 今回は溺愛ではなく、すれ違いがメインになりそうなお話です。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...