10 / 23
10.聖女再任
しおりを挟む
ナタ・デ・ココはエキドナの王都オルトロスで「聖女」という称号をあたえられた。
ヴァンバルシアでは「聖女」は職業であり称号でもあったが、エキドナにはもとから聖女というものはない。これを特例で王家に仕える一代限りの特別な身分とした。
聖女といっても、ヴァンバルシアとちがって女神信仰などないので、女神に祈ることはない。
神殿はあるが、立場の異なるものが入っていっても煙たがられるにちがいない。
ココは王太子の教育係ということで王宮に住むことになった。
あらゆる懸念を想定しておくのが仕事の臣下のなかには「殿下をヴァンバルシアの都合のいいように洗脳する気かもしれん」とココの行動に目を光らせているものもいるが、実際のところココの仕事は、教育係とは名ばかりのただの「王子の友だち」だった。
王太子アルバートには国内に兄弟がいなかった。ふたりの姉がいたが、どちらも他国の王族に嫁いでいた。
まわりに同世代がいないのは寂しかろうと両親は思っていたところである。王子は姉と遊び慣れていたのでココが女であることは問題ないと判断された。本当は同世代ではないのだが、それは見た目によって忘れられがちなのだった。
ココがエキドナの王宮に入ったことは、まもなくヴァンバルシアも知ることとなった。
ウガイ川で魔物に襲われたことを各国と共有したおり、国王が情報を規制しなかったので、それを退けた少女のことも他国の知ることとなったのである。
自国の罪人が重用されたと聞いて、すぐにヴァンバルシアの使者がやってきた。
「こちらで新たに刑を科すので、身柄を返して欲しい」ということである。
勝手にヴァンバルシアの刑法をないがしろにしたことを糾弾するような態度だった。
謁見の場でエキドナ王は使者に言った。
「追放したのだから、もうそちらの国民ではないだろう。そもそも勝手に我が領土であるウガイの森に追いやっているのだからな」
一度裁定が下されれば、恩赦があるか、冤罪と判明しないかぎり、まず覆ることはない。余罪が見つかったわけでもないのに、さらに刑を重くするとは公正な裁判として、また人道的にもおかしなことではないか。
ナタ・デ・ココを害しようとするものがいるなら——それが身分の高いものなら、余罪などいくつでもこじつけることができるかもしれない。
故郷に帰せば追放よりもっとひどい罰が待っているだろう。
「ヴァンバルシアの作法ではどうか知らんが、エキドナでは命の恩人にはできうるかぎり報いるようになっておる。ましてや代償として片腕を失った少女ひとり、森に置いておけようか」
「しかし、罪人を擁護するのはいかがなものかと……」
使者は食い下がったが、王は取り合わなかった。
「エキドナに居るのだから追放していることには変わりなかろう。擁護もなにも刑は執行中だ」
「要求を飲んでいただけない場合は実力行使も選択肢に入れているとヴァンバルシア王はおっしゃっております」
困った使者は言い方を変えた。
「貴国のよくないところだぞ、大国の武力を利用して力で言うことを聞かせようとしている」
「しかし、我が国は国際社会の盟主として秩序を保とうと……」
「そういうところだ、だれも盟主など頼んでおらん」
「……よいのですな」
「良いも悪いもない。ナタ・デ・ココはエキドナ国民としてわしが保護する」
「わかりました。もどってそのように伝えましょう」
使者は機嫌悪く帰っていった。
「なんだ?」
使者が退室すると、王は目を左右に動かして、同席していた臣下たちをジロリと見た。
「いえ、なにも申しておりませんが」
「小娘などとっとと渡して穏便にすませておけばいいものをと言いたいのだろう」
「まあ……はい」
「気が向かなんだ」
王はぶっきらぼうに言った。
「たしかにやや尊大な態度でしたからな、使者のかたも。お気持ちはわかります」
「言ってしまったものはしかたない」
ランデル王子の婚礼からの帰路に魔物に襲われたのはエキドナ王だけだった。しかし、使者はそれに対して心配も見舞いの言葉もなかった。
「陛下のお心のままに」
「どうせなら、もう少しきつくおっしゃってもよかったかと」
べつの臣下がそう言うと、そこにいたもの皆の顔に笑みがこぼれた。
ヴァンバルシアの使者がココの返還を強く求めてきたことで、ココの「スパイ説」は薄らぐことにもなった。
「ヴァンバルシアから使者が来たと聞きましたが」
