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29.ツンデレ幼なじみでも食らえ
しおりを挟む嘘でしょ…。
「おい!咲良!大丈夫なのかよ!?」
ギャレットの部屋から放り出された私にまず最初に駆け寄って、心配そうにそう叫んだのはエドガーだった。
「生きているか?何もされていないか?」
エドガーの後ろでバッカスも心配そうに私を見つめている。
「…大丈夫。生きているし、何もされていないよ」
でも、ギャレットの説得には失敗したよ。
私を心配しているエドガーとバッカスに私は苦笑いを浮かべた。
「えー。その様子だと本当に何もなかった感じじゃーん。つまんなーい。ギャレットも咲良連れ込むならそれ相応のことをして欲しいよねぇ」
そんな私をつまらないものでも見るような目で見てきたのはクラウスだ。
この男、最低である。
「…で、聞かなくてもわかるが一応聞こう。ギャレットへの説得は?」
「…失敗しました」
「ふぅ、やはりか」
私の報告を聞き、ヘンリーは特に期待していませんでした、といった様子で私を見つめた。
「俺たちにとってこの世界はメリットもあるがデメリットもある。だからこそ帰りたいと思えている訳だが、ギャレットにはそのデメリットが限りなく0に近い」
「…うん」
「そんなギャレットを状況的にも説得できるのは咲良、お前だけだ。そのことは先程のことでよくわかっただろう」
「うん」
冷たい笑顔を浮かべて淡々と今の状況を喋り続けるヘンリーに私は元気なく返事を続ける。
「…あの、私1人では負担が大きすぎると言いますか、無理がありすぎると言いますか…」
お力添えを…。
と、助けをヘンリーを始め、他の兄弟たちにも求めようとした。
したのだが。
「咲良、お前がやるしかないんだぞ?」
それは冷たく微笑するヘンリーにばっさりと却下された。
いや!説得は私がするけどさ!
アイディアとか出して助けてくれたっていいじゃん!
「ヘンリー!さすがにそれはねぇだろ!俺は咲良を手伝うぜ!俺は咲良の契約悪魔だしな!」
「…俺も」
反論だ!と私が反論する前にエドガーとバッカスが何とヘンリーに反論してくれた。
ああ!さすがエドガーとバッカス!
2人とも頼りになる!
「…ほう。俺に逆らうのか?エドガー、バッカス」
エドガーとバッカスの意見を聞いたヘンリーの表情から笑顔が消える。
その冷たい表情は場の空気を冷えさせるには十分なもので、そんな状況を作り上げた私たちをクラウスは「バカだなぁ」とおかしそうに傍観していた。
「俺の言うことを聞け。俺の言うことは絶対だ」
まるで悪の親玉のような顔でヘンリーがエドガーとバッカス、ついでに私を睨みつける。
「はいっ!お兄様の仰せのままに!」
「…わかった」
するとエドガーは元気よく、バッカスは無表情のままヘンリーに頷いた。
2人ともあまりにも顔色が悪い。
「…最善を尽くします」
もちろん私も例外ではく。
酷く悪い顔色でヘンリーに返事をした。
ああ、どうすればいいんだ。最善なんてどう尽くせばいいの?
*****
『一つ、アドバイスをしてやろう。ギャレットが帰りたいと思える為には現実世界へ帰るメリットを作り、与えなければならない。わかるな?』
数分前ニヤリと笑い、私にそう言ったヘンリーの姿を思い浮かべる。
ヘンリーのアドバイスによって私はあるアイディアを思い付いていた。
本当は嫌だが帰るためには自分を犠牲にする精神もきっと必要なはずだ。
やるしかない。
私は腹を括って再びギャレットの部屋の扉を開けた。
「ギャレット…」
「咲良、遅かった…ね…」
扉を開けて部屋に入ってきた私を見てギャレットは驚いたように目を見開く。
何故なら私の格好がギャレット好みのセーラー服だったからだ。
私がこのセーラー服を着て再び現れるとは思わなかったのだろう。
「え、え?何このサプライズ。超嬉しいんだけど。咲良可愛い」
頬を赤く染めながら嬉しそうに私をギャレットが見つめる。
「可愛いでしょ」
「うん」
「こんな可愛い私にツンデレ幼なじみ役をやって欲しいでしょ」
「うん…て、え?」
真顔で半ばヤケクソに話す私にギャレットが思わず固まる。
それもそのはずだ。
私は何度もギャレットにこの格好で〝ツンデレ幼なじみ〟をしてくれ、と頼まれたが嫌すぎてそれを丁重にお断りをし続けていた。そんな私が自ら〝ツンデレ幼なじみ〟をすると言っているのだ。
固まりもするだろう。
「…ほ、本気?」
「うん。しかも1日中、ギャレットが望むようにしてあげる」
「…っ!!!嘘でしょ?」
「嘘じゃない」
信じられない、と、言った様子のギャレットだが、その表情には喜びと興奮がある。
何度も確認して本当に真実なのだとゆっくりと状況を飲み込もうとしているのを感じる。
「ただし!ここではなくて現実世界でだよ!だから帰ろう」
「…」
ここまで言うとギャレットの表情はまた変わった。
明らかにがっかりしている。
「期待させといて何それ。ちゃんとこっちの世界がどれだけ魅力的か理解を深めてから来いって言ったよね?なのに帰ろう?嫌だね。帰らない」
そしてギャレットはキッと私を睨みつけた。
うーわ。
すっごい怒ってる。
「じゃあツンデレ幼なじみな私はなしの方向で」
「それでもいいよ。ここは欲望の世界だから俺が望めばそんな幼なじみいくらでも出てくる」
諦めまいとさらに言葉を吐く私をバカにしたようにギャレットは笑い見つめる。
だが、こんなことでもちろん諦める私ではない。
私はここから帰って人間界へ帰りたいの!
