17 / 47
17.強制召喚の真意
しおりを挟む「おめでとう、合格だよ、咲良」
魔王城登城当日。
魔界へ初めて強制的にやって来たあの謁見の間で私は魔王に冷たく微笑まれていた。
早速だが意味がわからない。
ここまでは仕事の都合が合ったヘンリーと共に来たが、この部屋には私しか通すことを魔王が許さなかった為、ヘンリーはもういない。
今更だが居て欲しかったと思ってしまう。
魔王の通訳として必要なのでは?
「あの…いきなり祝われましても何が何だが…。合格とは?人間界へ帰れると言うことですか?」
あまり期待はしていないが、僅かな期待を込めて、魔王に言葉の真意を聞いてみる。
すると魔王はその笑みを深めた。
初めて会った時はヘンリーが来るまで一度も笑わなかったくせに怖すぎる。
どういう意味の笑顔なのだろうか。
「まずお前はまだ人間界へは帰れない。そしてお前は本来の目的を果たす為のスタートラインに立てた…つまり合格だ」
「…はぁ」
笑顔だが、冷たい印象のままの魔王の言葉にやっぱり意味がわからず私は首を傾げる。
もう少し具体的な説明をお願いしたい。
本来の目的とは?
「…お前はここ2ヶ月ほど5兄弟たちと過ごしてどう思った?」
「…」
突然魔王にそう質問され、私はとりあえず5兄弟たちのことを頭に思い浮かべる。
長男ヘンリーは一見私によくしているように見えるが、全てそこには損得がある。表裏が激しい上に自分に利益がないと思えばバッサリと切る印象だ。
次男エドガーは一応私の世話係らしいが全く私の世話をしていない。むしろ私がエドガーの世話をしていると言っても過言ではない。強欲でスリルが大好きなエドガーから正直悪い意味で目が離せない。
三男ギャレットについてはまだまだ未知数だ。食事の時だけは留学の決まり事があるので、顔を見るがそれだけ。お互いに何の交流もない。
四男クラウスは苦手だ。まずあのチャラチャラした雰囲気が受け付けない。よく会えば話しかけてくるがどちらかと言うと口説かれている。話しかけられていない。ある意味まともな会話をしたことがない。
五男バッカスは無表情で何を考えているのかわからないが、食が関係してくると話が変わってくる。食の為なら何事にも積極的だ。だが裏を返せば食以外のことに無頓着で無関心すぎる。
「…自分の欲望に忠実ですね。良くも悪くも」
「なるほど。妥当だな」
私の5兄弟たちへのこれまでの率直な印象を聞き、魔王が納得したように頷く。
「悪魔には生まれ持った魔力量によって階級が与えられる。彼ら5兄弟の階級はこの魔界で50もいない最高階級、特級だ」
「…」
…特級。よく耳にしてきた言葉だ。
この前エドガーとの契約を断った時も「俺は特級悪魔だぞ!」と怒っていた。
5兄弟たちがここ魔界において特別な存在なのだろうとは学院での生活やあの馬鹿でかい家で何となく察していたが、思っていたよりもすごいらしくほんの少しだけ驚いた。
だがその階級の話が何故今必要なのだろうか?
その疑問はすぐに解消されることとなる。
「彼らは魔界随一の強さを持つと同時にお前の言った通り自分の欲望に忠実だ。そんな彼らだからこそ近い将来この魔界を滅ぼすと予言されている。彼らの力と欲望への忠実さによって」
「…はい?」
魔王のいきなり飛躍した話に思わず失礼を承知の上で表情を歪ませて聞き返してしまう。
待て待て待て。
いきなり話が大きくなってる。魔界が滅ぶとか現実味ゼロな話になってる。
「あの、勘違いだとは思うのですが、まさかその魔界を滅ぼす話に私自身が関係してくるなんてことは…」
「ある」
やっぱりー!