ココはアルバートとふたりで城壁の上を散歩していた。
「ああ、もう帰った」
「わたしがいることでご迷惑をおかけしているのでは?」
「父上の考えでやっていることだ。ココが気にすることはない」
「それならよいのですが……とはなりません。わたしのせいで国益を損なうようなことがあれば申し訳が立ちません」
「ココは心配性だなあ。子どもらしくない」
「何度も言ってますが、子どもではありません」
「ああ……そうだったな。その姿だから、どうしてもおなじくらいの子どもに思えてしまうのだ」
「まあ、わかりますけど」
どうしても見た目に引っ張られるというのはあるだろう。そのことについては——不可抗力ではあるが——自分のほうに問題があるので、あまり強くは言えないのだった。
ヴァンバルシア王国の王宮では王妃兼聖女となったモン・ザ・ババロアが歯噛みしていた。
「とっくにのたれ死んでいるかと思えば……しぶといわね。おまけに王族の近くにいるなんて、ドブネズミのくせにまったく腹がたつ」
ババロアはつぎにココの名を耳にするときは死亡が確認されたときくらいだろうと思っていたので、予想外の報告に驚いていた。
「気に食わんのなら俺がお前の足もとに引きずり出してやろうか」
ババロアの自室で、王太子ランデルがソファにふんぞり返って言った。
「でも、あいつは王宮の中ですわ。エキドナ王は返還の要求に応じなかったとか」
簡単に手出しできないところにいるのがまたよけいに腹立たしくあった。
「国ごと奪ってしまえばいい」
「まあ、殿下。それでは、わたしのためには戦争も辞さないと?」
「いずれ、エキドナを併合して海も征服する。慎重派の親父がいるので、いますぐにとはいかんがな。そのときはネズミ一匹くらいお前の玩具としてあたえよう」
「ああ、嬉しい。楽しみですわ」
ババロアは王太子の隣に座り身体をあずけた。
しばらくして、ババロアは夕食をすませると父であるモン伯爵の執務室に行った。
「まさかナタ・デ・ココが生きていたとはな」
「あの森にたったひとりで六年も……驚きました」
すでに外は薄暗く、部屋の中にはろうそくが灯されている。
かすかにゆらめく光に照らされるババロアの表情は、ランデル王子と相対しているときとはちがい緊張した面持ちだった。
「追放では甘かったということか」
「あのとき、聖女を死罪にすると言えばさすがに反対するもののほうが多くなったでしょうし、しかたありません」
「まあ、お前を大聖女にしたあとのあの娘の処遇などどうでもよかったのだが……今後、お前にとってナタ・デ・ココは障害になると思うか?」
「いえ、とくにはなにも。報告によりますと、いまだ追放されたときのままの姿のようで、霊力はまったく回復していないと思われますし……のうのうと生きているのが腹立たしいというのはありますが」
「そうか、追放した我々の体面はあるが、問題がないならとりあえずはいい」
モン伯爵はいつものように手の甲を前後に振り、娘に退室をうながした。
「……お父様」
娘はドアの前で立ち止まって父を振り返った。
「ん? なんだ」
「その……エキドナの船を魔物が襲ったと聞きましたが、お父様はなにか関与されているのでしょうか」
「いや、知らんな」
「……そうですか」
ババロアはあらためて一礼して部屋を出た。
ババロアが立ち去ったあと、すうっとろうそくの炎が小さくなり、あたりが薄暗くなった。
その部屋の隅、ひと際暗い場所に、どこから入ったのか人影があった。闇に溶け込むような黒い服を着ている。フードを深くかぶっているので、表情はわからない。
「おぬしか」
モン伯爵は驚きもせずに「不手際だったな」とつぶやいた。
「……我々としては」
影が言った。フードの下に見える口もとと声から察するに男と思われた。
「ひとりの犠牲で『龍』が二匹も召喚できたのだから大成功です。想定外だったのは、近くに天敵となる邪神を召喚できるものがいたこと……」
「ナタ・デ・ココか……」
「しかも、邪神の眷属——あるいは邪神そのものを呼び出し、代償は片腕だけですんでおります。そのようなものがいるとは聞いておりませんでしたので」
「わしも知らなかった。大聖女ともなるとそんなことまでできるのか」
「聖女が邪神を呼び出した事例はございません。あの娘が特別なのかと」
「孤児ではじめて大聖女に選ばれたほどだからな、優秀だったのはまちがいない。であれば……」
モン伯爵は暗い部屋の隅に目を凝らした。
