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今の私と過去の私
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国の最南端に築かれた国境を守る城塞都市メリディエース。
メイン通りから数本外れた道にある極々一般的な特徴が普通と言ったらしっくりくるような宿屋が一軒。
その至って平凡な宿屋にマルガは居た。
まだ若さを感じさせる老夫婦が経営するその宿は基本的に宿泊客に朝食だけを提供するシンプルでいてリーズナブルな宿屋として可もなく不可もない、旅慣れた者にとっては丁度いい塩梅なのかそこそこ客入りがある。
そんな普通な宿屋に、平凡な娘であるマルガは何の違和感もなくぴったり収まり、元々そこで働いていたと思わせるほど自然に仕事をしていた。
右も左も分からない土地であるメリディエースにマルガがやって来て既に二カ月が経っている。
五日もの馬車での道中もあっという間に過ぎ、メリディエースで生活していけるのかという不安を少し抱えながら城門を通り、同じ馬車だった商人から教えて貰った宿屋に向かったマルガはそこで目にした求人の紙に一瞬で飛びついた。
どんな宿屋かも分からずに軽率に雇用を求めてしまったマルガだが、明るくお喋りが大好きな女将さんと偏屈で無口な旦那さんという補い合う様な夫婦は誠実な人柄だった。
前職の酒場と同じ住込みだが給金はそこまで多くはない。そもそも王都である城下での仕事と一緒にすること自体間違っている。だが一人で生きていくには十分なお金は貰えていて、マルガはそれで満足していた。
それどころかメリディエースは自分にとって幸運を招く土地なのではと思い始めている。
メリディエースに向かう道中からして、若い娘なら憧れる王都騎士の護衛、馬車移動での同乗者は皆親切で気持ちの良い人ばかりだった。
目的のメリディエースでは到着したその日に仕事と住む場所を見つけられ仕事内容もそこまで多くなく、どちらかと言えばずっと働き通しだった女将さんに楽をさせる為の求人という意味合いが強い。
この二カ月間、メリディエースでマルガは憧れそのままの優しく穏やかな新しい生活を謳歌していた。過ちを犯した自身の罪には厳重な蓋をして。
しかしそんなマルガの下に報いはやってきた。
それは普段と変わりない日。そこそこなお客さんを見送り、使用した客室の清掃や雑用を午前中に終わらせ、女将さんに買い出しは必要か尋ねにロビーにあるフロントに顔を出した時だった。
メリディエースの辺りでは一般的な少し匂いに癖のあるお茶を女将さんがいつものように飲んでいた。そのすっかり嗅ぎ慣れたはずの香りを認識した瞬間、マルガは突然襲ってきた嘔吐感に慌てて口を押えると手洗い場に駆け込んだ。
「マルガ!?」
心配で上げた女将さんの声に応える余裕もなくマルガは抗えない衝動のままにひたすら胃の中をカラにする為、勝手に溢れる涙もそのままに排水溝に向かい続ける。
強い衝動がある程度収まり幾分か楽になってきた頃、マルガは自身の背が優しく労わる様に撫でられている事に漸く気付く。
慌てて振り返ったマルガの目に映ったのは辺り一面酷い臭気が漂う中、包み込むような温かい色を瞳に浮かべた女将さんだった。
マルガはその瞳を見た瞬間、絶望した。何故、女将さんがそんな目をしているのかは分からない。自分が何の病気なのかも、まだ分からない。
ただ女将さんは全て分かっている、とマルガの本能が理解した。
メイン通りから数本外れた道にある極々一般的な特徴が普通と言ったらしっくりくるような宿屋が一軒。
その至って平凡な宿屋にマルガは居た。
まだ若さを感じさせる老夫婦が経営するその宿は基本的に宿泊客に朝食だけを提供するシンプルでいてリーズナブルな宿屋として可もなく不可もない、旅慣れた者にとっては丁度いい塩梅なのかそこそこ客入りがある。
そんな普通な宿屋に、平凡な娘であるマルガは何の違和感もなくぴったり収まり、元々そこで働いていたと思わせるほど自然に仕事をしていた。
右も左も分からない土地であるメリディエースにマルガがやって来て既に二カ月が経っている。
五日もの馬車での道中もあっという間に過ぎ、メリディエースで生活していけるのかという不安を少し抱えながら城門を通り、同じ馬車だった商人から教えて貰った宿屋に向かったマルガはそこで目にした求人の紙に一瞬で飛びついた。
どんな宿屋かも分からずに軽率に雇用を求めてしまったマルガだが、明るくお喋りが大好きな女将さんと偏屈で無口な旦那さんという補い合う様な夫婦は誠実な人柄だった。
前職の酒場と同じ住込みだが給金はそこまで多くはない。そもそも王都である城下での仕事と一緒にすること自体間違っている。だが一人で生きていくには十分なお金は貰えていて、マルガはそれで満足していた。
それどころかメリディエースは自分にとって幸運を招く土地なのではと思い始めている。
メリディエースに向かう道中からして、若い娘なら憧れる王都騎士の護衛、馬車移動での同乗者は皆親切で気持ちの良い人ばかりだった。
目的のメリディエースでは到着したその日に仕事と住む場所を見つけられ仕事内容もそこまで多くなく、どちらかと言えばずっと働き通しだった女将さんに楽をさせる為の求人という意味合いが強い。
この二カ月間、メリディエースでマルガは憧れそのままの優しく穏やかな新しい生活を謳歌していた。過ちを犯した自身の罪には厳重な蓋をして。
しかしそんなマルガの下に報いはやってきた。
それは普段と変わりない日。そこそこなお客さんを見送り、使用した客室の清掃や雑用を午前中に終わらせ、女将さんに買い出しは必要か尋ねにロビーにあるフロントに顔を出した時だった。
メリディエースの辺りでは一般的な少し匂いに癖のあるお茶を女将さんがいつものように飲んでいた。そのすっかり嗅ぎ慣れたはずの香りを認識した瞬間、マルガは突然襲ってきた嘔吐感に慌てて口を押えると手洗い場に駆け込んだ。
「マルガ!?」
心配で上げた女将さんの声に応える余裕もなくマルガは抗えない衝動のままにひたすら胃の中をカラにする為、勝手に溢れる涙もそのままに排水溝に向かい続ける。
強い衝動がある程度収まり幾分か楽になってきた頃、マルガは自身の背が優しく労わる様に撫でられている事に漸く気付く。
慌てて振り返ったマルガの目に映ったのは辺り一面酷い臭気が漂う中、包み込むような温かい色を瞳に浮かべた女将さんだった。
マルガはその瞳を見た瞬間、絶望した。何故、女将さんがそんな目をしているのかは分からない。自分が何の病気なのかも、まだ分からない。
ただ女将さんは全て分かっている、とマルガの本能が理解した。
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