永遠への階~オルセレイド王国物語~

弥生

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第6話 祖国に残してきたもの

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 シルフィアがオルセレイドに来てから3週間ほどがたった頃、いつものようにシメオンから講義を受けていたシルフィアのもとに、前触れもなく再びアークレイが訪れた。
 しかも、かなりの軽装で。

「陛下、どうなさったのですか?今は謁見のお時間では?」

 その場にいた全員がアークレイの突然の訪れに驚いたが、中でも一番驚いていたのはシメオンだった。
 シメオンはアークレイの一日の予定を全て頭に入れているらしい。
 直接、シメオンがアークレイの執務に関わることがなくてもだ。
 謁見の予定や視察の予定、何時に誰と何の打ち合わせがあるとか、剣術や馬術の訓練の予定まで、かなり詳細な区切りでアークレイの予定を覚えているのだとか。
 驚くシルフィアに『宰相ですから当然です』とシメオンは事も無げに言っていたが、普通は宰相がそこまで国王の予定を把握してはいないだろう。
 本来それは、国王付きの執務官の役目だ。

「ああ、急に予定がなくなってな。それで午後からは大宰相にいくつか仕事を任せて時間をもらったのだ」

「ええ!?大宰相様にですか!?」

「正確には大宰相と執務官に、だな。なに、俺がやらねばならん優先事項は全て済ませてきた」

 立ち上がったまま呆然となっていたシメオンだったが、はっと我に返りいつもの冷静な表情に戻る。

「・・・それで、午後はどちらに?私はご予定を伺っておりませんが。しかも、そのような軽装をなさって・・・」

 アークレイは国王であるため、常にかっちりとした正装に近い格好をしている。
 しかし今の格好は、白のシャツ、襟元に軽く巻いただけの淡い蒼のスカーフ、銀釦が付いた黒のベスト、白のズボンに黒のブーツ、両手に嵌められた黒の手袋、そして左腕に架けているのは黒の上着という姿だった。
 腰に巻いた濃茶の革ベルトに提げられた剣は、簡素な装飾だけがなされた実用的な剣で、アークレイ愛用の剣だ。
 その姿はどこかの貴族の子息のような出で立ちで、一国の国王としてはかなり控えめな格好だろう。
 とはいえ、背が高く、手足が長い整った体型のアークレイには、そのような軽装でもとても似合ってはいたのだが。

「ああ、おまえが知らぬのも当然だ。つい先ほど決めたからな」

「え・・・・・・ええ?」

「俺は今から城の外に出かける。シルフィア殿にも同行していただくぞ」

「は!?」

 ぽかんと大きく口を開けたシメオンは、いつもの冷徹な宰相の仮面が完全に剥がれ落ちてしまっていた。

「帰りは・・・そうだな、夜遅くなるか、もしかすると明日になるかもしれん」

「明日!?え?出かけられるって、陛下、どちらにですか!?」

 アークレイは右手を腰にあてて、僅かに口の端を上げて笑った。

「離宮だ」

「離宮!?どちらの!?」

「ローラハインだ」

「ローラハインって・・・今からですか?」

「ああ。まあ、近場だからな。万が一あちらで泊まることになってもすぐに帰ってこられる。明日の政務に支障はないと判断し、大宰相からも許しを得た。馬を跳ばせばなんとかなるだろう」

