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第17話 不確かな想い
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「・・・・・・素敵ですね。シメオン様が羨ましいです」
「え!?私がですか?」
「はい。そのように一途に想える方がいらっしゃるシメオン様が羨ましいです」
「何をおっしゃいますか。私を羨むなど・・・殿下はそのような方はおられなかったのですか?」
話題を変えたシメオンの問いかけに、シルフィアは僅かに目を伏せた。
「そうですね。特には・・・・・・」
確かに、王族ともなれば恋愛など望むことは難しいだろう。
女性側も自分よりも綺麗で美しいシルフィアの横に並びたいとは思わないだろうし。
絶対聖域のように無垢なシルフィアに、男女共に手出しをしようとする勇気ある者も居なかったのだろう。
恋愛に関してはかなり疎そうだ。
だとすると、シルフィアはアークレイのことをどう思っているのだろうか。
好きになるのに同性も異性も関係ないとシルフィアは言っていたが。
アークレイほどの魅力ある男性に対し、シルフィアは何も思っていないのだろうか。
高貴な雰囲気、端正で整った容貌、長身でスラリと手足が長い均整のとれた体つき。
ウォーレンのように決して軽薄ではなく、真面目で、優しく思いやりがあり、懐が広く、堂々とした言動に誰もが心奪われる。
嫁いできた2人の姫がアークレイに会ったその瞬間、一目惚れをしたと言われているほど人を惹き付ける男性なのだから。
「殿下は陛下のことをどのように思われていらっしゃるのですか?」
「陛下のこと・・・ですか?」
思わぬ問いに、シルフィアは大きな目を更に大きくしてシメオンを見る。
僅かに動揺が走ったように見えた。
「はい」
「どのようにとおっしゃられましても・・・・その・・・とても立派な方でいらっしゃいます」
「そうですね。それから?」
「えっ・・・その、お優しい方だと思います」
「そうですね。老若男女問わず優しく接する方ですよね」
「はい。それに、国の行く先を真っ直ぐに見られていて、どのようにすれば民が幸せになるのかを常に考えていらっしゃる素晴らしい方だと思います」
「そうですね、立派な国王陛下だと思います。私もあの方の下で宰相としてお仕えしていることを大変誇りに思っております」
ここ数日供に過ごして接することで、アークレイの公人としても私人としても立派な方だと感じたことを、シルフィアは素直に話す。
シメオンもそれにうんうんと頷いていたのだが。
「ですが殿下、私がお聞きしたいのはそういうことではございませんよ?」
「え?」
「陛下のこと、お好きですか?」
「え?・・・それは、どういう・・・・・・?」
「はい。殿下にとって陛下は生涯の伴侶になられる方でございますよね?そのような意味で、陛下のことを好きですか?とお尋ねしております」
「伴侶・・・いえ、ですがそれは・・・・・」
「ええ、戸籍上はご兄弟となりますが、貴方様は正妃となられますよね?」
「それはそうですが・・・申し訳ございません。シメオン様のおっしゃる意味がわかりかねます」
不思議そうな顔で首を傾げるシルフィアは、どうやら本当によくわかっていないようだ。
「では端的に申し上げましょう。陛下のことを愛していらっしゃいますか?」
「あ・・・い・・・?」
かあっとシルフィアの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。
「そ、そのような!とんでもない!」
ぶんぶんっと勢い良く首を振るシルフィア。
「何故ですか?」
「何故って・・・私は男ですし・・・・・・」
「先ほど私の一世一代の告白を聞いていただきましたよね?殿下はおしゃっていましたよ?『人を愛する気持ちに同性も異性も関係ないと思います』と」
シメオンににっこり笑顔で返されて、シルフィアはうっと詰まってしまう。
先ほどとまるで立場が逆転してしまった。
「陛下はあの通りのお方ですから、私どものことは理解してくださっています。ですが、陛下ご自身が同性を好きになるなど、今までの陛下からは想像もできません」
「そうです。第一、陛下には・・・・・・」
シルフィアは言葉を止めて、視線を下に落としまった。
止めたシルフィアの言葉の後をシメオンが繋ぐ。
「陛下にはお妃様とお子様がいらっしゃる?」
