俺の日常が一変した

ネメシス

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俺の日常が一変した

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『1999年の7の月

天から恐怖の大王が降ってくる

アンゴルモアの大王をよみがえらせ

その前後マルスは幸福の名のもとに支配するだろう』



「……ばっからし」

そう言いつつ、俺は「閉じる」ボタンを押してそのサイトを閉じた。
そもそも俺は、占いだとか予言だとかそんなものあまり信じていない。
朝の番組でやってるような占いなんかは、暇つぶしに見ることもあるにはある。
だけど、その結果の良し悪しでテンションが急激に上昇下降することなんてない。
まぁ、その手の占いも、何らかの統計だとかを元にして作られているのかもしれないけど。
しかし仮に獅子座の運勢が最低で何をやってもうまくいかない一日だといわれたとして、じゃぁ世の中の獅子座全員がうまくいかないなんてことがあるのだろうか?
もちろんそんな可能性も0と言い切るつもりはないが、限りなく0に近い数値には違いないだろう。
結局は占いだろうとなんだろうと、目安の一つでしかない。
そんな曖昧なものにいちいちテンションが左右されるなんて、なんとばかばかしいことだろう。
もちろん、信じるという人を否定するつもりなんてないが……それでも、さっきまで俺が見ていたサイトにあった“ノストラダムスの大予言”、お前はダメだ。

ノストラダムスの大予言。

何やら地球の終焉だとか魔王復活だとか、大それたことが書かれているということから、世界的に知名度が上がり「世界三大予言」などと呼ばれるまでに至っているそうだ。
だがしかしだ、他の二つの予言にも言えることだが、ほんと一体何度改定されているのやら。
その予言が公開されて数年くらいは世界的に注目されていたようだが、もうここ数年での注目度は一部の限られた人達の間でしか流行ってないようなマイナー漫画よりも低い。
まぁ、そりゃそうだろ。
さっきのサイトにあった1999年7の月に恐怖の大王が降ってくるというのがあったが、その年に世界になんら変化はなく、どこでもいつも通りの生活が送られていた。
確かに一部の地域では、内乱だとかなんだとかで人死があったかもしれない。
しかしこう言ったら悪いが、そんなものと何ら関係のない、ただの情報でしか知ることがない生活を送っている俺達からしたら、それもいつも通りの生活に分類されるだろう。
そしてその予言が外れたことから、世界的に注目を浴びていたその予言は注目度を下げることとなった。
俺はその予言をすべて知っているわけではないが、仮にその予言の中のどれかが当たっていた、または似たようなことが起きていたとしても、今となってはそれは偶然の出来事としか誰も思わないだろう。
中にはその予言を作者であるノストラダムスが書いた、ポエムだとか言っている人もいるくらいだ。
何やら最近ではまた改訂されたようで、ノストラダムスの予言は実は13年ずれていたから外れたんだというらしく、恐怖の大王は1999年の13年後つまり2012年にやってくるということらしい……アホかと。
だったら今までの予言全ても13年ずれていることになるわけで、今まで偶然かどうかで当たっていたかもしれない出来事も間違いだったと認めてるだけじゃないか。
そして、13年ずれたことを計算しても当たっている予言がないという。

「……ま、所詮はその程度だろうさ」

結局のところ俺にはなんの関係もないと、パソコンの電源を切る。
夜も更け、眠気もピークに来ている。
部屋の電気を非常灯一つだけにした薄明かりの中、布団の中へダイブした。

「……あ、そういえば」

ふと先程のサイトで見た内容を思い出した。
確かその内容では、2012年12月22日に恐怖の大王がやってくるということだった。
2012年の12月22日……壁に掛けてあるカレンダーを見る。

「……明日じゃねぇか」

そう、今日は2012年12月21日。
奇しくも恐怖の大王がやってくる前日だったのだ。

「はぁ、次はいつ大王様がやってくることになるのやら」

俺は呆れ気味に溜息を吐き、目を閉じた。

(……あ、明日大学のレポートの提出日だっけ………ま、いいや)

眠りに落ちそうになったその瞬間、まだ書きかけのレポートを思い出した。
しかしもう終盤までは書き終えているし、明日の朝にでも残りは仕上げられるだろう。
明日寝過ごさないようにしないと、俺はそう思いながら眠りの中へと落ちていった。