 呆然自失といった感じでその場で固まってしまったシメオンに、アークレイは困ったように苦笑した。

「おいおい・・・そんなに驚くことでもないだろう。少しばかり出かけてくるだけだ」

「ですが・・・今から街道の警備の手配も間に合いません」

「街道の警備?そんなものいらん。真っ直ぐ行って、真っ直ぐ帰ってくる。心配せずとも宮殿騎士はそれぞれ二人ほど連れていくつもりだ」

「二人って・・・少なすぎますよ!貴方は一国の国王なのですよ!城の中とて安全ではないのに、街を出て、しかも街道を行かれるなど・・・離宮の警備の手配もしなくては!」

 だが、アークレイは軽く肩を竦めただけだった。

「遠くに行くわけではない。離宮に赴くのに大袈裟にする必要はないだろう」

「た、確かにローラハインの離宮は他の離宮の中で最も王都から近いですが・・・シルフィア様もご一緒にって・・・本気ですか?」

 アークレイとシメオンの視線が向けられたシルフィアは、まだ状況を飲み込めないまま目を瞬かせただけだった。
 アークレイの瞳がふっと細められる。

「ああ、本気だ。シルフィア殿も一緒に来ていただく」

「・・・あの・・・私も、でございますか?」

 シルフィアは戸惑いながらアークレイをおずおずと見上げる。

「ああ」

 そんなシルフィアを安心させるかのように、アークレイは大きく頷いた。

「で、では!すぐに警護の者を手配して参りますのでお待ちくださいませ!」

 シメオンが慌てて部屋を出て行くのを目で追って、アークレイはシルフィアに「やれやれ・・・・・」と苦笑し振り返った。

「警備はいらぬと言っているのに全く聞いていないな、シメオンは」

「ですが・・・やはり街道を行かれるのであれば、もう少し騎士を増やしたほうがよいのではないでしょうか?」

「なんだ?シルフィア殿もシメオンの味方か?」

「い、いえ・・・・・・」

 僅かに眉を顰めたアークレイに、気分を害してしまったのだろうかとシルフィアは慌てて首を振ったが、アークレイは気にしていないのか、すぐに笑顔に戻り大袈裟に肩をすくめた。

「大勢の騎士を連れて街道を行くのも鬱陶しいだけだ。それに、そうは言っても俺の目に入らない所で警護の者が付くさ。さて、シルフィア殿。何か上に羽織るものを持って行くと良い。そのような薄着では風邪を召されてしまうからな」

「はい・・・あの、ですが・・・・・・」

「ああ、出来ればフードが付いたマントにしてもらえるか」

 シルフィアの上着を用意しようとしたレーヌにアークレイが声をかければ、心得たようにレーヌは深く頭を下げ奥の部屋へ行き、しばらくした後、淡い若草色のマントを手に戻ってきた。
 それを見て、アークレイが扉の方へと歩き出す。

「ではシルフィア殿、参ろうか」

「ですが、シメオン様がお待ちになるようにと・・・・・」

 だが、アークレイはため息をついて大きく首を振った。

「構わん。シメオンのことだから宮殿騎士を何人連れてくるかわからん。下手すれば1部隊連れてくるやも知れん。仕舞いには何だかんだと理由を付けて、城出も止められる可能性がある。あいつが戻って来る前にさっさと抜け出してしまおう」

 アークレイに手招きされ、シルフィアはわけがわからないながらも、レーヌが出してくれたマントを手に取り、歩き始めたアークレイの後を追う。

「あの・・・陛下、どちらへ?先ほど、離宮へ出かけられるとおっしゃってましたが・・・・・」

 少しだけ視線をシルフィアに向けたアークレイが、首を傾げてふっと口元に笑みを浮かべた。

「ああ。この前言っただろう?離宮にお連れすると」

 この前。
 それは一週間ほど前に、王宮の庭で言われたことだ。

「離宮・・・前王妃様ですか?」

「ああ」

「ですがこのように突然・・・前王妃様にはお知らせされているのですか?」

「いや」

 アークレイは肩をすくめて陽気に笑った。

「え、ですが・・・」

「離宮に約束も無く伺うことは今までも度々あって、母上もそのようなこと気にはなさらないさ。それに、『いつでも良いからシルフィア様を連れていらっしゃい』と手紙に書かれたのは、他ならぬ母上だからな」

「構わんよ」と笑って右手をひらひらと振ったアークレイに、戸惑っていたシルフィアも少し安堵し笑みを浮かべる。
 長い廊下を胸を張り、堂々と歩くアークレイの後ろ姿。
 すれ違う城の者たちはアークレイの姿に気づくと廊下の端に下がり、皆が一様にアークレイに頭を下げていく。
 それは、彼が国王なのだということを改めて実感する光景だ。

