幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護

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29話 スレイブの抱える事情

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確か、僕を中心に始まるから、もう発見されたってことになるんだけど、速過ぎないかな? ステータス画面を開き、僕の感知した魔力を放つ人の場所を確認すると、なんと1箇所だけで僕の真横になっている。

僕の横にいるのは、ナディアさんだ。
この人が、スレイブなの?

マルティナとアイリお姉さんは、スレイブやそれ以外のことで盛り上がっているから、今なら話をできる。

「ナディアさん、質問があるの」
「何でしょう?」
「あなたがスレイブなの?」
「は? な…何を言っているのですか?」
「惚けなくていいよ。僕には、特殊なスキルがあってね。相手の魂の居所を把握できるんだ。試しにスレイブを検索したら、1件だけ該当あり。あなただった」

少し嘘も混じっているけど、変に惚けられると困るから断定した言い方にしたけど、どう返答するかな? ナディアさんは僕を見つめ、やがて観念したかのように口を開く。

「そのスキルは、反則だと思います。魂なんて、変えようがありませんから。降参です」
「それじゃあ、認めてくれるの?」
「ええ」

おお、潔く、自分がスレイブと認めてくれた!
せっかくだし、色々と聞いてみよう。

「マルティナに言わないの?」
「言えません。私はある目的を達成させるため、マルティナ様のメイドとして雇われています。彼女のご両親も、私の正体を知りません」

何のために、ゴドウィン商会のメイドになったのかな?

「目的を聞いても?」

「生き別れとなった家族を探し出すこと、これが当初の目的でした。盗賊が私の住んでいた村を襲撃し、両親は殺され、私を含めた4人の兄妹たちは、奴らに捕まり、それぞれが奴隷商人に連れて行かれ、一家離散となったのです」

そういえば初めて出会った時、自分は闇商人の奴隷として最底辺の生活をしていたと言っていたよね。

「私は闇商人の奴隷でしたが、力をつけて、商会そのものを破壊しました。その後は、妹達の足取りを追って行きましたが、私1人だと限界もあったので、信頼の置けるゴドウィン商会中枢に入り込み、夜な夜な奴隷商人に関わる資料を読み漁り、怪しいと思った施設には怪盗スレイブとして侵入し、妹達を捜索しながら、理不尽で奴隷化された人たちを解放させていきました」

まるで、一番上のお兄さんのような言い方だ。
もしかして、男性のなのかな?

「3年前の時点で、妹達を見つけ終えており、去年長女がこの街を拠点にしているグリッダー商会の研究開発課へ就職したのですが、いつもなら週1回、王都にいる私のもとへ手紙が届いていたのに、それが急に途絶えたのです。私から手紙を送っても、音沙汰なし。どうにも嫌な予感がしたので、休職してこの街へ行こうかと思いましたが、トマトケチャップの件で訪れることになりました」

グリッダー商会の研究開発課に就職? この街で、連絡が途絶えた? 商会関係で関わる事件というのは、今のところ1つしかないよ。

「時間の空いている時に妹の住むアパートへ行ったところ、契約自体が解約になっており、王都へ戻ったという始末、ここで間違いなく何かが起きています」

「もしかして、音信不通となった妹さんの行方を掴むために、アシェルさんの商会へ行ったの?」
「ええ。夜間に侵入し、奴隷リストを拝見しましたが、妹の名前はなかった。帰る途中、奴隷棟の奴隷達を念の為観察しようと思い寄ったところで、子供達に偶然見つかったんです」

そういう経緯があったのか。それにしても、グリッダー商会に就職と言ってたけど、もしかして……あの爆発の犠牲者の中に入っているのでは? 自己紹介時、12人の研究者達の名前と年齢は、全て覚えている。

「念の為、妹さんの名前と年齢を聞いていい?」
「ナタリア、23歳です」

どうしよう………犠牲者の中にいるよ。これは絶対に言うべき内容なんだけど、こんな往来の中で言っていいものか。

「ノア様、その様子だと、何か心当たりがあるようですね?」

あちゃあ、顔に出ちゃったか。

「うん、でも……この場で詳しく言えない」
「簡潔でいいので言ってください。どんな情報でも、結構です」

普通、こういう時って、行方を掴めそうな手掛かりを言うような流れかと思うけど、僕の知っている情報って、妹さんの行方どころか、生死すらを決定的にするもの。こんなドストレートな情報を、この人に言っていいものか……これは悩む。アイリお姉さんやリルルお姉さんの名前を出したら、その時点で気にするよね。

「簡潔に言うね。アイリお姉さんの契約主リルルお姉さんが関わっている事件の……犠牲者の1人だよ」

「!?」

犠牲者と発言したことで、ナタリアさんの死を理解したのか、顔色を少し悪くする。でも、さすが大人なのか、すぐに元に戻っている。関係者である以上、後でアイリお姉さんやリルルお姉さんたちに言っておこう。

「僕のパーティーが依頼遂行中、想定外なことが起きてね。その時に、発見したんだよ。詳しくは、アイリお姉さんとリルルお姉さんに聞いて。妹さんに何が起きたのかを、ある程度把握していると思うから」

ここから先は、僕が言わないほうがいいよね。

「ノア様、ありがとうございます」

う~ん、気まずい。
世の中、点と点が何がきっかけで繋がってくるのかわからないよね。

「ノア~ナディア~何しているのよ~」

いつの間にか距離が離れていたので、マルティナが声をかけてくる。僕たちが小走りになって、2人に追いつく。

「アイリ様、2人だけで少しお聞きしたいことがあります」
「私に? いいけど」

アイリお姉さんと交代で、僕がマルティナのもとへ行き、距離が少しだけ開く。

「ナディアと何を話していたの?」
「ちょっとした世間話だよ」

マルティナには、絶対に言えない。今度は僕とマルティナで世間話をしていく。その途中、アイリお姉さん達をチラチラ見ていると、彼女が時折驚いているので、どうやらナディアさんは自分の正体を打ち明けて、詳しく聞き出そうとしていることが窺える。

「意外だわ。ナディアが自分からアイリ様に話しかけていくなんて」
「普段は控えめなの?」
「ゴドウィン子爵家のメイドなのだから当然よ。メイドが、積極的に目上の方々に話しかけていくって、そうないわよ」

言われてみればそうだね。

「きゃ!?」「え…うわ!」

マルティナが変な声を出した瞬間、僕は誰かに抱き上げられた。僕は左脇、マルティナは右脇に抱き上げられている。こんな往来のど真ん中で誘拐って、何を考えているの? とりあえず、グリッダー商会の一味の可能性が高いから…。

「感電」
「ぎゃあ!」

男が叫んだ瞬間、掴んでいた腕が緩み、僕たちは地面に落下する。

「きゃあ!」
「おっと」

男は、地面に倒れ伏す。

「マルティナ、大丈夫?」

僕はなんとか着地できたけど、彼女は身体を地面に打ちつけてしまった。でも、泣かずに気丈に振る舞い、ゆっくりと立ち上がる。

「ええ、無事よ。この男、今私たちを攫おうとしたの?」
「そうだよ。だから、罰を与えた」
「貴方がやったの!?」
「うん、僕のスキルさ」

この感電スキル、結構便利なんだよね。

ステータスに記載されている情報通り、確実に相手の動きを麻痺できる。でも、アルトとリーザの遺した資料によると、ステータスの内容を、馬鹿正直に信じてはいけないと記されていた。そこに記載されている内容はあくまで基本説明であって、スキルの効果を全て示しているわけではない。スキルを活かすも殺すも自分の技量次第、自分自身でスキルの真価を知るべきとある。

アルトは建築、リーザは医療と料理について異様に詳しく、その知識を本に記しているおかげで、僕はこのスキル[感電]の麻痺効果を、医療に応用できないか考えた。通常、感電の効果は、身体に触れたらレベル×5秒間、今の僕だと30秒間相手を麻痺させることが可能だ。身体全体ではなく、臓器とか局所的に当てたらどうなるのかを、色々と考察している。最も効果的に長時間の麻痺を与える箇所は、《神経》だと思う。両肩と太腿付近の神経に弱い感電を与えれば、長時間の麻痺が可能なはずだ。僕たちを攫おうとしたガタイの大きい男は、30秒間の麻痺で混乱している。やるなら今だ。僕はスキル[念力]を使い、輪っかのようなイメージで両肩と太腿付近を覆い、感電が神経に届くよう、強くイメージする。

「身体が…なんで…」
「誘拐犯は有罪。僕の実験台になってよ、《感電》」
「ああ!」

やった、思った通りだ! 
両手両足の麻痺の効果時間は、2日間だ!
これでこいつから、いっぱい尋問できる。
尋問が終わったら、効果を解除してあげるよ。


ーーーーーーーーーーーーーー


《ノアの善行日記》
生後15日目
善行:誘拐犯の捕縛
僕の残り寿命:108日

誘拐犯の目的は、何かな?
これから、色々と尋問しよう。
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