2012年12月21日12時59分55秒



56秒



57秒



58秒



59秒



2012年12月22日00時00分00秒










『カチッ』










この時、世界は一変した。



◇◇◇◇◇



「……むぅ」

窓から射す太陽の光が、瞼の裏の眼球を刺激して俺の眠りを妨げる。
もう朝かと、まだ寝ていたいと思いつつも重たい目を擦りながら起き上がる。

「……ん?」

目を擦っている時に気付いた、左手首に感じた違和感。
俺はなんだろうと思い目を向ける。

「……時計?」

見てみると、俺の左手首には白い帯状の物がついていた。
その一か所に時間を示す箇所があり、そのことから時計だろうとはわかる。
わかるがしかしだ、昨日俺は腕時計をしたまま寝ただろうか?
よく考えるまでもなく俺はそんなことはしない。
そもそも俺は腕時計なんて、携帯をまだ持っていなかった高校生までしか付けていなかった。
大学に入りこれを機にと親に買ってもらってからは、時間を確認する時もそれに頼りきりになっている。
そんな俺が持っているはずもない腕時計をつけていること自体がおかしい。

「どういうこった、こりゃ? ……って、留め金がねぇじゃん!? どうやって取るんだよこれ!?」

急に不気味になった俺はその腕時計を外そうとしたが、どこを見ても外せる部分が見当たらない。
こうなったら無理やりにでもと思い、引きちぎる勢いで張る。
材質的に金属じゃないっぽいし、もしかしたらいけるんじゃないかと思ったのだが、それは当たり前のように外れる気配がなかった。
どれだけ引っ張っても切れることも、伸びることはなく、ただただ俺の手首が痛くなるばかりだった。

「いっつぅ……ったく、どうなってやがんだ?」

一通り騒いで結局何もわからないまま、ただ頭を掻きむしる。
そもそも俺は頭がいい方ではないく、突然こんなことが起こったからといってああだこうだ考えても答えが見つかる可能性なんて皆無。
いや、そこまでは言わないにしろ、可能性なんてかなり低いだろう。
と、言うわけで今現在、訳の分からないものに頭を悩ませるのはいろいろと無駄だと思考を停止した。
ふと時計部分の時間を見てみると、7時をちょっと過ぎたくらい。

「……とにかく、メシにするか」

今日の大学のカリキュラム的に少し早めの起床だったようだが、いろいろと騒いだせいか小腹が空いてきた。
いつもより少し早いが、あれこれ考えてもわかるはずもないし、とりあえず朝食をとることにした。





「……ふぅ」

軽く朝食をとった後、ブラックなコーヒーを飲みながら一息つく。
腹が満たされたおかげか、先ほどより幾分か心に余裕ができた気がする。

「そいう言えば、このわけわかんねぇ状況になってんのって俺だけなのか?」

ふと感じた疑問。
この多くの人間が住む地球で、俺という一個人だけがこんな状況に陥っているのだろうか?
仮に俺だけがこんな状況になっているんだとしたら、俺自身に何か特別な何かがあるのかもしれないが。
そう思い自分のこれまでを振り返ってみるも、はっきり言って俺に特筆できる所などほとんどなかった。
だとしたら、俺だけじゃなく俺以外の人たちも同じ状況になっている可能性もある。
もしかしたら何かわかるかもと、淡い期待を寄せテレビをつけてみる。
丁度、ニュースで緊急速報が流されているところだった。

「……は?」

俺は見間違いかと思い一度目をこすり、もう一度テレビを見る。

「……嘘だろ?」

しかし、報道されていたものに違いはなく、俺の見間違いではないということが分かっただけだった。

「……恐怖の……大王?」

そのニュースによると2012年12月22日00時00分00秒丁度に、地球上すべての人間の腕に腕時計のようなこの装置が現れたようだ。
そのことで多くの人がパニックに陥っている中、今度は全テレビ局が何者かによりハッキングを受け、全テレビが砂嵐状態になってしまったらしい。
数時間そのままの状態が続いたが、ようやく砂嵐が収まり復興したと思った時、そこに映し出されていたのは人とは異なる風貌の存在だった。
全体的な姿は人間に近いのだが、体色は黒みがかって目は血のように赤く、耳は物語で見たことがあるようなエルフのように尖っており、その頭には一本の角のようなものが生えていた。
一体何者か、そうみんなが思っていた時、その存在が語りだした。
自分は“恐怖の大王アンゴル=モーア”だと。
その存在が語ったことをまとめてみると次の通りだ。