話の途中で薄々嫌な予感は感じていたが、ここでまさかの私にも関係してくる話になり、私は心の中で頭を抱えた。
そんな物騒な話に関わりたくなどない。命がいくつあっても足りないというやつではないか。
「この予言には続きがある。その続きとは5兄弟を止められる人物が人間界から現れる可能性があるというものだ。そして予言の人物にはいくつか定められた条件があり、その条件を満たせると私が判断したのが、咲良、お前だ」
えー。
魔王の名指し指名に思わず反抗的な声を出しそうになるが何とか抑える。
表情も我慢しているつもりだが、きっと嫌で嫌で仕方ない気持ちがダダ漏れな表情になっているに違いない。
…自覚はある。
「その条件を伺ってもよろしいですか?」
もし少しでも合っていないものがあれば即座に辞退してやろう。
そう思いながら魔王から〝予言の人物の条件〟とやらの具体的な内容を待つ。
「ああ。もちろん。今から伝えようと思っていたところだ。まず一つ目が人間界から来た女性であること。二つ目が兄弟全員と契約を結んでいることだ」
「はい!私はその二つ目の条件を満たしておりません!今回は非常に残念ではありますが辞退させて頂きます!」
私は魔王の予言の人物の条件を聞き、すぐ勢いよく手をあげ、丁寧に辞退の言葉を述べた。
仕方ないことだ。私は確かに性別は女性だが、5兄弟全員と契約などしていない。
私が契約しているのは5兄弟の中ではエドガーとだけだ。
「知っている。俺は先程、本来の目的を果たす為のスタートラインに立てた…と言っただろう?今は契約を結べていなくてもいい。これから結べばいいんだからな」
「…」
ニヤリと笑う魔王の顔を見て思う。
あれは何か悪いことを考えている顔だ。
嫌な予感しかしない。
「咲良、彼ら5兄弟と〝良好な関係を築け〟と私は言ったな?具体的な〝良好な関係を築け〟の意味を今伝えよう。〝良好な関係を築け〟とは5兄弟全員と契約を結べと言うことだ」
「…っ!!!!」
嫌な予感またまた的中ー!!!!!
冴え渡りすぎている勘が逆に嫌だー!!!!
「いや!ちょっと待ってください!考え直してください!私には無理です!」
当たってしまった嫌な予感。
その内容を今すぐ訂正してもらえるように魔王に対してぶんぶんと首を横に振る。
契約を結べー!?
無理無理無理!
ここでは関係ないが、ミアは優しさで私と契約してくれた。
エドガーの契約理由はよくわからない。多分気まぐれだろう。
私はもう一応2人の悪魔と契約をした経験があるがそれは私の力でではない。
どうすれば契約にこぎつけるかわからないのに残りの兄弟たちと契約をしろだなんて無理な話だ。
これでは永遠に人間界へ帰れなくなる。
「無理でもやるしかない。彼ら5兄弟と2ヶ月以上も共に過ごせたのは咲良、お前だけだからな」
「…え」
「私はこれまで魔界を破滅させない為に予言の女性を探し続け、咲良と同じように留学生として魔界へ連れてきた。咲良よりも年上の女性や咲良と同年代くらいの女性、10代の幼い子どもまでいろいろだ。だが咲良以外全員5兄弟によって精神を壊され人間界へ帰った」
「…」
「咲良だけなんだ。彼らと共に渡り合えたのは」
嘘。
まさか頑張っていたことが仇になるとは。
私もギブアップ宣言をしていれば帰れたということではないか。
「…か、彼らを見ると目眩が…。私もどうやら精神的な大きなダメージを負っており…」
「今更嘘が通用するとでも?」
「…すみません」
まだ間に合うか、と体調が悪いフリをしてみたが魔王に睨まれたのですぐに辞めた。
詰んだ。
「悪魔にとって契約とは己を縛るものであると同時に己の欲しいものを手に入れる手段でもある。弱い悪魔であればあるほど力を欲して契約者を選ぶ。だが強い悪魔は違う。すでに力がある分、強い悪魔は契約に対して気まぐれだ。万が一自分を縛る契約者が気に食わなければ、殺せる力もあるからな」
「…だからこそ何もない私でも契約できる可能性があるということですか」
「そうだ」
淡々と契約について説明をする魔王にげっそりとした表情で私は答える。
私の答えを聞くと魔王は満足げに頷いていた。
…最悪だ。
全員と契約を結ばなければ帰れないし、魔王の話的に契約を結べたとしても、契約した悪魔から常に命を狙われる可能性がある立場になってしまうのだ。
そんなの荷が重すぎる。
「では改めて。咲良、人間界へ帰りたければ特級悪魔5兄弟と契約を結べ」
私の気持ちなんて他所に冷たく笑う魔王に私は絶望の表情を浮かべた。
これは永遠に帰れないコースかも。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。
全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。
そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。
人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。
1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。
異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります!
【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる