光精霊に転生した俺は悪役令嬢推しでした!

ほんわか

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第129話 デグストータス

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「すっげーデカ! 見てモニカ、首がうねうねしてる!」

ヒカリは嬉しそうに、魔獣《デグストータス》を指差した。三本の首が不気味に動き、紫の瘴気をまき散らしている。黒い甲羅が朝日にギラリと輝き、見る者すべてに圧倒的な威圧感を与えていた。

「……って、あれ?」

隣を見たヒカリは、顔を青くした。

「モニカ……?」

モニカは座り込み、肩で息をしていた。顔は真っ青で、額に冷や汗が浮かんでいる。後ろにいた他の聖女たちも、同様に膝をついていた。
聖女たちの魔力は既に枯渇寸前で、身体を支えることすら困難なほどだった。

「あれ……魔力ほとんど残ってないんじゃ……」

「え? あっ……みんなも……」

ヒカリはようやく周囲の状況に気がついた。騎士団も、冒険者たちも、ほとんど全員が疲労困憊。さっきまでのスタンビートで、限界まで戦っていたのだ。
ヒカリは興奮して魔獣に気を取られていたことにようやく気付き、ヒカリは顔を曇らせた。

「まじかーなんか、ごめん……」

「てかこの状態であんな大型魔獣と戦うとか、無理じゃね……」
だが、魔獣はもうすぐそこまで迫っていた。

ヒカリは状況の危機感を悟り、両手を広げると魔法陣を展開した。そして全体に向けて魔力を放出する。
「《セイクリッド・サークル》!」

温かな光が野営地を包み込んだ。光は一人ひとりの身体に染み渡り、疲労を癒やし、体力を回復させていく。倒れかけていた騎士が立ち上がり、うずくまっていた冒険者が顔を上げた。

「次、《マジック・チャージ》っと」
今度は聖女たちの方に手をかざす。ふわりと光が舞い、モニカや聖女たちの身体に吸い込まれていく。

「ま、魔力が回復してる……!」
息を吹き返した聖女たちは、再び戦線への復帰を決意する。

「……来るぞ」
ヴォルグ団長が低く呟いた。雷の気配を纏い、彼の眼光がデグストータスを見据える。
そしてヴォルグは剣を抜いた。周囲の騎士たちも、重い空気を感じながら剣を構える。