 1週間前、王城の庭で別れたのが、シルフィアがアークレイに会った最後だ。
 いずれ正妃となるシルフィアの部屋と、国王であるアークレイの部屋が隣接していることは知っているが、朝が早く夜も遅いアークレイと、あまり自室から出ることのないシルフィアが顔を会わせる機会は、今まで全くといっていいほどなかった。
 国王の地位に就いて約1年半、アークレイは日々政務に忙しく、時には寝る間も惜しんで政務を執ることもあるのだとシメオンから聞いていた。
 シルフィアだけでなく、他の妃や王子と会う機会もないほど、特に今は忙しい時期なのだとか。
『陛下は優秀な方ですが、決して弱音や愚痴を吐かれませんし、無理をなされないか心配です』と、シメオンは心からアークレイを案じていた。
 正妃となる自分があまり政務に関わるべきではないのかもしれないが、アークレイの負担を少しは和らげるために何か出来ればいいのに。
 アークレイの背を見上げ、シルフィアは何も役に立つことが出来ない自分を情けなく思い、気づかれぬように小さく息を吐いた。

「こちらだ、シルフィア殿」

 しばらく王城の中を歩いた後にアークレイに連れてこられたのは、王城の北側にある王族専用の厩舎だった。
 シルフィアがここを訪れるのはもちろん初めてだ。
 突然現れたアークレイの姿に、厩舎の者たちは特に慌てる様子もなく頭を下げた。
 アークレイが城を出ることはすでに通達されていたようだ。

「俺とシルフィア殿の馬を用意してくれ」

「は!ただいま!」

 アークレイの命に、厩舎の者たちの動きが一気に慌しくなる。
 アークレイとシルフィアに付いていた宮殿騎士たちも、それぞれ自身の馬を取りに行く。
 だが、シルフィアには回りの慌ただしさも視界に入っていなかった。
 アークレイの先ほどの言葉が、よく理解できなかったからだ。

「あの、陛下・・・・・」

「ん?」

 アークレイは手に持っていた黒の上着を羽織りながら、シルフィアを振り返った。

「今・・・私の馬・・・と」

 上着の襟を整えたアークレイは、戸惑うシルフィアにニッと笑みを浮かべる。

「ああ。ローラハインへは馬車ではなく、馬で駆けて行くからな」

「ですが、私に馬は・・・・・・」

 シルフィアに馬はいない。
 センシシアに居たときは確かに自身の馬はいたのだが、オルセレイドに連れてこなかった。
  この国に来てからも一度も馬には乗っていない。

「貴方も馬に乗られると聞いたからな、貴方のために用意した」

「私のためにですか?」

 そう言ったアークレイの笑みは、何かを企んでいる子供のような表情だった。
 それでもまだ理解できないシルフィアに、アークレイは「まあ、見ればわかる」とそれ以上何も言おうとしなかった。
 それからしばらくして、王族専用の厩舎から出てきたのは2頭の馬だった。
 1頭は、立派な体躯の、漆黒の毛並みの牡馬。
 そしてもう1頭、漆黒の馬に並び、どこか優雅な仕草で歩を進めて近づいてくるのは、目にも鮮やかな純白の毛並みの牝馬だった。

「あ・・・・・・」

 シルフィアは一瞬目を見開き、その馬がここにいることが信じられず、思わず口に手をあてていた。

「まさか・・・メリアール?」

 白馬の背に乗せられた鞍にはオルセレイド王国の紋章である獅子が彫られていたが、それでもシルフィアが見間違うはずがなかった。
 メリアール。
 3年間、シルフィアが愛馬として、センシシアで乗り続けていた雌の白馬に間違いなかった。
 王妃として他国に赴く己に馬は必要ないと別れを惜しんだ、兄妹のように大切な大切な愛馬だった。