「天敵となる邪神を召喚できるものがいるのはおぬしらにとっても邪魔だろう」
「殺せ、と?」
「いずれ邪魔になるだろう、と確認しただけだ」
「我々のような小さな教団には、あなたのような強い後ろ盾が必要です。お役に立つところをお見せしましょう」
「急がずともよい。いますぐであれば我々が疑われる」
まだ先になるが、ランデル王子が自由に采配を振るうようになってからでもいい、とモン伯爵は思っていた。
「多少強引な結婚をしたので批判する声もある。我々もこれから地盤固めが必要だ」
魔物に国王が殺され混乱しているエキドナ王国に、魔物退治の名目で介入する。それで、強引な結婚から国内の目をそらさせ、ランデル王子を先頭に置くことで発言権を増す、という目論見もあったが、それは外れてしまった。
そもそも、教団をあてにしていたわけではないので、とくに失望することはない。
最近になって近づいてきた教団の力を知れただけでもいいだろう。
「果報は寝て待てと言うからな」
「かしこまりました。いつ指示があってもいいように準備はしておきます」
男がそう言うと、ろうそくの灯りがもどり、部屋全体が見渡せるようになった。
影は消えていた。
「カダス教団……か」
モン伯爵は椅子の背もたれに身を預けて目を閉じた。
所属する組織のためなら自分の命をも犠牲にする。自らの立身だけを考えて生きてきた彼にはその気持ちは理解できなかった。
不安要素は多いが、魔物の破壊力は馬鹿にできない。うまく利用すれば効果は期待できるだろう。
(狂信者どもめ……)
心底そう思ったが声には出さなかった。
ヴァンバルシアでは「聖女」は職業であり称号でもあったが、エキドナにはもとから聖女というものはない。これを特例で王家に仕える一代限りの特別な身分とした。
聖女といっても、ヴァンバルシアとちがって女神信仰などないので、女神に祈ることはない。
神殿はあるが、立場の異なるものが入っていっても煙たがられるにちがいない。
ココは王太子の教育係ということで王宮に住むことになった。
あらゆる懸念を想定しておくのが仕事の臣下のなかには「殿下をヴァンバルシアの都合のいいように洗脳する気かもしれん」とココの行動に目を光らせているものもいるが、実際のところココの仕事は、教育係とは名ばかりのただの「王子の友だち」だった。
王太子アルバートには国内に兄弟がいなかった。ふたりの姉がいたが、どちらも他国の王族に嫁いでいた。
まわりに同世代がいないのは寂しかろうと両親は思っていたところである。王子は姉と遊び慣れていたのでココが女であることは問題ないと判断された。本当は同世代ではないのだが、それは見た目によって忘れられがちなのだった。
ココがエキドナの王宮に入ったことは、まもなくヴァンバルシアも知ることとなった。
ウガイ川で魔物に襲われたことを各国と共有したおり、国王が情報を規制しなかったので、それを退けた少女のことも他国の知ることとなったのである。
自国の罪人が重用されたと聞いて、すぐにヴァンバルシアの使者がやってきた。
「こちらで新たに刑を科すので、身柄を返して欲しい」ということである。
勝手にヴァンバルシアの刑法をないがしろにしたことを糾弾するような態度だった。
謁見の場でエキドナ王は使者に言った。
「追放したのだから、もうそちらの国民ではないだろう。そもそも勝手に我が領土であるウガイの森に追いやっているのだからな」
一度裁定が下されれば、恩赦があるか、冤罪と判明しないかぎり、まず覆ることはない。余罪が見つかったわけでもないのに、さらに刑を重くするとは公正な裁判として、また人道的にもおかしなことではないか。
ナタ・デ・ココを害しようとするものがいるなら——それが身分の高いものなら、余罪などいくつでもこじつけることができるかもしれない。
故郷に帰せば追放よりもっとひどい罰が待っているだろう。
「ヴァンバルシアの作法ではどうか知らんが、エキドナでは命の恩人にはできうるかぎり報いるようになっておる。ましてや代償として片腕を失った少女ひとり、森に置いておけようか」
「しかし、罪人を擁護するのはいかがなものかと……」
使者は食い下がったが、王は取り合わなかった。
「エキドナに居るのだから追放していることには変わりなかろう。擁護もなにも刑は執行中だ」
「要求を飲んでいただけない場合は実力行使も選択肢に入れているとヴァンバルシア王はおっしゃっております」
困った使者は言い方を変えた。
