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02 孤独な天使
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彼は孤独だった。
美しい世界だった。
空はいつでも明るく輝き、常に花々が咲き誇り優しい香りを漂わせている。
木々の上で鳥はさえずり、澄んだ水を湛えた川には色鮮やかな魚たちが泳いでいる。
柔らかな草地を駆け回るのは小さな動物ばかりで危険なものも、寒さも飢えもない平和な世界だった。
けれど孤独だった。
仲間の姿を見る事は滅多にない。
飢える事もないけれど、歳を取る事もなく病むこともない身体を持て余していた。
もうどれだけ経っただろうか。
自我を意識した時からただ彼はひとり、孤独に生きていた。
どこかに行きたい、と思っていた。
誰かに会いたいと、孤独を埋める何かが欲しいと。
けれどどれだけ歩いても飛んでも———周囲の景色が変わる事もなく。
いつしか彼は何かを求める事も諦め、ただその場所で生きていた。
その〝声〟は、突然聞こえた。
今までに聞いたどんな鳥の声よりも美しく、彼の耳に心地よく響いた。
心の中に…それまで感じた事のなかった何かが宿るのを感じる。
彼はただその声の主を求めた。
会いたいと、それだけをただ強く願い———
「そうして、ここに来たんだよ」
そう言って彼は美しい笑顔をフランカに向けた。
とても美しい少年だった。
髪も瞳も肌も何もかもが輝いて、まるで天使のような、というよりも———
「お兄ちゃんは、天使なの?」
六歳のソフィーが率直に尋ねた。
現れた時に背中に生えていた翼はいつのまにか消えていたが、服装といいその姿はフレスコ画やステンドグラスに描かれる天使の姿にそっくりだった。
「そうだね…人間は僕たちの事をそう呼んでるみたいだね」
少年はソフィーに向くとそう答えた。
「ええーホンモノ?!」
「すげえ!」
「女神様のお使いなの?」
「ああ…」
少年は騒ぎ立てる子供たちを見渡した。
「女神のお使いの天使は別にいるんだよ」
「そうなの?」
「天使はみんなお使いじゃないの?」
「違うよ」
「ええーどうして?」
「お使いになるのはずっとずっと昔からいる天使なんだよ」
「ふーん」
「じゃあ女神様に会ったことはあるの?」
「一度だけあるよ」
少年の言葉に子供たちは目を輝かせた。
「女神様ってどんなひと?」
「優しい?」
「あの像よりもキレイ?」
「そうだね」
指差された先、祭壇に置かれた白い大理石で出来た女神像に視線を送る。
「もっとずっと美しいし、とても優しいよ」
そう言うと、少年は視線をフランカへと戻した。
「でも声は君の方がずっと綺麗だ」
「え…」
「フランカすごーい」
「女神様より綺麗だって」
「そ、それは言い過ぎなんじゃ…」
「本当だよ」
少年は顔を赤らめるフランカに笑顔を向けた。
「君の名前はフランカっていうんだね。僕はハルムだ」
「ハルム!」
「僕はクルトだよ!」
「私はソフィー。この子はエミーよ」
「あとベックとアンナ!」
「そうなんだ。みんないい名前だね」
群がる子供たちに、にこにこしながらハルムは言った。
「ええと…ハルム?」
それまで黙って見守っていた神父が口を開いた。
「それじゃあ君は天使で、フランカの歌声を聴いてここに来たという事でいいのかな」
「そう、僕はここに落ちて来たんだ」
「落ちて?」
「天使は女神の許可がないと地上には降りられない。だけど僕は…どうしてか落ちたんだ。きっとそれだけフランカの歌が綺麗だったからだよ」
「え…それって…私のせい?」
フランカは赤かった顔をさっと青ざめさせた。
「違うよ、フランカは悪くない」
綺麗な笑顔のままハルムは言った。
「フランカの歌を聴いて、僕が勝手に落ちたんだ」
「…でも……」
「ハルム。君は元の場所に戻れるのかい」
「分からない、翼が消えてしまったから」
神父の言葉にハルムは首を横に振った。
「翼が消えた…?」
「どうやっても出てこないんだ」
ハルムは自分の背中を見るように振り返った。
「え…それじゃあ戻れないの?」
「分からないけど、戻れなくていいよ」