シルフィアは困った表情でゆっくりと頷いた。
「重々わかっております。私がこの国でどのような立場なのかということは」
東屋でがっくりと肩を落とし、ウォーレンに宥められているアークレイへ視線を移す。
「陛下はご家族をとても大切に思われております。お妃様のこともお子様のこともとても愛していらっしゃる。先日はセレナ様とジェレス王子にもご紹介いただきました。陛下も本当に幸せそうで、側で見ていてとてもそれがよくわかります。だからこそ私が『正妃』として招かれたのですから」
「・・・・・・・・」
「それなのに、男である私を陛下は気にかけてくださって・・・・・・とてもお優しい方だと思います」
「殿下・・・・・・」
「陛下があのように優しい方でなければよかったのに・・・・・・」
シルフィアはふっと瞳を伏せ、どこか寂しそうに自嘲気味に微笑んだ。
「先ほどシメオン様がお尋ねになられたことですが」
「はい」
「その・・・このような答えで良いのかわかりませんが、私はまだよく自分の気持ちをわかりかねているのです・・・今まで誰かを好きになったことはございませんし、この気持ちがそうなのかそうでないのかもわかりません」
「殿下・・・・・・」
「陛下に対するこの想いが、敬慕からの想いなのか、それとも別の感情から来るものなのか、自分でも整理できていないのです・・・これは私の勝手な思いですので、陛下にはご迷惑なだけでしょうから」
「そんな!迷惑だなんて!」
「私は男なのですから。正妃として、お2人の王子を立派にお育てすることが何よりも大事な使命。この国の為、陛下の為に私が少しでもお役に立てれば良いのです。その為には陛下に無用なご負担をおかけするべきではございません」
「負担など・・・・・・」
白金の髪がふわりと風に揺れ、シルフィアはそれを細い指で押さえ、ゆっくりと首を振った。
「良いのです。陛下をお名前で呼ばせていただける・・・・・それだけで私にはもう十分なのですから・・・・・」
シルフィアは戸惑いの表情を浮べたシメオンににっこり微笑んだ。
「シメオン様」
「は、はい」
「このことは、私とシメオン様だけの秘密ということにしていただけませんでしょうか?」
「殿下・・・・・・」
シメオンはシルフィアの胸の内を思って、唇をかみしめた。
どうやら決意は固いようだ。
「わかりました」
「・・・・・・ありがとうございます、シメオン様」
シルフィアの為に何もしてやれない自分の無力さが腹立たしい。
しかし実際・・・・・・何も出来ないのだ。
人の感情は他人の力で易々と変わるものではない。
それでも、それでも・・・もし、陛下がシルフィアのことを愛してくれたら・・・
そう切に願うシメオンだった。
「おーい、話は終わったか?」
その時、重苦しい雰囲気をぶち壊すように明るい声がその場に飛び込んできた。
声の正体は見なくてもわかる。
シメオンはこめかみを指で押さえ、は~・・・とため息をつく。
「なんだなんだ、重苦しい雰囲気だな」
「ウォーレン!誰のせいだと思っているのですか!」
東屋のほうからアークレイとウォーレンがやって来た。
一方は表情も硬く、重い足取りで。
もう一方は胡散臭い笑顔を浮かべ、軽い足取りで。
「誰のせいって、誰のせいだ?」
「貴方のせいに決まっているでしょう!」
「あー、もう良い。シメオン、こいつから事情は聞いた」
呆れたようにため息をついたアークレイが、ヒラヒラと右手を振った。
「は、は!陛下にもご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございません!」
先ほどシルフィアにやったの同じように、勢い良く腰を直角に曲げて頭を深々と下げた。
「俺は構わん。おまえも被害者だしな。元凶はこいつなのだから、おまえが気にする必要はない」
「元凶って言い方酷くないか?」
「元凶だろうが・・・ああ、シルフィアもこいつが迷惑をかけたな」
いきなり視線を向けられ、シルフィアははっとなって身体を強張らせた。
「い、いえ・・・・・・」
「ふざけた男だが悪気はないのだ。許してやってくれ」
シルフィアがぎこちなく頷くと、アークレイは安堵したように表情を緩めた。
「ま、俺のシメオンへの愛ゆえだと思っていただけませんか、シルフィア殿」
「はあ!?」
シメオンの肩に腕を回してにやっと笑ったウォーレンに、シメオンは顔を真っ赤にさせて睨みあげた。
「何をふざけたことを言っているのですか!離れてください!!」
「シメオンもこんなことを言っていますが、本当は照れているだけなので。俺のこと愛しているのに、素直に言えないだけなのですよ」
「ちょっ!何言ってるんですか!殿下に変なことを言わないでください!殿下、このような戯言は聞かないでください!」
慌ててウォーレンの腕から逃れようともがくシメオンの耳に、くすくすと鈴のように軽やかな笑い声が飛び込んできた。
「で、殿下!」
シルフィアは口元に手をあてて肩で笑っていた。
「お二人とも、お互いのことを大層愛されていらっしゃるのですね」
「でっ!!」
「おー、さすがシルフィア殿。よくわかってらっしゃる」
「ウォーレン!!」
「おまえたち、いい加減にしろ。じゃれ合うのは他でやってくれ。俺が本題に入れないじゃないか」
「へ、陛下!」
呆れたように肩を竦めたアークレイにぎょっと目を剥き、今度こそシメオンはウォーレンの腕から逃れ、また腰を直角に曲げて頭を下げた。
「も、も、申し訳ございません!!」
「・・・おまえも苦労するな。まあいい。俺の話というのは・・・シルフィア」
「はい」
シルフィアはアークレイを見上げ、次の言葉を待つように少し首をかしげた。
「明日の午後だが、時間をいただけないだろうか?」
「陛下!もしやまた外出をなさるおつもですか!明日の午後は!」
「あー・・・わかっている」
先ほどまでの動揺した表情とは打って変わって、シメオンの顔がきつくなり、『宰相』の表情へと変わっていた。
「明日の午後、俺は騎士団の演習を見学することになっているのだ」
「騎士団の演習、でございますか?」
「ああ。第2騎士団と、ウォーレンが所属する第3騎士団の合同演習だ。騎馬術、競馬、弓術、それと剣術で日頃の鍛錬の成果を競い合う演習でな。半年に1度行われているんだ」
『剣術』と聞いて、シルフィアの表情が一瞬強張った。
「ああ、大丈夫ですよ。剣といっても真剣ではありません。木製の剣を使います」
「木製の?」
ウォーレンが横から言った言葉に、今度はホッと安堵の表情を浮かべる。
「ええ。よろしければ、その演習にアークレイと見学に来られませんか?」
「私がですか?」
「はい。殿下はオルセレイドの国政にご興味をお持ちだとか?それであれば、我が国の国防を担う騎士団が日々どのような鍛錬をしているかを見れますしね」
ウォーレンの言葉に一瞬目を見開いて、シルフィアは何かを考えるかのようにすっと目を伏せた。
長い白金の睫の下に隠された碧玉の瞳は、逡巡するかのように揺れ動いている。
「演習と言ってもアークレイも来るので御前試合のようなものです。騎士たちもアークレイに良いところを見せようと張り切るでしょうし、何より殿下がいらっしゃれば皆の励みにもなります」
「私が励み、ですか?」
ふうっとアークレイを見上げたシルフィアには戸惑いの表情が浮かんでいた。
「ええ」
ウォーレンはにっこり笑い、大きく頷いた。
「・・・私が行ってもよろしいのでしょうか?」
「もちろん構いませんよ。なあ、アークレイ」
ウォーレンの視線を受け、アークレイもゆっくりと頷いた。
「無理にとは言わない。しかし、ウォーレンが言うとおり、我が国の騎士団のことを知る良い機会になるだろう」
「は・・・・い」
「シメオンも良いな?」
三人の遣り取りを呆然と見ていたシメオンだったが、アークレイの視線を受けてはっと我に返る。
「は・・・殿下がお望みであれば。事務的な手続きや護衛の手配などが必要となりますが、おそらく問題はないかと思われます」
「だそうだ。シメオンが言うなら問題ないだろう。許しも得たし、一緒に行かないか?貴方が来られれば騎士の皆にも良い刺激になるだろう」
アークレイを見上げたシルフィアは、まだ少し戸惑いながらも、だがはっきりと頷いた。
「・・・それでは、あの、ご一緒させていただきます。よろしくお願いいたします」
「ああ。気負わず、楽しんでくれれば良い」
「はい・・・・・・ありがとうございます」
シルフィアの肩に手を置いて柔らかな笑みを浮かべたアークレイにつられるように、シルフィアの表情にも小さな笑みがふわっと浮かんだ。
温かな雰囲気を醸し出す二人を見て、ウォーレンは安心して安堵の笑みを浮かべた。
どうやら心配する必要はなさそうだ。
ま、温かく見守ってやろう。
自分の気持ちも、相手の気持ちもいまだわかっていない二人だが、互いを大切に想っている気持ちに嘘偽りはなさそうだ。
アークレイが2人の妃を大切にし、愛しているのは間違いではない。
しかし、ウォーレンが見る限り、それは『家族愛』のようなものだ。
弟のような旧友の、本当の意味での『恋愛』が無事に成就するようにと、ウォーレンは心の中で「頑張れよ」と呟いた。
「え!?私がですか?」
「はい。そのように一途に想える方がいらっしゃるシメオン様が羨ましいです」
「何をおっしゃいますか。私を羨むなど・・・殿下はそのような方はおられなかったのですか?」
話題を変えたシメオンの問いかけに、シルフィアは僅かに目を伏せた。
「そうですね。特には・・・・・・」
確かに、王族ともなれば恋愛など望むことは難しいだろう。
女性側も自分よりも綺麗で美しいシルフィアの横に並びたいとは思わないだろうし。
絶対聖域のように無垢なシルフィアに、男女共に手出しをしようとする勇気ある者も居なかったのだろう。
恋愛に関してはかなり疎そうだ。
だとすると、シルフィアはアークレイのことをどう思っているのだろうか。
好きになるのに同性も異性も関係ないとシルフィアは言っていたが。
アークレイほどの魅力ある男性に対し、シルフィアは何も思っていないのだろうか。
高貴な雰囲気、端正で整った容貌、長身でスラリと手足が長い均整のとれた体つき。
ウォーレンのように決して軽薄ではなく、真面目で、優しく思いやりがあり、懐が広く、堂々とした言動に誰もが心奪われる。
嫁いできた2人の姫がアークレイに会ったその瞬間、一目惚れをしたと言われているほど人を惹き付ける男性なのだから。
「殿下は陛下のことをどのように思われていらっしゃるのですか?」
「陛下のこと・・・ですか?」
思わぬ問いに、シルフィアは大きな目を更に大きくしてシメオンを見る。
僅かに動揺が走ったように見えた。
「はい」
「どのようにとおっしゃられましても・・・・その・・・とても立派な方でいらっしゃいます」
「そうですね。それから?」
「えっ・・・その、お優しい方だと思います」
「そうですね。老若男女問わず優しく接する方ですよね」
「はい。それに、国の行く先を真っ直ぐに見られていて、どのようにすれば民が幸せになるのかを常に考えていらっしゃる素晴らしい方だと思います」
「そうですね、立派な国王陛下だと思います。私もあの方の下で宰相としてお仕えしていることを大変誇りに思っております」
ここ数日供に過ごして接することで、アークレイの公人としても私人としても立派な方だと感じたことを、シルフィアは素直に話す。
シメオンもそれにうんうんと頷いていたのだが。
「ですが殿下、私がお聞きしたいのはそういうことではございませんよ?」
「え?」
「陛下のこと、お好きですか?」
「え?・・・それは、どういう・・・・・・?」
「はい。殿下にとって陛下は生涯の伴侶になられる方でございますよね?そのような意味で、陛下のことを好きですか?とお尋ねしております」
「伴侶・・・いえ、ですがそれは・・・・・」
「ええ、戸籍上はご兄弟となりますが、貴方様は正妃となられますよね?」
「それはそうですが・・・申し訳ございません。シメオン様のおっしゃる意味がわかりかねます」
不思議そうな顔で首を傾げるシルフィアは、どうやら本当によくわかっていないようだ。
「では端的に申し上げましょう。陛下のことを愛していらっしゃいますか?」
「あ・・・い・・・?」
かあっとシルフィアの顔が一瞬にして真っ赤に染まった。
「そ、そのような!とんでもない!」
ぶんぶんっと勢い良く首を振るシルフィア。
「何故ですか?」
「何故って・・・私は男ですし・・・・・・」
「先ほど私の一世一代の告白を聞いていただきましたよね?殿下はおしゃっていましたよ?『人を愛する気持ちに同性も異性も関係ないと思います』と」
シメオンににっこり笑顔で返されて、シルフィアはうっと詰まってしまう。
先ほどとまるで立場が逆転してしまった。
「陛下はあの通りのお方ですから、私どものことは理解してくださっています。ですが、陛下ご自身が同性を好きになるなど、今までの陛下からは想像もできません」
「そうです。第一、陛下には・・・・・・」
シルフィアは言葉を止めて、視線を下に落としまった。
止めたシルフィアの言葉の後をシメオンが繋ぐ。
「陛下にはお妃様とお子様がいらっしゃる?」
シルフィアは困った表情でゆっくりと頷いた。
「重々わかっております。私がこの国でどのような立場なのかということは」
