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第2章 愛しき人

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ベルベラに移り住んでから数ヶ月が経った。 もうすぐ春がくる。 観光シーズンが来るのだ!

ちなみにこの世界、技術的な発展が所々みられるが文明的な発展はあまりなく、少しちぐはぐな印象を受ける。 そんな理由から冬場の観光開発は進んでいない。 昔ながらに冬は冬籠りの時期となる。

今いる屋敷は公爵家の別荘の一つで、屋敷には管理する通いの老夫婦が週3日で来るぐらいだ。 つまり、普段は私とテオの二人だけである。 前世庶民の記憶が戻ってるから身の廻りの事も料理もできるし、テオは当然ながら一通りできるから他の執事やメイド達はいなくても問題なかった。

想定外だったのがテオが完全に保護者に徹していて療養地での新しい恋を探しに!とか許してくれない。 どこに行くにも保護者同伴で全然恋にありつけないのよー!!

しかも! セバスが週1日で様子見にくる。 ここから王都まで飛空艇で3日かかりますけど!! どうやって行き来してるわけ!?

これは一つ打開策を考えないと。
庭で風魔法を発動して薪を乾燥させてるテオに話しかける。


「テオ。 今日から私はお嬢様じゃないわ。」
「なにアホな事を言ってるんですか。」
「失礼ね。 大まじめよ。」
「なお悪いです。」

むぅっと膨れる私を気にもせず薪を乾燥させている。
確かに薪も大事だけど私の話しも聞いて。

「本気で言ってるのよ。 今日から私はリーゼよ。」
「リーゼ?」
「そう! リゼリアだからリーゼ!」
「意味が分かりません。」

やめてー! 手を止めて熱を計ろうと額に手を置かないでー! もう! ぺしっとテオの手を叩き落としたら深いため息をつかれた。

「それで、リーゼは何がしたいのですか?」
「!! リーゼと呼んでくれるの!?」
「呼ぶまで言い続けますよね?」
「もちろんよ!」
「……」


無言で作業に戻っていく。 あれ? ねぇ、テオ聞いてー。
仕事があるからと部屋に追いやられる。
おかしい、私お嬢様なのに。


仕方がないから暖炉の前でのんびり考える事にする。


私と王子様の関係は終わったのだ。 だから次の恋を見つけたい。 バカンスでの恋とか! 旅先での燃え上がる恋とか素敵だと思うの! 

政略結婚はしなくて良いと父から了承をもらっているから甘々な恋愛をしてみたい。 だけど! 保護者がいる。

少しだけ離れて欲しいと言っても、お嬢様から離れる事は出来ませんと村や町に出る時は必ずテオがついてくる。  手を繋がれてお店でのやり取りも全部テオを介してるし、年齢間違われてるかな。 もう幼児後退してないんだけどな。 過保護過ぎるでしょ。

ついでに髪型や服装、アクセサリー類も含めて全てテオのコーディネートだ。 ここに来てから必要ないと思い適当にしてたら怒られてしまった。 テオは着飾るのが好きみたいだから任せている。 私も楽だし。


王都を離れてから言動がどうにも前世の性格に引きづられている気がする。 前世の私は普通に大学を出て社会人になった25歳OLだった。 働いて分かる。 

高い学費払って大学行ったのに、大学の勉強なんて会社で役に立たない。 少し捻くれつつ足りない知識や経験を外部のセミナーや勉強会で必死に吸収してた。 メンタルケアやコントロールもその一環。 アンガーマネジメントは役に立ったと思う。

なんで死んだかは分からないけど25歳までの記憶しかないから、たぶんそこまでしか生きてない。 奨学金と言う名の借金が残ってたけど返せなくてごめんとだけ言っておく。

隙間の時間を使って簡単にクリアできる乙女ゲームの設定にツッコミを入れ楽しんでいた。 もちろん疑似恋愛も楽しむけど。 このゲームもそうだ。 元はパソコン用のゲームらしいけど私が遊んだのはポータブル機に移植された簡単な方。

唯一攻略したキャラは騎士団第三旅団の副団長オージス様28歳だ。 このゲームでは最年長の攻略キャラで兄と同様におまけ的な人だけどトラウマ云々なく平和に恋愛ができる唯一のキャラだ。 大人の包容力が魅力である。 リアルにいないけど……って! 今がリアルじゃないの!!


「あぁあああ! なんってことですの!!」
「……なに叫んでるんですか? 仮にもお嬢様なんです。 叫ばないで下さい。」
「仮じゃなくてもお嬢様よ!」

テオが薪乾燥から戻ってきたようだ。
呆れつつお茶の準備をしている。 

「はいはい、それでどうしたのですか?」
「学園に入学しなかったからオージス様と出会えませんわ!」
「は?」
「第三旅団のオージス様ですわ!」
「それは存じておりますが…」

私は、なにを言い出すのだと少し眉間にシワが寄って若干声が低くなったテオに気がつかなかった。

「学園に入学したら特別授業の講師として出会えましたのに。 私とした事が迂闊でしたわ!」
「…お嬢様はオージス様が好みなのですか?」
「かっこいいですわ! しっかり作られた身体に爽やかな笑顔! 包み込むような包容力が大人の男って感じで素敵でしょ!」
「へーなるほど?」

ん? なんか若干気温が下がった?
暖炉ついてるよね?

「…お嬢様。」
「なにかしら?」

くるっとテオをお振り向いてピシリと止まる。
あ…なんかまずった…

「お嬢様はオージス様の身体を  ご覧になったのでしょうか?」

満面の笑顔のテオ般若がそこにいた。

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