ますます顔を青くするフランカに、ハルムは満面の笑みを向けてそう言った。
美しい世界だった。
空はいつでも明るく輝き、常に花々が咲き誇り優しい香りを漂わせている。
木々の上で鳥はさえずり、澄んだ水を湛えた川には色鮮やかな魚たちが泳いでいる。
柔らかな草地を駆け回るのは小さな動物ばかりで危険なものも、寒さも飢えもない平和な世界だった。
けれど孤独だった。
仲間の姿を見る事は滅多にない。
飢える事もないけれど、歳を取る事もなく病むこともない身体を持て余していた。
もうどれだけ経っただろうか。
自我を意識した時からただ彼はひとり、孤独に生きていた。
どこかに行きたい、と思っていた。
誰かに会いたいと、孤独を埋める何かが欲しいと。
けれどどれだけ歩いても飛んでも———周囲の景色が変わる事もなく。
いつしか彼は何かを求める事も諦め、ただその場所で生きていた。
その〝声〟は、突然聞こえた。
今までに聞いたどんな鳥の声よりも美しく、彼の耳に心地よく響いた。
心の中に…それまで感じた事のなかった何かが宿るのを感じる。
彼はただその声の主を求めた。
会いたいと、それだけをただ強く願い———
「そうして、ここに来たんだよ」
そう言って彼は美しい笑顔をフランカに向けた。
とても美しい少年だった。
髪も瞳も肌も何もかもが輝いて、まるで天使のような、というよりも———
「お兄ちゃんは、天使なの?」
六歳のソフィーが率直に尋ねた。
現れた時に背中に生えていた翼はいつのまにか消えていたが、服装といいその姿はフレスコ画やステンドグラスに描かれる天使の姿にそっくりだった。
「そうだね…人間は僕たちの事をそう呼んでるみたいだね」
少年はソフィーに向くとそう答えた。
「ええーホンモノ?!」
「すげえ!」
「女神様のお使いなの?」
「ああ…」
少年は騒ぎ立てる子供たちを見渡した。
「女神のお使いの天使は別にいるんだよ」
「そうなの?」
「天使はみんなお使いじゃないの?」
「違うよ」
「ええーどうして?」
「お使いになるのはずっとずっと昔からいる天使なんだよ」
「ふーん」
「じゃあ女神様に会ったことはあるの?」
「一度だけあるよ」
少年の言葉に子供たちは目を輝かせた。
「女神様ってどんなひと?」
「優しい?」
「あの像よりもキレイ?」
「そうだね」
指差された先、祭壇に置かれた白い大理石で出来た女神像に視線を送る。
「もっとずっと美しいし、とても優しいよ」
そう言うと、少年は視線をフランカへと戻した。
「でも声は君の方がずっと綺麗だ」
「え…」
「フランカすごーい」
「女神様より綺麗だって」
「そ、それは言い過ぎなんじゃ…」
「本当だよ」
少年は顔を赤らめるフランカに笑顔を向けた。
「君の名前はフランカっていうんだね。僕はハルムだ」
「ハルム!」
「僕はクルトだよ!」
「私はソフィー。この子はエミーよ」
「あとベックとアンナ!」
「そうなんだ。みんないい名前だね」
群がる子供たちに、にこにこしながらハルムは言った。
「ええと…ハルム?」
それまで黙って見守っていた神父が口を開いた。
「それじゃあ君は天使で、フランカの歌声を聴いてここに来たという事でいいのかな」
「そう、僕はここに落ちて来たんだ」
「落ちて?」
「天使は女神の許可がないと地上には降りられない。だけど僕は…どうしてか落ちたんだ。きっとそれだけフランカの歌が綺麗だったからだよ」
「え…それって…私のせい?」
フランカは赤かった顔をさっと青ざめさせた。
「違うよ、フランカは悪くない」
綺麗な笑顔のままハルムは言った。
「フランカの歌を聴いて、僕が勝手に落ちたんだ」
「…でも……」
「ハルム。君は元の場所に戻れるのかい」
「分からない、翼が消えてしまったから」
神父の言葉にハルムは首を横に振った。
「翼が消えた…?」
「どうやっても出てこないんだ」
ハルムは自分の背中を見るように振り返った。
「え…それじゃあ戻れないの?」
「分からないけど、戻れなくていいよ」
ますます顔を青くするフランカに、ハルムは満面の笑みを向けてそう言った。
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