「貴国のよくないところだぞ、大国の武力を利用して力で言うことを聞かせようとしている」
「しかし、我が国は国際社会の盟主として秩序を保とうと……」
「そういうところだ、だれも盟主など頼んでおらん」
「……よいのですな」
「良いも悪いもない。ナタ・デ・ココはエキドナ国民としてわしが保護する」
「わかりました。もどってそのように伝えましょう」
使者は機嫌悪く帰っていった。
「なんだ?」
使者が退室すると、王は目を左右に動かして、同席していた臣下たちをジロリと見た。
「いえ、なにも申しておりませんが」
「小娘などとっとと渡して穏便にすませておけばいいものをと言いたいのだろう」
「まあ……はい」
「気が向かなんだ」
王はぶっきらぼうに言った。
「たしかにやや尊大な態度でしたからな、使者のかたも。お気持ちはわかります」
「言ってしまったものはしかたない」
ランデル王子の婚礼からの帰路に魔物に襲われたのはエキドナ王だけだった。しかし、使者はそれに対して心配も見舞いの言葉もなかった。
「陛下のお心のままに」
「どうせなら、もう少しきつくおっしゃってもよかったかと」
べつの臣下がそう言うと、そこにいたもの皆の顔に笑みがこぼれた。
ヴァンバルシアの使者がココの返還を強く求めてきたことで、ココの「スパイ説」は薄らぐことにもなった。
「ヴァンバルシアから使者が来たと聞きましたが」
ココはアルバートとふたりで城壁の上を散歩していた。
「ああ、もう帰った」
「わたしがいることでご迷惑をおかけしているのでは?」
「父上の考えでやっていることだ。ココが気にすることはない」
「それならよいのですが……とはなりません。わたしのせいで国益を損なうようなことがあれば申し訳が立ちません」
「ココは心配性だなあ。子どもらしくない」
「何度も言ってますが、子どもではありません」
「ああ……そうだったな。その姿だから、どうしてもおなじくらいの子どもに思えてしまうのだ」
「まあ、わかりますけど」
どうしても見た目に引っ張られるというのはあるだろう。そのことについては——不可抗力ではあるが——自分のほうに問題があるので、あまり強くは言えないのだった。
ヴァンバルシア王国の王宮では王妃兼聖女となったモン・ザ・ババロアが歯噛みしていた。
「とっくにのたれ死んでいるかと思えば……しぶといわね。おまけに王族の近くにいるなんて、ドブネズミのくせにまったく腹がたつ」
ババロアはつぎにココの名を耳にするときは死亡が確認されたときくらいだろうと思っていたので、予想外の報告に驚いていた。
「気に食わんのなら俺がお前の足もとに引きずり出してやろうか」
ババロアの自室で、王太子ランデルがソファにふんぞり返って言った。
「でも、あいつは王宮の中ですわ。エキドナ王は返還の要求に応じなかったとか」
簡単に手出しできないところにいるのがまたよけいに腹立たしくあった。
「国ごと奪ってしまえばいい」
「まあ、殿下。それでは、わたしのためには戦争も辞さないと?」
「いずれ、エキドナを併合して海も征服する。慎重派の親父がいるので、いますぐにとはいかんがな。そのときはネズミ一匹くらいお前の玩具としてあたえよう」
「ああ、嬉しい。楽しみですわ」
ババロアは王太子の隣に座り身体をあずけた。
しばらくして、ババロアは夕食をすませると父であるモン伯爵の執務室に行った。
「まさかナタ・デ・ココが生きていたとはな」
「あの森にたったひとりで六年も……驚きました」
すでに外は薄暗く、部屋の中にはろうそくが灯されている。
かすかにゆらめく光に照らされるババロアの表情は、ランデル王子と相対しているときとはちがい緊張した面持ちだった。
「追放では甘かったということか」
「あのとき、聖女を死罪にすると言えばさすがに反対するもののほうが多くなったでしょうし、しかたありません」
「まあ、お前を大聖女にしたあとのあの娘の処遇などどうでもよかったのだが……今後、お前にとってナタ・デ・ココは障害になると思うか?」
「いえ、とくにはなにも。報告によりますと、いまだ追放されたときのままの姿のようで、霊力はまったく回復していないと思われますし……のうのうと生きているのが腹立たしいというのはありますが」
「そうか、追放した我々の体面はあるが、問題がないならとりあえずはいい」
モン伯爵はいつものように手の甲を前後に振り、娘に退室をうながした。
「……お父様」