「首が三つ、それぞれに異なる属性……右が氷、真ん中が火。そして左が……」

「瘴気が漂ってるな……毒か……」

ヴォルグは剣先を天に向けた。
「雷、轟け。《サンダーエッジ》!」

雷が剣に宿る。次の瞬間、騎士団と冒険者たちが一斉に動いた。

「突撃!!」
ヴォルグの号令で、戦線が一斉に魔獣に迫る。まずは右の首――氷属性に対応する者たちが攻撃を仕掛ける。

「火属性持ちの者、右首を狙え!」

冒険者の中から火魔法使いたちが魔法を放つ。

《ファイアボール》《フレアスピア》《インフェルノフレイム》

次々と炎が襲いかかるが――
「っ、効かない!? 真ん中の首が……受けてる!」

「やはり……属性ごとに、首が攻撃を受け持っているようだ」
ヴォルグが唸る。火は火に吸収され、氷は氷に防がれる。左の毒首は、瘴気をまき散らして地面を汚染していた。

右の首が大きく口を開いて冷気のブレスを吐き出した。

「避けろ!」
ヴォルグの号令で部隊が散開する。氷のブレスが地面を凍らせながら直線状に走り、数名の冒険者が間一髪でかわす。

「クソ……攻撃が激しいってほどじゃないが、あの甲羅……硬すぎる!」

ヒューイが剣で攻撃を仕掛けるが、甲羅には傷ひとつつかない。
「この……効かねぇ……」

それでも騎士団と冒険者たちは必死に攻撃を繰り返した。

「やはり頭を狙うしかないか……!」
騎士団と冒険者たちは戦いながら知恵を働かせた。

「火属性は左へと、水属性は正面後方へ! 残りは右へ回れ! 囲むぞ!」

ヴォルグの力強い指示が飛ぶと同時に、騎士団と冒険者たちはそれぞれの持ち場へと駆け出した。重い空気を切るようにして動くその姿に、決意が満ちている。

「いけっ! 一気に攻めろ!」

正面に回り込んだ水属性の魔法使いたちは、各々の魔力を込めて魔法陣を描いた。

「《ウォーターランス》!」

「《ウォータバレット》!」

水の槍や水弾が放たれるが、正面の火属性の首が咆哮と共に大きく口を開け、激しい熱波を吐き出す。

「ぐっ……耐性が……強すぎる!」

水属性魔法が火にかき消され、周囲に蒸気が立ち込めた。

その直後――。

「ブレス来るぞ! 下がれ!」

ヴォルグの叫びと同時に、左の毒の首が大きく振りかぶられ、次の瞬間、紫色の瘴気を辺り一面に吐き出した。

「くっ……毒のブレスかっ! 吸うな、息を止めろ!」

毒の霧が拡がる中、フロストが素早く前へと跳び出た。
「《アイスバリア》!」

氷の障壁が一気に形成され、毒のブレスと冒険者たちとの間に防壁を築いた。
「助かった……!」

「だが、あれを食らえばひとたまりもねぇな……!」

その場にいた冒険者たちが顔をしかめる。
「近づけばブレス、遠ければ耐性……めちゃくちゃだな、こいつ……!」

「攻めるしかねぇよ……少しでも足止めして!」
ヒューイが叫びながら槍を構える。仲間たちもそれに応じ、間合いを見極めながら攻撃のタイミングを伺う。

だが――

「魔力も心もとない……クソ!」

「まだ足りないのか……!」

焦燥が広がる中、それでも誰一人として攻撃を止めなかった。
「攻撃しつつ、魔力が少なくなったら離脱して、少しでも魔力を回復に専念しろ!」

ヴォルグの命令に、冒険者も騎士団も頷き、全体の連携が次第に緻密さを増していく。

しかし、事態は好転しない。

魔法は防がれ、近接はブレスで妨害され、物理攻撃も甲羅に弾かれる。

それでも彼らは諦めなかった。誰もが一歩でも引けば、その分仲間が危険になると知っているからだ。

「……くそ、ジリ貧だ……!」
ヴォルグの眉間には深い皺が刻まれていた。彼の目にも焦りが見えていた。

一方、デグストータスもまた、攻撃の手こそ緩めてはいなかったが、その巨大な身体からは苛立ちの気配が漂っていた。

三本の首が不規則に動き、何かを探るように周囲を見回す。

(何を探している……?)

ヴォルグの目が鋭くなる。

(いや、違う……この魔獣、何かを警戒している……)

騎士団長として幾多の戦いを経験してきた彼には、敵の微細な挙動も見逃せなかった。

そのときデグストータスの意識が目の前に居る人間に移った。
「しょせんは低レベルの、デカいだけの魔物か……」

右の首――氷属性の首が、まるで何かに気づいたかのように一瞬止まり、次の瞬間――。

「遅いわ《フレイムランス》!」

遠方から鋭い火の槍が放たれた。

「……!?」

氷の首が正面に振り返る間もなく、火槍が喉元に突き刺さり、そのまま爆発を起こす。

「《エクスプロージョンマジック》」
「灰になるがいい……」

ドォンッ!!!

爆音と共に、氷の首が爆裂し、砕け、燃え上がりながらそのまま灰へと変わった。

沈黙――。

次の瞬間、冒険者の一人が叫ぶ。
「誰じゃ素材を灰にした奴はーーッ!!」

「俺の氷の魔石が……報酬が飛んだぞ!」

「マジでふざけんな!……でも、ナイスだ!」
混乱しつつも、場が一瞬だけ和らぐ。
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