「何故メリアールがここに・・・・・」

 呆然とアークレイを見上げると、アークレイは悪戯が成功したように嬉しそうに笑った。

「貴方にはとても大切にされていた愛馬がいたと聞いたのでな。センシシアから連れて来てもらった」

「そのような、私のためにわざわざ・・・・・・」

「なあに、センシシア国王陛下に別件で用があったので、そのついでだ。気になさるな。貴方の父王も、その馬を我が国に連れて行くことを大層喜んでくださったそうだ」

 アークレイは戸惑うシルフィアに笑顔で返し、漆黒の馬にひらりと飛び乗った。

「・・・陛下」

「撫でてやるとよい。貴方に会えなかったからか、随分寂しがっているようだぞ?」

「・・・はい。ありがとうございます」

 アークレイの気遣いにシルフィアは小さな笑みをこぼし、久しぶりに出会った愛馬の顔をそっと撫でる。

「メリアール・・・」

 メリアールもシルフィアのことがわかるのか、ブルル・・・とどこか嬉しそうに唸った。

「メリアールというのか。実に美しい牝馬だな。瞳も深い青色で、うむ、貴方の馬に相応しい」

「そ、そのような・・・ですが、ありがとうございます。メリアールは私にとって妹のようなものですし・・・」

「ほう?」

「まだ母馬の胎内に居るときから、自分が育てたいと父に頼み込んで。産まれたときからずっと世話をしてきましたので」

 シルフィアはもう1度メリアールの首を軽く叩き、久しぶりにその背に跨った。

「ふうむ・・・・・・」

 メリアールよりも大きな漆黒の馬に跨ったアークレイが、右手を顎にあてて、何か感心したようにシルフィアを見てくる。

「あの、陛下・・何か?」

「いや・・・やはりその馬は貴方に相応しいなと思ったのだ」

「え?」

「ああ、いや。すまぬ、俺の独り言だ。それより・・・さてはおまえ、メリアールを気に入ったな?」

 そう言って笑いながら、アークレイはパシパシと自分の馬の首を叩いた。

「とても立派な馬ですね。私も初めてお見かけしましたが、もしや、『ブリューク馬』でございますか?」

「ああ」

 『ブリューク馬』とは、オルセレイド王国の北東ブリューク地方に広がる高原で育てられた馬の品種名だ。
 艶やかな漆黒の毛並みに、大きな体躯。
 それでいて駿馬であり、持久力もあり、そして主に忠実。
 普段は大人しい性格の馬だが、戦場でも臆することなく駆け抜ける、激しさと勇敢さも備えている。
 希少な馬のために手に入れることが難しく、大陸中の貴族や騎士が憧れる名馬だと言われている。

「名をヴィアクロイスと言って、今年で4歳になる。なかなか男前だとは思うのだがな、気難しい奴で、牝馬を与えても全く見向きもせん。牝馬のほうが機嫌を損ねてしまうほど、無愛想で無関心な奴なんだ。これは一生相手は見つからないのではないかと思っていたのだが・・・こやつ、メリアールの側だと随分と機嫌がよさそうだ」

 もう一度パシパシと首を叩くアークレイに、ヴィアクロイスはどこか迷惑そうに瞳を動かしただけだった。

「陛下」

 王城から出て来た宮殿騎士の1人が、近くまで来ると膝を突き、馬上のアークレイに頭を下げた。
 シルフィアも顔を知るその騎士は、宮殿騎士団の騎士団長だった。

「ああ、すまなかったな。こちらへ」

「は」

 騎士は立ち上がると頭を下げたまま、手に持っていた物を両手で高く掲げてアークレイへと差し出した。

「ご苦労だった。配備は済んでいるか」

「はい、ご命令どおりに」

「シメオンが色々動くだろうが、適当に流しておけ」

「は」

 アークレイが受け取ったのは、鮮やかな百合の花の刺繍が施された白い布だった。
 何かを巻いていると思われるその白い布をするりと外し、中から現れたものを見下ろすと、アークレイは満足げに大きく頷いた。

「シルフィア殿に、これを」

 そして、アークレイがシルフィアへ、手に握ったそれをまっすぐに差し出してきた。

「え・・・・・・・」

 アークレイが手にしていたもの。
 それは、1本の剣だった。
 シルフィアは、それが目の前にあることが信じられなかった。
 メリアール以上に、決してここにあるはずがないものだったから。
 細身のその剣は、鞘に深い緋色の革が張られ、華美にならない程度に銀の装飾が施され、更に柄の部分には、センシシア王国の紋章である立派な角を持つ2頭の鹿が描かれていた。