何度も!何度も!何度も言うけど!
「それでも私は私だけだよ?これを断るなら今後一切私はここではギャレットと関わらない。ツンデレ幼なじみして欲しくない?」
「…うっ」
もう一押し!
「…別にギャレットと一切関わらなくても私は平気なんだからね!ただギャレットは寂しいでしょ?だからギャレットの為にも一緒にいたいの!」
「…ゔゔっ!!!」
今にも私の誘惑に負けそうなギャレットに私はこれでもかと自分の中のツンデレ幼なじみ像をぶつける。
これが正解なのかはわからないがギャレットのリアクション的には刺さっているっぽい。
「…帰ろう?ギャレット」
これでも食らえ!
困ったように懇願するように私はギャレットを最後にじっと見つめた。
「帰ろう!咲良!」
興奮気味にギャレットが私にそう言った瞬間、ここへ来た時のように前が見えなくなるほどの光が私たちを包み込む。
私はその眩しさに思わず目を閉じた。
やっと、多分、帰れるのだ。
まずは魔界に。
*****
次に目を開けるとそこはハワード家の書庫だった。
本の世界に取り込まれる前に居た場所だ。
「帰って来られた?」
状況を確認する為に辺りを見渡す。
するとそこには私だけではなく5兄弟たちの姿もあった。
「よくやった、咲良」
この状況を最初に飲み込み、把握したのはおそらくヘンリーだった。
ヘンリーはまるで上司のように偉そうに私を褒める。
「咲良!お前!やったな!」
次に私に声をかけてきたのはエドガーだった。
エドガーは嬉しそうに私に駆け寄ってきた。
「…あ、お腹空いた。やった、すごい」
バッカスは相変わらずだ。
無表情で自分のお腹を摩っている。
「やったー!現実だー!早速クラブに行かないと!」
クラウスも相変わらずニコニコと甘い笑顔を浮かべてすぐにスマホを触り出していた。
とにかくみんなそれぞれ違う反応だが、ここへ帰れたことを喜んでいるみたいだった。
「…咲良」
ゆらりと私の元へギャレットがやって来る。
「…ツンデレ幼なじみ、今から俺がいいって言うまでやってもらうからね。まずは衣装のセーラーを買いに行こうか」
「…え」
ギラギラとまるで飢えた肉食獣のような目でギャレットが私を見つめる。
今から?
やっと帰ってきたのに?
本の世界では疲れ知らずだったが、ここでは違う。
どのくらいあそこで過ごしていたのかわからないが、私は今非常に疲れている。
それなのに今から約束のツンデレ幼なじみ役を?
しかも衣装を買いに行くところから?
「何のために帰ったのかわかっているよね?俺のツンデレ幼なじみ、咲良ぁ?」
ガシッ!とギャレットに腕を掴まれて、抵抗も、説得も何もできないまま、私はギャレットに連れ出された。
その後街へ行って大変可愛らしいセーラー服を手に入れ、そこから始まったツンデレ幼なじみごっこに体力的にも精神的にも疲れ果てて死んだのは言うまでもない。
*****
私たちはどうやら呪いの本に約1ヶ月も囚われていたらしい。
本の世界での1ヶ月は魔界での1週間でした、なんて都合のいい話もなく、1ヶ月も姿をくらませてしまった私たちを探して魔界中は大騒動になっていたとか。
魔界で数十人くらいしかいないと言われている特級悪魔のハワード5兄弟の失踪。
おまけに長男、ヘンリーは現魔王の右腕。
そんな5兄弟一応プラスα私の捜索は魔王直属の騎士や部下たちと魔王直々に行われ、それはもう魔界中を巻き込む一大事となっていたそうだ。
そしてあれから数日。
大騒ぎが落ち着き、やっと日常が戻ってきたところで私は本当に久しぶりにナイトメアのバイトに来ていた。
「…」
「…えっと、ごめんね、ミア」
私の目の前で明らかに不機嫌そうなミアに私は申し訳なさそうに頭を下げる。
怒っている姿も可憐なのだからミアは本当に可愛いし、美しい。
すごいわ。
「…心配したんだよ。急にいなくなっちゃって。私がどれだけ…」
「…ごめんね」
不可抗力だったんだよ。
と怒っているミアに言いたいが、それだとまるで言い訳みたいで逆効果だと思い、ミアが落ち着くまで私はとにかく謝った。
「ずっと探してた。咲良の家にも行った。それでも居ないから私…」
「うん」
「…咲良は悪くないことはわかってるよ。ごめん。ただすごく心配で不安で」
「うん」
辛そうに言葉を紡ぐミアに私はただただ頷く。
ミアの瞳は不安げに揺れ、どこか危うげなものに見えた。
いつも天使のような愛らしさと明るさを持つミアのそんな瞳に心が痛んでしまう。
本当に私を心配して精神が疲れている証拠だ。
「もう私を置いて消えたりしないで。約束だよ、咲良。私は咲良の契約悪魔なんだから」
「もちろんだよ、ミア」
不安定な様子のミアを私はそっと抱きしめる。
「忘れないでね、咲良」
私に抱きしめられたミアは暗い声でそう呟いた。
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