東屋でがっくりと肩を落とし、ウォーレンに宥められているアークレイへ視線を移す。
「陛下はご家族をとても大切に思われております。お妃様のこともお子様のこともとても愛していらっしゃる。先日はセレナ様とジェレス王子にもご紹介いただきました。陛下も本当に幸せそうで、側で見ていてとてもそれがよくわかります。だからこそ私が『正妃』として招かれたのですから」
「・・・・・・・・」
「それなのに、男である私を陛下は気にかけてくださって・・・・・・とてもお優しい方だと思います」
「殿下・・・・・・」
「陛下があのように優しい方でなければよかったのに・・・・・・」
シルフィアはふっと瞳を伏せ、どこか寂しそうに自嘲気味に微笑んだ。
「先ほどシメオン様がお尋ねになられたことですが」
「はい」
「その・・・このような答えで良いのかわかりませんが、私はまだよく自分の気持ちをわかりかねているのです・・・今まで誰かを好きになったことはございませんし、この気持ちがそうなのかそうでないのかもわかりません」
「殿下・・・・・・」
「陛下に対するこの想いが、敬慕からの想いなのか、それとも別の感情から来るものなのか、自分でも整理できていないのです・・・これは私の勝手な思いですので、陛下にはご迷惑なだけでしょうから」
「そんな!迷惑だなんて!」
「私は男なのですから。正妃として、お2人の王子を立派にお育てすることが何よりも大事な使命。この国の為、陛下の為に私が少しでもお役に立てれば良いのです。その為には陛下に無用なご負担をおかけするべきではございません」
「負担など・・・・・・」
白金の髪がふわりと風に揺れ、シルフィアはそれを細い指で押さえ、ゆっくりと首を振った。
「良いのです。陛下をお名前で呼ばせていただける・・・・・それだけで私にはもう十分なのですから・・・・・」
シルフィアは戸惑いの表情を浮べたシメオンににっこり微笑んだ。
「シメオン様」
「は、はい」
「このことは、私とシメオン様だけの秘密ということにしていただけませんでしょうか?」
「殿下・・・・・・」
シメオンはシルフィアの胸の内を思って、唇をかみしめた。
どうやら決意は固いようだ。
「わかりました」
「・・・・・・ありがとうございます、シメオン様」
シルフィアの為に何もしてやれない自分の無力さが腹立たしい。
しかし実際・・・・・・何も出来ないのだ。
人の感情は他人の力で易々と変わるものではない。
それでも、それでも・・・もし、陛下がシルフィアのことを愛してくれたら・・・
そう切に願うシメオンだった。
「おーい、話は終わったか?」
その時、重苦しい雰囲気をぶち壊すように明るい声がその場に飛び込んできた。
声の正体は見なくてもわかる。
シメオンはこめかみを指で押さえ、は~・・・とため息をつく。
「なんだなんだ、重苦しい雰囲気だな」
「ウォーレン!誰のせいだと思っているのですか!」
東屋のほうからアークレイとウォーレンがやって来た。
一方は表情も硬く、重い足取りで。
もう一方は胡散臭い笑顔を浮かべ、軽い足取りで。
「誰のせいって、誰のせいだ?」
「貴方のせいに決まっているでしょう!」
「あー、もう良い。シメオン、こいつから事情は聞いた」
呆れたようにため息をついたアークレイが、ヒラヒラと右手を振った。
「は、は!陛下にもご迷惑をおかけいたしまして、大変申し訳ございません!」
先ほどシルフィアにやったの同じように、勢い良く腰を直角に曲げて頭を深々と下げた。
「俺は構わん。おまえも被害者だしな。元凶はこいつなのだから、おまえが気にする必要はない」
「元凶って言い方酷くないか?」
「元凶だろうが・・・ああ、シルフィアもこいつが迷惑をかけたな」
いきなり視線を向けられ、シルフィアははっとなって身体を強張らせた。
「い、いえ・・・・・・」
「ふざけた男だが悪気はないのだ。許してやってくれ」
シルフィアがぎこちなく頷くと、アークレイは安堵したように表情を緩めた。
「ま、俺のシメオンへの愛ゆえだと思っていただけませんか、シルフィア殿」
「はあ!?」
シメオンの肩に腕を回してにやっと笑ったウォーレンに、シメオンは顔を真っ赤にさせて睨みあげた。
「何をふざけたことを言っているのですか!離れてください!!」
「シメオンもこんなことを言っていますが、本当は照れているだけなので。俺のこと愛しているのに、素直に言えないだけなのですよ」
「ちょっ!何言ってるんですか!殿下に変なことを言わないでください!殿下、このような戯言は聞かないでください!」
慌ててウォーレンの腕から逃れようともがくシメオンの耳に、くすくすと鈴のように軽やかな笑い声が飛び込んできた。
「で、殿下!」
シルフィアは口元に手をあてて肩で笑っていた。
「お二人とも、お互いのことを大層愛されていらっしゃるのですね」
「でっ!!」
「おー、さすがシルフィア殿。よくわかってらっしゃる」
「ウォーレン!!」
「おまえたち、いい加減にしろ。じゃれ合うのは他でやってくれ。俺が本題に入れないじゃないか」
「へ、陛下!」
呆れたように肩を竦めたアークレイにぎょっと目を剥き、今度こそシメオンはウォーレンの腕から逃れ、また腰を直角に曲げて頭を下げた。
「も、も、申し訳ございません!!」
「・・・おまえも苦労するな。まあいい。俺の話というのは・・・シルフィア」
「はい」
シルフィアはアークレイを見上げ、次の言葉を待つように少し首をかしげた。
「明日の午後だが、時間をいただけないだろうか?」
「陛下!もしやまた外出をなさるおつもですか!明日の午後は!」
「あー・・・わかっている」
先ほどまでの動揺した表情とは打って変わって、シメオンの顔がきつくなり、『宰相』の表情へと変わっていた。
「明日の午後、俺は騎士団の演習を見学することになっているのだ」
「騎士団の演習、でございますか?」
「ああ。第2騎士団と、ウォーレンが所属する第3騎士団の合同演習だ。騎馬術、競馬、弓術、それと剣術で日頃の鍛錬の成果を競い合う演習でな。半年に1度行われているんだ」
『剣術』と聞いて、シルフィアの表情が一瞬強張った。
「ああ、大丈夫ですよ。剣といっても真剣ではありません。木製の剣を使います」
「木製の?」
ウォーレンが横から言った言葉に、今度はホッと安堵の表情を浮かべる。
「ええ。よろしければ、その演習にアークレイと見学に来られませんか?」
「私がですか?」
「はい。殿下はオルセレイドの国政にご興味をお持ちだとか?それであれば、我が国の国防を担う騎士団が日々どのような鍛錬をしているかを見れますしね」
ウォーレンの言葉に一瞬目を見開いて、シルフィアは何かを考えるかのようにすっと目を伏せた。
長い白金の睫の下に隠された碧玉の瞳は、逡巡するかのように揺れ動いている。
「演習と言ってもアークレイも来るので御前試合のようなものです。騎士たちもアークレイに良いところを見せようと張り切るでしょうし、何より殿下がいらっしゃれば皆の励みにもなります」
「私が励み、ですか?」
ふうっとアークレイを見上げたシルフィアには戸惑いの表情が浮かんでいた。
「ええ」
ウォーレンはにっこり笑い、大きく頷いた。
「・・・私が行ってもよろしいのでしょうか?」
「もちろん構いませんよ。なあ、アークレイ」
ウォーレンの視線を受け、アークレイもゆっくりと頷いた。
「無理にとは言わない。しかし、ウォーレンが言うとおり、我が国の騎士団のことを知る良い機会になるだろう」
「は・・・・い」
「シメオンも良いな?」
三人の遣り取りを呆然と見ていたシメオンだったが、アークレイの視線を受けてはっと我に返る。
「は・・・殿下がお望みであれば。事務的な手続きや護衛の手配などが必要となりますが、おそらく問題はないかと思われます」
「だそうだ。シメオンが言うなら問題ないだろう。許しも得たし、一緒に行かないか?貴方が来られれば騎士の皆にも良い刺激になるだろう」
アークレイを見上げたシルフィアは、まだ少し戸惑いながらも、だがはっきりと頷いた。
「・・・それでは、あの、ご一緒させていただきます。よろしくお願いいたします」
「ああ。気負わず、楽しんでくれれば良い」
「はい・・・・・・ありがとうございます」
シルフィアの肩に手を置いて柔らかな笑みを浮かべたアークレイにつられるように、シルフィアの表情にも小さな笑みがふわっと浮かんだ。
温かな雰囲気を醸し出す二人を見て、ウォーレンは安心して安堵の笑みを浮かべた。
どうやら心配する必要はなさそうだ。
ま、温かく見守ってやろう。
自分の気持ちも、相手の気持ちもいまだわかっていない二人だが、互いを大切に想っている気持ちに嘘偽りはなさそうだ。
アークレイが2人の妃を大切にし、愛しているのは間違いではない。
しかし、ウォーレンが見る限り、それは『家族愛』のようなものだ。
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