「これは・・・なぜ・・・・・・?」

 唇を震わせて呆然となるシルフィアに、アークレイは柔らかな笑みを返す。

「メリアールとともに、国王陛下より貴方に是非とも渡してほしいと託された剣だ。貴方はもしかすると受け取らないかも知れないが、魂にも等しい、何よりも大切なものだから、側に置いてやってほしい。そのように国王陛下はおっしゃったそうだ。これは・・・この剣は貴方のだろう?」

「・・・・・・」

 どこか困ったようなシルフィアの表情に、アークレイは苦笑し、馬を側に寄せると、躊躇うその手を取って鞘を握らせた。

「ほら、貴方の大切な物なのだろう?」

「陛下・・・ですが、私は・・・・・・」

 この剣は4年前から常に側にあった剣。
 父と兄たちから贈られた大切な剣だ。
 しかし、二度と握ることも振るうこともないと、深い後悔を抱いたまま、センシシアに残してきた剣だった。
 その剣が、今再びこの手にある。

「シルフィア殿にとってそれはただの剣ではないのだろう?貴方を守る大切な剣だ。肌身離さず持っているといい」

「はい・・・陛下・・・ありがとうございます」

 シルフィアは、剣を胸元にあて、ぎゅっと握り締めた。
 メリアールとこの剣。
 アークレイからの思わぬ心遣いに、シルフィアは涙が出そうになった。
 そして、故郷で別れた父の温もりにも。

「では参ろうか。シルフィア殿、すまないがフードを深く被ってくれないか。街中では目だってしまうからな」

「はい」

 騎士に手渡された、これも使い慣れた剣帯を腰に巻いて剣を差せば、少しばかり腰に響く剣の重みが懐かしさを呼び起こす。
 少し目を伏せ、だが感傷を振り払うように軽く頭を振る。
 レーヌが用意してくれた淡い若草色のマントを羽織り、フードを深く被った。

「陛下!」

 厩舎に響き渡る朗々とした声とともに、よほど急いでいたのだろう、息を切らした宮殿騎士が10名ほど馬を引いてやってきた。
 その姿に、アークレイはがっくりと肩を落とす。

「アヴェルデン騎士団長」

 宮殿騎士団長に視線を向けると、目を伏せ頭を下げた。

「申し訳ございません」

「いや、どうせあいつが強硬したのだろう・・・シメオンめ、相変わらず憎たらしいほど仕事が早い・・・ったく、ローランリッジ宰相からの指示か?」

 騎士たちの中から隊長格の騎士が前に出て、左手を胸にあてたまま一礼する。

「は・・・お付きの騎士とともに国王陛下の警護にあたるようにとの、宰相閣下からのご命令でございます」

 アークレイとシルフィアの背後で既に馬に乗り静かに控えていたのは、アークレイとシルフィアそれぞれの警護をしている宮殿騎士の4人だった。
 宮殿騎士の中でも特に腕の立つ4人なのだが、とはいえ騎士が4人だけというのは、国王と王子の警護としては確かに手薄といえるだろう。

「離宮に行くだけだ。おまえたちが居ては逆に目だってしまうだろう。宮殿騎士が一緒ではすぐに王族であることが知られてしまう。加えて大勢引き連れては民に迷惑をかけるだけだ」

「は・・・」

「だがまあ、シメオンの命令も無視は出来ないか」

 アークレイはやれやれとため息を吐き出し、大きく肩を落とす。

「おまえたちは城門を出るまでで良い。後はアヴェルデンの指示で配備の者たちが動く」

「は。かしこまりました」

「まったく・・・国王になると自由に出かけることもままならないものだな」

 苦笑したアークレイに、シルフィアも微苦笑を返す。

「お立場がございますから、仕方がないことでございます」

「やれやれ、前途多難だな。では、参ろうか」

「はい、陛下」

 シルフィアは久しぶりに跨がる愛馬の背を撫で、アークレイに続きゆっくりと馬を走らせた。
 初めての城の外。
 少しばかり浮き足立っている自分に気づいていたが、アークレイとともに出かけられることが嬉しくて、シルフィアはフードの下で小さく微笑んでいた。
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