アンゴル=モーアは、この地球から遠く離れた星から来た異星人である。
その星では魔法と科学の二つの文化があり、その融合体である魔科学が発展している。
アンゴル=モーアはその星で異端とされている研究をしていた魔科学者で、自身を実験体としてさらなる超生命体へと進化を遂げた。
超生命体へと進化を遂げたアンゴル=モーアは、自身を討伐すべく現れた数多くの戦士たちと戦ってきたが、いつしかその戦士たちもいなくなり、その星においてアンゴル=モーアと戦える者はいなくなった。
長い年月を生き、自身を打倒する猛者も現れることがなく退屈していたアンゴル=モーアは、ならば自身を打倒しうる存在を作る装置を発明しようと、新たな研究を始めた。
そして何年もの月日を経て、ついに完成することができた。
そう、そのアンゴル=モーアを打倒できる存在を作るために発明された装置とは、今この世界中の人たちの腕に装着された、この腕時計のようなもの。
MAD(Magic Absorption Device)という物で、これは倒した敵の魔力を吸収して装備者に組み込み、能力を強化させる装置らしい。
そしてこの装置だが、ただ魔力を吸収するだけでなく、今現在の装備者の能力や状態を表示させる機能もあるとか。
そして、全ての事が始まるのは2012年12月22日8時00分。

一体何が始まるのか、それが気になったがどうやらそこまで言った後、回線は切断されてしまったそうだ。
その後どこでハッキングを行ったのか各国がそれぞれ独自に調査を行ったそうだが、結局何も得られず終いだったらしい。

「……恐怖の大王……嘘だろ、マジかよ」

俺はそのニュースの内容に唖然として、それ以上言葉が出なかった。
恐怖の大王アンゴル=モーア、ノストラダムスの大予言が13年の時を経て今ここに実現したということだ。
その予言とどこまでが一緒のかはわからないし、これもまた偶然が重なっただけということも考えられるが、それら全てが今はどうでもいい。

「……いったい、何が起こるってんだよ」

アンゴル=モーアは全てが始まるのは2012年12月22日8時00分だといっていた。
時計を見るとその時間まで残り1分を切っていた。
何が起こるにしても、きっとろくでもないことに決まっている。
……そしてついに恐怖の大王が宣告した時間が今過ぎた。

「……ッ!? な、なんだ!?」

別段、地震が起きたとか火事が起きたとか、皆既日食が起きたとかそんなことはなかった。
だが突然、そう突然に家の外から獣のような、腹の底に響くような低い唸り声が聞こえだしたのだ。

『(ザァァァァァアァアア)』

そして今度は、今までニュースが行われていたテレビが砂嵐状態になる。
しかし、それも長くは続かなかった。

『(ザァァァァ)……時間だよ諸君。この美しき蒼き地球に住む人類諸君』

砂嵐が収まりそこに映し出されたのは、あの恐怖の大王アンゴル=モーアだった。

『今この瞬間、この地球上に計666個の大小様々なダンジョンを生み出した。
大きいものでは10層以上、小さいものでは5層もない深さのダンジョンをこの地球上の各地に生み出した。
その中には様々な魔物たちが諸君を歓迎してくれるだろう。
その魔物たちの歓迎を受け、生きて最深部までたどり着き、そのダンジョンの主を倒すことができればダンジョンクリアとみなされる。
クリアされたらそのダンジョンは消えるだろう。
そしてこの地球上に生み出した665個のダンジョンをクリアしたら、最後の一つのダンジョンで私は諸君を待っているよ。
そこで私と共に、極上の闘争を楽しもうではないか!
あぁ、そうそう、怖気づいてダンジョンに入らないというのもいいが、ダンジョンに徘徊する魔物たちはダンジョンの外を目指して進行する。
わかるか? つまり諸君たちの世界に魔物が現れるということだ!
ダンジョンに行かなければ安全だ、なんて儚く脆い幻想など捨てることだ。
ちなみに魔物たちは時間が経つごとに生み出されていくシステムになっていてね、何もしないでいると諸君の世界は私の創ったかわいい魔物たちが蔓延る世界へと変わってしまうだろう。
いうなれば、これはゲームだよ。
私たち魔物群と諸君たち人間の生存を賭けた、血沸き肉躍るような楽しい楽しい闘争ゲームだ!
さぁ人間諸君、今までの死ぬほどつまらなく、ただ延々と生きてきた退屈な日常はお終いだ。
武器をとれ、魔物を狩れ!
魔物を狩ることで、その魔物が保有する魔力を吸収して諸君らはどんどん強くなっていくだろう。
ぜひ私の元まで辿り着いてくれたまえ。
共に狂うほど愉快で楽しい、血風吹き荒れる地獄で踊ろうではないか!』

そう、高らかに狂ったように一方的に言い放ったのち、テレビはいつものニュース番組へと戻った。
アナウンサーが困惑している様子が映し出されている。

「……マジ…かよ」

外では魔物だろう恐ろしい声が響き渡っている。
大学だ、進学だ、就職だなどと言っている状況ではなくなってしまった。
今日この時から、俺たちの今まで変わることのなかった平穏な日常は幕を閉じ、人類の存亡をかけた戦いが幕を開けたのだ。


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