娘はドアの前で立ち止まって父を振り返った。
「ん? なんだ」
「その……エキドナの船を魔物が襲ったと聞きましたが、お父様はなにか関与されているのでしょうか」
「いや、知らんな」
「……そうですか」
ババロアはあらためて一礼して部屋を出た。
ババロアが立ち去ったあと、すうっとろうそくの炎が小さくなり、あたりが薄暗くなった。
その部屋の隅、ひと際暗い場所に、どこから入ったのか人影があった。闇に溶け込むような黒い服を着ている。フードを深くかぶっているので、表情はわからない。
「おぬしか」
モン伯爵は驚きもせずに「不手際だったな」とつぶやいた。
「……我々としては」
影が言った。フードの下に見える口もとと声から察するに男と思われた。
「ひとりの犠牲で『龍』が二匹も召喚できたのだから大成功です。想定外だったのは、近くに天敵となる邪神を召喚できるものがいたこと……」
「ナタ・デ・ココか……」
「しかも、邪神の眷属——あるいは邪神そのものを呼び出し、代償は片腕だけですんでおります。そのようなものがいるとは聞いておりませんでしたので」
「わしも知らなかった。大聖女ともなるとそんなことまでできるのか」
「聖女が邪神を呼び出した事例はございません。あの娘が特別なのかと」
「孤児ではじめて大聖女に選ばれたほどだからな、優秀だったのはまちがいない。であれば……」
モン伯爵は暗い部屋の隅に目を凝らした。
「天敵となる邪神を召喚できるものがいるのはおぬしらにとっても邪魔だろう」
「殺せ、と?」
「いずれ邪魔になるだろう、と確認しただけだ」
「我々のような小さな教団には、あなたのような強い後ろ盾が必要です。お役に立つところをお見せしましょう」
「急がずともよい。いますぐであれば我々が疑われる」
まだ先になるが、ランデル王子が自由に采配を振るうようになってからでもいい、とモン伯爵は思っていた。
「多少強引な結婚をしたので批判する声もある。我々もこれから地盤固めが必要だ」
魔物に国王が殺され混乱しているエキドナ王国に、魔物退治の名目で介入する。それで、強引な結婚から国内の目をそらさせ、ランデル王子を先頭に置くことで発言権を増す、という目論見もあったが、それは外れてしまった。
そもそも、教団をあてにしていたわけではないので、とくに失望することはない。
最近になって近づいてきた教団の力を知れただけでもいいだろう。
「果報は寝て待てと言うからな」
「かしこまりました。いつ指示があってもいいように準備はしておきます」
男がそう言うと、ろうそくの灯りがもどり、部屋全体が見渡せるようになった。
影は消えていた。
「カダス教団……か」
モン伯爵は椅子の背もたれに身を預けて目を閉じた。
所属する組織のためなら自分の命をも犠牲にする。自らの立身だけを考えて生きてきた彼にはその気持ちは理解できなかった。
不安要素は多いが、魔物の破壊力は馬鹿にできない。うまく利用すれば効果は期待できるだろう。
(狂信者どもめ……)
心底そう思ったが声には出さなかった。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
さよなら、悪女に夢中な王子様〜婚約破棄された令嬢は、真の聖女として平和な学園生活を謳歌する〜
平山和人
恋愛
公爵令嬢アイリス・ヴェスペリアは、婚約者である第二王子レオンハルトから、王女のエステルのために理不尽な糾弾を受け、婚約破棄と社交界からの追放を言い渡される。
心身を蝕まれ憔悴しきったその時、アイリスは前世の記憶と、自らの家系が代々受け継いできた『浄化の聖女』の真の力を覚醒させる。自分が陥れられた原因が、エステルの持つ邪悪な魔力に触発されたレオンハルトの歪んだ欲望だったことを知ったアイリスは、力を隠し、追放先の辺境の学園へ進学。
そこで出会ったのは、学園の異端児でありながら、彼女の真の力を見抜く魔術師クライヴと、彼女の過去を知り静かに見守る優秀な生徒会長アシェル。
一方、アイリスを失った王都では、エステルの影響力が増し、国政が混乱を極め始める。アイリスは、愛と権力を失った代わりに手に入れた静かな幸せと、聖女としての使命の間で揺れ動く。
これは、真実の愛と自己肯定を見つけた令嬢が、元婚約者の愚かさに裁きを下し、やがて来る国の危機を救うまでの物語。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる